インフィニット・ストラトス   迷い龍は空を目指す   作:ガクジン

2 / 23
プロローグとずいぶん雰囲気が変わります。


1 入学

 1

 春、IS学園。

 その教室の机に座って、俺はゆっくりと外の光景を眺めていた。

 なぜか。

 教室の中から俺に突き刺さる視線を無視しているからだ。

 

 

「では、出席番号順に自己紹介をお願いします」

 

 

 副担任の山田先生の声も適当に聞き流す。教室の中で複数の人間がしゃべっているが聞こえているが、無視だ、無視。

 無理にそうしてはいるが、耳はしっかりと情報を収集しているのが悔しいところだ。

 

 

「お、織斑一夏です。」

 

 

 そして、俺ともう一人だけのイレギュラー、織斑一夏の自己紹介が聞こえてくる。

 イレギュラー。女性しか動かせないはずのISを動かしてしまった男二人。

 それが俺たち、織斑一夏と、俺、鯉淵龍(コイフチ タツ)だからだ。

 まあ、これも正確ではないのだが。

 

 

「……以上です」

 

 

 織斑の気の抜ける自己紹介が終わった。と思ったら頭をはたき落す音が聞こえたので、俺はさすがに教室の中に目を向けた。

 頭をはたき落されてうずくまる織斑の後ろに、長身の美女が立っている。記録では知っている。あれが世界最強、織斑千冬だろう。

 どうやらまともに自己紹介もできないのかと怒られているらしい。その後織斑が何か口答えをして、また頭をはたき落されている。織斑の口調から織斑千冬と兄弟だと判明して教室の中がざわついた。

 知っている人間からすればなぜ気づかない、と思いもするのだが。

 そしてさらに何人かが自己紹介をしてから。

 

 

「じゃ、じゃあ次の人……鯉淵君、お願いします」

 

 

 そんな山田先生の声がする。俺は一瞬無視しようかとも思ったが、仕方なく立ち上がった。

 

 

「あー……」

 

 

 クラス中から、織斑に向けられていたのと同種の視線が突き刺さる。それはそうだろう。俺と織斑を除けば女しかいないのだ、この学園の生徒は。当然注目もするだろう。

 しかし、学校に来るのなど実に十年ぶりの俺にとって、これはかなりきつい。

 

 

「……」

 

 

 しかし周りは織斑が阿呆な自己紹介をしてくれたおかげでさらに俺に興味津々といった感じだ。

 ……腹くくるしかないな。

 

 

「鯉淵 龍だ。齢は君たちより二つ上の18歳。こんな髪の色をしてるが、一応国籍は日本だ。えー、何の因果か君たちと一緒に向こう三年一緒に勉強することになる。齢も違うし性別も違うのでいろいろ違和感もあるとは思うが、なるたけ合わせるように努力するので邪険にしないでもらえるとありがたい……」

 

 

 そういって言葉を切ろうとすると、周りの生徒がまだ聞き足りない、とばかりに目を輝かせる。

 

 

「……あー、何か聞きたいこととかある、のか?」

 

 

 だから、そう、質問を投げかけてしまった。

 

 

「「「「はい、はいはい!」」」」

 

 

 たちまち周りの女子たちが手を上げて吼える。

 

 

「どうして髪の色が白いの?!」

「瞳も金色!」

「日本人じゃないよね?!」

「というか、なんで18で1年?!」

 

 

 いや、そう一度にこたえられない。困った俺は担任の織斑先生に助けを求めるかのように視線を向けた。

 それに応えてくれたのか、先生が教壇をたたいて静まらせる。

 

 

「その位にしておけ。鯉淵、こいつらもこのままじゃうるさいだろう、少し答えてやれ」

「あ、はい」

 

 

 そういって、俺はもう一度口を開いた。

 

 

「あー、髪と瞳の色が日本人と違うのは昔事故に在って眼球を人工器官に置き換えたからだ。髪はその時の後遺症。あと齢についてだが、その事故の関係で入院が長引いたからだ……こんなところかな」

 

