fate/cage 作:雨宮
「遅かったな柊」
柊はリビングのソファに座った。コーヒーを片手に持った落ち着いた雰囲気の男が声をかける。家の中だというのに黒っぽい服装だった。
「ごめんなさい。お父様。召還に手間取りました。あとサーヴァントと相性がよくないみたいで少しもめまして。」
キッチンの奥から若い女性の笑い声が聞こえる。
「笑わないでくださいライダーさん。私真剣に怒ったんですからね。」
柊は抗議した。若い女性はコーヒー3つとミルクを一つ持ってきて卓においた。そして柊に笑顔で語りかけた。
「いやぁ、ごめんね。柊が怒るなんて珍しいから、ちょっと意外でね。どんなことを言われたんだい、あたしでよければ言ってごらん、私が代わりにおこってあげるから。」
その若い女は高貴な雰囲気を持つ、頭に王冠を載せた赤い短髪の美人だった。そして柊の隣の席のソファーに座る。
柊は先ほどまでとは違う表情で彼女に愚痴をこぼす。それはまるで子猫が親に甘えるようである。
しかしキャスターがいたら餌を待つコイのようだと皮肉を言うのだろう。
「もー聞いてください、信じらんないんですよ。あいつ、えぇっと私のサーバント、人のこと胸が小さいって連呼するんですよ。初対面にもかかわらず、信じられますか。挙句の果てに私のこと将来結婚できないとか言うし。ほんっとに信じらんないですよね。」
信じらんない三連発だった。柊は女に同意を求めた。女は失笑した。そして柊に優しく語りかけた。
「うんうん、事実とはいえひどいね。柊は中身はやさしい子だし、顔もお父さんに似てすごく美人なのにね。そいつはきっと童貞の円卓の騎士だよ。私が保証する。」
そういって女は柊を大きな胸の中に抱いた。そして愛おしそうに背中をたたいた。
「ありがとうございます、ライダーさん、、、あれ今事実って言いませんでした?」
そうそのさまはまるで姉妹のようである。柊は若干怪訝そうにライダーを見つめていたが。
「でもね柊、あんたはとても心優しい子だ。だから柊はきっといい人に出会える。そして幸せになれる子だ。だからそう心配することはないし、傷つかなくって大丈夫だよ。そのサーヴァントも本気で言ったわけではないだろうしね。」
とライダーは言った。柊は少し顔を赤くした。うれしかったのだ。ただそんなまじめな感じでかえされてもとは少し思った。
そしてライダーは柊をはなし、柊と向かい合わせの位置に座り話を続ける。
「あと柊がサーヴァントを召還した今だから言うよ。
いまから君が巻き込まれるのは命をかけた戦いだ。正直やさしい柊にとってはきついものだと思う。辛いことや傷つくこともあるかもしれない。
でもこれも運命だからね、逃げることが許されないんだ。戦い続けなくっちゃいけない。」
そういってライダーは優しさで包み込むように柊を見つめた。
「ふふっ、だからね、そういう辛い事があったらあたしに何でも言ってごらん。あたしでよければなんでもするよ。ね。」
そういってライダーは微笑んだ。
「ありがとうございます。お言葉肝に銘じます。
でもライダーさん、さっき事実って言いましたよね。もー。この大っきい胸で抱きしめればごまかされると思ったら大間違いなんですからね。」
柊はそういってふてくされる。そして胸をちょっとたたいた。
彼女達が出会ったのはつい一週間前だとは誰も思わないであろう。
「おほん、父親の前であまりそういう話をされても反応に困るのだが。」
そう言って男は少し困ったように笑った。
そう言った男は柊の父親であり、ライダーのマスターである。名を九条隼人という。現在の九条家の当主である。
少し遅れてキャスターはやってきた。
「君が柊のサーヴァントかね?」
まじめな口調で隼人は語りかけた。
「ええ、キャスターです。申し訳ないのですが今は真名を明かさないことを許していただきたい。」
先ほどとは違うまじめな口調に柊は静かに驚いた。
「まあ、お互いに信用が無ければそういったことは難しいだろう。ではこの状況について説明は受けているかね。」
もうすでにまじめな会話に切り替わったのだろう。柊は気持ちを切り替え発言した。
