インフィニット・ストラトス   迷い龍は空を目指す   作:ガクジン

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12 ひとまずの日常

「結論から言おう。貴様等の処分は、なしだ」

 

 全体的に焦げ、髪が少し縮れている織斑千冬は、忌々しい、と言った口調で鯉淵龍とラウラ・ボーデヴィッヒに言った。

 

「……そりゃまた、面白いこともあるものだ」

「教官、あれほどの行為に対して処罰なしとは、どういうことでしょうか」

 

 自分たちがやったということを差し引いても、理解に苦しむことである。そう思ったから、鯉淵龍とラウラは聞き返す。すると疲れたような声で千冬が言った。

 

「………学園長が介入してな。普通なら人死にが出る程のことだったが、結果的に死んでないのだから、むしろ良好な結末だったといえる、とのことだ。学園創設時から十分考えられる事態でありながら、学園側がまともな対応ができなかったという負い目もあるとのこと。まあ、対外的にはそれでいいが学園内に対しての面目もある。二人とも便所掃除一週間程度の罰は必要だがな」

 

 織斑千冬はそう言って、ため息をついた。

 

「………便所掃除ねぇ」

「どこが罰なのだ?」

 

 鯉淵龍は嘆息し、ラウラ・ボーデヴィッヒが理解できないといった口調で聞く。

 

「そう言うことだ。とりあえず、機体を格納庫に戻せ。いろいろ調べねばならんし、調整もあるだろう」

「「了解」」

 

 話は終わりだ、と言った風に言う織斑千冬に返事を返し、銀髪の二人は職員室を出た。それを確認した後、織斑千冬は自らの机に積まれた書類を見る。

 

「………まあ、ふるいにかけた、と言うことなのだろうな」

 

 その書類は、すべて一組の生徒から提出された退学届。クラスの、実に三分の一の生徒が退学を希望してきていた。

 

 

 

 

 

 翌朝、ずいぶんと人が少なくなった一組の教室で、織斑一夏、篠ノ之箒、凰鈴音、セシリア・オルコット、シャルル・デュノアの五人は広くなった教室を見ながら話していた。

 

「ずいぶん一組も減ったわね。二組もあまり出てきてないし」

 

 凰鈴音はそう言って教室を見る。日本人の生徒はほとんどがいなくなり、外国人の生徒が目立つようになっていた。

 

「まあ、目の前であれほどの戦闘を見せつけられては、甘い気分で来ていた者たちの中には心が折れる者もいるだろう」

 

 篠ノ之箒はそう言って嘆息する。

 

「留学生は、母国で選抜されてここに入学してきていますから、そう簡単に進退を決められないというだけでしょう。内心、やめたいと思った生徒は決して少なくないはずですわ」

 

 セシリア・オルコットはそう言って髪をかき上げた。

 

「まあ、ここが戦闘技術を養成するための学校、と言うのは実はあまり理解されてないよね。アラスカ条約で戦闘投入が禁止されてたり、IS搭乗者がアイドル的な扱いを受けてるためだと思うけど」

 

 シャルル・デュノアがそう補足する。

 

「ああ。だけど、龍の話じゃ紛争地帯ではISの実戦投入は珍しい話じゃないらしいしな。あの二人がいい例だろ?おまけに極光は戦闘目的に作られた重ISだ。アレは、結構衝撃的だったと思うぜ」

 

 織斑一夏はそう言って昨日アリーナに立っていた黒い、大型のISを思い出す。

 

「戦闘能力を追及すると、兵器は自然とある程度大型化するんだね。あの重装甲はシールドエネルギーに頼らない防御力を確保するためだし、大型化した四肢は重火器を運用するためには必要不可欠だしね」

 

 シャルル・デュノアは極光のコンセプトを簡潔に解説する。さすがは第2世代型ISシェアトップのデュノア家の御曹司と言ったところだろう。

 

「第3世代兵装にこだわらなくても、戦闘力と言う意味では第3世代に匹敵、凌駕することはできるんだね。あの速度と火力は第3世代型以上だよ」

「おまけに枯れた技術を使ってるから信頼性も高い。性能が無茶苦茶すぎて龍にしか使えないけどな」

 

 強化人間か、と織斑一夏はつぶやく。

 

「……力を求めるなら、ああなるのか」

 

