fate/cage   作:雨宮

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DAY1 PM8:00

少年はその日運命に出会った。

 

雨はあがっていた。しかしいまだ曇り空だった。

大浦椿は半年に一回花を持って北部の山のほうにある墓へ行く。そこは背後が森、前方が切り立った崖という最悪な位置にあった。行くだけでも片道三時間ぐらいかかる。椿は今日も重たい足取りでそこへ向かった。

そこには彼の死んだ両親がいた。もし椿に両親がいなければどのような人生をおくれただろうか。そうは思うが彼の祖母の遺言なので仕方がない。

椿はいつもどおりの儀礼的で簡素な墓参りをすませ帰ろうとした。

その時であった。草むらからはしってきたのだろうか。槍、そう目の前に大きな槍を持った男が現れたのだ。そして続けざま槍を椿に向かって振り下ろす。椿はぎりぎりのところでかわした。

「残念、何があったか分からないまま死んだ方が楽だっただろうに。」

椿は何がおきたか分からなかった。

しかし槍を持った男は椿の思考を待ってはくれない。今度は槍を掲げ椿を貫こうとした。椿はとっさに墓の花を投げつけ男がいない方へ逃げ出す。しかし男の動きは早かった。即座に椿の目の前に立った。そして逃げ道を封じてから殺気を少しといた。

「マスター、本当に彼は殺さなければならない人間なのか?」

男は後ろの草むらに向かって声をかけた。

「さっきも言ったが俺は無益な殺生をしたくないんだ。いくら勝つためだとしても。」

「口答えをするな、ランサー。虐殺者のお前が何を言うんだね。それにそいつは殺しておいたほうが良い。」

その声は椿の聞いたことのある声だった。

「いやはや、今回の聖杯戦争で教え子に会うとはおもわなかったよ。何、そいつは曰くつきの少年でな。下手すれば私よりも魔力があるかもしれない。」

そういって姿を現したのは勅使河原だった。約5時間ぶりの再会である。

「先生、これは何かのドッキリですか。だとしたらなかなか笑えないです。」

椿は柄にも無く少しおどけて見せた。手は震えていた。

それに対して勅使河原は冷笑で答えた。多くの人と同じ目で言った。

「うるさい化け物。ランサー、現場は見られたんだ。殺しなさい。」

その口調と声音は教師とは思えないほど冷たかった。

「すまない少年。マスターの指示だ。」

ランサーは再び少年に殺意を向ける。その目には憐憫と後悔の炎が見えた。ランサーは椿に槍を突き立てた。

あぁ、今日は祖母のくれたコートを着とけばよかった。椿がそう思った瞬間だった。

 

「少年よろしければ私に力を貸してくれませんか。いえ、私は敵ではありませんよ。胡散臭いですか。それは心外ですね。まぁ悪いようにはしません。」

誰かが椿にそう問いかけた。

目を開けるとそこには妙な服を着た白髪の少年がいた。何もない空間に目の前の少年と二人きりだった。

「どうやら、令樹による執行機能は使えないそうですが、真名看破は使えるそうです。これだけあれば聖杯戦争を生き残るくらいは出来るでしょう。」

口が動かない。とりあえず手を動かした。

「ええ、了解しました。あなたは一般人ですね。そして聖杯戦争について何も知らない。ちなみにあなた今どのような状況に陥っているか分かりますか。」

手と首を動かす。否定の意だ。

「端的に言いましょう。あなたは巻き添えを食らって死に掛けています。」

唖然とした。死にたくない。目の前の男に身振り手振りで伝えた。

「そうでしょう。なら方法は一つです。私を受け入れてください。」

ようするに脅しである。首で肯定の意を示した。

「ありがとうございます。では私はあなたに憑依します。」

そういって椿に微笑んだ。人を死へいざなうようなどことなく不吉な笑顔だと椿は思った。

「細かいことは後で説明します。まぁ、起こるはずのないこの聖杯戦争を共に乗り越えましょうマスター。」

まて、一つだけ聞かせてくれ。あんたの名前は何だ?

