インフィニット・ストラトス   迷い龍は空を目指す   作:ガクジン

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 オリジナル専用機登場。サイレント・ゼフィルス魔改造。苦手な方はバック願います。


17.2 篠ノ之箒

 

 

 

         それは、すべてを焼き尽くす 「暴力」   

 

 

 

 

 

 ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ typeクロノス。工業連で改修されたそのオレンジのIS は、アサルトライフルを両腕に装備し、肩に巨大なエネルギーシールド発生装置を装備し、背部に二門のスラッグガンを装備している。しかし見た目はそれ以外には何も変わりなく、本当に改修されたのかさえ怪しいと凰鈴音は思いながらも手早く甲龍のダメージコントロールを行いながら襲い掛かる弾丸を回避する。

 

「狙いが甘いわね、シャルロット!」

 

 無表情の中にもわずかにつらそうな色を浮かべるシャルロット・デュノアを挑発するように鈴音は言うが、口調程状況は易しくはない。

 奇襲攻撃を受けた甲龍はシールドエネルギーの3割を失っており、さらに主力兵装である衝撃砲を一門潰されていた。推進器も一部不調に陥っており、降り注ぐ散弾を回避し続けるのは不可能に近い。事実、今もじりじりとシールドは削られ続けていた。

 これが仕合ならば、パートナーであるラウラ・ボーデヴィッヒに救援を頼むこともできようが。

 

(あの状況じゃね……)

 

 漆黒の全身装甲、変異したシュバルツェア・レーゲンが織斑一夏に斬りかかるのを見て、鈴はそれをあきらめた。転じて一夏のパートナーであるセシリア・オルコットはどうかとみると、彼女の方は突如アリーナに現れた謎のISに対峙しており、こちらを気に掛ける余裕はなさそうだ。

 

「何とかするしか、ない!」

 

 双天牙月を振り上げながら瞬時加速を使ってラファールに急接近、叩きつけるが瞬時に現れた腕のシールドに防がれる。

 

「やるじゃない!」

「……邪魔しないでよ、鈴」

 

 暗い感情を秘めた声でシャルロットがつぶやくと同時。凄まじい悪寒を感じて鈴が弾こうとするがそれよりも早く。

 

「邪魔するなら……殺すよ」

 

 ラファールの腕が変化する。双天牙月を受け止めて居たシールドが消え、腕の装甲の形そのものが一気に変化。

 

「なにを……!」

 

 鋭角に尖った装甲の先端から巨大な光刃が伸びる。左腕のそれはそのまま双天牙月を叩き斬り、次いで振るわれた右腕の刃が残された衝撃砲を斬り飛ばす。たまらず吹き飛んだ鈴は、何とか体勢を立て直すと、こちらに斬りかかってくるシャルロットを見て歯噛みした。

 

「……武器腕……そう言うこと、ラピッドスイッチで機体構成そのものを変化させた」

 

 武器腕自体は知っている。工業連の開発した、IS用装備だ。腕一本丸ごと武器にすることで、手で使う火器以上の火力を、背部兵装には望みえない器用さで使うことができる。だが運用に柔軟性がなくなる等の欠点からほとんど採用されなかったはずの装備。

 しかし、シャルロットの特殊技能である高い並列演算能力を活かし、鯉淵水姫は機体構成の一部を瞬時に切り替えるシステムを開発、複数の武器腕を運用させることに成功したのだった。

 

「そう言うこと。本当に……あいつらイカレてるよ。確かにデュノア社じゃなかった発想だ」

 

 重くのしかかる並列演算の負荷、それに耐えながら、鈴が握りこむ双天牙月の残骸を弾き飛ばして武器腕変更、巨大な散弾砲と化した腕を向ける。

 

「頭が痛いんだ、鈴。だから、消し飛んでよ」

「無理ね」

 

 発砲と同時に瞬時加速で背後に跳び、被弾を最小限に抑えながら衝撃砲を乱射する。さすがに直撃したからわずかでも体勢を崩すだろう、そう鈴音は思い。

 

