インフィニット・ストラトス   迷い龍は空を目指す   作:ガクジン

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5 凰 鈴音

 オルコットと一夏の決闘の翌朝、SHRにおいてクラス代表の決定の報告が織斑先生からもたらされた。代表決定の一連の試合を生徒たちは見ていなかったからだ。

 

「……と、言うわけで結果的には鯉淵が最も高い実力を持っているということになるのだが、IS委員会から指示があってな、鯉淵の専用IS、極光はもとは軍用IS、デチューンしてあるといってもその戦闘に振り切った性能は競技用ISとしては認められないとのことだ」

 

 それはそうだろう。対IS戦闘においてすら搭乗者を殺害できるほどの攻撃力を誇る極光、それに圧倒的すぎる機動力。致命的な欠点である稼働時間の短さも、もともと短期決戦の競技戦であればまったくデメリットになり得ない。

 加えて搭乗者の俺はドーピングとかその比ではない。完全な強化人間。表向きは事故で内臓を人工臓器に置き換え、眼球を交換した程度としているが、それでも競技者としては認められないだろう。

 

「……まあ、そうでしょうね。了解です」

 

 だから俺はその決定を特に抵抗もなく受け入れた。織斑先生はそれを確認して、次に移る。

 

「加えて、次席のオルコットが辞退したため、クラス代表は自動的に織斑になる。異存ないな」

 

 その決定をクラスは湧きかえるような歓声で迎える。

 

「織斑君がクラス代表!」

「やっぱり貴重な男子は目立たないとね!」

「セシリアはなぜ辞退したのか?!代表決定戦にまつわる黒い疑惑?!」

「と言うか、鯉淵君の極光はいったいどんなISなのか?!」

「うーん、ご飯三杯は行けちゃうね!」

 

 それを先生は教壇を叩くことで鎮めると、咳払いして言った。

 

「織斑、就任のあいさつでもしろ」

「無理だ」

 

 一夏の即答。続いてはたき落す音が聞こえる。

 

「阿呆、人の上に立つ者、挨拶くらいはこなせ」

「いや、そうじゃなくて。大体何でセシリア辞退したんだ?!」

「面倒だからですわ」

「おいぃ?!」

 

 一夏の魂のツッコみ。それに対してオルコットは少しほほ笑んでいった。

 

「冗談ですわ」

「………はぁ」

 

 一夏が心底疲れたように言う。

 

「鯉淵さんに負けたうえ、実質素人の一夏さんにまで追い詰められた私がクラス代表の任に堪えられるとは思いません。それならばわずか一週間でルーキーとは言え国家代表候補生であるわたくしと互角に戦えるまで成長した一夏さんの方が適任と思ったまでです」

「……俺がお前を追い詰めた?完全にお前の優勢だったと思うがな」

「使いにくい零落白夜をあそこまでうまく使われた時点でわたくしの劣勢は明らかです。エネルギー兵装を主兵装に据えるブルー・ティアーズに零落白夜に抗する手段はほとんどないのですから。そこまでうまく使えたのは一夏さんの能力だと思いますが」

「……なるほどな。ま、それなら納得する。わかったよ、代表をやる」

 

 一夏はようやく納得したような表情で頷いた。

 

「納得したか。ではスピーチ」

「いや、それは」

「トップが意志を伝えられんようでは下はついてこないぞ。お前は代表なのだから、クラスの連中を引っ張ることも重要だ」

「……了解」

 

 一夏はそういうと、何かを考えるように数瞬視線を宙に回し、それから。

 

「よし」

 

 そう言って教壇の前に立った。

 

「これから君たちの代表をやる織斑一夏だ。素人だがみんなの代表に足るだけの実力を備えるよう努力する。もし至らないと思ったら遠慮なく言ってくれて構わない」

 

 ここで織斑は背筋を伸ばして周囲を見た。

 

「この一週間で俺はある程度の力を手に入れられた。だからみんなの代表を何とかこなせるかもしれない。だけど俺はほかの代表の実力を知らない。だから無様に負けることもあるだろう。もし自分の方がうまくできると思ったら、遠慮なく言ってくれ。試合で白黒つけて、負けたら俺は代表を降りる。だけど!」

 

 声を張り上げた。

 

「そうでない限りは、俺はみんなの代表として精いっぱいやる!だからみんな俺についてこい!」

 

 一拍。

 

「「「「うおぉぉぉっっっ!!!!」」」」

 

 クラス中が合戦の前のような声で迎える。ノりやすいと言うのもあるのだろうが、まあ、織斑を代表として認めたのだろう。この熱気はかなり心地いい。

 

