インフィニット・ストラトス 迷い龍は空を目指す 作:ガクジン
≪Maine system engage.≫
これが、鯉淵龍と言う人間が、最後に聞いた言葉。
それが、鯉淵龍と言う強化人間が、最初に聞いた言葉。
鉄の棺桶の中で死に、戦場の洗礼を受けて生まれた、鯉淵龍と言う存在の記憶。
人間だった鯉淵龍はGに耐えきれずに体を炸裂させて死に、強化人間の鯉淵龍は極光に生かされた脳を中心にして生まれた。
そして、人間だった鯉淵龍と、強化人間の鯉淵龍は、共通して復讐を誓った相手がいる。
一人は、白騎士の生みの親、篠ノ之束。そして、白騎士の搭乗者。
完全な逆恨みなことは分かっていても、憎まずにはいられない。
そしてもう一つは、あの黒兎。
あの黒い兎どもを一匹残らず殺すまで、鯉淵龍は死んではならない。
なぜなら―――
ゴールデンウィーク明けの最初の月曜日、朝からクラスは騒々しかった。しかし、鯉淵龍はいつも通りそれに背を向けて、一見ぼんやりと、内実は脳内レーダーで周囲の警戒を行っている。対抗戦で受けた損傷、実際はグラインドブレードの使用による自爆により極光が修復中である現在、織斑一夏を確実に護衛するには脅威の早期発見が急務であるからだ。
織斑一夏は数日前に部屋が晴れて一人部屋になったこと、及び初めて外出できて、久しぶりに旧友と話せたことが影響しているのか、対抗戦後暗かった表情は明るくなり、一見普段通りに戻っている。
さて、その一階下、職員室では転入生二人が織斑千冬及び山田真耶と面合わせを行っている。見れば何やら山田真耶が驚愕したようで、それから織斑千冬に何やら食って掛かっている。その表情は切実で、何やら重大ごとのようなので会話をのぞいてみるべきであろう。
「せ、先輩、まずいです!ボーデヴィッヒさんは、今からでも3組か4組に変更してください!」
山田真耶は切実に訴える。話題の主のドイツからの転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒは軍人のような見事な姿勢で待機をしており、対照的にもう一人の転校生、シャルル・デュノアは、困ったような微笑みを浮かべているが、これが様になるような美少年である。
「なぜです、山田先生?」
「ぼ、ボーデヴィッヒさんの前では言えません。ですがまずいです、とにかく再考を!」
「そう言われても、専用機もちは可能な限り1組に集めるというのが今年の方針だ。諸事情により凰が2組、専用機が開発途中で頓挫している更識は4組だが、それ以外は例外を作れん。これを変更するなら、それなりの理由がなければならないし、少なくとも今は無理だ」
織斑千冬の言うことはもっともであり、山田真耶は黙り込む。だがその後、何かを決意したような表情で言った。
「では、工業連から貸与された私の専用機の緊急時展開許可だけは出していただきます」
「……なにを言っている?戦争でも起こるのか?」
冗談のように織斑千冬が言うが、山田真耶は厳しい表情を崩さない。
「……戦争で済めば、まだいい方です。とにかく許可を」
「……正気か?」
「ボーデヴィッヒさんを1組に入れる、という決定の方が正気を疑いますが。鯉淵君の過去を知っているものからすれば、ですが」
「鯉淵の?なにが……」
「……いえ。とにかく許可を」
山田真耶の表情は厳しく、織斑千冬は黙る。
「……わかった、許可する」
「ありがとうございます」
山田真耶はそれだけ言って、踵を返す。それから職員室から出ようとして、ラウラ・ボーデヴィッヒに一言言った。
「なにかが起きたときは、身の安全を第一に行動してくださいね」
「……?発言の意味が分かりかねますが」
「すぐにわかります」
