fate/cage   作:雨宮

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DAY1  AM9:00

その日の白城市は雨がふっていた。

チャイムが鳴ったのと大浦椿がゆっくりと教室に入ったのはほぼ同時であった。

本来ならもっと早く着いたはずだが子連れの中国人に白城市の教会の場所を聞かれて着くのが遅れたのだ。

申し訳ないが知らないと突っぱねたが、妙に粘られ近くの交番まで案内する羽目になった。あいにく教会は見つからなかったがその日泊まるホテルは確保できたらしい。

まあ案内後、その中国人からやたらと「謝謝」といわれたのは少し嬉しかった。あまり人に言われる言葉ではないからだ。

ただその中国人の父親の方は申し訳ないが子どもだったら泣くんじゃないかというほどに醜悪な顔だった。なるほどこれは人を選ばないと道案内はしてくれないなと思った。

しかし赤ん坊は父親に似なかったのか普通にかわいらしい顔をしていた。どういうわけか椿はやたらと赤ん坊になつかれた。椿の顔が視線に入るたびに赤ん坊は笑った。ただ赤ん坊の手のひらに奇妙な赤いタツゥーが刻んであったのはどうなんだろうかと思った。

椿はあまり物事の好き嫌いがあるほうではないが、子どもを自分勝手に振り回す親はあまり好きではない。さっきの中国人は好人物だと思ったが椿の観点から言えばやはり好印象を抱ける人ではなかった。

そんな雑念をもった椿が教室に入ったとたん、教室は一瞬静まり返ったがすぐにざわめきを取り戻した。いつものことだと自分に言い聞かせ一人静かに自席へ座った。

教室の中央では椿でも見知っている女子が話していた

 

「ねぇねぇ、九条さん明日あいてる?みんなでカラオケに行こうって話があるんだけど。」

化粧が派手な女子が一番前の窓際で本を読んでいた女子に話しかけていた。話しかけられたほうは若干迷惑そうな表情をした。

と呼ばれた女子のその様は深窓の麗人と言うべきか。近寄りづらさすら感じられるほどの美人である。ちなみに彼女はハーフらしく日本人では珍しく地毛が金髪である。

すらっとした顔立ちで小さい顔、大きな瞳、髪は青いリボンで後ろでまとめられていた。

彼女は九条柊といい、学級委員長を務めていてかつ通信簿はオール5の才女、実家は白城市では有名な名家である。良くも悪くもガチガチの優等生である。

「またあれ?他校の男子が何人か混ざって合コンみたいになるやつ?前言ったはずよ、私はそういうのは嫌いだから行かないって。」

九条はぶっきらぼうに拒否した。そして何なら誘った女子に説教でもしそうな勢いである。九条は外見に似合わず妙に気が強い。

誘ったほうの女子は少し顔をゆがめた。それでもあきらめずに彼女を誘おうとした。

「えー前は来てくれたじゃない。もう一回。軽い気持ちでいいから来てよ。一生のお願い。」

九条は更に顔をゆがめる。そして本を閉じてその女子に強い口調で言い放つ。

「あれはあなたがしつこく誘うから仕方なく行っただけよ。行ったら行ったでよく知らない男子がべたべた話しかけてくるし。私はああいう騒がしいところは嫌いなの。静かなところがすきなの。私は行かない。どっちにしろしばらく用事があるから遊んでいる暇はないの。」