「おーりむら!おーりむら!」

「一生ついていくぜ!」

「ひゃっはーだいひょうのいにそぐわぬものをまっさつしろー」

「一組に逆らうもの、代表の熱意に逆らうもの!IS学園には不要だ!」

 

 

………が、少々はっちゃけすぎだろう。というか物騒な単語も多々混じっている。あとそこの9のエンブレムつけてそうな奴は要監視対象にするべきもしれん。

 いや、なんとなくだが。

 

 

 

 

 

 

 放課後のIS学園射撃場。アリーナの使用許可をとれなかった俺たちはここで射撃練習を行っている。

 銃声が響き渡り、ターゲットの中心に命中した。それを確認して、傍らでコルトを構える一夏を見る。

 

「だいぶ腕が上がったじゃないか」

「結構練習したからな。次はライフルか?」

「ああ。外すなよ」

「大丈夫だ」

 

 練習用のライフルを取り上げると、一夏は慣れた手つきで装弾、構え、発砲。

 

「命中だ。的を遠くするか?」

「そうだな。100で頼む」

 

 俺は的を操作する。100mの位置にターゲットが現れる。素早く一夏が発砲。

 

「命中だ。少しそれたが」

「じゃあもう少しこの距離でやるさ」

 

 そのまま一弾倉を使い切って、一夏はため息をついた。

 

「さすがに50以降はまだ弾がばらけるな」

「それでも的に当たってはいるんだ。銃を持って一週間、上出来だよ」

 

 俺が言うと、一夏はコルトを手に取ってローディングゲートから一発ずつ装弾しながら言う。

 

「このSAAはずいぶん使い慣れたし、命中率はいいんだがな」

「拳銃だ、20m以内だからな。それ以降はあまりあてにするなよ」

「わかってるよ」

 

 装弾を終え、構える。的が30mに出現。発砲。

 

「命中だ」

「おう」

 

 長銃身のキャバルリーだからある程度距離があっても命中する。まあ、もとは騎兵用の銃だからな。

 

「……ああ、もうこんな時間か。そろそろ上がろうぜ」

 

 そんなことを考えていると、一夏が時計を見て言った。

 

「そうだな。ライフルはクリーニングして返却だ。」

「わかってるよ」

 

 そのあと俺たちは使った銃をクリーニングしてから、射撃場を出た。

 

 

 

 

 

「……しかしな、やっぱライフルで弾がばらけるってのはなんでだろうな」

「上半身がまだ射撃用の筋肉になってないんだよ。それで反動を抑え込めない。もう少し鍛えれば何とでもなるさ」

「うげ、まだ鍛えるのかよ」

「ISだろうが何だろうが一に体力二に体力、三四がなくて五に体力だ。走れない兵隊に未来はないぞ」

「了解だ」

 

 一夏が答える。こいつは基礎体力は悪くないんだが、3年間剣道から遠ざかっていたらしく、その関係で少しなまっているとのことだ。

 

「しかし、白式が近接特化型である以上、剣の練習もやらにゃならん」

「箒に頼みたかったんだが、なんだかここ数日落ち込んでるらしくてな。断られた」

「……なんかやったのか」

「してねえよ!」

 

 一夏が言うが、俺はあまり信用しない。こいつはなんでか知らないが異性の気持ちに鈍い。気が付かなくても相手を傷つけていることがあるかもしれない。

 

「……まあ、あとで聞きだしてみるんだな」

「わかったよ」

 

 一夏がそう答えたとき。

 

「一夏!」

 

突然暗闇の中から小柄な影が飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中国から飛行機で日本に来て、そのあと車で2時間。私はいい加減疲れていた。確かに飛行機の席はファーストクラス、車はロールスだったけど、窮屈なものは窮屈だ。

 

「本校舎一階総合事務受付……どこよ?」

 

 本校舎と言うからには一番大きな建物なのだろうが、日が暮れ、闇に包まれている現状ではそうもいかない。

 

「誰かに聞ければ手っ取り早いんだけどな」

 

 街中ではなく、ここは学園。日が暮れたら人気もほとんどなくなる。

 

「IS使って探すわけにもいかないしね……」

 

そう思いながら歩いていたとき、前方、アリーナの地下と思われる場所から二人の少年が出てきたのに気が付いた。

 一人は身長180センチほどの長身。と、言うかこちらはおそらく少年ではなく、青年の域に入っている。齢は18くらいか。どこにでもいそうな普通の顔だが、目だけは鋭い。また身のこなしがよく訓練された者特有のもの。あと左胸に拳銃を持っている。

 そしてもう一人はよく知る少年。間違いない、織斑一夏だ。

 

