インフィニット・ストラトス   迷い龍は空を目指す   作:ガクジン

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3  交流

 今日も、放課後のIS学園第3アリーナには爆音が響いている。

 

「織斑、また弾着がずれているぞ!しっかり砲身を抑えろ!」

 

 俺が放送室で怒声を上げる先は、アリーナの端に陣取ってアリーナの反対端に在るターゲットに向かって一心不乱に砲撃を続ける織斑だ。

 

『っ、くそ、了解!』

 

 織斑が使う有澤製防御パッケージは、正式名称[有澤重工製打鉄用砲戦装備 霧積]と言うもので、防御力が前面に押し出されてはいるが、両腕及び背部に装備された4門の榴弾砲による火力も特徴なパックだ。

 有澤製榴弾砲は破壊用として一般に使われるそれとはわけが違い、そのでたらめな爆発力と、その重い砲弾にもかかわらず高い弾速で、機動兵器に有効打を与えられる、榴弾砲の枠からはみ出した代物である。

 ISにすら着弾の余波だけでもダメージを与えられ、直撃しようものならその高い弾速による衝撃と、続いて高性能爆薬の一斉起爆により絶対防御すら貫きかねないという火力は、特に対IS戦闘において絶大なアドバンテージになり得るはずである。

 最も欠点もしっかりあり、重すぎ、大きすぎるその巨体はISで運用するには少々難があること、そして何より、至近距離で起爆しようものなら自分もまとめて吹き飛ばしかねない。

 一般的に榴弾などに設定される最低起爆距離を設定されていないのだ。

 有澤曰く最悪至近距離の乱戦でも使えるようにしたということだが、高確率で自爆する絵図しか思い浮かばない。

 最も、このパッケージを装備した打鉄の防御力なら、至近距離の起爆もある程度は耐えられるらしいが。

 しかし、このパッケージあまりにも重すぎるため機動性は軽自動車並みだ。旋回性能こそ両肩に追加される旋回用ブースターで無理やり補っているものの、至近距離の格闘に持ち込まれた時点で織斑に勝機はないだろう。

 まあ、オルコットが格闘戦に出るとも思えないが。

 

「……まあ、いいだろ。だいぶ慣れたか?」

『ああ、反動が凄まじいけど、それも慣れた。命中率上がってないか?』

「昨日よりは、な。だが固定目標に対してこの命中率じゃ先が思いやられるぞ」

『ああ、わかってるよ』

 

 昨日は砲撃の反動でひっくり返っていたから、まだましだろう。重装甲による大重量である程度安定性が高いとはいえ、あの火砲を発射する反動はPICをうまく使わない限りISでは吸収しきれない。だが織斑は一日でそのこつを呑み込んで、今日は連射までやってのけている。

 調子に乗るかもしれないから言わないが、すさまじいセンスだ。

 

「よし、じゃあ次はターゲットを動かす。難易度が跳ね上がるぞ、やれるか?」

『上等!』

 

 威勢のいい返事を聞いて、俺はターゲットを動かすプログラムを入力する。すぐにターゲットが反応して、動き始めた。

 

『って、早すぎねえか?!照準が追い付かねえ!』

「オルコットはもっと早いぞ。直撃を狙うな、爆発に巻き込むように狙え。それだけの火力はある」

『Ok!』

 

 織斑が旋回ブースターを使って機体を回しながら、右腕の砲を発射。飛び出した榴弾がターゲットの進路上に直撃し、大爆発。ターゲットの動きを止める。

 

『喰らえ!』

 

 織斑が吼えて背部2門の榴弾砲を発射。動きが止まったターゲットに直撃すると、遠慮なく破壊力を開放した。

 

「既定のダメージを確認、ターゲット停止……と言うか木っ端みじんになってるな。やりすぎだぞ、織斑」

『悪い。でも実戦じゃ止まったところに最大火力を叩き込めって言ったのはおまえだろ?』

「それはそうだが……先生、どうです?」

 

