fate/cage   作:雨宮

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DAY1 PM10:00(2)

白城市民はうちの町には神社も寺もないという。しかし彼らのほとんど知らない。市街地から離れ人が寄り付かない東北部の森に無人の教会があることを。そして普段なら誰もいないはずの教会に二人の人間がいた。凜とリリーである。

そもそもはここでない場所で英霊召還の儀式を行うはずだったがリリーの白城市到着が遅れたことも有ありここですることになった。

 

その日監督役の凛は大変機嫌が悪いようだった。

「リリーペトレリ、触媒はどこにおいたの?早く用意して」

リリーは上から指示されることに慣れていたが、凛の言うたびに自然と背筋が立った。

「えっ、あっ、はい。分かりました。でも不思議ですね。イタリアから送られてきた事だけで他に何の説明もない。これじゃ何の英雄が召喚されるか分からないですよ」

リリーは凜にこびるように言った。

「無駄口はたたかなくて結構。時間がないの早くして頂戴。」

しかし凜の返事は冷たかった。

「はい、すみません。ごめんなさい。」

リリーは凜の返事と命令口調に内心怒りはする。しかしそれは実家へのどす黒い怒りとは違うものであった。彼女の指示にはなぜか従ってしまう。

「準備整いました。監督官殿。」

リリー魔法陣の前へ立ち、反対側にいる凜へ視線を向けた。

凜は周りを見合してうなずいた。そしてリリーの方を見て話しかけた。

「よしいいわ。というかごめんなさいね、私いま少しイラついてたから棘のある対応だったかも。」

そういって凜はリリーへぺこりと頭を下げて微笑みかけた。

「いえいえ気にしないでください。あとサポートのほうなにとぞよろしくお願いします。」

不覚にもリリーは凜の笑顔に少しドキッとした。年は30半ばくらいのはずなのに老いを感じさせないほどきれいであった。この人が赤い悪魔と呼ばれているとは信じられない話であると思った。

そして凜はゆっくりと魔方陣の上を渡りリリーの前に立つ。そしてリリーの顔を覗き込むようにして言った。

「最終確認よ。これからあなたが参加する儀式は終わったはずの聖杯戦争。なぜ起こったのか、どういうメカニズムなのかもわからない。

あなたの役目は聖杯に何も願わないこと。この聖杯戦争を隠密裏に終わらせることよ。

そしてこの儀式には既に5人のマスターが参加していて、そこに割り込む形であなたは参加する。私もサポートは惜しまないけど、監督官だから必要以上の介入は出来ない。そして聖堂教会から派遣される予定のマスターとは未だに連絡が取れない。聖杯戦争に魔術協会のあなた一人だけ参加の可能性もある。命の危険性は高い。それでも参加するのね?」

凜の瞳は愁いを帯びていた。それでもリリーは凜の瞳を強く見つめ返した。

「もちろんです。」

凜はため息をついて言った。

「じゃあ、これからよろしく。そしてあなたの幸運を祈るわ、リリー・ペトレリ。」

凜は悲しそうに微笑み、そうして元いた場所へと戻っていった。

しかし凜には見えていなかっただろう、リリーは笑っていた。虐げられ続けてきたもの特有のほの暗く冷たい笑顔であった。

 

そしてその教会でまた新たに英霊が召還された。詳細は省く。

がしかしその英霊をめぐりちょっとした言い合いが起こっていた。というのも監督役がその英霊の名前を聞きだそうとしているのである。

「だからね、私だって申し訳ないとは思っているの。でもそういう契約だからしょうがないでしょ。セイバーあなたの真名を明かして。」

凜はセイバーに食って掛かる。

「ですが監督官僕にはどうしてもその必要があるとは思えないのです。」

セイバーは人のよさそうな顔でやんわりと拒絶する。

「私だって本意じゃないわよ。でもしょうがないでしょ。私の役回りはあなた達を優勝させること。そのためにはあなたの情報が必要不可欠なの。おねがい、真名を明かして。」

凜の懇願に首を振ってセイバーは答えた。凜は髪をかきむしりながら言った。

「それならしょうがないわね。リリー、令樹をもってしんめいを明かさせなさい。」

矛先はリリーへ向いた。

「えっ、いや、それはマスターがすることではないです。」

ぼけっとセイバーに見ほれていたリリーは反応に少し遅れた。

「早くして。そういう契約のはずよ。」

凜はリリーに対して圧力をかける。リリーはすがるようにセイバーを見た。しかしセイバーは微笑むのみであった。リリーは躊躇したがやがて凜の眼力に負け左手をかざした。

そのときセイバーは一瞬顔をしかめたがすぐに柔和な表情に戻し言った。

「僕はネロです。ローマの皇帝ですよ。」

凜は顔のこわばりをといた。そしてふっと安堵の息をもらした。

「ごめんなさいセイバー、でもこういう契約だったのよ。ネロね、うん、最優のセイバークラスで、ローマの皇帝、まさに負ける要素が見当たらないわね。これからよろしく。」

リリーはセイバーへ申し訳なさそうに視線を向けた。

セイバーはリリーに目で「仕方がないですよ」と言った。

凜の懐から電子音が聞こえた。どうやらケータイがなったようだ。しかし2020年代にもなってガラケーを使っている人がいるとは、意外だとリリーは思った。

「ごめんなさい。呼び出しを受けたみたい。」

そう言って凜は教会の外へ去っていく。

「もしもし、監督役です。ああ、あんたね。えっ、何、自衛隊との連携?。ありえないわよ。機密の保持が重要だって言ってるでしょ。あいつらには何も言わないし協力してもらうこともないわよ。武器も要らないし。.....」

 

 