「……しかしな、やっぱ―――」

 

 二人はこちらに気が付かないようで、何かを話しながら歩いている。話題はどうやら射撃に関してのもののようだが。

 

(やっと会えた)

 

 それだけだ。一年会っていなかった。だから、その見慣れた顔を見たとき感情が抑えられなかった。

 

「一夏!」

 

 私はそう言って一夏に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

「え?あ、鈴?お前鈴か?!」

 

 一夏は飛びだしてきた少女を知っているらしい。驚いたように言っている。

 

「ふふん、そうよ。驚いた?」

 

 驚いたのはこっちだ。レーダーに反応はあったが、いきなりやってきて。もう少しでモーゼルを引き抜くところだった。

 

「久しぶりだな!元気だったか?」

「元気すぎるくらいよ。あんたこそ元気してた?」

 

 嬉しそうに一夏と話す少女は、美人だがおそらく日本人ではない。あの艶やかさを感じる顔立ちは、中国人特有の物。

 なるほど、報告に在った中国の代表候補生、凰鈴音か。一夏と一年前までクラスメイトだったらしいが。

 クラスメイト、と言うだけではなさそうだな、これは。

 

「あ、龍、紹介するよ。こっちは俺の幼馴染の凰鈴音。鈴、こっちは」

「ああ、自分でいう。日本重工業連所属の鯉淵龍だ」

 

 俺がそういうと、凰は目を丸くしてから。

 

「あ、アンタ報告に在った重工業連のIS操縦者?」

 

 すこしうろたえたように言う。

 

「ああ、そうだが。専用ISは」

「知ってるわよ、ブラック・デーモン」

 

 突如、目つきが鋭くなり、敵意がむき出しになる。突然の変化に一夏が戸惑う。

 

「おい、鈴?!」

 

 構わずに、凰は俺に言った。

 

「世界最強のIS、極光。それを使ってたのがまさか男だったなんてね。日本がひた隠しにするわけだわ」

「……ああ、中国とは一回模擬戦をやっていたか」

「模擬戦?!あれが模擬戦?!」

 

 凰が詰め寄る。

 

「教えてあげるわ。あんたが相手したあの三人ね、みんな潰れたわ。完全に再起不能よ!」

「殺してはいないはずだが」

「トラウマよ。何もできずにあんたに乗機が粉々にされたから。88ミリ砲で自分の分身ともいえるISを粉々にされたのよ?!立てるわけないでしょう。それでも善戦したとかならまだ救いはあるけどね。でも実際はそうじゃない」

 

 凰は吐き出すように言う。

 

「誰が信じられる?一夏。中国の粋を集めて作り上げた軍用のIS3機がたった一機の第2世代型ISに1分20秒で叩き潰されたなんて」

 

 一夏が止まる。それからわずかに。

 

「IS三機を、一分……?」

「ええそうよ。そこの男はね、世界最悪の化け物よ。一対三、その劣勢。しかも相手は第三世代型ですらない。模擬戦挑まれた時も何の冗談かと思ったわ。でも違った」

 

 鳳が俺をにらみ据えて言う。

 

「完全にこちらが刈られる側だった。攻撃は当たらない、相手の攻撃は手加減されているというのに防げない。そりゃそうよね。時速六〇〇〇キロオーバーで機動する相手に音速の二倍程度しか出ないISがかなうわけないわね」

「そしてわずか一分二〇秒。それしか持たなかった。IS三機、それもリミッターがない軍用ISが。そんなことされたら、搭乗者は完全に折れるわよ」

「アメリカの搭乗者は折れなかったが」

「そういうことを……言ってるんじゃ、ない!」

 

 凰が叫ぶ。

 

「あんな、化け物、実在しちゃいけないのよ。あんたは……!」

 

 そこまで言って、凰は踵を返して逃げるように走り去った。

 

「一夏」

 

 衝撃を受けたようにたたずむ一夏に言う。

 

「な、なんだ」

「追え。追っかけろ。あのままじゃ迷子になるぞ」

「あ、ああ」

 

 そう言って一夏も駆け出す。

 

「ふう」

 

 俺はため息一つ、凰が置き去りにしたボストンバッグを見て。

 

「ま、仕方ない。殺してるんだ、殺されもするさ」

 

 昔の友人の言葉を、なんとなく思い出した。

 

 

 

 

 

 