 俺はそばにいた山田先生に聞く。この装備の運用第一人者の山田先生にサポートをお願いしていたのだ。

 

「そうですね……この火力だと絶対防御貫通しますね。オルコットさん死んじゃいます」

『……鯉淵ぃ』

「そいつは少しまずいな。やっぱり背中の榴弾砲は降ろすか」

「でも、それだと決定力に欠けますね。要は直撃させなきゃいいんです。腕部と背部の榴弾砲の役割を変更した方が」

「火力の高い背部の砲で牽制、火力が低い腕部の砲でとどめ、か」

「腕部の和銅なら直撃しても絶対防御で止められるはずです。それに小回りの利く和銅の方が、早い照準が可能ですし」

「そうだな……織斑、聞いてたか」

『ああ。それで行ってみるよ!』

 

 織斑の返事を確認して、俺はターゲットを再び出す。今度は限定的だが3次元起動も行えるタイプだ。

 

『おわ!こいつ飛んだぞ!』

「オルコットも飛ぶだろ。いいから吹き飛ばせ。背部の榴弾砲の砲弾は、FCSの信号を受けて任意のタイミングで起爆させられる。うまく使えよ」

『了解!』

 

 二門の背部榴弾砲、山鹿が火を噴き、空中を滑るように起動するターゲットのそばを通り過ぎようとした瞬間起爆。小さな太陽が出現したと思えるような爆発の中から、ターゲットが吹き飛んでくる。

 

『にがさねえよ!』

 

 腕部の和銅を照準。時間差をつけて発砲。一発目がターゲットを吹き飛ばし、二発目が吹き飛んだ先でターゲットをかみ砕いた。

 

『よっしゃあ!』

 

 ガッツポーズを掲げる織斑。それに対して俺は。

 

「山田先生」

「ええ。打鉄が織斑君と完全にシンクロしてますね。それと同時、打鉄の過去の経験が絶妙なアシストをしている。だからこそ、あそこまで成長が速いんでしょう。まったく……」

 

 RMめ、仕事だけはほんと一流だよ。

 

 

 

 

 そのあと、アリーナ使用時間ぎりぎりまで訓練した織斑は、最終的に同時3機のターゲットを効率よくさばけるようになるまで成長した。さすがに同時4機には苦戦していたが。

 

「明日は山田先生と模擬戦でもするか。実際に敵が撃ってくるという状況はまたずいぶん違う。それに、ブルー・ティアーズのビット対策もどうにか考えなくちゃならんな」

「そ、それはいいけどさ。お手柔らかに頼むぜ……」

 

 息も絶え絶えと言ったようにつぶやくのは織斑だ。やはりあれだけ長時間やると疲労するらしい。

 

「情けないぞ、一夏。どれだけの訓練をしたのかは知らないが、たった数時間だろう」

 

 食堂で一緒になった篠ノ之がお茶をすすりながら言う。

 

「箒、あのなぁ、その数時間で俺がどれだけ地獄見たか懇切丁寧に説明してやろうか?」

 

織斑がテーブルに突っ伏しながら言う。

 

「最初に生身で射撃練習一時間、そのあとISであのアホみたいな反動の火砲を抑え込みながら一時間、最後に動き回るターゲット相手に一時間だぞ?!しかも命中率が一定以下になるとアリーナが閉まった後の罰ゲーム、腹筋背筋腕立ての回数が、回数ががががが」

 

 壊れたテープレコーダーのようになった織斑を見て、篠ノ之が聞く。

 

「どれくらいの回数をやらせたんだ?」

「無駄弾×20、背筋腹筋腕立て別個で」

「で、具体的には?」

「腕立て800、腹筋600、背筋1200」

「……それで来るのが遅かったのか」

「背筋がひどかったな。何せ背筋の対象は最初の生身での射撃練習、しかもマシンガンだったから無駄弾がもうでるわでるわ」

「鬼か貴様は!」

 