「真名ですか。そうですね、正直に言いましょう。私は天草四郎時貞と申します。」

 

まばゆい光が立ちこめランサーは槍を止めた。見ればその場にいたはずの少年は消えていた。そしてその時狩場に更なる捕食者が出るようなそんな違和感を感じた。

ランサーは思わず後ろに飛びのく。

「てめぇ、なに者だ。人間じゃねぇな。」

そこには笑っている少年が立っていた。しかし先ほどの少年とは何もかもが違った。

まず格好が違った。十字架を胸にぶら下げ赤いマントをかぶっていた。そして腰には刀を持っていた。

「いえいえ人間ですよ。ずいぶんな挨拶ですね。とはいえ今回はサーヴァントとして召還されたので間違ってはいないのですかね。」

そう言って刀を振り上げランサーへきりつける。とっさに槍で刀をはじく。ランサーの額に汗が流れた。先ほどまでとは違い槍を強く握っている。

「章邯ですか。あぁ思い出しました。確か中国の秦代の英雄ですね。なるほど知名度はいま一つですが無難に強い英霊でしょう。」

ランサーはとっさに距離をとる。先ほどのまでの余裕は既に消えていた。

「てめぇ何で俺の真名を。」

ランサーは少年に怒鳴る。しかし少年は聞こえなかったように独り言を言いながら一人思考をまとめていた。

「とはいえ聖杯で召還される英霊としてはあまりにも格落ちですね。まぁそれは私も一緒でしょうが。ではなぜそのような英霊が召還されてしまったのか。見たところ触媒による召還でもなさそうですし、おそらくはランダムな召還。」

少年は刀の素振りをしながら思考を続けた。

「ああ、分かりました。おそらく聖杯の力が過去の冬木の聖杯戦争に比べ小さいのでしょう。これこそがこの聖杯戦争のゆがみの一つ。そして私が召還された原因の一つなのですね。」

ランサーは一定の距離を保ちながら少年にいった。

「てめぇ何者だ。」

少年はようやくランサーに気づいたというふうに彼に視線を向けた。そして刀を下ろしランサーに敵意がないことを示す。

「これは申し遅れました。今回は中立的立場ですし正直に言いましょう。私は天草四郎時貞、ルーラーとして召還されました。」

ランサーは槍を上に上げ戦闘体制をといた。うしろから指示が聞こえたのだ。

「なるほど。真名に気づいたのはルーラー特権ということですか。」

勅使河原がそう言った。後ろに隠れていたが敵意がないことを知り出てきたのだ。

「これはルーラー殿失礼いたしました。ルーラーはたしか聖杯戦争に異常があったときに、どの勢力にも属さない中立者として現界すると聞いたことがあります。

とはいえ先ほどの少年はどこにいったのですか。そしてなぜあなたが召還されたのですか。あなたには霊樹による執行機能はないのですか。あなたは私達と戦う気がないということでよろしいでしょうか。」

 

どうやら勅使河原とルーラーは話し合うことになったらしい。

ランサーは興がそがれたのか退屈そうに槍をいじり始めた。勅使河原は土下座しろといわれたらしそうなまでに卑屈な対応になった。

「そんな一度に質問しないでください。まず先ほどの少年は私です。私は彼に憑依する形で現界しました。そして召還された理由についてですが分かりません。分かっているのは私がこのいびつな聖杯戦争に裁定者として召還された事だけです。むしろあなたのほうが詳しいのではないですか。ランサーのマスター。」

勅使河原は大仰に否定をした。ランサーは地面に絵を書き始めた。

「いえいえ、私は何も知らないです。たまたま令樹が浮き出たんですよ。

私も魔術師の端くれですから聖杯が選んでくれたのでしょう。そこを別のマスターに聖杯戦争に誘われて参加したのです。」

「別のマスターとは?」

「黒ずくめの服を着た男です。サーバントを連れているようでした。それ以外は分かりません。その男が聖杯戦争について教えてくれたのです。でもルーラーが現界するほどの異常事態とは聞いていませんよ。」

「基礎的なことだけ教えられたと。この聖杯戦争自体が執り行われた理由は聞いていない。そういうことですね。おそらくその男が答えを知っているということでしょう。ではその男にはどこで会いましたか。」