 織斑一夏はそう言うが、彼自身力を欲している。ああすることも考えに入ってしまったのだろう。

 

「戦いのために生み出されたラウラ・ボーデヴィッヒ、戦いのために人間を捨てた鯉淵龍。どちらもいかれてるわ。特に鯉淵は救いようがないわよ。自分で望んでああなったんだから」

 

 凰鈴音はそう言って辛辣に吐き捨てた。

 

「おまけに過去の因縁だか知らないけど勝手に憎み合って勝手に殺し合って。振り回されるこっちの身にもなれっての」

 

 とりあえず一発殴るわ、と言った凰鈴音。それに織斑一夏は言った。

 

「……まあ、左腕で殴るなよ」

「………そんなことするわけないでしょ」

 

 そう言った凰鈴音の左腕にはいまだに包帯が巻かれており、無人機襲撃時の傷が完治していないことをうかがわせる。

 

「……しかし、よく搭乗許可降りたな」

「降りてないわよ。昨日も痛かったし」

「………」

 

 織斑一夏は何とも言えない顔でそれを見た後、無視することに決めて次の議題に移った。

 

「それにしても、あの二人どうなるんだろうな?」

「戦闘に関しては学園上層部の決定、判断ですし。それにしたがって戦っただけと言う解釈はできますわ。処罰はあるでしょうが、牢屋に入るほどではないと思います」

 

 昨日のお二方の様子を見る限り、和解しているようですし、とセシリア・オルコットは言う。

 

「………本当に和解したのか?どちらかが死ぬまで止まらない、と言った雰囲気だったが」

「ああ。信じられないけど、和解してる」

 

 篠ノ之箒の疑問に、織斑一夏はそう答えた。

 

「……あれほどの感情を、納得させられるのか」

 

 篠ノ之箒はそう言って、腕を組む。

 

「本当なら、恐ろしく出来た人間だな」

「俺たちより確実に大人だな」

 

 織斑一夏はそう言ってため息をつく。それから時計を見て言った。

 

「おい、鈴。そろそろ二組に戻らないといけないんじゃないか?」

「え?……そうね、そうする」

 

 凰鈴音はそう言って、教室から出て言った。その掛け合いを見ていた篠ノ之箒が少し不機嫌になるが、誰も気が付かないようだった。

 

 

 

 

 

 ホームルームに織斑千冬が鯉淵龍、ラウラ・ボーデヴィッヒの両名をクラスに入れると、悲鳴じみたざわめきが起きた。しかしそれをにらみ一つで鎮めると、織斑千冬は実習を行う場所を告げて教室を去る。それに続いて織斑一夏がシャルル・デュノアと鯉淵龍を連れて教室から足早に出て、ようやく緊張した空気が弛緩した。

 

「………」

 

 そんな中、この騒動の片割れであるラウラ・ボーデヴィッヒは一人黙々と着替えていたが、そこにフラフラと近づく影ひとつ。

 

「やっほー」

 

 今のルームメイト、布仏本音である。

 

「退院できたんだねー」

「……ああ」

 

 のほほんとした雰囲気が特徴の胸の大きな少女は、そうにっこり微笑みながら言うと勢いよく服を脱ぐ。それを見ようともせずにラウラはISスーツを着ながら言った。

 

「でもすごいねー、串刺しになったのに、次の日には何ともないのー?」

「工業連の医者は優秀だ」

「あはは、それもう医術じゃないと思うけどねー」

 

 普通の医術は、串刺しになった人間を翌日には何もなかったのようにできるわけがない。それをのほほんと指摘すると、あらわになっていたラウラの白い胴体に手を這わせる。

 

「……なにをしている」

「いや、傷痕とか残ってないんだなー、て思って。それにしてもきれいな肌だねー」

「そうなのか?それはそうと手を離せ。くすぐったい」

「うーん、これはこれでなかなか……」

「おい、どこを触って、っ」

 

 肌をまさぐる本音に、さすがに言葉を荒げるラウラ。それを見ながら本音がさらにエスカレートしようとしたところで、その頭に手刀が入った。

 

「ひぎゃっ?!」

 

 どうやらかなりの威力であったらしく、本音は蛙が潰れたような声を出して、頭を押さえてうずくまる。その背後に立つのは、ISスーツを着終わった篠ノ之箒であった。

 