 篠ノ之が突っ込む。それに対して俺は笑いながら言った。

 

「明日は全身筋肉痛だろうから、今夜マッサージでもしてやってくれ」

「なぁっ?!」

 

 篠ノ之が真っ赤になる。ふむ、結構初心なのか。

 

「まあ、とにかく織斑。今夜は早く寝とけ。明日もしごくからな」

「りょーかいだ」

 

 俺は席を立ちながらそういって、食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 食堂を出た後、ふと気が向いたのでセシリア・オルコットのいる医務室に向かった。痛めた内臓はあらかた治ったとのことなので入院するほどではなかったらしいが、大事を取って医務室に2,3日宿泊している。

 もともと独立性が高いIS学園だ、医務室と言ってもそこら辺の病院並みの設備、人員はそろっている。あの程度のけがであれば、代表候補生程の重要人物を一般の病院に入院させるより、医務室に入院させた方が警備コストと言う観点から言えば安上がりと言う判断なのだろう。

 そんなことを考えながら俺は医務室の個室の一つ(矛盾した表現だがほかにいい表現がない)に入る。中では一つだけあるベッドの上でオルコットが本を読んでいた。

 

「よう」

 

 俺がためらいがちに声をかけると、オルコットは本から目を上げて俺を見た。

 

「あ、あら鯉淵さん。どうしたんですの?こんな時間に」

「こんな時間って……まだ八時過ぎだろうが」

「女性の部屋を訪ねるには少し遅い時間ではありません?」

「そりゃ、まあ……」

 

 生返事を返しながら俺はベッドのわきに置いてある丸椅子に座る。オルコットも読んでいた本を布団の上に置くと、何を話したらいいか考えあぐねているようで、少し沈黙が続く。

 

「……その、怪我の方はどうだ」

 

 俺がためらいがちに話しかけると、オルコットも少しほっとした様子で答えた。

 

「だいぶ治りましたわ。心配なさらなくても月曜の織斑さんとの試合には間に合います」

「そういうことじゃなくてだな……」

 

 俺は少し言葉を濁す。それから頭を下げた。

 

「すまん。正直やりすぎた。女の腹を殴るなんて、最低のことをした」

 

 女の腹には、大事なものがある。俺はそれを奪うところだったのだ。かなりキレていたとはいえ、それで済む問題でもない。

 

「………」

 

 俺が頭を下げ続けていると、オルコットもまた沈黙している。長い沈黙。それからゆっくりと声がした。

 

「頭を上げてください」

 

 言われて俺が頭を上げると、オルコットは心なしか顔を赤くして、姿勢を変えていた。

 すごく、顔が近い。

 

「……は?」

 

 顔が近いと思っていたら、距離が零になっていた。一瞬ふれあい、すぐに離れる。

 

「セシリア?」

 

 思わず名前で呼ぶと、オルコットは顔を真っ赤にしながら、それでも俺の目を見て言った。

 

「わたくしは、貴方に感謝しています」

「……?」

 

 俺が疑問に思ったことを悟ったのだろう、オルコットが続ける。

 

「貴方に止めてもらわなかったら、私はどうしようもない人間でした。それに気づかせてもらった、目を覚ましてもらった。私は私のような行いをする人間を軽蔑していたのに、自分も軽蔑されることをしていたことに気が付かなかったのです」

 

「でも、貴方が止めてくれた。それに感謝しています」

 

 そういってオルコットは頭を下げた。プライドの高い彼女が頭を下げるということがどれほどのことかは分かっているつもりだ。

 だが、端的に言って俺はオルコットを叩き潰しただけで、その行為にはこいつを一夏との戦いで本気にさせようとして行ったことにすぎない。ただそれだけの行為なのに、ここまで意識を変えたのは、まぎれもなくオルコット自身だ。

 いい女だ、まったくもって。

 