 追いかける。目の前を走る金色の髪留めを目印に。

 そういえば、あの髪留めはいつだか俺が誕生日に贈ったものだ。今頃それを思い出す。

 さっきの鈴の言葉。龍は強いと思っていた。だが、本当はあんなものじゃない。

 化け物。その言葉が脳裏から離れない。

 そう言えば、朝のSHRで千冬姉は極光がデチューンしてあると言った。その時は軽く聞き流したが、よく考えれば、おかしな話だ。

 国家代表候補生の専用機、イギリスの技術の結晶であろうブルー・ティアーズを何もさせずに叩き潰した、あの性能。あれでデチューンだというなら。

 オリジナルはいったいどれほどなのか。

 そしてさっきの鈴の言葉。IS三機を一分二〇秒。

 ISの性能くらいはわかる。自分も使っているし、この一〇年でよく知っている。その戦闘力も。

 可能なのか。そう思う。だが、よく考えれば答えは転がっている。工業連製の打鉄の防御パッケージ。アレに搭載されている榴弾砲はISを一撃で潰せる。

 あのパッケージは機動力が死んでいたから、そこまで違和感を感じなかった。だが。あの防御力と火力に、鈴の言葉を信じるなら時速六〇〇〇キロオーバーと言われる機動力が組み合わさったら。

 可能だろう。そう結論づける。

 

「鈴、まてよ!」

 

 俺は思考を中断する。友人を、そんな目で見たくないという、そんな思考がある。だから、考えない。

 無理だ。

 化け物。

 ブラック・デーモン。

 直訳で黒い悪魔。

 そして何より、さっきの龍の言葉。

『殺してはいないはずだが』

 アレは、肯定だ。そして、その気になれば殺せた、と言う意思表示でもある。

 

「くるなっ!」

「そう言われてもさ……!」

 

 だけど、同時、そんな風に見てしまった俺を、龍はいつものように背中を押してくれた。

 どちらのアイツが本物なのか。

 どちらもだろう。

 なぜか、そんな結論がストンとおさまった。

 

「鈴……!」

 

 腕を摑まえる。鈴がバランスを崩し、倒れそうになる。それを支えようとして、俺も全力疾走だったからバランスを崩した。

 

「うあっ」

「きゃあっ!」

 

 こける。とっさに鈴を抱きかかえてごろりと転がって。

 

「あ、一夏……」

 

 鈴が俺の上に覆いかぶさっている。柔らかな体と、ほのかに漂う香りを感じた。

 

「す、すまん……」

 

 俺が謝ると、鈴は顔を赤くしながら、言う。

 

「……なんで、来たのよ」

「……泣きそうだったろ、鈴」

 

 鈴がさらに顔を赤くする。

 

「……なあ、何があったんだ」

「……いろいろよ。いろいろ。その中の一つに、あの化け物のことがあるだけ」

「その言い方、やめろ」

 

 俺が言うと、鈴は静かに俺を見る。

 

「あいつは、龍は俺の友達だ。あいつは化け物なんかじゃない」

「……いやよ。だって」

 

 鈴は震えていた。

 

「アレを私たちと同じと認めたら、絶望しかない」

 

 震えながら言う。それほど。

 

「そこまで、圧倒的だったのか」

 

 鈴が頷く。

 

「何もできなかった。私が、先輩と慕っていた、あの人たち。絶対にかなわないと思った、そんな人たちが。何もできずに潰された。たった一機の、あの化け物に」

「……国家代表級、か?」

「千冬さんだって、勝てるかどうかわからないわ。時速六〇〇〇キロオーバー。おまけに、装備する火器は実弾兵器。しかも、ISが使えるとは到底思えないほど大型の火器よ」

 

 鈴はそう言って、思い出すように言った。

 

「そう、まだ開発途中だからと言って、装備していたのはただ一丁。八八ミリ対IS三連装ガトリング砲。砲身長八メートル、毎秒六〇発、初速は一二〇〇m/s、重量八トン。そんな重量を片手で軽々と取回して、突っ込んでくる」

 

 正直、本当にISなのかさえ疑いたくなる、と鈴は言う。あれはもっと得体のしれない何かだと。

 全身装甲はISとは思えないほど分厚く、ごつく。高さも5mほどあったという。こないだ見た極光は一応ISの範疇の大きさだったから、やはりかなり変わっているのだろう。

 

「あいつと直接話したことはないから、どんな奴かは知らない。だけど、私の第一印象だけでいえば、狂気すら感じたわ。戦い、その先に在るものを恐ろしいほどの思いで求めている。あの模擬戦の時も、殺さないようにだけ気を使って、あとは容赦なく、圧倒的な速度と火力で敵を叩き潰してた」

 

 あいつ、戦いが終わった後、空を見上げてた、と鈴は言った。故意か、ミスかはわからないが、つながっていた通信回線で、うわ言のようにつぶやいていたらしい。

 