怪訝そうなボーデヴィッヒを置いて、山田真耶は職員室を出た。
一方、一年一組では鯉淵龍と織斑一夏、セシリア・オルコットに篠ノ之箒が集まって、ISスーツについての会話を行っていた。
「購入申し込み日だから皆浮かれているな」
「まあ、気持ちはわかりますわ。残念ながらわたくしはブルー・ティアーズ専用品なので選択の余地はないのですが」
「私は選ばなければならないが、どこがいいのかあいにくわからないのだ……一夏、お前のISスーツは、見慣れないものだが?」
セシリア・オルコットと篠ノ之箒が織斑一夏を見る。
「男のISスーツがないから、どこかのラボが作ったんだ。もとはイングリッド社のストレートアームモデル……正直龍のがデザイン的にはいいんだけどな」
「俺のも極光専用……と言うか俺専用だからな。そもそもベースも全身装甲専用品だし、通常のISスーツとは仕組みがかなり違うから、白式には使えないな。工業連のISは全身装甲が多いから、何の問題もないが」
「こないだ見せてもらった山田先生の轟雷弐号機、だったか。全身装甲とまではいかなかったけど、出てたの頭だけだったな……」
「ちなみに砲撃形態時は頭にも装甲が覆いかぶさるぞ。IS学園内で使ったら島ごと消し飛ぶから使わないだろうが」
「あれでまだ大砲持ってるのか?!」
「背中に大型のブースターが三基あっただろ?あれが連結して一本の大砲になるんだ。それが砲撃形態。精密照準のためと発射の余波を防ぐために、頭部後ろにあるハイパーセンサーと装甲が頭全体を覆うようにかぶさるんだ」
ちなみに轟雷壱号機にはついてない、真耶教官専用品だと鯉淵龍は笑った。
「マジかよ……ハリネズミみたいな火力でまだ足りないってか……なんで打鉄に負けたんだ?」
「打鉄と轟雷のコンペの時、打鉄に乗ったのが織斑千冬だからだ」
「……フェアじゃねーな」
「倉持技研がゴリ押してな。工業連も真耶教官を可能な限りサポートしたんだが、まあ、結果はこの通りだ。ちなみに轟雷一機で打鉄三機作れるコストの差も問題になってたが」
それにしても、と鯉淵龍は言う。
「今日はホームルームが遅いな?何かやってるのかね」
「転校生のせい、と言うだけではなさそうですわね」
セシリア・オルコットが続ける。
「まあ、何かやってるんだろう。詳しいことは俺も知らんしな。それにしても、一夏。ずいぶん元に戻ったな」
鯉淵龍は織斑一夏に言う。確かに織斑一夏はクラス対抗戦の後のような思いつめた表情ではなく、それ以前の雰囲気を取り戻していた。
「まあ、いろいろあったんだ。鈴にも怒られたし、弾と馬鹿騒ぎしたら、なんかうじうじしてるのがばからしくなってな。俺は弱いんだから、悩んでる暇があるなら強くなるために特訓した方がましだろ?」
「ま、そうだな。次の実戦の時はうまくやれよ」
「そうするさ」
織斑一夏が凰鈴音のことを口に出したのを不満に思ったのか、篠ノ之箒が一夏に近づいた。
「そうだな、一夏。なら私が稽古をつけてやろう」
「ああ、頼むぜ、箒」
「ま、白式使うには剣術をもっと鍛えなきゃだめだな。ビシバシしごいてやれよ、篠ノ之」
「そのつもりだ」
篠ノ之箒が大きくうなずく。そこで龍がにやりと笑った。
「そのあと俺とオルコットの砲撃に何分生き残れるか、だな」
「うげ……またやるのかよ」
「一夏さんはまだ射線の読みや戦術が甘いですわ。実践あるのみです」
セシリア・オルコットが芝居がかった口調で言った。
「龍さんとわたくしの砲撃を凌げるようになれば、かなりの機動を身に着けられるはずです。瞬時加速も鍛えられるでしょう」
「……まあ、オルコットは近接戦をもう少し練習した方がいいが」
「………はい」
鯉淵龍はオルコットに横やりを入れてから、織斑一夏を見る。