「ええ、キャスターにはある程度の説明はしました。」
「はい。娘さんから聞きました。今回の聖杯戦争では親子で参戦するとの事で。」
キャスターは鋭い視線で隼人を見据える。
「そうだ。普通に考えれば下策だ。しかしわが一族は危機的状況にあり、それを打開するためには下策を用いて聖杯戦争に勝ち、聖杯の力にすがるほか手段はない。このような状況で高名な円卓の騎士の一人であるあなたを呼び出したことをまず先に謝罪させていただきたい。」
隼人は頭を下げた。
「なにぶん今回の聖杯戦争はイレギュラーが多い。
そう例えば実はあなたの他にもう一人一足先に召還されたキャスターがいる。聖杯戦争で同じクラスが召還される。それだけでも異例だ。もう一人が何年も前から召還されたならともかくね。
それに本来聖杯戦争は出来るはずがないんだ。というのもこの町の近くの冬木市で十年近く前に執り行われたのを最後に行われてはいない。というかそれによって聖杯が解体されている。
たしかに解体された大聖杯抜きでも聖杯戦争自体は可能だ。現にロシアで数年前に実施されたという報告もある。しかしそれは規模や魔力量が少なくて満足な結果を得られなかったそうだ。うわさだけで実際はよく分からんがな。
しかしだ。先ほど述べたキャスターのマスターが聖杯、何人かのマスター、令樹すべてをそろえてやってきたんだ。後足りないのは霊地だけ、そしてこの土地に目がつけられた。九条家はこの町に強い霊脈を持つ土地をいくつも有しているからね。
私は彼にいわれたんだ。土地を貸してくれないか、引き換えに願いを叶えるチャンスを与えようと。」
隼人は一旦言葉を区切る。キャスターは目で続きを促した。
「そして私はこの聖杯戦争に参加を決意し、そのマスターから令樹を三画借り受けたんだ。そして私はライダーを召還した。
しかしその後、偶然にもうちの娘にも令樹が浮き出たことが判明した。苦渋の決断ではあるが少しでも勝つ可能性を増やさなければ為らない。というわけだ。
気に触るとは思うがどうか娘に力を貸してやってはくれないか。頼むキャスター。」
隼人は頭を下げた。柊はそこまですることはないと父親を止めようとしたが、ライダーによって目で留められた。
そしてライダーはキャスターにウインクする。彼の言葉を促すように。
キャスターは少し顔をしかめた。そして口を開く。
「頭を下げないでください。気に触っていませんし、そもサーヴァントは忠実にマスターに従うのみですから。それに円卓の騎士などたいしたものではございませんよ」
キャスターは皮肉げにそう言った。そしてコーヒーを一息に飲み干し立ち上がり、
「ただ一つ質問があります。聖杯戦争にお二人が勝ち残った後はどうなされますか?」
と言った。
既にキャスターは窓際に立ち視線はすでに夜空の欠けた月のほうに向いていた。
「そのときは仕方がない。戦いあうさ。この子も九条の娘、分かっているだろう。それとももしかして、あなたには聖杯にどうしても叶えてもらいたい願望があるのかね」
キャスターは一瞬陰のある表情で柊を見た。
「いえ、私は願望などありません。ちょっとした娯楽として参戦してるのみです。あとまぁ、お嬢さんにそれほどの覚悟があるのか不安に思いましてね。」
「あるわよっ。バカにしてるのキャスター。お父様、私は一族の栄光のため命を捨てる覚悟です。そのバカにだまされないでください。」
柊は思わず大声でキャスターに言い返した。
「ふふっ、偉いね、よく言ったよ柊。」
そう言って隣にいたライダーは柊の頭をなでた。キャスターは顔をしかめている。
隼人は咳払いをして切り出した。
「ではキャスター陣営とライダー陣営は同盟を結ぶという事でよろしいか?」
「ええ、私は構いません。マスター次第です。」
「私も賛成です。」
ミルクを飲み干し柊もあわてて返事をする。そして隼人は立ち上がり厳かに宣言する。
「では九条隼人はここにキャスター陣営とライダー陣営の同盟を宣言する。九条柊殿異存ござらんか?」
「異存なしです。よろしくお願いします。」