「……本当にイカレてるわね」

 

 エネルギーシールドで全て受け止め、こともなげに突撃をかけてくるラファールと、巨大なグレネード砲と化した腕を見て呟いた。

 

 

 

-------------------

 

 

 

 叩き込まれる斬撃、それを雪片弐型で受け止めながら一夏は呻いた。叩き込まれた斬撃の重さも太刀筋もすべて彼の姉の物だったからだ。

 しかし一夏はそれが姉の模倣にすぎないことを知っていて、その剣がラウラ・ボーデヴィッヒ本来の物でもないことも知っている。ラウラの体格は織斑千冬の剣を扱うには適していないし、事実彼女の格闘術は小回りの利くナイフや手そのものを使っての極至近距離から放たれる一撃であるのだ。

 見れば無茶な力の使い方故に体に相当な負担がかかっているのがわかる。しかし、それでもなお力を緩めず、斬撃を叩き込んでくるラウラは、一言もしゃべらずまったくの無言のまま。

 

「ラウラ、おい、どーなってるんだよ!」

 

 向こうでは鈴音とシャルロットがガチの殺し合いをやっている。鈴音の甲龍はかなり被弾しており、主兵装のほとんどを失った。これ以上の戦闘など不可能だというのに、シャルロットは攻撃の手を全く緩めない。

 一体全体何が起きているのか。彼には全く分からないまま、ともかく自らに向けて振るわれる斬撃を防ぐことで手いっぱいだった。

 

「くそ……あっちはあっちで忙しそうだし………!」

 

 セシリア・オルコットのブルー・ティアーズと、アリーナに乱入してきたISは双方ビットを展開しての大乱戦にもつれ込んでいる。しかし彼我の火力の差は歴然としており、敵ISの使う丸い大型のビットが緑色の極太のビームを放つたびにアリーナが激震していた。対峙するセシリアは自らのビットを上手く使って飽和攻撃をかけていたが、火力はさておき敵機の機動も常軌を逸脱しており有効打は得られていないようだった。

 

「くそっ、おい、ラウラ、何とかいえよ!」

 

 斬撃を弾き返し、そのまま体当たり。ラウラを弾き飛ばす。その隙にともかく鈴音の救援に向かおうとするが、体勢を崩したまま放たれたレールガンの砲弾に阻まれる。

 

「くそっ、生半可な………!」

 

 飛び込むようにして叩き込まれる斬撃をかろうじて受け流し、織斑一夏は歯噛みする。ラウラに遠慮容赦なく攻撃できるわけもない。白式の零落白夜は強力すぎ、簡単に使えるものではない上、そもそも反撃できるだけの隙を作れない。模倣とはいえ相手は織斑千冬の剣を使っているのだ、そんなものがあろうはずもない。

 このアリーナの中にいる人間で事態を打開することは不可能。だが。

 

「龍と二年三年の専用機もちは要人の護衛、山田先生は亡国機業とやらの別のISと交戦中……!」

 

 訓練機なら余っているが、戦闘要員の教員は数が少ないうえ、訓練用の機体で何ができるというわけでもない。織斑千冬は全体の指揮のため実戦には出られない。観客席の避難も、山田先生が実弾を使用して吹き飛ばした隔壁一か所からのみ行われているために進んでいない。観客席で仁王立ちしている龍の極光は見えるが、その背後には避難中の生徒や要人たちがいるため援護も不可能。

 

『一夏、とにかく10分耐えろ』

 

 龍にはそう言われたが、自分やセシリアはともかく鈴音が持たない。すでに相当なダメージを受けており、装甲の過半も脱落、内部フレームが丸見えなうえ左腕の怪我が開いて出血がひどくなっていた。

 

「クソが、何とかしないと………!」

 

 苦痛に顔をゆがめながら必死に回避行動をとる鈴音を見て、一夏は呻きながら振り下ろされた刀を弾き返した。

 

