巫女長の元へ戻り、ストレージから三人の巫女を取り出し、彼女の前に置いた。
「辛い目に遭わせてしまったようね」
巫女長は心眼持ちなのか?あの場の出来事が見えたのか?
「いえ…セーラが生き返ってよかったです」
静かな寝息を立てて眠っているセーラ。
「攫われた巫女達全員を、救出してくれたのね。ありがとう…ギル…」
何かを考え始めた巫女長は、はっとして僕を見た。
「生き返らせたの…ギル…まさか…ギルガメッシュなの?」
「誰ですか?」
「私は若い頃、勇者と共に戦っていたの。その時の仲間にギルガメッシュはいたのよ。宝物庫という能力を持ち、様々な秘薬や秘具を提供してくれ、助かったことが多かった。だけど、魔王を倒した後、ギルガメッシュは私達の前から姿を消した」
まさか、あの死体がギルガメッシュなのか?
「また、秘具、秘薬を探す旅に出たのだと思ったのだけど、未だに戻って来ないのよ」
「その人の持ち物で特徴的な物は、なんですか?」
何かを考え込んでいるような巫女長。
「そう…あなたが宝物庫を引き継いだのね」
言い当てられて、動揺している僕。
「なるほど…今世のギルガメッシュは、素直過ぎるのね。カマを掛けてみたのに、顔に出ているわよ。彼は最後どうなったの?」
僕はあの部屋の状況を伝えた。
「そう…あなたが最後の希望ってことなのね」
「どういうことですか?」
「この世界の災厄を断ち切る為、パンドラの筺を探していたのよ、彼は。その筺には災厄の元が入っていて、筺の底に最後の希望が眠っていると言われていたのよ。きっと、彼は災厄の元と戦い、同士討ちにでも持ち込んだのでしょう。彼の能力をあなたが受け継いだのが、証拠だと思うわ」
巫女長は遠くを見るような目つきで、過去を思い出しているようだ。
「ギルよ。エルフを届け終わったら、迷宮都市セリビーラへ向かって。そこのギルド長と会って欲しいの。彼女も戦友なの」
う~ん…老女の知り合いが増えていく予感…まぁ、老女なら奪われる心配は無いか。
「わかりました」
巫女長は、ギルド長宛ての紹介状を書いてくれた。
-------
セーラさんはまだ目覚めない。もう10日も経つのに…また買い物デートしたかったのだけど、ここにずっと居る訳にいかない。そろそろ、ミーアを届けにいかないとな。
僕達の旅立つ日、セーラさんを除く、神殿関係者全員に見送られた。セーラさん以外に助けた巫女達のいる神殿関係者もいるそうだ。
そして、無口で穏やかな時間が再始動した。愉しみはセーラさんで妄想することだけ…だな♪
------
広域マップに森が迫ってくる。この大樹海が目的地なのだろうか。広域マップすら、森一色になりそうな樹海。うん?樹海か…探索能力が狂っているのか?
そうこうしている間に、目の前には、森の壁が立ちはだかった。結界か何かで護られていて、森に入れないみたいだ。森?アイツもここにいるのかな?
ダメ元であるけど、召喚術でドライアドを召喚してみた。
「え…召喚術で呼び出せるの…あんたは鬼か…」
僕の顔を見て、顔面が蒼白していくドライアド。
『称号「森乙女の主様」を得た』
そんな称号はいらない。セーラさんの主なら、欲しいけど…メッセージウィンドウは無情にも沈黙している。ダメなのか…
「エナジードレインしていいから、エルフの里に飛ばしてくれない?」
「まだ、お腹いっぱいだよ。あんた、どんだけ、エネルギーを叩きこんだのよ~」
エナジードレインをさせて、怒られた。なんか解せない。
------
場面が暗転して、僕達は森の中にいた。目の前にはエルフらしいツリーハウスがたくさんあった。
「ここ」
ミーアが歩き出した。僕とナナが後を付いていくと…
「「ミーア」」
ミーアの入ったツリーハウスで、二人の大人らしいエルフが同時に、ミーアの名前を呼んだ。
「ラーヤ、リーア」
抱き合う三人のエルフ。親子と再会か。これで役目が終わった。あとは迷宮都市のギルド長に面会すれば、サトゥーを殺しに行ける。最悪、リザ達のデータを改竄しれば良いはずだ。僕の死と引き換えにして…
この場を後にしようとすると、ミーアが僕の服の裾を掴んでいた。
「ギル…」
「お別れだ。ミーア…元気でな」
ミーアの手を振りほどいて、出て行こうとすると、
「ギルさんですよね。若いなぁ~」