「東北の森です。というか先ほどの質問のお答えを聞いていないです。あなたにはルーラー権限の令樹執行機能はついていないのですか。」

「いえ持っていません。それがどうかしましたか。」

 

それを聞いた勅使河原はほくそ笑んだ。

「ではあなたを倒すことは難しくはないそういうことですね。」

勅使河原の言葉を聴いて、ランサーは砂に絵を描くのを止めた。そして槍をルーラーに向けた。砂には地味に上手い黒髪長髪の着物姿の少女の絵が描かれていた。

「おや、戦うのですか。」

ルーラーは意外そうに勅使河原に問いかけた。

「ええ、この聖杯戦争の勝利条件は自分達以外のサーバントを倒すこと。それならあなたは敵ですから。それに正直ルーラーがうろちょろしてたら邪魔なことこの上ないですからね。」

ルーラーはランサーを見た。ランサーは少し迷いのある目でルーラーを見た。

「ああ、申し訳ないがマスターの指示だ。先ほどの少年には悪いがな。」

ランサーは唇を食いちぎりそうだった。

「何を言っているのですかランサー。そもそも先ほどの現場を彼に見られているのです。となれば彼は殺さざる得ない。違いますか。」

勅使河原がそういってランサーを否定する。勅使河原は殺し合いを目の前にして笑っていた。意を決したランサーが槍を向ける。

そしてルーラーが刀を構えたとき、突如頭上から大きな音がした。勅使河原に向けて火の玉が放たれたのだ。

ランサーはとっさに勅使河原をかばい火の玉を槍で切り裂いた。しかし火は一発ではなく連続して勅使河原とランサーに向けて打たれ続けた。火は頭上から来る。どうやら高い位置から狙い撃ちされているようである。ランサーは勅使河原を後ろでかばいながら戦いを続ける。

ルーラーは刀を上段構えで構えていた。しかし急に刀をおろした。

「どうやら第三者が戦いに参加しようとしているらしい。マスターここは一旦引くべきかと。」

火の玉は大したことはない。しかしマスターをかばいながらルーラーと戦うのは厳しい。ランサーはそう考えた。そして勅使河原もランサーの意図を察したのだろう。

「ルーラー。私達は一旦ここで引きます。しかし次にあったときはあなたを確実に殺します。よろしいですね。」

そういって勅使河原とランサーはその場を去った。勅使河原は先ほどまでいた草むらにバイクを隠していたらしくそれに飛び乗って去った。

ルーラーは追わずにその場に立ち尽くしていた。

 

しばらくして男が降りてきた。彼が先ほどランサーに火を撃った男だろう。そして少年の前に立ち言った。

「命拾いしたなルーラーさん。情に厚いマスターからの指示でね、あんたが憑依した人間をかばって欲しいんだと。全く人の心配をしている暇あんのかね、うちのマスターは。」

男は自分のマスターを批判するがそれは嫌って言っているというわけではないようだ。どちらかというと、娘の今後を不安視する親と言った感じだろうか。

「後一応話は聞かせてもらったよ。正直俺としてはあんたはさっきのより遥かに劣るサーバントだと思うが、うちのマスターたちは生かしておけば使えるだろうという意見らしい。何キリシタンは自害できないから役に立つだろうって事じゃねえか。」

馬鹿にした言い方である。男は少年の反応を窺がうかのように言った。

「まぁとりあえずさっきの詳しい話をまたしてくれや。扇動者さんよ。」

男は少年を挑発する。計算なのか単に口が悪いのかよく分からない。

しかし少年は立ち尽くしているのみで何の反応も示さなかった。まるで金縛りにあったように。

「どうしたんだ。あんた。急に黙って。」

男はそう問いかけた。数秒の沈黙の後、少年は言った。

「なぁ、おれはどうなってんだよ。この格好は何だよ、ルーラーって何だよ、聖杯戦争って何だよ。つーかおれは天草四郎じゃない。大浦椿だ。」

少年は男に対して大声でまくし立てた。男は面食らって一歩引いた。

「そもそも何で殺し合いに巻き込まれているんだよ。それになんなんだよ、この体から湧き出る力はーーー。」

そういって椿は意識を失って倒れた。

 

 

 

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