 

----------------

 

 

 セシリアは敵機、サイレント・ゼフィルスの絶大な火力を前に攻めあぐねる。BT搭載型IS二号機、サイレント・ゼフィルスはあくまで技術実証機である一号機ブルー・ティアーズと違い、最初から実戦用に製造された機体であるため、ブルー・ティアーズとは明確な性能差がある。

 一番の違いは運用するビットだ。ブルー・ティアーズのビットはあくまで小型レーザー砲を搭載した牽制目的のものだが、サイレント・ゼフィルスはビット一機ごとに小型のジェネレーターを装備し、砲も大型のコジマキャノン。

 要するに北欧アクアビット社開発の≪ソルディオス・オービット≫を6機運用する。致命的な環境汚染と引き換えに絶大なエネルギーを提供するコジマ粒子を動力源に使用するこの兵器は、ISに搭載された場合、一撃が完全な致命傷と化す絶大な火力を発揮する。

 それが、6機。ビット本体の機動力もきわめて高く、ありていに言ってブルー・ティアーズの勝機はなかった。今はかろうじて攻撃を避けながら、ビットを使って撹乱して一秒を稼いでいるに過ぎない。

 

「どうした?ただ無様に逃げるだけか」

 

 サイレント・ゼフィルスの搭乗者がバイザーの下で口をゆがめる。それに呼応するかのようにソルディオス・オービットから大出力コジマキャノンが放たれ、瞬時加速でかわしたセシリアの後ろで巨大なクレーターを作る。

 比喩でもなんでもなく、直撃したらブルー・ティアーズなど消し炭すら残らないだろう。

 

「こんな場所でコジマ兵器を使用する………正気ですか?!」

 

 散開させて回避させたビットを集め一斉砲火。それをサイレント・ゼフィルスはこともなげに躱すと、言葉の代わりに砲弾を送り返す。BFFの大口径スナイパーキャノン。猛烈な威力と弾速を誇るその武器に開幕でセシリアはスターライトをスクラップにされていた。

 

「正気など生み出されてこの方持ったことなどないがな。まあいい、お前の相手も飽いた。終わりにしよう」

 

 ソスディオスの攻撃が密度を増す。もはや反撃もままならぬまま、セシリアはアリーナの壁に追い詰められた。ギリギリのところでかすめるビームにシールドを持って行かれながら、セシリアは歯噛みして自分の無力を呪った。

 

 

--------------

 

 

 

 それらすべてを、アリーナのピットで箒は見詰めていた。傍らではRMが、鯉淵水姫が纏った訓練用の打鉄に巨大なツルギ、グラインド・ブレードを装備しようと端末を叩いている。

 シャルロットの反乱と、ラウラの豹変。そして突如現れた、強大な敵機。アリーナの外では山田先生ももう一機の未確認機と交戦中。すでに状況は混とんとしており、箒には把握するだけでも精一杯だった。

 ラウラのアレはVTシステムとかいう物らしい。モンド・グロッソ歴代ヴァルキュリーの動きをトレースするシステム。重度の精神汚染と引き換えに、搭乗者に絶大な戦闘能力を付与する。

 それ自体は、鯉淵龍を当てれば一瞬で片が付く代物らしいが、龍は現在避難中の生徒や要人たちの護衛で動けない。

 おまけに、よりにもよってラウラがVTシステムを使用していることが問題だということで。珍しく焦ったRMと水姫は、ピットに放置された打鉄の一機にグラインド・ブレードを装備させてとりあえずサイレント・ゼフィルスを排除しよう考えていた。

 しかし打鉄に乗るのは戦闘経験なしの水姫。圧倒的な威力を誇るグラインド・ブレードとはいえ、当てられなければ意味はない。しかし無理は承知の上で二人はやろうとしていた。

 

「………システムマッチング。出力正常。打鉄とコンタクト」

「わかりました………だめです、やはり起動できません」

 