 

 そういって俺は席に着く。本当のことを言っているわけではないが、まるきり嘘でもない。先生に目をやると、意を汲んでくれたのか、追加で説明してくれた。

 

 

「ちなみに鯉淵はその事故の弊害で内臓器官も相当数人工物に置き換わっている。各自、それに留意して扱ってやれ」

 

 

 クラス中が静まり返る。内臓まで人工物に置き換わるというのは、相当な大事故だからだ。

 ……実際のところ事故などではなく、自分で望んでやったことなの結果だから、少し罪悪感がわく。

 

 

「じゃ、じゃあ次の人、自己紹介を……」

 

 

 静まり返ったクラスの空気を入れ替えるかのように、山田先生の声が響いた。

 

 

 

 

 1時間目の授業が終わり、休み時間。俺が机で文庫本を読んでいると、そばに立つ影があった。

 

 

「よ、よう」

 

 

 織斑一夏だ。

 

 

「ん?何か用か?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだが……単純に、居ずらいと言うか……」

 

 

 なるほど。女ばかりだからな、ここは。視線もきついし。唯一の男といたほうが気楽だろう。

 

 

「まあ、気持ちはわかるよ……これはきつい」

 

 

 本を机にしまいながら俺が言うと、織斑は苦笑いしていった。

 

 

「だよなぁ。まったく何の因果なんだか……」

 

「困ったスキルを持ってるな、お互いに」

 

 

 女子高に男二人放り込まれて、と言うのは傍から見ればうらやましいかもしれないが、された方から言わせてもらえばとんでもない。この気まずいこと、気まずいこと。

 

 

「屋上にでも、と言いたいところだが」

 

「休み時間10分だしな。そういうわけにもいかないか」

 

 

 苦笑いを返して、俺は続けた。

 

 

「まあ、飯時や休み時間につるめばちょっとは楽かもな。齢は違うが、よろしく」

 

「ああ。俺もひとりじゃなくて楽だよ」

 

 

 一夏と手を合わせる。前情報通りの明るい奴だ。普通の少年だな。

 そう、俺たちが会話しているところに、意を決したように突き進む女子の姿があった。

 

 

「……少しいいか」

 

 

 固い雰囲気を放つ、女生徒だ。その顔を見て、織斑が驚いたように言う。

 

 

「……箒」

 

「……話がある。廊下でいいか」

 

「あ、ああ。悪いな、鯉淵、ちょっと」

 

「ああ。いってこいよ」

 

 

 箒、と一夏が呼んだところから見て知り合いか、あの少女……ああ、あれが篠ノ之箒か。そういえば織斑一夏の幼馴染だったか。

 篠ノ之に強引に廊下に連れ出される織斑。クラス中の視線もそっちに向かう。廊下に出た後は必然的に俺から姿は見えなくなったが。

 

 

 ――レーダー起動。バイオセンサー、連動。対象、確認。

 

 

 俺の脳に内蔵されているレーダーを起動する。それにバイオセンサーを連動させて、あらかじめ登録しておいた織斑の生体反応を追う。

 

 

 ――対象確認。距離10メートル。

 

 

 立ち話しているだけか。それなら、まあ問題はないだろう。しかし。

 

 

(俺も大概、人間をやめたものだ)

 

 

 自嘲の笑みを漏らす。自分で望んだこととはいえ、こうして使ってみると、やはりどれだけ人間をやめたかがよくわかる。

 ……まあいい。とりあえず、織斑一夏の行動の監視には役に立っている。今はそれで十分だ。

 そんな考えをしていると、話は終わったのか織斑が戻ってきた。続いて織斑先生も。

 どうやら二時間目の始まりのようだ。

 

 

 

 次の授業の時間。内容は入学前に渡された参考書の範囲のもので、基本的には予習の確認のようなものだったから、みなついていけているようだ。横目で見れば織斑もかなり厳しいようだが、何とかついていけている。