ここにキャスター陣営とライダー陣営の同盟が結ばれたのであった。
柊は学校があるからといって自分の部屋に向かった。リビングには三人が残った。隼人はタバコを吸いだす。ライダーはコップをお盆の上に片付けながら手持ち無沙汰にしていたキャスターに話しかけた。
「よろしくね。円卓の騎士さん。私はライダー。キミところで柊を貧乳呼ばわりしたそうだね。あの子は気立てのいい、やさしい子だよ。あの子泣かせたら私が怒るからね。」
「ふん、まぁそうだろうな。」
ぶっきらぼうにキャスターは言った。
「何か怒ってる?まぁいいよ。あと一応味方なんだし真名教えてくれないか。私にとってキミは弟みたいなサーヴァントなんだよ。当ててごらーん。ヒントはアーサー王の宝具だ」
ライダーはリビングからおぼんを持ってキッチンへ向かう。キャスターは数秒の沈黙の後に言った。
「ブーティカだろ。」
予想外の答えだったのだろう。ライダーはあわててコップを落としそうになった。体制をくずしその場にしゃがんだ。
キャスターは立ち上がりライダーを追った。そして彼女の左側に立ちライダーが再び歩み始めるのを待った。
「何で分かったのさ。」
キャスターはつまらなげに言った。
「なんとなくさ。こう見えても俺は細かいことに気づくたちでね。」
そしてリビングを離れようと立ち上がりライダーと並んで歩く。
「おれはケイ。アーサー王の義理の兄だ。」
隼人には聞こえないようにキャスターは言った。
「ケイか。最後の最後までアーサー王に忠誠を誓った円卓の騎士、それで女好きか。」
ライダーはそうつぶやいき、隣のキャスターに上目遣いで言った。
「ねぇ、君、私は口説かないの。」
ライダーはお盆を右手で支えて左側にいるキャスターに甘えるようにもたれかかる。
「ああいい女だ。それがどうした。それとも私美人でしょって言う自慢か。別に結構だよ。そういう高慢ちきな女はおことわりだよ。」
そういってキャスターはライダーを引き剥がす。
ライダーは素直にキャスターと距離をとり笑いながら言った。
「ははっ、ちがうよ。別にサーヴァント同士でくっつこうなんて思わないって。
何であの子にけんか腰で接したのかっていうこと。あっ、あたしも当ててあげようか。昔の恋人の顔とあの子の顔が似てたんでしょー。」
ライダーは楽しそうな表情で問う。キャスターは顔をしかめた。
「ふん、さあな。まぁ昔見たことがあったんだよ。あいつにそっくりな奴を。だからおせっかいを焼きたくなったてだけさ。」
目の前は既にキッチンだった。
キャスターは話は終わったとばかりに手でライダーを追い払う。
「へぇ、おせっかいか。私の考えとは違うな。でもやっぱり君おもしろいね。君みたいのが弟にいたら良かったのになぁ。
まっ、短い間だけどよろしくね、キャスターケイ」
そういってライダーは洗いものをしにキッチンへ向かった。
ライダーのうしろ姿を目で追いながらキャスターは思った。あんたは意識してないだろうが、あんたの後ろには影がある。どんなにごまかしたってそれが消えることはないさと。
そしてそれがキャスターがライダーの真名を見抜いた一番の理由であった。
ライダーとキャスターがいなくなったあと隼人はつぶやいた。
「キャスターは私を嫌っているようだ。」
そういったことは案外分かる。別に娘のサーヴァントから好かれたいとは思わない。しかし嫌われているのは今後の協力に支障をきたす可能性がある。
いざという時のプランはライダーに伝えてある。そのため隼人が心配することはない。しかしキャスターが考えていることはそれとは別個のことだろう。そしてそれは隼人が最も恐れ、そしてひそかに望んでいることであった。
今夜は月がきれいに見える。隼人は外を見てそう思った。
欠けた月を見ながらタバコを吸う。美味くはない。好きな銘柄ではないから仕方がないだろう。予備のタバコはまだ買っていなかった。
ふと柊が昔隼人のまねをしてタバコをすったことを思い出し小さく笑った。
九条邸には桜の木がある。春には何本の木が実を咲かせるだろうかと思った。