 グラインド・ブレードを無理やり装備した打鉄。しかし打鉄側がグラインド・ブレードを運用できない。グラインド・ブレードが要求する出力を、打鉄が提供できないのだ。

 

「やはり二次移行が必要ですね。システム、機体を最適化すれば」

「できるかい?」

「………私では、戦闘経験が足りないようですね」

 

 いらだたしげに水姫は言う。それは機材に対する不満と言うよりも、自分の無力に対するいらだち。IS適性はAを誇る彼女だが、実際に運用したことはない。当たり前のことではあるのだが、今はマイナスでしかない。

 

「二次移行への機体側経験値はなんとかなりますし、強制促進プログラムを走らせ、工業連で試作した各種装備データを打鉄に投入、オーバードウェポン特化機として二次移行させることは可能ですが……肝心の搭乗者である私自身の問題は……」

「やはり搭乗者本人の戦闘経験もないとダメかい?」

「打鉄が受け入れません。当たり前ですが、彼女にも自我があります」

 

 可能不可能以前に、まったくの初心者を実戦に出すという事態そのものを打鉄が拒否しているのだという。IS学園で様々な生徒が乗り、稼働時間だけで見ればISの中でも長いこの打鉄。IS自身の自我が発達しているのだ。

 それを否定しない水姫は、それゆえの障害も否定はしない。受け入れられない自分が至らないだけなのだ、打鉄はまったく悪くない。

 しかし、現在打てる手段と言うのもこれだけだ。

 

「……兄さん」

「………龍は動かせない。避難中の生徒たちを、身を挺して庇えるのは重装甲の極光だけだからね」

 

 通常ならアリーナのシールドでたいていの攻撃は無力化できる。いくらアリーナ内で実戦が発生したとしても、観客席は最低限の安全は確保される。

 だが、コジマ兵器を持つサイレント・ゼフィルスの乱入。これはまずい。コジマ粒子自身が致命的な環境汚染を引き起こすというその特性もそうだが、あの無茶苦茶な威力を前にしてはアリーナのシールドと言えど長くは持たない。セシリア・オルコットが自らおとりになって射線をコントロールしているので今はまだシールドは健在だが。その行動故に彼女は非常に危険な状況で、いつ撃墜されてもおかしくない。そしてそうなれば、危ういところで保たれている均衡は一気に崩れ、一夏たちは皆死ぬ。

 今のままでは、確定した未来だ。それを覆すには、最低限サイレント・ゼフィルスの早期撃破が肝要。そのためには一撃で決められるグラインド・ブレードの使用が前提であり。

 そのためにはどうあっても打鉄に受け入れさせなければいけないのだ。

 

「…………」

 

 ラウラの振り下ろした剣を受け止め、弾き返す一夏。生徒たちの避難まで、文字通り命を削るようにしてサイレント・ゼフィルスの前に立ち続けるセシリア。装甲の過半を喪失し、貫通した攻撃で血を流しながらもシャルロットを止めようと戦う鈴。

 それを箒は見ていた。見ているだけだった。拳を握りしめ、歯を食いしばりながら。完全な無力感に打ちのめされるように。

 今の自分には、何もできない。訓練用の打鉄単機で突入しても、サイレント・ゼフィルスに消し飛ばされるか、ラウラに斬られるか、シャルロットに殺されるか。

 付け焼刃の剣での援護はむしろ邪魔なだけだ。まともにISを使えない自分が行っても、何ができるというのか。

 かみしめた唇から血が流れ出す。握った拳、爪が掌を貫いて血がしたたり落ちる。

 そして。箒は理解する。それらすべては詭弁で。本当は自分が、死ぬことに恐怖しているだけだと。

 

「………」

 