 汗だらだらなのが傍目からもわかるように、必死なのは間違いないようだが。

 そうして二時間目が終わり、休み時間。俺と織斑が適当に自己紹介みたいなことをしあっていると、近づいてきた金髪があった。

英国代表候補生、セシリア・オルコットだ。

 

 

「ちょっとそこのあなた方!」

 

 

 高飛車な声で織斑も気づいたらしい。なんだ?と言う顔でウォルコットを見た。

 

 

「あなた方です!そこの男子二人!」

 

「……何か用か?」

 

 

 織斑が黙っているから、俺が返事をする。

 

 

「まあ、なんですのその返事の仕方は!このセシリア・オルコットが声をかけているというのに?この入試次席にして英国の代表候補生であるこのわたくしが?!」

 

「次席か、そりゃすごいな」

 

 

 織斑がつぶやく。それを聞いたウォルコットが少し顔をしかめた。

 

 

「……皮肉ですの?」

 

「へ?何がだ?」

 

 

 織斑はわかっていないらしい。まあ、こいつはまともに入試受けてないから当たり前だが。

 

 

「入試主席のそばにいて、その言い方は皮肉にしか聞こえない、と言うことだろ」

 

 

 俺が助け舟を出すと、織斑は納得したように言った。

 

 

「なるほどな……ところで、その主席って誰なんだ?」

 

 

 ダメだこいつ。鈍いようだ。見れば、オルコットはよほどプライドを傷つけられたのかプルプル震えている。

 

 

「あなたの!隣にいる男ですわよ!」

 

「え、ええ?!」

 

 

 織斑が素っ頓狂な声を出す。俺は少し顔をしかめると、ため息とともに白状した。

 

 

「一応、筆記で首席、実技でも教官をぺしゃんこにしたからな、俺は。もっとも筆記に関してはほかの皆とは齢が二つも違うし、実技じゃ専用機使ったから当たり前なんだが」

 

 

「「「専用機?!」」」

 

 

 今度は周りの生徒までが驚いた声を出す。

 

 

「そう、驚くもんでもないだろう。なにせ珍しい男性操縦者だ。織斑みたいに偶然と阿呆の産物で発覚したならともかく、俺は数年前から重工業連合に所属してるから、訓練もしてりゃ、専用機だってあるさ。国家機密だったから世間的には織斑が最初だがな」

 

 

俺が説明すると、周りは納得したように引き下がったが。オルコットだけは別だった。

 

 

「そう、貴方も専用機持ちなのですね。ならばちょうどいいですわ!コイフチさん、私と勝負なさい!」

 

「……は?」

 

 

 何故にそうなる。俺が訳も分からず聞き返すと、オルコットはイラついたように言った。

 

 

「このまま入試次席などと貶められるのは我慢なりません!私があなたより上だと証明しなければならないのです!」

 

「……それに俺が付き合えと?」

 

「当然ですわ!私は英国の代表候補生なのです!重工業連合などと言う時代に取り残された者たちの一員ごときに一時的とはいえ負けたなどと思われたくはないのです!」

 

 

 何を言っているんだ、こいつは?

 

 

「はあ……やめておく。ガキのけんかに付き合ったんじゃ割に合わん」

 

 

 俺がため息をついて言うと、オルコットが激昂した。

 

 

「なん、ですってぇ!」

 

「あのなあ、オルコット。お前の機体はどうか知らんがな、俺の機体は液体燃料エンジンを多数使用した旧型機なんだよ。一回動かすのにいくらかかると思ってるんだ。とてもじゃないが俺のポケットマネーから出せる金額じゃない」

 

 

 自慢じゃないが、ISの特徴の一つ、PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)をすべて機動じゃなくて機体制御に使っているIS何ぞ、俺の機体だけだ。推進力はすべて旧世代技術である液体燃料式ロケットエンジンによって賄われている。拡張領域の八割を食いつぶすエンジンと燃料は、俺の機体の性格を如実に表しているといえるだろう。

 

 

「え、液体燃料?」

 

「ISなの、それって……」

 

 

 周りからもざわざわした声が漏れる。オルコットも呆然とした表情で俺を見ていた。

 

