fate/cage 作:雨宮
「とうとうできあがったぞ、」
白城市の夜と同じ色の服を着た男が背の低い女にそう語りかけた。
呼びかけられた女は微笑みながらうなずく。
「およそ十年前だ。これを目前にまで迫ったが取り逃してしまった。それを私の人生で再び見れるとは。ふふふ、まがい物とはいえまさにあれそのものだよ。」
男はつめをかんだ。男は感情が高ぶった時このしぐさをする。それを知っているのはこの世で私だけだと女は思っている。
「君のおかげだよ。愛してる。」
男は普段は無口な男である。そんな男がここまで饒舌にしゃべるのを女は初めて見た。女は笑顔を抑えきれなくなった。
男は女の頭をなでながら言った。
「さあ、まがいものの聖杯戦争のはじまりだ。もう一仕事頼むぞ」
女は狂気を含んだ目で、体を男に擦り付けながら耳元でささやいた。
「ええ、お任せください。始めてあった時から私のすべてはあなたのもの。あなたの愛に対して私の命をささげましょう。」
そう言って妖艶に微笑んだ。
男は大きく手を振り上げる。
「舞台はすべて整った。大聖杯にふさわしい霊地も確保した、令樹も刻まれた、そして聖杯戦争にふさわしい4人のマスターも確保した。そして大聖杯の核も手に入れた。あとは勝つだけ、最高だよ。」
高揚した顔で男は高らかに宣言した。
「しかしこの賭けが上手くいくとは思いませんでした。わたしも最後のひとつの中身は知らなかったので。」
女は男の手をそっとつかみながら意外そうに言った。
「そうか、わたしにとってはそう意外でもない。それに君に始めて会ったときから確信していたよ、君がいればこのような結末をむかえられると。」
そういって男は女の手を強く握り返した。
「君はかわいくて美しい。そしてとても優秀な女性だ。何があろうとわたしは君を愛し続けるよ。」
女は頬を赤らめた。
「さぁ行くぞ、舞台は白城市だ。」
男の言葉はあらたなる聖杯戦争の幕開けの合図であった。
陰謀渦巻く冬木の大聖杯、多くの人の血をすすってきた呪われし代物。
それは第3次聖杯戦争で汚染され、第五次聖杯戦争で一応の決着がつき、聖杯解体戦争によって完全な終焉をむかえたはずであった。
しかしそれは再び起動し、またマスターとサーヴァントの殺し合いに人々をいざなうのであった。
この物語は白城市でおこった、もう起こるはずのない聖杯戦争の物語である。そしてこの物語は英雄譚のように輝かしいものでも、賛美歌のようにきれいなものでもない。人が自身の欲望のために戦う物語である。