fate/cage 作:雨宮
どうして空は青いのか。ふと大浦椿は思った。
そしていつもの事ながらこの大空を飛ぶ鳥になりたいと思った。一人で白い雲の中に入り、雷のなる方向へ飛びながら、最後は太陽に向かって落ちていきたいと。そして最終的にこう思う。どこの夜鷹だよと。
昔から教師や同級生から何を考えているか分からない子、そう言われて後ろ指を差されてきた。そしてそれを裏付けるような椿の噂が時を同じくして流れる。椿はいじめられている子を少しうらやましく思うときがある。人から関心を向けられているからである。椿は常に恐怖を伴った視線で人から見られていた。そして自然と一人でいることになれていった。
あんたはそういうところがいいんだよ、そう言って祖母はいつも椿の頭をなでていた。祖母は椿の味方だった。ただ一人の肉親だった。いつも狭いアパートで料理を作って椿の帰りを待っていた。祖母は三者面談のたびに舌をかみそうになりながら椿を普通の子だ、椿の両親とは違う、そういっていた。でもそんな祖母もういない。椿の周りにはもう誰もいなくなっていた。
授業はあと5分で終わる。黒板に英語を書いているのは勅使河原だ。勅使河原の授業は雑念を加速させる。生徒に問題を答えさせる。椿にあたるはずだった順番は飛ばされた。そして指された生徒が前に出て、問題を答えようとしたときにチャイムがなった。
椿の周りの席の学生はみんな遠くの友達のところへ行った。窓側最後列は椿の指定席であった。椿の席と周りの席は普通よりも少し離れていた。しかしその少しの距離がとても長かった。
勅使河原はプリントを教卓において去った。一番前の女子生徒にプリントを配布するように言い残して。勅使河原は椿を嫌う教師の筆頭ともいえる。三者面談のたびに椿の祖母ともめていた。それゆえに椿と関わりたくなかったのだろう。
彼女は椿を除くすべての学生に配布した。あとは椿だけだった。彼女は椿に渡しに行くことをためらっていた。周囲の学生に緊張感が漂い教室が静かな空間になった。そんな中椿は未だにどうして空は青いのか考えていた。
彼女は近くの派手な女生徒に話しかけた。
「ねぇ、美代、どうしよう、大浦君に渡すの怖いよ。」
美代と呼ばれた女性徒はきっぱりと言った。
「あたしだっていやだよ、でもあんたがまかされたんだからあんたがやらなきゃ。それにほら大浦君って顔は結構中性的でいい感じだから、あんたのタイプじゃない、雰囲気もやさしそうだし、大丈夫大丈夫。Wwwww」
「でも、でも、」
そういってその場で泣き出しそうになってしまった。
見かねたのか別の女生徒が戸惑っていた女生徒からプリントをひったくった。そして椿のほうへと歩いていき、椿の机の前に立ち言った。
「ちょっといい、大浦君」
椿はため息が聞こえて前を見た。そこには見知った顔の女生徒がいて、椿の机の前に立っていた。
「どうかしたか。九条。」
椿にとって九条はちょっとした顔見知りである。そしてこの学校で唯一椿と普通に会話が出来る人間である。
「配布プリントだそうよ。受け取って頂戴。」
九条は律儀に手渡しで椿にプリントを渡す。
「あぁ、確かに受け取った。」
周囲の学生からさすが九条という感嘆がもれる。そして周囲は再び喧騒に包まれる。いつもならこの二人の会話はここで終わる。
しかしその日九条は何の気まぐれか椿に質問をした。
「ねぇ、九条君、あなたは何のために生きてるの。」
日差しが逆光になっていて、そう問う彼女の表情を伺うことが出来なかった。
その質問は周囲の喧騒に包まれて、椿以外の誰の耳にも聞こえなかった。
椿は少し考えてから言った。
「さぁ、死なないから生きているだけだ。」
九条のため息をがきこえた。
「うらやましい人生ね。」
そう言って九条は椿の元を去った。
なら代わってくれよ。俺の代わりに生きてくれよ。そう思った。
空はすでに青くなくなっていた。またこれから一雨振るだろう。椿はそう思った。