インフィニット・ストラトス   迷い龍は空を目指す   作:ガクジン

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 注意!

 一夏、鈴、弾の三人の過去を一部改変しています。留意されたうえで、気を付けてお読みください。

 
 そろそろタグに設定改変が必要か……?


6 幕間 それぞれの思考

 

 

 

 

 凰が転校してきた翌日、意外なことに一夏はいつも通りに俺にあいさつをしてきた。こいつの中では、昨日の一件はなかったことにしたのか、あるいは気にしないとしたのか。

 まあ、近年まれにみるいい奴だということだろう。

 

 朝食の時は凰の姿を見ることはなく、俺たちは朝食を終えてアリーナに向かう。本日から実際にISに乗っての実習が始まるのだ。訓練機の数が少ない以上、ほかのクラスとの合同実習、本日は2組との合同だ。

 俺と一夏、二人の男性操縦者に与えられた更衣室は一つのロッカールームを完全に専用としたもので、俺たちはここで着替えている。

 広すぎるロッカールームに二人きりと言うのもなかなかある経験ではない。

 

「しかし、このISスーツってのはなんでこうヒラヒラなうえにピッタリしてるんだ?水着以上に露出度高いんじゃないか?ある意味」

「まあ、女子が切れば様にもなるだろうが、俺たちじゃな。俺は違うが」

「……俺もそういうデザインが良かったぜ」

 

 俺が来ているISスーツは、一夏の物とは違い戦闘機パイロットが着る対Gスーツのようなもので、少しはゆったりしたデザインだ。さらにAMSリンクを補助するヘルメットを被れば完成。どこからどう見ても戦闘機パイロットである。

 

「毎度思うが極光ってつくづく規格外のISなんだな」

「それがコンセプトだからな。既存のISの枠にとらわれず圧倒的な攻撃力を目指した一点特化型。致命的な弱点も多いが、それすら過剰なほどあげた攻撃力で強引に解消する。そうやって作られたんだ。今の競技仕様にデチューンした姿はある意味コンセプトから外れてるけどな」

「でも認められなかったんだろ?」

「だから元に戻すそうだ」

「……戦闘用にか?」

「ああ」

 

 俺がそういうと、一夏は少し顔をしかめてから言う。

 

「……やっぱ、ISってのは兵器なのか」

「……開発者である篠ノ之束が兵器として発想したかはともかくとして、現在は兵器だな。競技だのなんだの言ったところで人を殺すための道具であるのは確かだろう。実際紛争地帯ではISの実戦投入はそう珍しいことじゃない」

「……龍も実戦に出たことはあるのか?」

「一度な。巻き込まれた形とはいえ極光で実戦に出た。敵も……殺したよ」

 

 俺が言うと、一夏は少し目を開いた。俺はてっきり罵倒されると思って、本能的に身構える。

 だが。

 

「…………嫌なもんだな」

 

 一夏の口から出たのは、現実をかみしめるようなそんな言葉だった。

 

「……なあ、一夏」

「なんだよ」

 

 俺は思わず言ってしまった。

 

「お前、いいやつだよ」

「……サンキュ」

 

 俺たちはその会話を最後に、ロッカールームを出た。

 

 

 

 

 

 

 

「これよりISの基本的な動作実習を始める。まず専用機もち3人、ためしに飛んで見せろ」

 

 アリーナに集合した俺たちの前で織斑先生が声を張り上げる。その声に従い、俺たちは自らのISを起動させる。

 漆黒の装甲が俺を覆うように現出、一瞬で構築される。

 

『AMS起動、リンクレベル3、安定。メインシステム、通常モードで起動します』

 

メッセージが流れ、脳に軽く負担がかかる。そして俺は極光と一体化した。見れば隣でオルコットも青い装甲、ブルー・ティアーズを纏っている。

 

「なにをしている、熟練の操縦者は展開まで1秒とかからないぞ」

 

 しかし、一夏の方はなかなかうまくいかないらしい。顔をしかめて気合を入れ。そこでようやく純白の装甲が現れる。

 

「よし、飛べ」

 

 先生の指示で一夏とオルコットが一気に上昇する。それを地上から見ていた俺は。

 

「鯉淵、お前もだ」

 

