インフィニット・ストラトス   迷い龍は空を目指す   作:ガクジン

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15 D計画

 シャルロット・デュノアはその朝、半信半疑ながらも教えられたとおり第6アリーナの格納庫に行くことにした。

 デュノア本社に確認したところ、確かに工業連への子会社化はすでに終了しており、指示された通りに行動しろとのことだったためだ。

 そのため、彼女は朝から授業にも出ずに、人気がない格納庫に来て。

 自分の上司だというのが、自分よりも幼く見える少女であったことにまず驚き、次いでその少女が鯉淵龍の妹であるということにもう一度驚いた。

 

「あなたがデュノアの娘さんですか。私がこれからあなたの直接の上司になる、工業連開発3課、武装開発班の鯉淵水姫です」

 

 水姫、と名乗った少女は開口一番そうのたまうと、ない胸を偉そうに張った。

 

「え、キミが僕の、上司……?」

「そです。あなたをいじくりまわして、すべて明らかにするのが私の仕事です。OK?」

「お、OK」

 

 シャルロットがそう言うと、鯉淵水姫は纏ったツナギのポケットから端末を取り出すと、おもむろにシャルロットに言った。

 

「では、展開しなさい」

「え?」

「あなたの使ってるガラクタを、さっさと展開しなさい」

 

 どうやらラファールのことを言っているらしい。自慢の愛機をがらくた呼ばわりされ、さすがにカチンときたシャルロットは、一瞬で愛機を展開する。

 ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ。第二世代型としては最高クラスの戦闘能力を誇る高性能機である。

 しかし。

 

「………やっぱり、ダメね。常識的で面白くもなんともない」

 

 目の前の少女はそれを酷評した。

 

「バランス型を目指しているみたいですが。パイロットの才能におんぶにだっこで、完全に足を引っ張っているだけ。あなたよくこんな物使っていますね」

 

 愛する父が精魂込めて開発した機体をそう言われ、シャルロットはさすがに怒った。

 

「第3世代型にすら匹敵するといわれているんだよ?それをそんな風に」

「そんなモノしか作れないから、デュノアは潰れたのです」

 

 シャルロットの抗議を一瞬で切って捨てると、鯉淵水姫はそばにあった一機のISを指す。

 

「それを着てみなさい。本物と言うモノがよくわかりますよ」

 

 それは打鉄のようだったが、打鉄にしてはあまりにも重装甲で、装備する4門の榴弾砲は打鉄が得意とする近接戦闘とはかけ離れたもの。

 

「これは………打鉄の砲戦パック?」

「防御型パッケージ、霧積です。とにかく乗りなさい」

 

 シャルロットはもちろん、打鉄に乗ったことはある。ラファール・リヴァイブの対抗機であり、日本の倉持技研が、第一回モンド・グロッソ優勝者の織斑千冬の専用機をコンセプトに作った機体だ。当然デュノア社でも研究していたし、結果としてラファール・リヴァイブが打鉄を超える機体になったのもこのためである。

 研究の過程でシャルロット自身打鉄を使いフランス空軍の仮想敵をやったこともあるし、ある程度よく知っている機体である。

 そのはずだった。

 

「………なに、これ。ふざけてる」

 

 しかし。今乗っている打鉄は、外観上打鉄のフレームに過剰なほど装甲を施し、重量過多としか思えない重榴弾砲を4門も装備しているにもかかわらず。柔軟な運動性と、砲撃機には必要十分な機動力を確保していた。

 おまけに装備している榴弾砲の火力は凄まじく、防御力も現存するほとんどのISよりも高いというデータを、打鉄はシャルロットに見せつけていた。

 それは圧倒的な高次元のバランスであり、同時、コンセプトをきっちり守って伸ばすべき場所を伸ばし、必要ない個所は潔く斬り捨てる、機能美の姿でもあった。

 防御が高く火力も絶大。ならば必要なものは攻撃を避けるための機動力ではなく、攻撃を当てるための機動力である。故に機体は重装甲ながら柔軟に動き、決して高いとは言えない機動力であっても、敵の動きに追随するだけのものではある。

 圧倒的な火力を高精度で打ち込み、大抵の攻撃は圧倒的な防御力で弾き返す。動きの遅さを突こうにも死角を容易にとれるほど機動力が低いわけではなく。

 着て初めて分かるが、機体特性に従って戦えば圧倒的な戦闘力を発揮することは疑いようがなかった。

 