 本当に何もできないか?ISを動かすことはできる。何故避難していない。一夏を見捨てたくないからだろう。

 答えはすぐ後ろに転がっている。圧倒的な剣が、自らの後ろに。

 握れば、おそらく死ぬであろう剣が、自らの後ろで立っている。

 たたずむ打鉄は、箒に己を握る覚悟があるかと問いかけて来るようで。

 箒は馬鹿ではない。鯉淵水姫とRMの会話から、グラインド・ブレードの使用の際、搭乗者に膨大な負荷がかかるというのは理解している。

 それは、IS適性に優れている鯉淵水姫をもってしても厳しいというほどの物。

 なら、優れていない自分は死ぬだろう。だが。

 

「……RM、水姫さん。私が乗ります」

 

 覚悟を決める。死ぬのは怖いが。

 織斑一夏が死ぬところを見るよりは、ましだ。

 

「………本気かい?」

 

 RMが目を細めて箒を見る。水姫が、装甲の中から本気かと目で問いかける。それらすべてに肯定と、無言で返す。

 

「………」

 

 次の瞬間、打鉄の装甲が解放され、水姫が中から落ちた。それを見て、箒は打鉄に歩み寄り、装甲に手を触れさせる。

 

「……私なら、いいだろう、打鉄」

 

 私は一夏を助けたい、と箒はつぶやいて、打鉄に乗り込む。

 

「………打鉄側からのコンタクト、確認。搭乗者、篠ノ之箒を専任搭乗者として認定。一時移行、開始」

 

 RMが端末に浮かんだ情報を、珍しく驚いたように見ながら、読み上げる。水姫も、珍しく目を見張って、打鉄を纏った篠ノ之箒を見た。

 

「………いいんだね、箒君?」

「はい。お願いします」

 

 箒は頷き、打鉄から伝わってくるシグナルを感じる。打鉄自身も、本当はほとんど経験がない箒を戦場になど出したくない。

 だが、守るための剣として作りだされた自分は。守るために剣を欲する箒の想いを否定しない。

 そのためなら、どんな無茶も受け入れようと、打鉄からそんな意志を感じて、箒は少し表情を緩めた。

 

「………」

「………いいのですか、RM」

「仕方ないね。打鉄は彼女を受け入れた、なら……」

 

 やることは一つだろう、とRMはつぶやき。端末に指を走らせた。

 

「かなりきついよ。死ぬかもしれない。強制的に二次移行を起こす。君の脳にもかなりヤバい負荷がかかる。それでもいいね」

「はい」

 

 箒の返答を聞いて、RMは薄く笑って言った。

 

「……本当は強い子だね、キミも」

「………私は弱いですよ」

「そう言うことじゃないさ」

 

 端末がうなる。一気に打鉄に情報が流し込まれ、それらすべて、打鉄が貪欲に吸収していく。

 

「工業連データベースより、主任権限でオーバードウェポン強制冷却器、追加演算装置、サブジェネレータ、データ取得。即時打鉄に投入……水姫」

「……確認しました。篠ノ之箒のAMS適性を確認………ランクC。AMS接続可能です」

「僥倖だね。ISコアに対しAMSの受け入れを要請………完了。AMS接続可能」

「了解しました……強制接続」

 

 次々に流し込まれる情報を処理しようとしていた箒、その延髄が突如痛み、次の瞬間凄まじい量の電気信号が叩き込まれる。

 

「う、ああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「耐えてください。すぐに脳が適応します」

「う、くぅぅぅっ、わ、かった……」

 

 脳の中を情報が、まるで走馬灯のように駆け抜けていく。その中で、箒は徐々に打鉄と、そして自分自身が変容していくのを感じる。

 

「………データ構築、必要経験値に到達」

 

 そして何よりも、この膨大な情報を、すべて打鉄が吸い取っていくのを感じる。このとてつもない情報の奔流を、すべて瞬時に解析し、のみこみ、己の肉体としていく打鉄。そのすさまじさ。

 

(これは………姉さん、本当にこんなものを………)

 

 ISと言うのがどれほどのものか、よくわかる。これは凄まじい。底など本当にない。果てなどない。姉さんは。彼女の姉、篠ノ之束は。

 