 先生からにらまれた。

 

「……推進剤を使えと?」

「二度は言わん」

「イエスマム」

 

 とりあえず逆らわないでおこう。そう考えた俺は背面に装備されたエンジンに火を入れる。エンジンの起動する音が地表を揺らし始め、ノズルから白い煙が漏れはじめる。

 

「……総員、極光から距離をとれ」

 

 直後、織斑先生が汗を一筋流しながら指示、危機感を感じたのかその場の全員が脱兎のごとくダッシュ。

 

「発進」

 

 そして俺が言った直後。凄まじい振動とともに恐ろしい勢いで炎がノズルから吹き出し、極光は一瞬でオルコットたちよりもさらに高い地点まで到達。

 

「おっと、行き過ぎたか」

 

 反転、推力をうまく調整しながら、一夏たちと同じところまで下がる。

 

「………毎度思うがすげえ推力だな」

「……同感ですわ」

 

 あきれ半分と言った感じで先に来ていた二人が言う。一方、凄まじい殺気とともに。

 

『鯉淵、誰がそこまでやれといった』

 

 地上から通信。見れば極光の噴射炎のせいか髪がアフロになった女子生徒多数。同じく髪を焦がした織斑先生が鬼のような顔で立っていた。

 

「うわあ、千冬姉マジギレしてるぞ……」

「仕方ないですわ、髪は女の命ですもの」

 

 戦々恐々と言った感じに言う一夏と、冷淡に言いながら俺を見るオルコット。心なしか視線が冷たい。

 

「……なあ、一夏」

「なんだ、龍」

「逃げていいか」

「世界最強からは逃げられない」

「……先制攻撃で」

「何を言ってますの?!」

 

 命の危険を感じて物騒な単語を漏らす俺にオルコットから盛大な突込みが入る。一方地上では織斑先生が無言で手招き。

 

「短い命だった……」

 

 俺は嘆きながらエンジンの推力を絞った。

 

 

 

 

 明らかに常人なら一撃で死亡するような織斑先生の折檻を凌ぎきり、五分後俺はオルコットと一夏の横に立つ。目の前に立つクラスメイト達は、アフロを免れた唯一の女子、オルコットを心なしかにらんでいるようで、オルコットは少し居心地が悪そうだ。

 まあ、俺は謝らないが。恨むなら指示を出した先生を恨むがいい。

 

「では武装を展開。まず織斑だ」

 

 言われた一夏は手を開く。一瞬のち、光りとともに刃渡り2mを超える大刀が握られた。かなりの速度だ。

 

「ほう?はやいな。オルコット」

「は、はい」

 

 言われて、驚いたようにしながらもオルコットが手を真横に突出し、直後長大なライフル、スターライトMk‐Ⅲが現れた。

 

「さすが代表候補生。ただしそのポーズはやめろ。銃身を横に展開させて誰を撃つ気だ」

「……はい」

 

 少し落ち込んだようにオルコットが返事をする。

 

「鯉淵。最後だ」

「了解」

 

 返事をして、0.5秒。俺の右腕に30mmガトリング砲、GAU-8、左腕に88ミリ高射砲が召喚される。競技用に威力を落として製造された小型兵装だ。

 ちなみにオリジナルの極光は右腕に如月の射突型ブレード、仁王、左腕に叢雲製88ミリガトリング砲、アハトアハト。さらに右背部に46センチ榴弾砲、老神を装備する。さすがに競技用としてはどれも過剰威力なため、競技仕様極光では降ろしているのだ。

 

「さすがに早いな、文句のつけようがない。これくらい早くなるように」

 

 織斑先生がクラスメイトに言う。全員が声をそろえて返事をする。

 

「では各班、一機ずつ訓練機を使用して基本的な動作訓練、及び武装展開訓練を始める。専用機もちは各班に散って、必要ならばサポートすること。でははじめ」

 

 その一言でクラスが動き始めた。

 

 

 

 

 

 放課後、アリーナを借りれなかったのでいつも通り俺と一夏が中庭で訓練を行っていると、視界に小さな影が見えた。ツインテールのシルエット……凰か。

 

「一夏、凰が来たぞ」

「186……ああ、鈴か」

 