「まあ、白式に射撃兵装があればいいんだがな……拡張領域がないとか、欠陥以前の話だろ。ただの設計ミスじゃないか」
「そうなんだよな……零落白夜を発現させるためにそうなってるらしいんだが、どうも引っかかるんだよ。だいたい、単一使用技能が最初から発現するなんておかしいだろ?」
「まあ、普通は経験値を積んでISが最適化されることで発現するしな……極光もそうだった」
「え?極光、二次移行してるのか?!」
「ああ。言ってなかったか?実戦が多かったから半年くらい前にな。単一使用技能もしっかり発現してるぞ」
「なんなんだ?」
「企業秘密だ。まあ、使うと……」
「使うと?」
「化け物になる」
「……あれ以上に?」
「おいおい、極光は別に無敵じゃないぞ。稼働時間短すぎるし、絶対防御ないし、規格外の火力には対応しにくいし。正面戦闘以外なら苦戦することは意外と多い筈だ」
「あの速度に対応できればの話だろ」
「一五分の稼働時間を過ぎると動けない的になるんだぞ?徹底的に時間稼ぎされたら、まあ敗けるかもしれない。今んとこ全勝してるが」
「そりゃ、時速六〇〇〇キロオーバーで機動する相手に時間稼ぎなんか無理だ」
「そうでもないんだがな……危なかった奴もいた」
「へえ?興味ありますわね」
「軍事機密だから言えないけどな」
「はあ」
セシリア・オルコットは気の抜けた声を出して、それから時計を見た。
「いくらなんでも遅いですわね。職員室に行ったほうがよろしいのではないですか?一夏さん」
「なんで俺が……」
「クラス代表はあなたです」
「……雑用係押し付けられた気がしてきたぜ」
織斑一夏はぼやきながらも立ち上がる。しかし。
「その必要はないみたいだぜ、一夏」
「え?」
鯉淵龍はにやりと笑って言った。
「世界最強のお出ましだ」
「やっとかよ……」
「ついでに聞きなれない足音が二つ……転校生の噂、マジだったみたいだな。真耶教官の足音がないのは気になるが……」
「毎度思うがどんな耳してるんだよ……」
「RMに言えばお前もできるぜ?」
「やめとくよ」
織斑一夏は言ってから、席に座る。ほどなくして扉が開き、織斑千冬が入ってきた。
「本日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練とはいえ実機を使用し、実弾射撃も行う。気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のISスーツを使うので忘れないように。忘れたものは下着で受けてもらうから留意せよ」
そういってから織斑千冬はギロリとクラスをにらんでから。
「さて、それでは転校生を紹介する……入って来い」
織斑千冬の指示で、扉があき、外から金髪と銀髪の学生服が入ってくる。その瞬間、クラスのざわめきがぴたりと静まる。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。不慣れなこともあるでしょうが、よろしくお願いします」
金髪の美少年が優雅に一礼した後、静まり返った教室で誰かがつぶやいた。
「お、男……?」
その質問にシャルル・デュノアが校庭の返事をした瞬間に、クラスが爆発する。
「「きゃぁぁぁぁぁ――――っ!!!!」」
「男子!二人目の男子!」
「しかも金髪の美少年!」
「守ってあげたい感じの!」
「神よ、感謝します……!」
それを鬱陶しそうに織斑千冬が鎮める。
「ええい、静まれ、静まらんか!自己紹介はまだ終わっていないぞ!」
そういって、静かにクラスを睥睨する小柄な銀髪、ラウラ・ボーデヴィッヒに言う。
「……挨拶をしろ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「はい、教官」