「なにをしているのだ、布仏。織斑先生の授業に遅れたら、どうなるかわかっているんだろうな」

 

 うずくまる本音をにらみながら、箒が言う。

 

「うー、殴らなくてもいいじゃんかー」

「どうでもいい。さっさと支度をしろ。ボーデヴィッヒも」

「……ああ」

 

 それだけ言うと、箒は自らの席に戻り、制服の上着を羽織る。それを見てラウラも着替えを再開した。

 

 

 

 

 

 第3アリーナに集合すると、そこには数機の打鉄とラファールが用意され、今日は訓練機を使用した実習であるというのは容易にわかった。2組の生徒もいることから見ても、合同授業であるらしい。

 

「専用機もちに、主席番号順につけ。オルコット、織斑、鯉淵、凰、デュノアにボーデヴィッヒだ。専用機もちは自分の生徒のサポートをすること。はじめろ」

 

 それを合図にそれぞれの専用機もちに生徒が群がる。と言っても、鯉淵龍とラウラ・ボーデヴィッヒに当てられた生徒は非常におびえていたが。

 

「実習内容はISの歩行訓練だ」

 

 それだけ告げると、織斑千冬は自分はアリーナのオペレートルームへと引っ込む。残された生徒たちは、専用機もちの生徒を見上げた。

 

「……じゃあ、始めようか」

 

 白式を纏った織斑一夏はそう、自分の生徒にぎこちない笑みを見せて、出席番号が最も若い生徒に打鉄を着るように指示する。それに従い生徒が打鉄を着用するが、飛ぶのはISがオートでやるのに対して、歩行はPICをマニュアルである程度操作しなければいけないため、予想以上に苦戦しているようだった。

 

 さて、順調な滑り出しを見せた一夏のグループ。それ以外にも2グループを除いては、それなりにうまく始まったようだったが。

 問題なのはラウラと龍の集団である。はっきり言ってここに回された生徒は恐ろしく怯えており、龍は龍でいつもの飄々とした表情に戻ってはいるものの何のフォローもせず、ボーデヴィッヒは生来の鉄面皮でじっと立っている。

 

「………えーと?」

 

 ぎろり。

 

「ごめんなさい!」

 

 勇気を振り絞って発言しようとした生徒は龍とラウラの視線を受けて勝手に委縮する。にらんだわけでも殺気を叩きつけたわけでもなく、本当にただ見ただけなのだが、怯えたものからしてみればよほど恐ろしいものであるらしい。

 

「…………埒が明かんな」

「同感だ」

 

 ぽつりと龍はつぶやき、ラウラが同調する。

 

「どうせだ、まとめてやるか?」

「そうだな」

 

 ちなみに生徒たちにはやるが「殺る」と聞こえたのかさらに委縮した。それを見て龍は肩をすくめてから言う。

 

「委縮するなと言っても無理な話だな。どうせだ、好き勝手やらせてもらう」

 

 そう言って集団を見回し、適当な女子を指して言った。

 

「とりあえずお前だ。さっさと打鉄を身につけろ」

「は、はいぃ!」

 

 指された女子は声を裏返らせながらも慌てて打鉄に駆け寄り、それに乗り込む。

 

「では歩け。まっすぐ歩け。何があっても歩け。こけたらアリーナを10周だ」

 

 そうして、まっすぐにほかのグループがいるアリーナの中央を指す。

 

「え、えと、進路上にほかのISや人が」

「かまうな、弾き飛ばせ」

「そ、そんな?!」

「壁まで行ったら戻ってきていい。だが途中で進路をそれたり、一歩でも立ち止まるようなら……」

 

 龍がそう言いながらにやりと笑うと、女子は真っ青になって脱兎のごとく駆け出す。ぎこちない筈の初めての歩行だというのに、一分の乱れもない実に見事な逃走である。

 

「……やればできるじゃないか」

「最初に恐怖で洗脳。有効な手だな」

 

 ほかのグループに突っ込み、生身もISを着てるのもまとめて轢きながらダッシュする打鉄を見て、平然と怖い二人は言う。ほかの生徒がドン引き、それを見て龍はにたりと笑った。

 

「居残りは奴が戻ってくるまでスクワット」

「「「え……?」」」

 