って、ミーアの母親らしき人が背中越し抱きついて来た。胸の感触…気持ちいい…このまま帰る気が失せていく。まずい。魅了か?メッセージウィンドウは沈黙している。俺の煩悩のなせるわざか…
「へぇ~、ドライアドを顎で使うって、スゴいよ、君♪」
お茶の一杯くらいは飲んでいこうと、家に上がったのは失敗だったようだ。ミーアの父親はミーア似で無口だ。なのに、母親はマシンガントーカーのようで、あれこれ話してくる。無口の世界に馴染んでいる僕は、この場の雰囲気に負けていく。
そうだ、紹介状があったっけ。店長から預かった紹介状をミーア母へ手渡した。それに目を落とすと、表情が崩れていく彼女。
「ねぇ、トーヤの日記…見せてくれる?私の父さんなの…」
え?意外な繋がり。ストレージから取り出し、彼女へ渡した。日記に集中するミーア母。僕は無口な世界へ戻ってきた。何か安堵感を感じるのは、不思議だ。
『称号「孤独王」を得た』
いらない称号ばかりだ…
「ありがとう…この子が父さんの研究の成果?」
ナナを見つめているミーア母。
「7号機です」
「どこか、ミーアの顔に似ている…私にも似ているんだね…父さん」
涙をうっすらと目に浮かべているミーア母。
「では、彼女もミーアと一緒に置いて行きましょうか?」
「いいんですか…」
「いいんですよ。ナナに命じる。僕のいない時でも、ミーアを護れ」
「了解です。命令を受諾します」
ステイタスを確認すると所属はミーアになっている。これでいい。サトゥーと戦ったら、僕は生き残れない自信があるから。
「ギル…」
心配そうなミーアの声…ミーア達が霞んでいく。暗転か?
------
場面が暗転して、違う場所にいる。ここはどこだ?何か柔らかい物が唇と胸元に感じる。股間にも若干気持ち良さを感じるのは何故だ?
僕はベッドに横たわっている。僕の上に誰かが載っている…誰?ナナは置いてきたし、セーラより胸が大きい女性って誰だ?瞼が開かないので、状況がわからない。
「アーゼ様…何をしているんですか?」
女性の声が聞こえる。アーゼって誰?
「えっ?いやっ…うんうん、いいよ♪」
目覚めと共に起きる生理現象が彼女に襲い掛かったようだ。って、なんで交わっているんだ?もしかして、僕の初めては、この知らない女性なのか…ショックである。セーラさんか、妹とって思っていたのに…
「アーゼ様!」
「いや…あの子がいきなり。私の部屋に倒れ込んで来て…介抱していたら…こんなことをしていました。てへっ♪」
意識の無い僕に何をしたんだ?そこが一番、気になるんだけど…
「この子は誰ですか?」
「わっかないよ~。突然現れたの…言い伝えのようにさぁ。だから、てっきり♪で、試したら、入ったのよ♪」
言い伝え?何の?で、何を試したんだ?分からないだらけではあるが、快楽の海に浮かんでいる気分で、なんか気持ちが良い。
『システムを再開します』
サスペンドモードだったのか。ウィンドウが表示されて行く。ここは『ハイエルフ居住区』と表示された。僕の上に載っているのは、アイアリーゼ・ボルエナンというハイエルフのようだ。
「あぁ~、目が覚めたみたいよ。ねぇ、君は誰かな?」
「ギル…」
「ギル?あぁ、宝物庫の番人のギルガメッシュ様ですね♪」
宝物庫の番人?
「ルーア、問題無いわよ」
「ですが…どうして、ギルガメッシュ様がここに?」
「ミーアを送りに来た…」
「じゃ、ギルガメッシュ様が、ミサナリーア・ボルエナンを救い出して、里まで送り届けてくれたのですか」
頷く僕。
「ねぇ、ルーア。私、ギルガメッシュ様と…正式な儀式はしたよ」
何の儀式だ?
「わかりました。でも、ここに永住ですよ。アーゼ様の代わりがいないんですからね」
ここに永住?それは、まずい。約束を果たさないとダメだし。
「いいよ。ギルガメッシュ様が一緒だし♪」
「ごめん。今すぐに永住は無理だよ。約束を果たしきっていないから」
「アーゼ様、ギル様もお役目があるんですよ。儀式をしたから、直ぐって訳にはいないのです」
「そうなの?」
アーゼって言うハイエルフ。良く見るとかわいい。一緒に永住したい。いや、させて欲しい。だけど…
「約束を果たしたら、戻って来る。待ってなかったら、待たないでいい」
戻れない自信がある。サトゥーに勝てる自信が無いし。
「うん♪待っているわ。いつでも来てね♪だって、儀式をつつがなく終了させたしねぇ♪」
そんな無邪気なアーゼの笑顔に堕ちた僕。いやいや、何の儀式だ?