いきなりたたずまいを直し、素直に返事をしてから、指令を実行しようとラウラ・ボーデヴィッヒが口を開いた瞬間――――――
世界が、止まった。
クラスの、すべての人間が金縛りにあったかのように止まる。
いや、もしかしたら、IS学園中の全てが、止まっているのではないか、そう織斑一夏は思考する。
風すら音をなくす。世界が静止する。
すべては、窓際の席に座っている、たった一人の青年が原因。
ゆっくりと音もなく立ち上がり、完全な無表情で、銀髪の少女をにらむ青年。
鯉淵 龍。
ひょうひょうとした、二歳年上の青年。
凰鈴音曰く、化け物じみた力と、狂気を隠し持っているのに、なぜか優しい変な奴。
セシリア・オルコット曰く、誰よりも自由な人。
篠ノ之箒曰く、困った時に背中を押してくれる、兄のような人間。
そう、そして織斑一夏にとって、自分を鍛え、助けてくれ、時に厳しい言葉をかけてくれる、友人。
そのはずだった。
だが、今、織斑一夏が感じているのは、そのどれでもない。
死神に狙われているような、そんな絶望。
どうあがこうと、これから自分は死ぬのだと、すべてを受け入れてしまうような、そんな気配。
教壇の上の、織斑千冬ですら顔を真っ青、いや、それすら通り越して蒼白にしている。
だが、真に恐ろしいのは。
それほどの気配が、ただ一人に向けられた気配、その余波にすぎないということ。
「……ラウラ・ボーデヴィッヒ、か」
静かに、青年は言う。まるで確認するように。その、凄まじい気配を向けられた、銀髪の少女。完全に固まっている。
あれでは、動けない。そう織斑一夏は思った。
「さて、これは幸運か、それとも不幸か。さてな」
喜ぶように言っているのに、完全な無表情。凄まじい負の感情、それらすべてを押し込めることにより発生する、完全な、無。
「まあ、いい」
鯉淵龍が、謳う。
「殺すだけだ」
懐から鈍く光る自動拳銃を引きずり出す。初弾を薬室に送り込む音がする。安全装置を外す音。
「死ね」
そして、引き金が銀髪の少女に絞られる。
轟音、織斑一夏は、その先で血の華が咲いていることを覚悟し、そして、彼の姉が決死の覚悟で銀髪の少女を抱えて数メートル離れたところにいるのを見た。
「……邪魔を、するな」
鯉淵龍が、言う。
「……貴様こそ、何をやっている」
織斑千冬が問い、鯉淵龍は言う。
「知れたこと。黒兎を見たら殺す。ただそれだけだ」
「貴様……」
ただ一言言って、鯉淵龍は照準を織斑千冬の胸に抱かれている少女の額に合わせる。
「邪魔をするなら、貴様ごと殺す」
世界最強に、言う。織斑千冬は、それでも離さない。
「……そうか。なら死ね」
引き金が絞られる。続けざまに放たれる銃弾を、かろうじて織斑千冬は躱し、教壇の影に飛び込むと叫んだ。
「せめて、理由を言え!」
それを、鯉淵龍はやはり無表情で返す。
「そいつらは、仇だ。俺の、俺たちの仇だ。ティナの仇だ。レイの仇だ。ロックの、ダイの、ローランの、ザイードの、そう、あの日、あの町にいた、今は燃え尽き、灰になり、砂漠になった、名すら残らなかったあの町にいたすべての、仇だ」
無表情に、知らない名を、告げる。しかし、その名前一つ一つに込められた思いは、それらが歴史を持って存在していたことを示す。
そう、存在していた。もう、存在しない。
「だから、俺は殺す。誰のためでもなく、俺のため、そして、あの日、あの町で死んでいった、二千二百五十六人の、無念、そのために、黒兎を殺す。殺して、三途の川の河原で詫びを入れさせる。そのために」
教壇に向けて、拳銃を構える。
「お前も死ね、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