「これが、打鉄……?」

「工業連で開発した兵装パックの性能です。打鉄本体が優れてるわけじゃあ、ありません」

「………なんでこれ量産しないのさ」

「シルエットが肥えているためと、金を湯水のように使うからですね。それの運用コスト訊いたら、驚くでしょう。このあいだ織斑一夏が一週間これで訓練しましたが、実のところ小さな県なら傾きかねない額です」

 

 工業連が実戦テストの名目で全額負担しましたが、と水姫は言った。

 

「うわぁ……」

「ちなみに量産できる値段でもありません。それ一セットで1500億円します」

「……………工業連って、馬鹿?」

「あくまで技術見本ですから。装甲は有澤重工の粋を集めた超複合装甲。榴弾砲も有澤謹製の化け物。おまけに叢雲が開発した最高級アクチュエータ複雑系を運動系の補助に使って、如月の小型極大出力ブースターを装備。あくまで打鉄をどこまでスペックアップできるかという、その到達点として作っただけです。できることなら量産したい所でしたが、シルエットと値段で駄目でした」

 

 ま、極光はそれ以上に金がかかっていますが、と水姫は言う。

 

「………でも、確かにこれは本物だ」

「コンセプトを守って、きっちり構築すればこうなります。第3世代にこだわったり、パイロットの才能を活用することばかり考えて器用貧乏に陥るなんて三流のやること。わかりましたか?」

 

 偉そうに言うと、水姫はシャルロットの着る打鉄を解除する。

 

「さて、あなたのラファールは預からせて頂きます。あなたのデータを吸い出さなければいけませんし、より並列演算を活用できる方向に設計しなおす必要もあります。高速切替なんて、並列演算の無駄遣いですから」

 

 シャルロットは、差し出された手を見て、ゆっくりと首にかけたペンダントを外す。

 

「………」

 

 父からあずけられた、愛機。それを手放す。それに恐ろしいほどの抵抗が生まれる。しかし。

 

「………確かに。では、またあなたのパソコンに連絡いたします」

 

 そっとペンダントを水姫の手に持たせた。

 

 

-------------------ーー

 

 

 

 代わりに霧積装備型の打鉄を専用機指定しました、と言って待機状態になった打鉄を、水姫はシャルロットに投げた。もっとも完全な専用機ではないから、緊急展開ができる程度でそれ以外は普通の打鉄だということだったが。RMに頼めば完全な専用機にもできるとのことだったが、正直面倒だと言う。

 待機形態の、古めかしい懐中時計になった打鉄をもてあそびながら、シャルロットは何となく屋上にきて。

 

「千冬姉、D計画って、なんだよ」

 

 織斑一夏と、織斑千冬が話しているのに気が付いた。

 

「………一夏」

「龍が言ってたんだ。千冬姉が俺に話さないことを決めている、と」

 

 時は放課後で、いつもなら一夏は訓練をしているはずだ。鯉淵龍の姿が見えないのは、今日もトイレ掃除をしているからだろうか。

 

「………話す必要は、ない」

「どうしてだ。俺にかかわることなんだろう?ラウラが、遺伝子強化素体とかいうのだとも言っていた。頭は良くないけど、語感でだいたいわかる。要は造られた人間なんだろ?」

 

 一夏は時折見せる、鋭い目で千冬に言った。

 

「別にだからどうと言うわけじゃない、ラウラはラウラだ。だけど、問題なのはそれを俺が知ってなきゃいけないはずだった、と言うことだ。龍は驚いていた。俺が知らないことに。それほど深く、俺がかかわっているはずのことだ。D計画、ってのは」

 

 千冬はそれを遮るように言った。

 

「ダメだ、一夏。知らなくていいんだ、お前は。もう、終わったことなんだ」

 

 それを、一夏は切って捨てる。

 

「どこが終わってるんだよ。今、俺の前に現れてるじゃないか。しかも、俺はISを使える唯一の男で、おまけに篠ノ之束が創った白式の専任操縦者。正直訳が分からないほどいろんな厄介に巻き込まれてる。この上これ以上、知らないことが増えてたまるか」

 

 実の姉である千冬をにらんで、一夏は言う。その気迫に気圧されたのか、千冬がすこし足を引いた。

 

「言えよ、千冬姉。大体気が付いてる、俺が異常なことくらい。馬鹿みたいに早い戦闘技能の習得速度、比べて初めて気が付いた、高すぎる身体能力。そういうことなんだろ?」

 

 一夏は一言で言い切った。

 

「言えよ。俺が、強化人間だと」

 

 千冬は衝撃を受けたように黙る。その沈黙を肯定と受け止めたのか、一夏は口を開いた。

 

「………そうなんだな?千冬姉」

「…………違う」

「どこがだ」

 