 腹筋をやめて、一夏がかけてきた鈴を見る。その向こう、校舎の窓には一夏は気が付いていないが篠ノ之の姿もある。

 どうも嫌な感じだ。篠ノ之の一夏を見る目が。この二人ここ最近あまり会話をしていないようだし。

 いくら姉と違うとは言っても、篠ノ之の名を持っているのだ、俺にとっては要警戒対象である。

 しかし、まあ現時点ではどうとでもなるだろう。

 それより、俺は退散した方がいいか。凰は俺にいい感情を持っていないだろうし、篠ノ之のことも気になる。

 

「俺はいくよ。よろしくやれ」

「どういう意味だよ……」

「語感のままに思え」

 

 俺はそう言い置いて、中庭を後にした。

 

 

 

 

 

 

 歩き去る龍の後姿を見つめながら、俺は静かに息を吐いた。気を使ってくれたらしいが、今のところ鈴と俺はそんな関係ではないし、俺の性根が変わらなければ一生そういう関係になることもないだろう。

 大体、両親と言うものを知らない子供が恋人なんてものを持てるはずもないだろう。持とうとしたところで手ひどく傷つけるだけだ。

 幼いころに両親のことを聞いた時の姉の顔が目に浮かぶ。あんな顔をさせるくらいなら一生独り身の方がましだ。

 少なくとも俺はそう考えている。

 

「アンタ、今日も鍛えてるのね」

 

 日差しを遮って、鈴が俺の顔を覗き込む。俺はそれに生返事をしながら、腹筋を続けることにした。

 

「まあな。鍛えなきゃ、死んじまうだろ」

 

 どうしようもなく、ISと言う兵器、しかも専用機を与えられたのだ。俺が戦場に出る可能性は十二分に高い。ただでさえこの十年、世界では火種がなくならない。そこらじゅうで民族紛争が起こっているし、日本ですら国内の反IS主義者たちによるクーデターが発生したこともある。

 戦場で俺一人がくたばるならあきらめもつくが、まかり間違って他人を巻き込んだ日には目も当てられない。

 迷うなら撃つなと龍は言ったが、俺の性格では迷う前に斬っている。そしてなにも守れずにあとで死ぬほど後悔するんだろう。斬り捨てた敵の命すらも無駄にして。

 頭がよくないことは自覚しているし、直情径行型で、頭に血が上りやすい俺の性格。

 間違いなく無為に人を死なせるだけだ。

 龍曰く、余裕を持って対処できる実力があれば、危機的状況に陥った時でも動揺せずに冷静でいられるという。冷静さを失った時が死ぬ時なのだとも。

 別に戦場でだけ通用するものではなく、日常生活でも余裕は大事だ。常に余裕を持つこと、それがこの頃の俺の目標でもある。

 その一環がこの鍛えるということ。

 とりあえず身体能力を上げていかなければ、ISの能力を十全に発揮させることなどできはしない。いくらPICが万能と言っても、限度はある。

 

「死ぬ、か。そうよね。ISは兵器ね」

「ああ。俺がくたばるだけならどうでもいいが、周りにいる奴らが巻き込まれるのはもう二度とごめんだ」

「……弾のことも、あたしのことも気にしなくていいのに」

「無理だ」

 

 言い切る。それだけは無理だ。あの日の光景を、俺は忘れない。

 血まみれになった親友と鈴の姿。

 幸運にも誰も死ななかったが、あの日、俺のせいで親友二人はあんなことになったのだ。

 あの後も弾も鈴も普段通りに接してくれたが、俺の胸には苦い後悔が残っている。

 あの時俺が諦めさえしなければ。もう少しやりようはあったと思うのだ。

 

「……アンタねえ、当事者二人が気にするなって言ってるのよ?」

「わかってるだろ。無理だ」

「…………まあ、気持ちはわかるわ」

 

 そう言って、鈴はぬるいスポーツドリンクを差し出す。

 

「過剰な運動は非効率なだけよ。悪いこと言わないからその辺でやめなさい」

「……そうだな。ありがとう」

 

 そう言って、俺は差し出されたドリンクを受け取り、一息に飲む。

 