「俺は、お前に感謝されるようなことはしなかったつもりなんだがな……」

「どんな動機から起こった行動だったとしても、その結果私は目を覚ましました、それがわたくしにとっての全てです。それに」

 

 オルコットは顔を赤くしたまま言う。

 

「貴方が好きです。あの時、私が見上げた貴方は、誰よりも高く飛んでいた。誰よりも自由に見えた」

 

 その姿に憧れた、とオルコットは言う。それを見て、俺は思った。

 

 俺と同じだ、と。

 

「……そうか、なら俺は―――」

 

 死ねない。俺が死んだら、もしかしたらオルコットも俺と同じようなことをしてしまうかもしれない。そこまで俺に対する憧れが強くないと思いたいが、いや、しかし。

 憧れるのは当人の勝手で、俺が責任に思うことは何もない、それが正論だろう。しかし、その結果こいつが破滅したとき、俺は確実に後悔する。それが人間と言うものだからだ。

 俺はありきたりな言葉で場を紛らわせようとして、それができないことを悟る。こいつは俺への憧れを口にしたと同時、俺への思慕も口にした。それにはっきり答えを返さないのは男としてどうかと思ったからだ。

 それすらも自分に対する懸命な言い訳であるのは十分自覚している。

 

「答えは、今すぐでなくてもいいか」

 

 だから、ある意味直球な返答を返す。同時に、問題を先送りするということでもある。

 今すぐでなくても、答えは出す。それに、即断らないということは、オルコットを嫌いではないという意思表示になる。

 

「……はい!」

 

 現にオルコットは嬉しそうに頷いた。しかし。

 俺はオルコットに好かれるようなことは何一つしていない。俺がしたのはただの暴力で、それが忌むべきことだというくらいは自覚している。

 だから、このオルコットの想いも受け取ってはいけないと思う。こんないい女が俺みたいな弱い男に惚れていいわけがないのだ。

 そうだ、俺は弱い。自分の弱い肉体では空を飛べないと悟った時、普通の人間なら努力して身体を鍛えるはずなのにあっさりと強化人間になった。

 普通の人間なら勉学をして努力を続けて、苦労して操縦技能を得るはずなのに、自分の脳が偶然AMS適性を持っていたからそれに縋った。

 いつも嫌なことから、大変なことから逃げ続けたのが俺だ。確かにそのおかげでこんな齢ですでに空を飛ぶこともできれば、戦闘でたいていのやつを圧倒することもできる。

 だが、いつも心のどこかにいる冷めた俺が言うのだ。

 努力せず力を手に入れたお前が、努力して力を手に入れた奴らを見下していいわけがない。

 おそらく、世の中のほとんどの人間は俺よりも強い奴らだ。俺はずるをして、そいつらの横から結果だけ掠め取っただけ。

 そんな人間が強い訳ないだろう。

 

 だとしたら、俺の中に在るこの感情はなんなのだろうか。あの時、剣を構えたオルコットを見たときの、あの情動は。

 だめだ。俺なんかが、受け取っていい想いではない。

 だが、どこかで俺は気づいている。

 あれほど求め続けた空への思い。その横に、確かに金髪の少女が立っていることを。

 空を求め続ける感情。妄執と言ってもいいほどの俺の感情の横に、この美しい少女を求める気持ちが生まれている。

 それは叶ってはならない感情だと、冷めた自分が言う。そんなことは十二分にわかっている。だが、それでも俺があんな返答を返したのは、単にこの少女を欲する心情をごまかしきれなかったからだ。

 情けなくて、涙が出そうだった。

 

 

 

 

 