 織斑千冬は首を振り。

 

「………お前は、強化人間じゃない。遺伝子強化素体、その完成体だ」

 

 諦めたように嘆息した。

 

 

 

 

 

「………鯉淵龍がお前の前に現れた時点で、話しておくべきだったんだろうな」

「………千冬姉」

「一夏、かなり嫌な話になる。わかっているな?」

 

 織斑千冬は、そう言って語り始めた。

 

「D計画。私とお前、それに鯉淵とラウラは皆その計画の産物だ。最強の人間を作り出すために行われた、狂気の計画。今、生き残りが何人いるかはわからないが、ともかく私たちはその計画に造られた。

 もっとも私たちがこうして暮らしている時点で、すでにその計画が過去の物なのはわかるだろうが」

「………ああ」

 

 織斑千冬は嘆息する。

 

「話すべきことは少ない。私自身、大した情報を持っているわけではないからだ。鯉淵の方が詳しいだろう。私が知っているのは、私たちがその計画に造られたこと、そしてその完成体がお前だということがほとんどだ」

 

 あとは、鯉淵の特異性か、と織斑千冬は言う。

 

「私は計画初期に造られた、通常の人間の遺伝子を、試行錯誤しながら組み替えただけのテストケースだ。計画の研究者たちは、私たちのことをファーストロットと呼んでいた。その中で、生まれて三か月以上生きた3人の中の二番目。故に№2。

 そして、私たちのデータをもとにより洗練され、身体能力の強化を目標に造られたのが、ラウラを含むセカンドロット。あいつは№8だ。ラウラ自身はこのことを知らないが。あいつは自分がドイツに造られた遺伝子強化素体だと思っているだろう。

 そして、その次が、鯉淵龍を作ったサードロットだ。情報処理能力に特化した3人。その中でも計画値を恐ろしいほど凌駕して生まれた、規格外が鯉淵だ。ナンバーは、9」

 

 そして、と織斑千冬は言った。

 

「最後のロット。近接格闘に計画値以上の適性を持っていた私と、セカンドロットで得られた安定した身体能力の増大に関するデータ。そして規格外として完成した鯉淵のデータをもとに造られたのが、お前だ、一夏」

 

 一言で言い切る。

 

「ある科学者が提唱した、人類に稀に表れる、戦闘にきわめて適応した遺伝子情報を持つ人間。先天的に戦闘適正に優れた人間。それを人工的に作り出そうとした、狂気の計画の完成体。

 ドミナント、それがお前だ、一夏」

 

 織斑千冬は、少し間を開けてから言う。

 

「私とお前は、厳密には姉弟ではない。私の遺伝子情報は少なからずお前に反映されているから、姉であると言っているだけだ。あの計画が崩壊したとき、私はお前を守ろうとしたから、そう言っただけ。お前にはこんな道に来てほしくなかったから、私はお前を普通に育てようと思っただけだ」

 

 ドミナントとして作られたからと言って、普通の人間のように生きていけないわけがない。お前には人殺しの世界に来てほしくなかったんだ、と織斑千冬は静かに言った。

 

「…………千冬姉」

「まだ、そう呼んでくれるのか」

「当たり前だろ」

 

 一夏は肩をすくめる。

 

「まあ、生まれなんか気にしてたら、生きていけないから。でも黙っていられたのは少し気に食わないか」

 

 罰としてしばらく禁酒してもらう、と一夏は言い放つ。

 

「………まて、一夏。死ねと言うか」

「むしろ生かそうとしてるんだけどな、俺は」

「酒は命の水と言うだろう。それに私は通常の人間より、身体能力が高いからアルコールなんぞ毒にはならん」

「なんだその詭弁。毒だろ。大体酒代だってばかにならないんだぞ?!」

「私の給料から見れば微々たる額だろう?!」

「家計簿つけたことない千冬姉が言えるのかよ!」

 

 とにかくしばらく禁酒だ、決定、と一夏は宣告する。

 

「………父さん、一夏が、一夏が私をいじめる………」

「いじめてねえ!大体俺たちに親父居たのか?!」

「織斑姓は一応受け継いでいるんだぞ?計画後に引き取ってくれた夫婦から」

「………そんな話聞いたことないんだが」

「したことがないからな。父さんたちも、お前が物心つく前に死んだから」

 

 私たちの家は、彼らから受け継いだものだ、と千冬は言った。

 

「………そんな家を、白アリで崩壊寸前にしたのか」

「…………嫌な事件だったな」

「あの時のリフォーム代、まだ払い続けてるんだが」

「………しばらくは禁酒する」

 