引き金が絞られる、その直前。
『やらせません、今、この瞬間だけは』
そういって、鈍い銀色に塗られたISが窓から教室に突入してきた。
突入してきたIS、それは、織斑一夏も知っている。工業連製第二世代型IS、轟雷、その弐号機。
搭乗者は、山田真耶。
『龍君、今だけは銃を納めなさい』
その、両腕部に装備された巨大な榴弾砲とガトリング砲をすべて、たった一人の青年に向ける。
「なぜ、貴女が邪魔をする、真耶」
鯉淵龍は銃を降ろさない。轟雷の後ろ、織斑千冬に抱かれたラウラ・ボーデヴィッヒをにらみ続ける。
『あなたの気持ちはわかります。でも、今だけはやめなさい』
「……何故だ」
『ここがIS学園で、彼女は私の生徒です。もし龍君がこれ以上やるというのなら、私はこの子を使ってあなたを止めなければいけません』
「……ふざけるな」
その時、初めて鯉淵龍が感情を込めた声を漏らす。
「貴女だって、あの時、あそこにいた。なのに、何故そんなことが言える」
『……彼女たちも、命令だったのです』
「だが、殺したのはこいつらだ」
『軍人は、命令には逆らえない。伝染病が発生したと、そういわれて、排除しに来たのでしょう?なら、恨むのは』
「こいつらじゃない?何を言っているんだ、貴女は。何故人間が軍人をやっている。それは、明らかに間違った命令を下されたとき、迷うためだろう。だがこいつらは、明らかに伝染病の気配もないのを分かりながら、迷わず殺した。こいつらは、軍人じゃない。ただのロボットだ。そして、そんな意志もない木偶人形に殺されたあいつらは、どんな不憫だ。どんな哀れだ」
拳銃を握っていない左手で、轟雷の向けられた砲をつかむ鯉淵龍。
「見ただろう、あの日を。見ただろう、あの光景を。なのになぜ赦せる。何故そう言える。俺には無理だ。俺は殺す。こいつらを、あの日の黒兎どもを、一人残らず。人間の意志を持たせてから、あの世に送って、その確かな意思で、あいつらに詫びを入れさせるまで、俺は殺す」
ISに、ただの腕力で拮抗しようとする。
「だから退け、山田真耶」
そして、ありえないことに。目の前で轟雷が動き出す。見れば鯉淵龍の腕は筋肉が盛り上がり、毛細血管がはじけ飛び、血を流し、神経網からスパークが飛び散り、圧力に耐えかねて黒い骨が筋肉から突出し。
そんな、無茶苦茶をして、轟雷を退ける。
『龍君!』
「お前もその一人だ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。さあ、死ね。人の意思を持って、死んで逝け。あの世に行って、彼らに会ったら詫びを入れろ」
教壇を倒し、織斑千冬に抱かれたラウラ・ボーデヴィッヒに拳銃を向ける。
「やめろ、鯉淵」
「貴女は退け、織斑千冬」
「だめだ。こいつも私の生徒だ。私は守る」
「なら……死ね」
そう言って、鯉淵龍は織斑千冬の額に拳銃を突きつけ。
引き金を絞るよりも早く、轟雷の腕が鯉淵龍を殴り飛ばした。
『………無事ですか?先輩』
轟雷を装着した山田真耶は、そう言って、悲しそうに、壁にめり込んで沈黙している鯉淵龍を見た。
「……ああ、なんとかな。ラウラは……ボーデヴィッヒも無事だ」
見れば、織斑千冬の服をつかんでがたがたと震えるラウラ・ボーデヴィッヒ。うわ言のように何かを呟いていた。
場が落ち着いた後、織斑千冬はラウラ・ボーデヴィッヒを医務室に入れて鎮静剤を打って眠らせ、一組の生徒を寮に返したのち、山田真耶から事情を聴くことにした。
ちなみに鯉淵龍は全身の骨を粉砕され、医務室の集中治療室でRMが治療中である。
「さて……何があったんだ?」
轟雷が突入して風通しがよくなった教室で、織斑千冬は轟雷を着てがれきを取り除いている山田真耶に聞いた。