「まだ、たりない。もっと速く、もっと高く。そう言っていた」

 

 俺が知らない龍の姿。だが。

 

「……空、か」

 

 何となく、想像できる。あいつは、時々空を見上げていることがある。ぼやっとしているのかと思ってその眼を見たら、そんなことはない。

 恐ろしいほどの妄執が、その眼にはあった。

 

「あたしは、あいつと関わりたくない。怖いもの」

 

 きっと、鈴が見たのはとても恐ろしいものだったのだろう。勝気な鈴が、ここまで震えるには俺だけの理由があるのはわかる。

 

「だけど、あいつは俺の友人だ。鈴が見た、龍と、俺が知ってる龍は違う。だけど、あいつはそのどちらも持ってる、普通の男なんだ。だから、俺はあいつとつるんでるんだ」

 

 俺はそう言い切る。人のことを普通に心配して、助けてくれて。そういういいやつなんだ。

それだけじゃないのはわかる。俺が普通に見ていても、時々鈴が言ったような姿を見せる時がある。 

 だけど、鈴が言ったような姿がすべてでもない奴だ。

 

「無理にとは、言わない。ただ、気が向いたら、話してみてくれないか」

「……」

 

 鈴は黙っている。ただ、俺が静かに待っていると。

 

「……そのうち、でいいなら」

 

 そう言ってくれた。

 

「……ああ。ありがとう」

 

 だから俺はそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ボストンバックを持って、本校舎の事務室に行き、事務室の職員に渡す。推測通りなら凰はここにきて手続きをするはずだ。

 俺が待っていて渡してもいいが、凰は怯えるだろう。

 まあ、中国との模擬戦の時は、少々ひどいものを見せたかもしれない。トラウマになるには十分か。

 職員に渡してから、一夏たちの様子をレーダーで探る。どうやら校庭のはずれで一夏が凰を摑まえたらしく、折り重なって倒れている。生体反応があるから問題はなさそうだと俺は思い、何かあった時にはすぐに行動できる距離を保って見守った。

 プライバシーを尊重して、何を話しているのかは聞かない。俺は折り重なったまま話す二人を見ながら、周囲を警戒する。

 しかし、あの二人は恋人同士なのか。少なくともあの姿勢は恋人のそれだが。

 しかし、先ほどの一夏の反応を見る限り、そうでもないらしい。どこまでも鈍感な奴だ、そう思ったところで、そうでもなさそうだ、と気が付く。

 凰が一夏の上に倒れこんだ後、一夏の心拍が急激に上がっている。

 さすがに、意識くらいはしてるのか。少し安心した。

 ただ、今は二人とも落ち着いて話している。姿勢が気にならないほどの話……まあ、十中八九俺のことだろう。

 一夏に嫌われるのは少し悲しいが、まあ、仕方ない。それだけのことをやってきたという自覚くらいはある。

 それ以上にほしいものがあるからだ。

 空。その向こう。

 俺の中で、空と言うのはそのままの意味ではない。誰も追いつけない領域。誰もたどり着けない領域。

 その先に在る極限の空間。

 それが、俺にとっての空だ。はるかな高みへ。誰も追いつけない空へ。

 今でも、あの青い空を飛ぶ親父の姿が目に浮かぶ。

 あの翼に追いつくために。

 すべてを捨てた。

 これからも、そうだろう。

 もう、それは俺と言う存在の根幹だからだ。

 

 「さあて、なあ。まあ、あまり捨てたくないものは、あるがな」

 

 そこで話している少年少女。このあいだ惚れた金髪の少女。今でもフランスで寂しさに震えているだろうあの女。

 だが、どうしても空のために捨てなければいけない時、俺は捨てるだろう。

 どうしようもなく狂っている。そういう自覚はある。

 

 ただ、捨てるような状況に持っていかなければいい。それくらいの努力はする。

 それもまた、あの親父の息子である鯉淵龍と言う存在だからだ。

 

「ま、守りきるさ。それだけの力は、在る」

 

 手首に巻いた、古臭い時計。それが、俺のIS、極光の待機状態。

 世界最強の、俺の相棒。

 その存在を確かめる。

 

「I’m a thinker ~」

 

何となく、そんな鼻歌が聞こえた気がした。

 

 




 うちの鯉淵君は基本的に常識人ぽくふるまっていますが実際は狂人です。それを押さえつけているだけで。
 今のところは抑え込めていますが、いつ爆発するかはわかりません。
 しかし、鈴はいいキャラですね。書いていて楽しくなります。個人的には一番好きです。
 
 では、次回もお付き合いいただけることを願って。
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