 

「世代的には第2世代型だけどな。5年前に製造されたポンコツをアップデートを繰り返して使ってるんだ、お前の機体とじゃかかる金が違うんだよ。悪いが、俺の一存じゃ動かせない。だから、勝負とかも公式戦以外じゃ極力なしだ。悪いな」

 

 

 そういって時計を見る。

 

 

「あとオルコット。忠告するが、そろそろ鐘がなるぞ。じゃあな」

 

 

 そういって俺は足早に席に戻る。直後鐘がなり、席を離れていた者たちが足早に戻る音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 三時間目が始まる。この時間はクラス委員などまあ、そういった役割を決める時間のようだが。

 

 

「まず、クラス代表を決めなければならん。知っていると思うがクラス代表はその名の通りクラスの代表として生徒会に出席したり、定期的にあるクラス対抗戦に代表として参加する重要な役目だ。自薦、他薦は問わない。我、と思うものは名乗り出てくれ」

 

 

 織斑先生がそういってクラスを見回すと、女子たちが手を上げて二人の人物を一斉に指した。

 

 

「「織斑君が!」」

 

「「鯉淵君を!」」

 

 

 ……何故そうなる。何故そうなった。皆の衆、先ほどの俺の説明聴いてなかったのか?!

 

 

「え?おれ?え、なんで?」

 

 

 織斑も、混乱している!

 

 

「ふむ、織斑と鯉淵か。まあ、鯉淵に関してはわからんこともないが。よし、ほかにはいないか?」

 

 

 おい先生。何気に織斑にひどくないか?

 

 

「ちょ、ちょっと待った!いったい、何がどうなってるんだ?!」

 

「先生、俺も聞きたい」

 

「お前らは推薦された。拒否権はない」

 

「いや、ちょっと待ってくれ!」

 

「俺の言い分も」

 

 

 俺と織斑が何とか意見を通そうと立ち上がった時。

 

 

「納得いきませんわ!」

 

 

 机を大きくたたいて立ち上がったのは我らが金髪、セシリア・オルコットだ。ちょうどいい、こいつに贄になってもらおう。

 

 

「クラス代表と言うのはクラスで一番優秀なものがなるべきです!すなわちこのわたくし、セシリア・オルコットのような!」

 

「うむ、まったくその意見には同意だ、故に俺は彼女を推薦する」

 

 

 そういいながら織斑にアイコンタクト。瞬時に意を汲んでくれたのか、織斑もうなずいて言った。

 

「お、俺もそれに同意だ、代表なんて面倒くさゲフンンゲフン……責任重大そうなものを俺みたいなまったくの素人に任せるのが間違っている」

 

 

 見事な棒読みで述べた俺たち二人。これであわよくばクラス代表と言う厄介なものから逃れられる。

 どうせ戦闘やテストの機会などいくらでもあるのだ。一回動かすたびに家が建つほどの金がかかる俺のISをそう何度も動かせるか。

 しかし、俺たちのそんな思惑を裏切り、セシリア・オルコットが爆発した。

 

 

「あ、貴方たち!人のことを馬鹿にするにもほどがありますわ!だいたいクラス代表が男など面汚しです!このわたくし、セシリア・オルコットはそんな恥をかくためにこんな文化的に遅れた極東の島国に来たわけではありません!大体、こんな極東の猿たちがクラス代表に選出されるということ自体が恥だということくらいわかりませんの?!」

 

 

 言いたい放題言っている。それに対して、織斑は最初こそ平然としていたが、後半に入るとプルプルし始めた。

 

 

「だいたい、クラス代表が珍しさだけで選ばれるなど言語道断、ただのサーカスではありませんか、そんな代表に何の価値がありまして?!」

 

 

 意外と織斑の沸点は低いようだ。まあ、15歳ならあんなものだろうが。

 

 

「お猿さんはサーカスでおとなしく」

 

「イギリスだって大したもんでもないだろ。植民地に独立されたくらいで日が沈んで何年だよ」

 

 

 言ってはならないことを言ってしまった。

 