「今日は第3アリーナ取れなかったでしょ」

「ああ。なんか試合に使うとかで」

「ふふん。なんで使えなかったか教えてあげるわ。来なさい」

 

 鈴が俺の手を取って駆け出す。その手の細さと柔らかさに心拍が上がったのは不可抗力だろう。

 そんなことを考えながら、俺は鈴の後について第3アリーナに駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と別れた後、俺は篠ノ之がいた教室に入る。そこには窓から中庭を見下ろす篠ノ之の姿がある。

 

「何を見てるんだ?行って話をしてくればいいじゃないか」

 

 俺が言うと、篠ノ之は今気が付いたような顔をして振り向いた。こいつにあるまじき失態だ。

 

「……鯉淵か。いや、私は無理だ」

「何故だ」

 

 俺が切り返すと、篠ノ之は何とも言えない顔をして言う。

 

「正直、浮かれていたんだ。IS学園で一夏と再会できて、ISのことを教えてやると先輩風も吹かせられて。

 だけど、私より一夏の方がISのことをしっかりと考えていた。私にとっては、ただの道具、せいぜい姉が作り出したモノと言う認識しかなかった。一夏と一緒にいられる理由という、ただそれだけのモノだった」

 

 自嘲するように言葉を続ける篠ノ之。

 

「だが、一夏はISが兵器であると理解して、人を殺すすべを学ぶためにここに来たと理解している。対して私はISがただのファッションのようなものだとしか思えなかった。そんな、私と一夏の差に気が付いただけだ。そして、気が付いたとき、自分のあさましさに嫌気がさした」

 

 そう、篠ノ之は言う。確かにこの学園に来ている連中の認識は、大半はそんなものだろう。それは一つにはIS搭乗者たちがアイドル的扱いをされていたり、モンド・グロッソ出場者たちの扱いがあるのだろう。

 だが、紛争地帯でISどうしで戦闘をしていた俺や、親友二人をISに殺されかけた一夏は、そんな認識はない。

 しかしそれは、これまでの経緯からくる認識の差異であって、決して篠ノ之たちの理解力が不足しているわけではないし、軽く考えていた篠ノ之たちを責められるものでもない。

 しかし、篠ノ之にとっては自らが人殺しの道具を軽く語っていて、それに対して一夏がどういう風に見ていたかを知って、一夏のそばにいることが怖くなったのだろう。

 

「……まあ、その位の認識ができてるんなら上出来じゃないか?」

 

 だから、俺はとりあえずは篠ノ之の背中を押すことにした。

 

「なに?」

「IS学園に来て一週間強でそこまでしっかりと認識できているのなら、問題はないだろう。そういうものは間違っているとわかった時に正しく改めればいい。そもそも15のガキが戦闘兵器にさわって、それの本質を理解するってことの方が異常なんだ。確かにお前はISを軽く考えていたようだが、今は考えを改めているんだろう?今のところは実害も出ていないし、なら改めれば済む話だ」

「……そう、なのか?」

 

 篠ノ之が考え込みながら言う。

 

「そんなもんだ。それにな、篠ノ之」

「なんだ?」

「そんな風に落ち込んでいる間に、凰に一夏をとられるぞ?」

「っ!」

 

 弾けるように篠ノ之が窓に張り付く。その先には凰に手を引かれてどこかに行く一夏の姿があり。

 

「っ、鯉淵、用ができた、この話はまた今度だ」

「おーらい」

 

 俺が言うと、篠ノ之は教室から飛び出す。

 

「あ、篠ノ之。おそらく二人は第3アリーナに行くはずだ。今日、2組の代表決定戦があるからな」

 

 その言葉を投げかけた。

 

「感謝する!」

 

 そして突風のように篠ノ之は駆け去って行った。

 

「……青春だな」

 

 残された俺はゆっくりとアリーナに向かうことにして、歩き出した。

 

 

 

 




 本作の一夏が原作から微妙に性格が変わっているのは、過去の事情もあります。あと、あの脅威の朴念仁ぶりは実際ありえないだろうと思考した結果、自制しているとの結論に落ち着きました。
 それ以外に龍と実戦訓練を繰り返しているというのも大きいのですが。

 短めですが、キリがよかったのでこのあたりで。では次回もおつきあいくださることを願って。
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