 彼が部屋を出ようとしたとき、龍さん、と私が呼んだのを彼はすごく複雑な感情を抱いたかのような目つきで受け止め、それを認めて去った。

 脈はある、と思う。あの返答がそうだったし、私がキスしたとき、彼は確かに私の名を呼んだのだ。

 我ながら、大胆なことをしたと思う。でも、私は彼が好きだ。なら、あれくらい普通だと思う。

 でも、キスが普通だったら大胆とはどのような行為が当てはまるのかを考えて、私はまた顔に血を上らせてベッドに倒れこんだ。

 確かに、男に抱かれたことはある。だけどあの相手は醜悪な義父で、抱かれたというより犯され汚されただけだ。

 だから、そうした行為に対してはトラウマがある。映画などでそういうシーンになると決まって恐怖がよみがえったし、だからここ数年濡れ場がある映画やドラマ、小説は読んでいない。

 だけど、今龍さんに抱かれることを想像しても、顔が真っ赤になるだけだった。トラウマはどこに行ったのだろう。

 恋は盲目と言うけれど、心的外傷まで盲目にさせるとは驚きだ。私はそこまで考えて、彼に抱かれることにまったく嫌悪感を覚えていないのが原因だと悟った。

 要は、まったくトラウマを刺激していないのだ。だからこんなに明るくなれた。

 

「……ふう、参りました」

 

 どうやら、本当に彼に惚れているらしい。かなりやばい感じで。そんな強い感情が自分に生まれたことも驚きだが、それ以上に心地よく感じている。

 

「手に入れて見せますわ。答えは後日、と申されましたが、おとなしく待つ必要はございません」

 

 まだ答えは出ていない。なら、勝利を確実にするために行動するのはこれからだ。決意も新たに、などと考えてからどれだけ恥ずかしいことを言っているか気が付いてまた悶絶した。

 

 

 

 

 

 さて、これはいったいどういう状況か。

 

 個室から出たら、そこには顔を赤くしてひそひそ話し合っている一夏と箒がいた。状況から考えるに間違いなく俺とオルコットのやり取りを聞かれたに違いない。

 

「殺すか」

 

 口封じに抹殺。至極妥当な結論に思える。

 

「ま、待て、話せばわかる!」

 

 一夏が箒をかばいながら叫ぶが、俺は構わず上着の下のホルスターからモーゼルC96M1916を引き抜く。

 

「許しは請わん、恨めよ」

 

 謳うように言って、一夏をにらんだところで頭に衝撃があった。

 

「何をしている、馬鹿者」

「……織斑先生」

 

 なぜかこの時間でも持っている出席簿を俺の頭に振り下ろしたらしい先生は、あきれたように言った。

 

「中身がからとはいえ銃を出すな」

「気づいていましたか」

 

 俺が手に持つモーゼルに弾は入っていない。だが念を入れて人差し指はトリガーガードの外だし、銃口は天井に向けたまま、おまけに安全装置もかかったままだったが。見る人が見ればただの脅しだ。

 

「まったく……そんな骨董品を良く持つな」

「気に入っているんですよ。適度な重さに信頼性、命中精度もいい。何よりこの合理的な設計と、そこからくる秀逸なデザイン。いい銃でしょう?」

「レッド9か……まあ、否定はせん。しかし、お前に拳銃の携行許可は出ていなかったはずだが?」

「日本政府が極秘裏に出してくれまして。まあ、特別扱いと言うやつです。と、言うか一夏に携行許可が出ていないほうが驚きなのですが」

 

 貴重な男性操縦者だ、それくらい認められるだろう。

 

「訓練もしていない者に銃が渡せるか。ISの起動も、卒業するまでは学園の外では原則禁止だ」

「ま、あれも簡単に人を殺せますしね……了解です」

 

 俺は肩をすくめると、モーゼルをしまう。それから。

 

「あ、でも一夏には銃の訓練を施したので。携行許可だしてやってください」

「そうだな……織斑、いいな」

「拳銃か……」

 

 一夏は少し嫌そうな顔をする。確かに人殺しの道具を持つというのは嫌なものだ。だが、自分の希少性と、そこから発生する危険は自覚していたのか、結局頷いた。

 