 

「な、な、な」

 

 

 オルコットはぶるぶる震えている。

 

 

「何が言いたいのかは知らねえしクラス代表なんてもんにも興味はないけどさ。人の国のことをあそこまでメタクソに言われりゃ腹も立つ。アンタ自分が強いって言ってるし実際強いんだろうけど、そういうことは直接見せてくれるのが手っ取り早いと思うんだけどな」

 

 

 そこで言葉を切る。

 

 

「けけけk」

 

「けけけk?」

 

 

 発音しにくい声だな。

 

 

「決闘ですわ!」

 

 

 オルコットが叫んだ。一夏もにやりと笑って言う。

 

 

「いいぜ、受けてやる」

 

 

 意外と肝が据わってるのか。大馬鹿なだけか。

 

 

「話はまとまったな。来週の月曜に第3アリーナで3人で試合をしてもらい、勝者をクラス代表とする」

 

 

 織斑先生がまとめた。いや。

 

 

「先生」

 

「なんだ鯉淵」

 

「俺もですか」

 

「お前もだ」

 

「俺のIS、一回動かすとバカみたいに金がかかるんですが」

 

「あきらめろ」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、織斑と教室で対オルコット戦について話をしていた。

 

 

「セシリア・オルコットの専用IS、ブルー・ティアーズの特徴は4基のビット兵器。要するに本体から離れて自立して攻撃する兵器と言うことだ。この4基のビットはレーザー砲を装備していて、本体の高精度レーザーライフル、スターライトMk-Ⅲと合わせて計5門の火砲によるオールレンジ攻撃を得意とする」

 

「……わかりやすくいってくれ」

 

 

 織斑の顔はさっぱり訳が分かりません、と言う顔だ。

 

 

「要は四方八方からレーザー乱れうち。おまけにそれを必死になって回避しようとすると本体から狙い澄ました一撃が飛んでくるってわけだ」

 

「勝てんのかよ、そんなの!」

 

「幸いにしてブルー・ティアーズ本体の機動力、防御力は高くはない。ビット兵器にかなりのエネルギーを裂いているから当たり前だが。そこにねらい目がある」

 

「つまり?」

 

「一つは、ビットがとらえられない超高速で撹乱し、致命的な一撃を叩き込む」

 

「俺には無理だ」

 

「だな」

 

 

 IS搭乗時間20分のこいつにできるとは思えん。

 

 

「二つ目は、ビットの攻撃をすべて耐え凌ぐ防御力で力任せに押しつぶす」

 

「機体性能に頼るのか」

 

「可能なISは少ないけどな。打鉄の装備をすべて防御用に回すくらいしないと。それで両腕に高火

力兵器を装備して撃ち勝てばいい」

 

「俺でもできるか?」

 

「いくら撃たれてもひるまず、心を乱さず、ただ一心不乱に捉えて撃ち続ける精神力がお前に在るなら、こちらがお勧めだ」

 

「……それしかないなら」

 

 

 いい貌だ。勝とうと言う気概はあるようだな。

 

 

「なら、工業連が一企業、有澤重工が作り出した打鉄用防御パッケージを使うんだな。打鉄に追加で重装甲、及び有澤製重榴弾砲を装備したパッケージで、機動力が死ぬ代わりに絶大な防御力、火力が付加される。こいつなら今の条件をクリアできるはずだ」

 

「よし」

 

 

 織斑が頷く。

 

 

「と、言ってもだ。こんなもん学園にないだろうから、俺が所属する工業連開発3課に装備を送るよう言っておく。ほとんど使われないばかりに実戦データもない装備だ、データ取りと言う名目で喜んで貸し出してくれるはずさ」

 

「へえ。結構よさそうな装備なのに、なんで使われないんだ?」

 

 

 織斑の疑問はもっともだ。実際有澤の防御パッケージは極めて高い防御力と、高い火力を誇る重装備。機動力がお亡くなりになるとはいえ、普通ならもっと使われてもよさそうなものだ。

 そう、普通なら。

 

