fate/cage   作:雨宮

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DAY1 PM11:00(2)

(2)

「貴様やはりただの小娘ではないな。」

アーチャーは笑っていた。黒人は引きつった表情だった。

魔方陣では少女が微笑を浮かべ赤ん坊を抱き両足でたっていた。

ゲイボルグによって心臓を穿たれた中国人を前にして。

「まさか貴様、マスターの父親を人間の盾とするとはな。」

ゲイボルグは誰かの心臓を必ず貫ぬき、狙われれば必ず死ぬ槍。たしかに回避するすべなどない。狙われる人間を変えるという以外は。あの少女は一瞬の間にその思考にいたり手近にいた死んでもいい人間を身代わりにした。だからこそ死に掛けの中国人を自分の前に立たせたのだ。

もしゲイボルグの使い手が真名を開放できる本来の使い手であれば、そのような小手先の技は通用しなかっただろう。ギルガメッシュの弱点を見抜いたともいえる。

アーチャは手をふりあげる。

「先ほどは良く耐えた。王たる我が直々に褒めてやろう。ではこれならどうだ」

”王の財宝”からは先ほどよりも多くの剣や槍が準備される。一つ一つが逸話を持った必殺級の武具である。すべて食らえばひとたまりもないだろう。

少女は赤ん坊をおろし地面に寝かせた。そして地面に手を着けて詠唱を始めた。視線はアーチャーではなく地面に注がれていた。

「おもしろいものを見せよ、小娘。」

アーチャーは愉快そうに笑う。アーチャーの手が振り下ろされて、すさまじい速度で”王の財宝”から無数の武具が発射される。

少女は詠唱が終わったのか顔を上げた。それと同時に少女の目の前に巨大な壁がそびえ立つ。壁は縦は5m、横には無限に広がっていた。

「野蛮なる侵略者のガラクタ、すべて退けよ」

少女の声は聞こえなかったが、おそらく口元でそう言っていた。

土煙と共に無数の武具が壁に突き刺さる。しかしどの武器も壁にはじかれて傷一つつけることが出来なかった。いくつかは突き刺さりいくつかは地面に落ちた。

アーチャーが撃つのをやめ最後の武具が地面に落ちたとき壁は消えた。

少女は立ち上がりアーチャを見つめる。

少女の目は絶対零度だ。その目には熱や暖かさが少しもこもっていなかった。

「ふふ、貴様いい目をしているな。我は気に入ったぞ。英雄王たるこの我が自らの手で殺してやろう。」

アーチャーは笑っていた。最高のおもちゃを見つけたといわんばかりに。”王の財宝”から一本剣を取り出し後、”王の財宝”を一旦しまった。

少女の用いるのが防御宝具ゆえに必要がないと考えたのだろうか。それとも少女との会話を楽しみたいとでも思ったのだろうか。

取り出した剣を目の前の地面に突き刺した。

「我の攻めをもっても傷一つつけられぬとは大したものだ。とはいえ何だその宝具は、神造宝具か。我の宝庫にはないぞ。そのようなものを持っているとはますます奇怪にしておもしろい、貴様、名を答えよ。」

アーチャーは腕を組んでいる。鼻歌をせんばかりに上機嫌であった。

しかしアーチャーの問いかけを無視し、少女は右手を高く掲げ指を鳴らした。

そのときである。空間が反転した。さっきまで周囲は森であったにもかかわらず、気がつけば何もない砂漠の中にいた。

固有結界である。中の主従は黒人、アーチャーと赤ん坊、少女の4人のしかいない。

「油断するな本気を出せ。あのガキどもをさっさと殺すんだ。」

黒人はアーチャーをせかした。少女のまとう雰囲気の変化に気づいたのだろう。

「うるさいぞ、雑種。慢心せずして何が王だ。何少し遊んでやるだけだ。安心しろ。」

おそらくは小娘ごときに本気を出す必要があろうかといったところだろう。

剣を抜き取り右手で持つ。しかし刀身は少女に向けるわけでなく肩に担いでいた。

「砂漠か、何もない貴様にふさわしいではないか。ぬっ」

慢心しきったアーチャーの喉元に矢が放たれる。

とっさに剣で振り落とす。得意げな顔で少女に目で問いかける。それだけかと。

しかし矢は一発のみではなかった。その後二発三発と続く。矢は正確にアーチャーを狙っていた。剣で振り落とすのに手一杯となる。

アーチャーは古今東西全ての宝具を取り出せるというチートじみた宝具”王の財宝”を持っていたが個人としての武芸の腕はあまり高くないのだ。それゆえに”王の財宝”なしに戦えば防戦一方になってしまう。

「おい、アーチャー、”王の財宝”だ。早く出せ。」

「うるさい、見れば分かるだろう。出す暇がないのだ。お前も手伝え。雑種。」

そういった黒人は声が震えていた。アーチャーが不利ということに気づいたのだろう。

そう”王の宝具”には一つ欠点があった。というのは取り出すのにタイムラグがあるということだ。さっきアーチャーは”王の宝具”をかたしてしまったため、即座にそれを出すことは難しいのだ。出すことに専念すれば矢で蜂の巣になるだろう。