(自分が何を作り出したのか、本当にわかっていたのだろうか)

 

 宇宙開発用のパワードスーツ?笑わせる。コレは、そんなものではない。一つの生命、まったく新しい生命体。無限に進化していく、神にもなれるであろう存在。

 

「量子変換開始、セカンドシフト」

 

 打鉄が光に包まれる。その中で打鉄の姿が変わっていき。ようやく箒は理解した。自らが握ることになる剣の、凄まじい火力を。圧倒的な[力]を。

 

(……こんなものを託されたら、酔えないな)

 

 かつて、力に酔っていた自分がいた。だが、そんなもの、これほどの力を目の当たりすれば。これほどの力を託されれば。

 酔いなど吹き飛ぶ。比喩でもなく、あらゆるすべてを破壊できるだろう。

 オーバードウェポン、グラインド・ブレード。世界最強の一角に名を連ねる、最強兵器。

 その意味は、すべてを焼き尽くすための、暴力。

 

 

 

「……完了しました」

 

 水姫が告げると同時、光りが収まり、中から打鉄が歩み出る。漆黒に、ところどころが焔のような赤に染まった装甲。背部に装備された巨大なツルギ。スカートアーマーとでも呼ぶべき、装甲が重なった下半身。胴部にも胴当て状の装甲が追加され、その左右に、左右非対称の腕部がある。グラインド・ブレードを使用するために、細く、そして強力なパワーアシストを実現する右腕。グラインド・ブレードにエネルギーを供給するためのジョイントが追加された左肩と、その下に在る防御力を重視した太い左腕。そして、巨大な単眼のハイパーセンサーが装備された頭部。そのハイパーセンサーを覆い隠すように装甲がとじ、スリット状のセンサーが紅く揺らめいた。

 その下で、篠ノ之箒は決然とした表情を浮かべ、打鉄を歩ませた。それに呼応するかのように、打鉄自身も唸りを上げていく。

 

「………箒君。彼女の名前は?」

 

 RMが静かに訊くと、箒はつぶやくように言った。

 

「……打鉄黒鳥です」

「……黒鳥か。いい名前だね」

 

 何か、感慨深いものがあるのか、RMは静かに目を閉じて呟いた。

 

「………行きます」

「目標はサイレント・ゼフィルス単機のみ。開幕でグラインド・ブレードを使用、一撃で決めてください。現在ほかの武装を施していませんし、機動力、防御力はともに並み程度です。長期戦は不可能。稼働時間自体、三〇分ですので」

 

 水姫がそう言って、箒を見る。

 

「死なないでくださいね」

「……」

 

 意外そうな表情をして、箒が水姫を見る。

 

「……我々は企業です。成果に見合うだけの対価は、当然と考えます。貴女は十分以上の成果をすでに出しました。なら、それに見合う対価を与えなければいけませんので」

 

 それが、彼女の信念なのか。いつも通り淡々と述べると、水姫は最後に付け加える。

 

「ですので……無事の帰還を」

 

 箒はそれに頷くことで返すと、ゆっくりと歩みを進め、カタパルトに乗る。背後で隔壁が閉まり、機密を確保。打鉄の対汚染システムを稼働。

 深く息を吸い込み、これが最後になるかもしれない、心臓の鼓動を聞く。そして、静かに言った。

 

「……篠ノ之箒、打鉄 黒鳥」

 

 前をにらみ据え、これから待つ闘争を想い。それらすべてを飲み込んで、箒は告げた。

 

「出る」

 

 次の瞬間、猛烈な勢いで打鉄が打ち出される。アリーナに飛び出し、今まさにセシリアにとどめを刺さんとビットを展開する敵機、サイレント・ゼフィルス。

 それを確認しながら、箒はようやく猛禽のような笑みを浮かべ。

 

「薙ぎ払うぞ、打鉄」

 

 世界最凶最悪の剣を、振り上げた。

 




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