 

「……それはな、聞くも涙、語るも涙な理由があるのさ。実際に見たほうがいい」

 

 

 そういって、俺は端末に打鉄の有澤製防御パッケージ装備例の映像を出した。

 

 

「……これ、打鉄か?」

 

「……ああ」

 

 

 織斑は絶句。そこには、打鉄に過剰なほど装甲を搭載し、さらに背部と両腕に巨大な榴弾砲を装備した、何かが映っている。

 

 

「すごい、重厚だな。なんというか、その」

 

「はっきり言えよ、デブだって」

 

 

 そう、圧倒的な装甲によりそのシルエットは非常に太い。そんな機体に年頃の女性たちが乗りたがるはずはない。

 

 

「デブって……いや、直線的な装甲だから、どっちかと言うとがっしりってイメージだけどな……ま

あ、女性受けはしなさそうだ」

 

「そういうことだ。着用を拒否られた。それが、この装備が使われない理由さ」

 

 

 この着用例の写真だって、相当モデルにごねられた。最終的に代表候補生だったころの山田先生が引き受けてくれたのだ。

 

 

「だが性能は一級だ。レーザーには装甲特性から分が悪いが、それでも撃ちあえるだけの防御力は期待できる。それに見てわかるとおり大火力砲を4門装備。爆発だけでISにダメージを与えられるほどの榴弾だ、削り合いにはもってこいだろう」

 

「ああ……何とかやってみるよ。装備が届いたら、すぐ練習しないと」

 

「そうだな。2,3日で届くはずだ。それより、お前の弱点の一つ、IS搭乗時間の短さを埋めなきゃならん。今日から訓練用の打鉄の使用許可を申請しよう。本番でも使うんだ、慣れといたほうがいい」

 

「そうだな。俺、銃火器なんて触ったこともないし。射撃訓練とかもできるのか?」

 

「そっちも併せて申請できるはずだ。とりあえず、副担任の山田先生に申請しに行こうか」

 

 

 俺たちは席を立って、職員室に向かおうとする。しかし、当の山田先生が教室に現れた。

 

 

「あれ、鯉淵君と織斑君、まだ残ってたんですか?」

 

「あ、先生、ちょうどよかった。織斑に訓練機の使用許可を出してやってください」

 

「え?ああ、オルコットさんとの試合があるんでしたね。わかりました、今日からと言うのは無理ですけど、優先的に訓練機を回してもらえるようにしておきます。あとアリーナの優先使用権もですね」

 

「ありがとうございます」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 織斑も頭をさげる。

 

 

「あ、でも、鯉淵の方はいいのか?」

 

「俺の機体の方は、金の問題しかない。まともにやれれば、負けることはないだろ」

 

 

 織斑の疑問はもっともだが、俺の機体は強い。俺が強いわけではないのが何とも皮肉なことだが。

 

 

「ええ、そうですね……あ、その端末の写真、もしかして」

 

 

 山田先生も、なんとなく暗めに言って同意。先生は有澤の試作品のテストをよく引き受けてくれた関係で、工業連とも関係が深いし、俺の機体のこともそれなりに知っている。

 

 

「ああ、山田先生の写真ですよ。今度の試合、織斑がこれを使うので」

 

「え?ああ、織斑君、これ、つかうんですか」

 

「な、先生までなんですか、その思わせぶりな言い方は!」

 

 

 織斑が悲鳴を上げる。

 

 

「だって、これ、確かに性能はいいけれど……」

 

「ど、どういうことです?鯉淵の言い方だと外見通りの撃ち合い特化だって」

 

「あ、ああ、そうなんです。でも……鯉淵君?」

 

 

 山田先生がじとっとした目で俺を見る。俺は観念して両手を上げた。

 

 

「あー、どうぞ、山田先生」

 

 

 俺の言葉で、山田先生は口を開いた。

 

 

「これ、私がテストした兵装パッケージなんですけど、火力が強すぎるんですよ」

 

「……へ?」

 