 ついに千冬は折れて、項垂れた。

 

「…………なあ、千冬姉」

「なんだ?」

 

 しばらくして、一夏が口を開く。

 

「………なんで、D計画は終わったんだ?」

「……………研究所が、正体不明の武装勢力に襲撃された。研究所は壊滅。生き残っていた実験体も、皆散り散りになった。私たちは、織斑夫婦に助けられて、逃がされた。私も幼かったから詳しいことは覚えていないが、そんな経緯だったことは覚えている」

 

 千冬は息を吐くと、言った。

 

「………生きるんだぞ、一夏」

「なんだよ、急に」

「幸せをつかんで、生きていきなさい、そう、父さんたちが死ぬ前に残した言葉だ」

「…………」

「ようやく、お前に伝えることができた」

 

 一夏は少し考えてから言う。

 

「………なんで、その人たちの写真が一枚もないんだ?」

「暗殺されたからだ」

「………え?」

「父さんたちが何をしていたのかは知らない。だが、二人はお前が3歳の時に銃弾で死んだ」

 

 お前も見ていた、と千冬は言った。

 

「…………」

「生きるんだよ、私たちは」

 

 過去を引きずっているのは、私も同じだが。それでも、生きていく、と千冬は言った。

 

「………よく、わからないけどさ」

 

 そして、織斑一夏は言った。

 

「俺がなんだって、どう作られたからと言って、俺の生き方が変わるわけじゃない。俺が何のために造られたのか、とかさ、それは他人の都合だ。俺がそれに合わせる義理はない………そうだろ?千冬姉」

 

 それを、まるでまぶしいものを見るように織斑千冬は見て。

 

「強くなったな、一夏」

「はは、人には恵まれてるからかな」

「……そうだな」

 

 千冬も笑う。

 

「鯉淵だろう、お前にそこまで言わせるようになったのは」

「………ああ」

 

 一夏は言う。

 

「あいつは、いろんなことを背負って、いろんな嫌なことを見てきて。千冬姉の話じゃ、俺と同じような生まれ方をして、それも知っていて。

 それでも、自分の目的を定めて、それに向かって全力で突き進もうとしている。自分の生まれとか、そんなものはすべて振り捨てて、自分が思うように生きて行こうとしている。

 そう言う生き方ってさ、格好いいじゃないか。その目標とか、あいつのいいところ悪いところもいろいろあるけどさ、それらすべて飲み込んで、龍は生きて行こうとしている。俺もそうあり続けたい」

 

 一夏はそう言って、空に手を伸ばす。

 

「自由に、大空を飛ぶ。まだ目標はないけど、かっこいい生き方をしていきたいんだ、俺も」

 

 そう言って、高い空を見上げていた。

 

 

--------------ーー

 

 

 

 

 階段の影で一部始終を聞いていたシャルロットは、驚きで固まっていた。

 

「D、計画………?」

 

 その言葉に、聞き覚えがあったからだ。

 

「うそだよね………父さん」

 

 それは、まだ母が生きていたころ。母と、父らしき人が電話で話しているのを偶然聞いていたから。

 D計画の生き残りが、シャル以外にもいるらしい。

 確かに、彼らの父と母は、そう言っていたのだ。

 

「あ、嘘だ……」

 

 自分が、彼らの本当の子供ではない、と言うこと。それは、それをよすがとしていた彼女にとって、絶望のような言葉だった。

 

「………いやだ、そんなの」

 

 震えながら、シャルロットはつぶやく。

 

「そんなのは、いやだ」

 

 幽鬼のように、ふらふらと歩きながら、言う。

 

 

 

「………なら、消してしまえばいいじゃないか。D計画を、その産物を」

 

 キミにそのための力を上げよう、その時、誰かがそう、ささやいた。

 




 という訳で暴露回です。正直一夏のことについては、原作でもマドカが存在していたり、よくわからないことが多いです。千冬の高すぎる戦闘能力なども。
 なのでこういう風にAC風に解釈してみました。ドミナントを作る、そのための計画。最もそんなものに引きずられる訳でもないですが。一夏も龍も、ずいぶん性格がしっかりしていますから。
 生まれが何であろうと、胸を張って生きていけばいい、そうこの二人は考えているわけです。まあ、龍に関してはそれ以外にもいろいろありすぎてそんなこと一顧だにしてない、というのがあるのですが。
 それとは正反対に、悪く言えば流されるように生きてきたのがシャルロットです。彼女の暴走フラグが立ってしまいました。
 と、いうわけで次回こそトーナメントに入りたいと思います。それでは、またお付き合い頂けることを願って。
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