教会に残ったのはセイバーとあたしの二人だけ。二人の間には魔方陣ほどの距離があった。

あたしは改めてセイバーを見る。灰色の目とオレンジ色の髪の毛を持ち、口周りのひげが特徴的な美青年であった。ネロという人物は知っている。ローマで暴虐の限りを尽くした皇帝だ。しかし目の前にいる男にはそんなイメージはなく、柔和な好青年だった。

いやそれだけではない。あたしは彼を瞳の中から消せなくなってしまった。

その時あたしは、自分が着ている服を気にした、薄い化粧を恥じた、平凡な顔を憎んだ。そして初めて自分が女だということを知った、

「ではマスター、僕と二人きりで話をしましょう。」

セイバーは甘い声で微笑みながらあたしに話しかける。

「監督役殿の話ではあなたは聖杯に願望を願わないとの事。しかしあなたは本当にそれでよろしいのですか?あなたは人の言うことを素直に聞く人ではないでしょう。」

あたしは彼に一歩近づいた。官能的な声であった。甘美なセリフであった。

ただむさぼりたい彼のことを知りたい、そう思った。

「そうです、私の願いは根源にいたること。そして一流の魔術師になりペトレリ家に栄誉をもたらすこと。私が持つ魔力量を増大させること。そして一族の長となることです。」

彼は首をかしげた。そして軽く笑いながら否定した。

「違います。あなたはそんな良い人ではない。欲望に従ってください。あなたにはもっと叶えたい願いがあるはず。」

一歩近づく。彼の細い指が見えた。

ああ、狂おしい、むさぼりたい。ああそうだとも

「そうです。あたしの願いは復讐。そしてペトレリ家の破滅です。」

これがあたしの本当の願いだ。分かりきっていた。彼に一歩近づく。彼の手にあと少しで届く距離だ。彼のうなじが見えそうだった。

「あなたが持つ魔力は少ない。でも決して僕が勝てない戦いではない。」

彼はあたしに歩み寄り、そして跪きあたしの手をとっり、その姿勢であたしを見つめる。

「僕にも聖杯がないと叶えられない夢があります。それはイタリアに栄光をもたらすことです。共に戦ってくれませんかマスター。」

セイバーはそういった。あたしの答えは決まっていた。

「ええ、セイバー。聖杯を必ずとりましょう。」

この聖杯戦争とは何なのかという疑問はすでに頭の中から消えていた。あたしはセイバーと共に戦いそしてペトレリ家への復讐を聖杯に誓うと決めた。

 

「では作戦を練りましょう。」

微笑みながらセイバーは言った。でもあたしとしてはそういわれても困る。

「作戦なんてあるの、セイバー?」

教会には簡易な机がある。上座にあたしが座り、下座にはセイバーが座った。

「ないよりはましですよ。考えることに意味があるのです。」

やっぱり時のローマ皇帝、発想が違うなと思った。

「とはいえ、とりあえずは監督役に従うといったところでしょうか。」

が結論はあたしの考えと変わらなかった。思わず顔をしかめる。

しかしセイバーは依然として微笑を消さなかった。そして言った。

「もちろんただ従うわけではありませんよ。そう例えば、、、」

セイバーが話した内容は合理的で冷酷なものであった。

 

話し合いが終わりリリーは外へ行った。凜と細かいことを話しあい、そして上手いこといってだますためだった。

教会にいるのはセイバー一人であった。セイバーも一緒に行かないかとリリーに誘われていたがセイバーはなんとなくといって断っていた。

教会の広い部屋のいすにセイバーは座っていた。何年間も座っていたと聞いても違和感がないほどになじんでいた。

しかしセイバーはどこか空虚な目でキリスト像を見ていた。

先ほどまでとは違いその目に光は無く空洞のようであった。その様はあきらめているようでもあり何かにすがっているようでもあった。

教会が日の光で照らされ始める。キリスト像を中心として暗がりに光が差し込むように。それを見たセイバーは狂ったように笑い出した。まるでこの世にあるわけのないものを見たかのように。

ひとしきり笑い終えたあと皮肉げにつぶやいた。

「ふふ。僕にはツキが無くなったとおもっていましたが、未だに神の加護があるようですね。」

そういってセイバーは立ち上がる。そして腰の長剣を抜く。

「世の中で私ほど不信心で非道な男はいないでしょうに。そんな私がまさか教会で生を受けるとは。これは神への冒涜以外の何者でもないでしょう。

いやこれはむしろ当然なのかもしれませんね。だってあなたは間違っていて僕は正しいのですから。」

セイバーはキリストの銅像の前に立った。

「ええ、僕は手段を選びません。手段を選ぶのは馬鹿のすること。そういった意味ではあなたとは違うんですよ。」

長剣を右手で振り上げる。そして小声で宝具のしんめいを解放し言う。

「ふふふ。全く、おもしろい実におもしろい。生きているときは死以外のあらゆるものに対して備えをしていましたがこれは予想外ですよ。」

そしてセイバーは像に向かって剣を振り下ろす。

祈りを断ち切る音がした。そして願いが落ちた音がした。

 

大きな音が気になったリリーが教会に入ったとき、教会には地に落ちたキリスト像の手の上に座り、窓の外の日の光を見ているセイバーがいた。

いぶかしがるようなリリーの視線にセイバーは笑って答えた。

「なんでもないですよ、少し宝具の練習をしていたらすっぽ抜けてしまいましてね。」

そこにはリリーの知るセイバーがいて、先ほどまでの狂気を含んだ目ではなくなっていた。

しかしもしリリーがそれなりのマスターであれば気づいただろう、彼はどこかおかしい人物だということに。

 

 

 

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