「四門の榴弾砲の火力が、その、常軌を逸してまして。下手しなくてもISの絶対防御貫いてしまうかもしれません。直撃すれば」

 

「……おい、鯉淵」

 

「大丈夫だ、織斑。お前の腕じゃ、一週間どう頑張っても、ウォルコットに直撃なんかしやしない」

 

「あーなるほど。それならば理にかなってますね!」

 

「先生?!」

 

 

 織斑ががっくりとうなだれる。

 

 

「ま、まあ、織斑君。性能は折り紙つきですから。なんたって有澤重工製です!装甲、炸薬何でもござれ、質実剛健有澤重工!こんなCM見たことあるでしょう?」

 

 

 山田先生は変な方向で励まそうとしている。

 

 

「このパッケージを装備した打鉄で、私は織斑先生といい勝負できたんです。負けましたけど」

 

 

 最後の情けない一言が余計だが。俺もつられてその時の試合を思い出して呟いた。

 

 

「……榴弾切り払うんだもんな、あの人」

 

「誘爆でダメージ喰らってましたけどね」

 

 

 それを聞いて織斑が呆れたように言った。

 

 

「それでもいい勝負できるのかよ……」

 

「火力がイカれてますから。暮桜の零落白夜も一撃なら耐えられるというところがこのパッケージのすごいところです。初心者の織斑君でも、ウォルコットさんと戦い方によってはいい勝負できるはずです!」

 

 

 山田先生はぐっとこぶしを握る。毎度思うが本当にこれで二十歳超えてるというのが俺には不思議だ。

 

 

「あ、でも」

 

 

 しかし、そこで山田先生は少し暗い顔になった。

 

 

「なんか、職員会議で言ってたんですけど、倉持技研が織斑君用の専用機を作っているらしいですよ。もしかしたらウォルコットさんとの試合の時はそっち使うかもしれませんね」

 

「おれの、専用機?」

 

「あ、はい。明日のホームルームで織斑先生から詳しい話があると思います」

 

 

 一夏は突然の話に戸惑っているようだが。俺は別の理由で顔をしかめた。

 

「倉持技研か……」

 

 

 俺が渋い顔をしていると、織斑が聞いてくる。

 

 

「鯉淵?どうしたんだ?」

 

「いや、商売敵なんでな」

 

「は?」

 

 

 織斑が戸惑ったように訊いてくる。それに対して山田先生が俺の言葉の説明をした。

 

 

「ええ。倉持技研は工業連のライバル。日本のIS開発を現状一手に担う、IS企業です。鯉淵君が所属する工業連は正式名称[叢雲・如月・有澤日本重工業連合体]というんですが、これを構成する3大企業、叢雲ミレニアム、如月技研、有澤重工はいずれもISの登場以来斜陽と化した企業群でして、生き残りをかけて連合、独自ISの開発を行っていたんです。でも開発された最初のISは倉持技研の打鉄に敗れて、その中でも優秀な装備が打鉄の追加パッケージとして採用された程度だったんです」

 

「まあ、ISは企業の技術力の象徴みたいなもんだからな。当然次期主力機を開発できた倉持技研にシェアを奪われて、にっちもさっちもいかなくなって開発したのが俺の専用機、[極光]なのさ」

 

「きょくこう?」

 

「極める光と書いて極光。第2世代型技術を突き詰めて開発された、工業連の最新鋭機。その大本は5年前に打鉄とのコンペに出た、第2世代型IS、轟雷なんだけどな。大火力重装甲、そして最低限の機動力。それをコンセプトにした轟雷は安定性が売りだったんだが、打鉄に負けた。しかも工業連が保有していた3個のISコアのうち2個を倉持技研に提供させられた。残った最後の一機、轟雷を改良したのが俺の極光なのさ」

 

「……で、強いのか?」

 

「強いですよ」

 

 

 織斑の疑問に山田先生が答える。

 

 

「と、いうかいじめです、あれは」

 

「そこまでかよ」

 

 

 山田先生は俺を見ながら少し顔をしかめる。

 

 