それでも誘った少女はあきらめない。九条の手をつかむようにして、重ねて言った。

「いや、そんな事言わないでよ。九条さん、他校の男子からも人気高いんだよ。ねぇ行こうよー。たまには息抜きも必要だよ。」

九条は指を眉間に当てた。露骨にイラつき始めている。そろそろ怒りのあまりに本が宙を舞いそうである。

「しつこい。さっすがに怒るよ。絶対に私は行かない。というか高田さん、その髪は何?また染めたの。校則では禁止されてるはずよ、、、、」

口調にとげが出始めた。そして生来のまじめさゆえか人の悪いところを批判し始める。

周囲からため息がもれる。またかという声にならない声が聞こえた。彼女に未だに恋人が出来ないのはこういうところが原因だといわれている。

「もー堅いなぁ、九条さんはー。ごめんね。あたしら不真面目でー。つーかさぁ、やめとこう美代。九条さんが来る訳ないよ。」

さっきまでとは別の子が悪意をもって口を挟んだ。そしてその別の子が美代と呼ばれたしつこく誘った子をひっぱてどっかへ連れて行く。

憮然とした表情で九条は何かを言いかける。しかしそれをさえぎるように後ろから声がかかる。

「あー、ひいらぎー、ごめん。宿題やってきた?私また忘れちゃって、見せてもらってもいい?」

その声の主は一柳みさきという。

一言で言えばスポーツ少女という感じだろうか。胸は小さく髪も短い女の子だ。九条よりも背が小さくどこか幼さを感じさせる。

「あるがてーあれがてー。いやー毎度ぉ、すんませんねっ。」

後ろから九条にしがみつく。九条は恥ずかしいからといって無理やり引き剥がした。

飄々としてつかみどころがない。彼女はまさにそんな少女であった。みさきワールドといわんばかりの独特の空気をまとっていた。

結果として、彼女の一声で九条は彼女たちに声をかけるタイミングを逃してしまった。

「いいとは言ってない。っていうかみさき、あんたまた忘れたの。これで何回目だと思ってんの?」

「いやーごめんごめん。今度はやってくっからさー。」

柊は毒気を抜かれた。おそらく宿題をやっていないのは事実だろうが、このタイミングで言ったのは狙ってのことだろう。

が人と言い争いになりそうになるたび、彼女がこうしてちょっかいをかける。

「はい、これでいい?」

そういってかばんの中からノートを探り当てる。さっきとは違い優しい口調である。もうすでに周囲の関心は彼女達から外れている。

「あっりがとー。さすが私の大親友。」

しかし口調とは裏腹にみさきの目は笑っていなかった。そして再び九条にハグし、耳元で低いトーンの小声で言った。

「あとこれは何十回目だけど忠告。女の子にはやさしく。女子はそういうの根にもつんだから。後々めんどいよ。」

そうささやいてみさきは九条から離れた。

「もっと肩の力抜いてさー。気楽にいこうよー。周りの人に期待しない、重要だよ。」

彼女は誰にでも独特のノリで話しかける。しかしこういう厭世的な部分は九条にしか見せない。どっちも素だ。でもキャラを作っている側面は否定できない。

「でも私間違ったことはしてないもん。」

そう言って九条はほほを膨らませてそっぽを向いた。

みさきはそんな九条をニヤニヤと見た。

「うににー、正直だなぁ柊はー。でもそんなんじゃ愛しの彼とはいつまでたっても仲良くなれないぞー。いまだにあれ以外では話せないんでしょー。」

「ちょっ、バカなの、言うなバカッ。聞こえたらどうすんのよ。」

は小声で怒り、みさきを軽くこづく。

こんな付き合いではあるが何だかんだ言いたいことを言い合って5年間の付き合いである。

 

「あ、そういえばさぁ、柊今日忙しいの?」

みさきは柊が座っている席の机に腰を下ろし座った。

柊の二つ隣の席の男子たちが、ばれないようこっそりみさきのスカートを覗こうとする。が男子達は悔しがる。微妙に見えなかったらしい。みさきは笑っていた。

それを見た九条はあきれたようにため息をついた。そして言った。

「ごめん、普通にあいてない。どうしたの。」

本は既に机にしまっていた。九条はほをづえを着いて聞いた。

「どうしたのって、柊こそどうしたのさぁ、目の下にクマできてるよ、それに最近元気ないし。なんか悩み事?」

そういってみさきは問いかけた。九条はあくびをしながら答えた。

「ちがうよ、昨日は徹夜で勉強。そろそろ期末試験じゃない。」

みさきはわざとらしく両手を挙げて驚いたポーズをして見せた。

「これはおどろいた。九条さんは高校二年生の11月に試験勉強をされているのですねー。はーびっくり。」

はみさきを軽くにらむ。

「いやいや、そんな怒んないでよー。いやーね、近くでちょっとお高いフランス料理店が出来たんだよー。完全個室のー。思い出作りに柊と行きたいなぁーって思いましてね。」

おどけた様子でみさきは言った。しかしその目は真剣であった。

「何で女子二人でそんな高いところ行かなきゃ行けないのよ。」

九条は首を振って答えた。そういった九条はどこか寂しげであった。

「ていうか最近白城市で行方不明者が出たりして物騒なんだから、みさきも早く帰りなさいよ。あなたも変な奴に襲われるかもよ。そもそもだいたいねぇ、、、、」

しかしすぐに戻って学級委員長的に説教をし始め、みさきは舌を出して逃げ出す。

Jk組みの、よくある朝の一幕であった。

 

そんなことを話していたら、廊下で立ち話をしていた生徒達が一斉に教室の中へ戻ってきた。授業が始まる兆候である。

「席につけー」

出席簿をもって教室に担任の教師がやってきた。

勅使河原だ。めがねをかけて意地悪そうな顔つきをしている。

椿はなんとなく勅使河原の手のひらを見る。何か赤いタツゥーが入っていた。最近はやってんのかなと思った。

変ね気配を感じふと視線を廊下の方に向けると九条はこわばった表情で勅使河原を見ていた。

 

 

 

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