「わかった。では申請を出しておく。携行する火器も登録しなければならないから、明日までに決めて置け。以上だ」

 

 先生はそれだけ言い置くと、そのまま歩き去る。俺はそれから複雑な顔をしている一夏を見た。

 

「嫌か?」

「嫌だな。人殺しの武器……ISだってそうか。なんか、な……」

 

 それを見ていた箒も、複雑な顔をしている。ISを開発したのは彼女の姉なのだ。

 

「おかしい、と思ってたんだぜ?最初は。動かせるってだけでIS学園に入学させられたときは、ISの持ってる武器がすごくこわかった。それを今から操縦して撃つということにすごい疑問があった。どうしたってそれは人殺しの訓練だ。それを周りの奴らがまるで軽いことのように話しているのにも驚いてるけどな。だけど、自分が希少で、危険だってだけで自分を守るために銃をとるっていう選択を、今の俺はほとんど疑問に思ってないんだ」

 

 自嘲のような笑みを浮かべて一夏は言った。

 

「まだ入って一週間経ってない。それなのにここまで慣れるもんか、ってな」

 

 一夏が俺をまっすぎに見て、言った。

 

「鯉淵、正直に言ってくれ。俺には、殺人の才能があるのか?」

 

 多分、悩んでいたのだろう。一夏とて、自分がやけに早く戦闘技能を習得することに気付いている。そして、そこから導き出される結論が恐ろしく、同時にそれを直視したいと思っている。

 

「……ああ、ある。お前は稀代の殺人者になれる素質が十分すぎるほどある」

 

 早すぎる飲み込み、一度聞いた戦術をすべて記憶する才能、高い操縦センス、戦闘力。身体能力も高く、四日しか訓練していないのに、すでに一夏の戦闘力はそこらの新兵を凌駕している。このままいけばあっという間に代表候補生並みの戦闘力を手に入れるだろう。

 

「………やっぱり、か」

 

 しかし。それは一夏の一面にすぎない。才能は確かに貴重だが。それに頼らない生き方だって十二分にあるのだ。

 

「だがな、一夏。才能があるからやらなきゃいけないなんてことはない。確かに今お前はIS学園にはいって、人殺しのやり方を学んでいるが、別にそれを卒業後もしなきゃいけないなんて法はない。もっと言えば、この学園を卒業しなきゃいけないなんて法もない。嫌になったらやめればいい。才能があってもやりたくもないことをやるより、才能がなくてもやりたいことをやる方がいい」

「…………」

「お前は料理が好きだろう?なら料理人になる道もある。機械が好きなら機械系の道もある。人が好きなら教師だって弁護士だって。人殺しの才能があるから、男なのにISに乗れるからと言って、絶対にISに乗らなきゃいけないわけではない。今やりたいことがあるなら、それを遠慮せずにやればいいんだ」

 

 一夏が黙る。それから、にやりと笑った。

 

「ああ。そうだな、その通りだ。とりあえず、今俺のやりたいことはセシリアを倒したい、それだけだ。そのために強くなれるなら、なってやるさ」

 

 人殺しの技術で、人を殺さなきゃいけないなどと言う法もない。殺さないで無力化したきゃすればいい。それだけの技術があるのなら。だいたい、人体の壊し方を知るということは、ある程度人体の治し方も知るということになる。

 本当に無駄な技術など、ないのだ。

 

「よし!明日も頼むぜ、龍!」

「……ふん、無駄弾を減らしてから言えよ、一夏」

 

 俺たちはそういって笑いあうと、互いの部屋に向かって歩き出した。

 

 あとに残された箒が、衝撃を受けたように黙り込んでいたことに気が付かないまま。

 




 遅くなりましてすみません。今回は一夏の訓練とセシリアとの交流の二本立てとなります。うまくかけていればいいのですが。
 次回はいよいよ一夏とセシリアの直接対決となります。それでは、ありがとうございました。
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