「と言うか鯉淵君。本当に体大丈夫なんですか?あんな機動したら、普通体がミンチですよ」

 

「生きてるでしょ、今現在。大丈夫です、真耶教官。もう死んだりしませんよ」

 

「……もう」

 

 

 山田先生は少し膨れる。

 

 

「……あれ?鯉淵、先生と知り合いなのか?」

 

「あ、ああ。工業連によく協力してくれるからな、装備のテストとかで。工業連の専属パイロットは現状俺一人なんだが、俺はある事情であまり露出できないんだ。それで公の場とかでは山田先生が代わりにテストしてくれてるのさ」

 

「そういえば、新聞とかでも俺ばっかりだったな。お前のことなんてどこにも載ってなかった」

 

「そういうこと。まあ、入学しちまった以上、これ以上隠し通せないだろうけどな」

 

 

 俺は肩をすくめると、時計を見た。

 

 

「……ん、そろそろ、寮に行った方がいいな。織斑はしばらく自宅通学だっけ?」

 

「ああ。寮の部屋が確保できないとかで」

 

 

 織斑が言いかけると、山田先生がそれを遮った。

 

 

「あ、織斑君も急きょ入寮することになりました。保安上どうしても入寮させろと上層部が。とりあえずここ、1025号室ですね、ここに入ってください」

 

 

 そういって山田先生は織斑に鍵を渡す。

 

 

「ん?鯉淵と一緒じゃないんですか?普通男同士で相部屋じゃ」

 

「ああ、鯉淵君は諸々の事情で一人部屋なんです。と言うわけで織斑君の部屋の同居者は女の子なので気を付けてくださいね!」

 

「な、まじか……女の子と同居……」

 

「ま、まあ部屋の都合がつくまでの辛抱なので!頑張ってください!」

 

「は、はあ。わかりました……」

 

 

織斑は渋々、と言った形で鍵を受け取る。

 

 

「……織斑」

 

「なんだよ……」

 

「辛くなったら言え。テントと寝袋くらいは貸してやる」

 

「はあ……その方がましかもな、了解。あてにしとくよ……」

 

 

 織斑はガクリと肩を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 結局、織斑は予想通り同居人といざこざを起こしたらしく、夜に様子を見に行ったとき、寮のロビーで疲れ切ったようにへたり込んでいた。

 

 

「どうした」

 

「どうしたもなにも……同室が箒でさ、しかも間が悪くシャワーの後の素っ裸の箒と対面しちまっ

て」

 

「それで今まで追い回されてたと」

 

「そういうわけじゃないんだが、まあ似たもんか」

 

 

 疲れ切った織斑に少し同情して、俺は言った。

 

 

「どうする、テントと寝袋、持ってくか」

 

「……いや、いいよ。これくらい乗り切れなくちゃ、千冬姉の弟なんて言えねえよ」

 

「いや、その理屈はおかしい」

 

 

 俺なら野営の方がましだ。

 

 

「まあ、どうしようもなかったら借りに行くよ。じゃあな、アイスが溶けちまう」

 

 

 そういった織斑の手にはアイスが入っていると思わしき袋があった。

 

 

「ああ。じゃあ、幸運を祈る」

 

「はは、ありがとよ」

 

 

 そう言って歩き去る織斑を見ながら、俺は小さく息を吐いた。

 

 

「さて、と」

 

 

 明日の朝織斑が死体になっていないように、監視しなきゃならんらしい。

 

 

「護衛ね……仕方ない」

 

 

 立ち上がると、寮の外に出て、反対側の建物の屋上に上る。そして床に座り込むと、ゆっくりと目を閉じた。

 脳裏に浮かび上がるレーダーの映像。それを拡大していき、生体センサとの情報を重ね合わせる。ほどなく織斑の部屋の中の様子が手に取るように現れた。

 また何かやらかしたらしく織斑らしき影がもう一人の影に向かって土下座している。俺はため息をつくと、体を楽な姿勢にしてから思った。

 

 

 いくら護衛だと言われても、あの喧嘩の仲裁はしたくない。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。