 女子たちが疑問を漏らし、しかしラウラがにらむと、彼女らは一糸乱れぬ動きでスクワットを始める。

 それを見ながら、龍とラウラはセシリアのグループに半泣きで突撃をかける女子を見てニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

「「「「「「ひどい目にあった……」」」」」」

 

 実習終了後、1組、2組の専用機持ち+αはげっそりとやつれた顔でそう言った。実習中、縦横無尽に走り回る龍とラウラのグループの生徒に弾き飛ばされ、轢き潰されを繰り返し、大混乱だったのである。

 最後はブチギレたセシリアとシャルル、鈴音が突っ込んでくる生徒を片っ端から叩き返すという混沌具合であった。

 ちなみに体を張って生徒を守っていた一夏はIS越しにすらダメージを受けており、あちらこちらが痛かった。

 最も龍とラウラのグループだった生徒はその半数が医務室送りになったのだが。今元凶二人は職員室で千冬の説教を食らっている。

 

「あれで訓練のつもりかよ……」

「確かにあのグループの皆様は見事にPICを操っていらっしゃいましたが……」

「恐怖で直感的に制御したんでしょ。ISの操縦ってそんなとこあるし。ごちゃごちゃ考えさせるよりとりあえずやらせる方がいい時もあるわ」

 

 障害物を弾き飛ばすのも、確かにいい訓練になるし。と鈴音は疲れた口調で言った。

 

「私はまだあちらこちら痛いがな……」

「俺もだ」

 

 箒はそう言いながら、櫛でほつれた髪を梳く。対して一夏はテーブルの上にうつぶせになって、疲れた口調で返した。

 

「しかし、意外と普通だったね」

 

 シャルルはそう言って、ゆっくりと背を伸ばす。

 

「あの二人さ」

「ああ。正直もう少しぎすぎすしてるか、と思ったんだが」

「……まあ、いいや」

 

 シャルル、すこし浮かない顔でつぶやく。

 

「?……どうしたシャルル」

「な、何でもないよ、なんでも」

 

 すこし動揺したようにシャルルは言うと、紅茶を一息に飲み干した。

 

 

 

 

 

「………ま、あんなもんか」

「そうだろうな」

 

 一方、ようやく説教から解放された二人はそんな風に話しながら歩いている。説教が聞いているのか言葉は少なく、やがて二人とも沈黙するが。

 

「……しかし、一度供養にはいかにゃ、ならんな……」

 

 思い出したようにぽつりと鯉淵龍が言うと、ラウラ・ボーデヴィッヒは少し震えてから、口を開いた。

 

「……行ってないのか?」

「………まあ、な。俺も、向き合えなかった、そういうことだろ」

 

 だから復讐でもしようとしたんだ、と龍は言う。

 

「……まあ、根っこは変わらんが」

「………空、か」

「ああ。根っこが変わらんでも、その上に立つ木は少し歪んだのさ。だが、根っこが変わらなければどう歪もうと何も変わらん。俺はどうしようもなく空がほしい」

 

 鋭い目でラウラを見る。

 

「お前を許したわけじゃないが、まあ、手打ちにしようというだけだ」

「……そうだろうな。私だって、あれを忘れることもなければ、赦されるとも思ってはいない」

 

 それにこちらも仲間と上官を殺されているんだ、とラウラは続けた。

 

「……ああ、あの時の搭乗者か」

「それだけではない。そのあとに行方不明になった当時の隊員が数人いる」

「………全部は俺じゃないぞ。それに付け狙ったわけでもない。戦場であったから殺しただけだ」

「それくらいは分かるがな……」

 

 ラウラも龍を鋭くにらむ。

 

「……やめよう。手打ちにする約束だ」

「………そうだな」

 

 責めはあちらで聞くさ、と鯉淵龍は言う。そして、ラウラもそれに首肯してから。

 

「………供養に行くときは、声をかけてくれないか」

 

 そう言った。

 

「…………ああ」

 

 そして、鯉淵龍はただ、そう返した。

 

 

 

 

 

 

 




 遅れた上に短い。すみません。MTBがぶっ壊れたり、仕事が残業続きだったり、モチベーションが上がらなかったりでした。
 ここから二巻の中盤にようやく入れます。もっともいろいろ変わっているので展開も大きく変わりますが。
 ですが、一応大まかな流れは変わらない、筈です。少なくとも福音までは。

 では次回もお付き合い頂けることを願って。

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