また仮に出せたとしても、先ほどの宝具の壁の前ではほぼすべての攻撃が防がれてしまうだろう。

アーチャーは剣を強く握り締める。顔に険しさがにじみ出る。剣を持った手を左手に変え、開いた右手を上にかざす。そして大きな声で宣言する。

「ならば遊びは終わりだ小娘。天地乖離す開闢の星、エアー!」

アーチャーが持つもう一つの宝具。世界を切り裂く剣である。宝具のランクはexに分類されている必殺の宝具である。その宝具を用いればこの固有結界はたやすく破られるしあの壁もひとたまりもない。そして少女も大きい痛手を追うことになるだろう。

しかしアーチャーの声はむなしく響く。宝具は発動しなかったのだ。

「なに、馬鹿な。」

宝具が発動されないことに驚いたアーチャーは一瞬の隙を見せた。

少女はその隙を見逃さなかった。口元で詠唱し、再び右手の指を鳴らす。

アーチャーの周囲の砂が舞い上がり、10万体は超えるであろう一面の砂人形と無数の砂の剣と槍が作られた。砂人形は次第に人間の形をし始め、傍らの砂の剣と槍を手に持つ。そして武器をアーチャーへ向ける。彼らは兵士となったのだ。

再び少女が指を鳴らすとその兵士達が武器を持って一斉にアーチャーの元へ殺到する。

「OH、MY、GOD」

黒人はそうつぶやいた。

剣が落ちる音がした。それは圧倒的なものであった。一人の英雄が多くの名もなき兵士に囲まれてメッタ刺しにされる。そして抵抗も出来ずに死んでいく。

英雄の死としてはあまりにも無残なものではないか。

少女がもう一度指を鳴らすと兵士達は砂となり砂漠と一体になった。

後に残ったのはぼろぼろの服を着たアーチャーのみであった。良く見れば体中きり傷だらけであった。そして胴体と腕には槍が突き刺さっていた。これでアーチャーは身動きが取れないだろう。

少女はゆっくりとアーチャーの方へ歩み寄る。そしてアーチャーが落とした剣を拾う。

「おのれ、おのれ、おのれ、おのれーーーー」

アーチャーは歯噛みする。そして少女をにらみつけた。

「ちがう。我が貴様ごときに敗れるわけがない。そうだこれはエアーが使えなかったからだ。もし使えればこのような目にはあわなかった。ちがうか。

かませ犬のように死ぬのは我の仕事ではあるまい。こんなところでくたばる我ではない。もう一度、もう一度だ。雑種剣を抜け。」

アーチャーの言葉を聞いていた少女は笑い出した。先ほどまでの奥ゆかしい笑い方ではなく、心底人を見下した笑い方だった。そして拾った剣をアーチャーの首元にあてて言った。

 

「黙れ。成金王。」

少女は女性にしては少し低い声だった。目は細められた。

「王だ王だと騒々しいぞ汝は。

誰かと思えば英雄王だと、王侯風情が。下賎である。軽々に朕を呼ぶでない、朕は唯一にして万物の兆し、皇帝であるぞ。」

アーチャーはすべてを悟った。

「そうか貴様はただの小娘ではなかったのだな。」

「ああそうだ。朕は中華を統べた最初の皇帝。汝も所詮は王、帝に勝てるわけもないであろう。さぁ英雄王、人思いに殺してやる。」

そういって少女は剣を大きく振り上げた。そして無慈悲にアーチャーの首元へ振り下ろす。

振り下ろされる寸前、アーチャーは言った。

「無礼者が、貴様とて所詮は人の子。帝などとは片腹痛い。そもそも貴様が言えば皮肉になるであろう。とはいえ負けは負け。此度もまた、我は慢心が過ぎたようだな。」

アーチャーの首が落ちた。そしてアーチャーだったものも消えていった。

後に残ったのは少女だけであった。

少女は再び指を鳴らす。固有結界がとけ、辺りは砂漠からさっきまでの森へと戻った。

しかし赤ん坊が寝ているところだけは砂が残っていて、小高い砂山になっていた。さしずめベットの代わりと言ったところか。

少女はその場に座り地面の砂を拾う。そしてさきほどまでアーチャーがいた場所へと語りかけるようにして言った。

「何、能力的には汝のほうが上だった。そもそも朕は槍働きが優れているわけではないからな。しかし朕の打った手は汝の先手先手を言ったということだ。」

その目にはアーチャーへの賞賛があるように見えた。

「慢心したな、英雄王。バーサーカー、嬴政よりたむけの言葉じゃ。」

そういって手の砂を地面にまいた。まるで死者の冥福を祈るように。

アーチャーこと英雄王ギルガメッシュ、あまりにもあっけない退場であった。

 

 

 

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