『………さっき、言った通りです。中東のある国の、少数民族がすむ町、そこに新種の伝染病が発生し、ワクチンも対抗策もなく、時間もないということで要請を受けたNATO軍の一部隊、ドイツ軍シュバルツェ・ハーゼが出撃しました』
「……言い方は悪いが、一つの町を焼くのに、複数のISを擁するシュバルツェ・ハーゼが出たのか?」
織斑千冬の疑問に、山田真耶は首を振る。
『実際は感染病なんてありませんでした。その真意は、その町でISのテストを行っていた工業連の開発一課を潰すことだったと思われます。工業連はその国で弾圧されていた少数民族に武器を供与していましたから、多分見せしめのつもりだったんでしょう。もともとEUは工業連には何度か煮え湯を飲まされていますから、NATOの高官の買収、説得くらい造作もなかったでしょう。とにかく、街を深夜に強襲したシュバルツェ・ハーゼはすべてを焼き払い、それに巻き込まれて私たち、そして開発中だった極光も灰になるはずでした』
「……だが、違うんだな?」
織斑千冬の確認に、山田真耶は悲しそうな顔をして言った。
『当時、鯉淵龍は一四歳。そう、たった十四歳の少年は、リミッターもなければ開発中で出力もきわめて不安定な極光に乗って、たった一機でシュバルツェ・ハーゼと戦闘に入りました。ですが、当時の極光はロケットエンジンの制御が完全でなく、戦闘中の被弾が原因で暴走、自爆。搭乗者である鯉淵龍も、死亡しました』
「……なんだと?」
信じられない、と言った顔で織斑千冬がつぶやく。
『心肺完全停止。と、いうか砂漠に墜落した極光の中は、絶大なGで体を引き裂かれた、人間だった残骸しか残っていませんでした』
「……では、今の彼は?」
『……二人目ですよ、彼は。人造人間の体に、極光が致命領域対応でかろうじて保護した一人目の鯉淵龍の脳を載せた、二人目の鯉淵龍。少なくとも彼自身はそう言っています。一人目の、本物の鯉淵龍はあの時死んだと』
山田真耶は悲しそうに言う。
『脳が同じだから、同一人物。そう簡単に言えればいいんですけど、そういうわけじゃない。それ以外の全てが別人なのだから』
「………ただの人造人間じゃないんだろう?」
『最初は人造なだけの普通の体でした。でも、極光の機動には普通の人間の体じゃ耐えられないと言って、体を強化。骨をカーボンに、神経を光ファイバーに。そして脳に機体制御を補佐するための補助電脳。あそこまでやってしまっては、もう確かに人間じゃないですね』
そして、今でも二つの仇を追い求めている、そう山田真耶は言う。
「ふたつ?」
織斑千冬の疑問に、山田真耶は作業の手を休めて、織斑千冬を見た。
「一つは、あの時のシュバルツ・ハーゼの構成員。そして、もう一つはそれよりはるか前、彼の父親から空を奪ったもの、そう」
山田真耶は、まっすぐに織斑千冬を見据えて、言った。
「原初のIS、白騎士、その開発者、篠ノ之束、そして、その搭乗者を」
その時、織斑千冬はすさまじい悪寒を感じた。それを肯定するかのように山田真耶は織斑千冬が一度も見たことのないような貌で言い切った。
「そう。貴女ですよ、織斑千冬」
そう言って、山田真耶は酷薄に微笑んだ。
山田先生キャラちがくね?
そう思ったあなた、たぶんあってます。
だが私はひかぬ。
ここからが、この展開が書きたかったからこのSSを始めた、そう言い切ってもいいほどにこの話が書きたかった。
かけて満足です。文才が足りないのはええ、気がついていますが。
ここからはラウラファンにはかなり欝な展開になると思います。あと、ベトナム戦争時、実際にあったらしい、こんな話。
現代であり得るかはわかりませんが。
では、次回もおつきあいいただけることを願って。