-------
アーゼの部屋の窓から、迷宮都市が見えた。龍翼を展開して、アーゼの部屋から滑空していく。馬車はミーアの家に置いてきたし…
「いってらっしゃい♪」
って、遠くでアーゼの声が聞こえる。彼女の声の余韻を鼓膜で感じながら、彼女の身体の感触を全身で思い出して、妄想を膨らましていく。そうこうしていると、着陸のお時間になっていた。速度を殺しながら、地上に降りていく。
迷宮都市から少し外れたけど、まぁ、1日あれば着ける距離かな。てくてくと歩いて行く。
都合2日もかかってしまった。砂漠地帯は歩きにくい。門番に身分証明証を見せて、街の中に入った。見た目、治安が悪そうである。ミーアがいなくて良かった。
冒険者ギルドを見つけたので、入り口で巫女長からの紹介状を渡し、しばし待つと、案内をしてくれた。部屋へ通されて、ドアを開けると、いきなり杖が突き出された。咄嗟に、受け流して、部屋の中に入った僕。
「受け流すだと…さすが、ギルガメッシュだな」
巫女長のような温和さを感じ無い老婆がいた。
「お前…私が恐くないのか?」
「恐くないです」
「ここで腕を上げていかないか?急ぐ旅でも無いのだろ?」
「次が終着点です」
「死ぬ気か?」
「せめて、相打ちにはしたいです」
「今世のギル坊は、正直だな。気に入った。お前を私の側近にする。勝手に死ぬ事は許さない。だけど、お前の望むことはできる限りしていやる。どうだ?」
「望むことが出来なければ、死ぬ事は許してもらいますよ」
「ギル坊らしいなぁ。思い込んだら命がけかい」
あの死体は命がけで望んだ結果なのかな。僕の未来はあんな感じなんだろうか。
「ますます、気に入った。お前の望みはなんだ?」
「サトゥーに奪い取られた仲間の奪還です。あの野郎、僕の仲間を奴隷に落として、自分の物にしたんです」
「サトゥー…まさか、サトゥー・ペンドラゴン子爵か…」
アイツ、子爵になったのか…
「お前の仲間の名前は?」
「リザ、ポチ、タマです」
「そうか…間違い無い。ペンドラゴン卿だ。眷属の中でも、槍使いのリザが有名だからな」
そうか、ヤリで大成したのかリザは…
「それは無理だ。爵位持ちの奴隷を奪い取ることは無理だ」
「だから、僕が命を掛けて取り返すまでです」
「ギル坊…他の願いは?」
スルーかよ…次だと…
「ダメだと思いますが、巫女長の元にいるセーラと付き合いたいです」
「それも叶わぬ。セーラはペンドラゴン卿に帯同する巫女だ」
あのヤロー…僕から総てを奪う気か…
「他には無いか…」
「僕を殺して下さい」
「ギル坊…」
ギルド長が僕に抱きつき、僕の為に涙を流してくれている。
「無念だが…死ぬな。生きろ。お前は大切な存在だからな。勇者はたくさんいる。だけど、英雄はお前だけだ」
英雄?
「英雄なんて、おこがましい。仲間を奴隷にされたんですよ」
「セーラの件は聞いた。お前はお前にしか出来ないことをした。英雄なんて者は、表舞台には出ない。心に残る存在なんだよ。まさにお前がそうだ。表舞台はペンドラゴン卿に踊って貰えば良い」
「それによって、僕に何が残りますか?」
「何も残らない…」
断言されてしまった。そうか、残らないんだ。
「じゃ、ペンドラゴン卿を殺しに行きます」
「待て!」
「僕は…仲間に恵まれない。ソロで活動します」
部屋を出ようとドアに向かう。暗転来ないかな…
「私は迷宮資源大臣を兼任し、名誉伯爵相当の権力を持つ。お前を配下にする。爵位も貰えるようにする」
「爵位?興味無いです」
「そうだったな。宝物庫の番人のお前には、必要の無い飾りだからな」
「セーラだけでも取り戻す。だから、待て!」
「サトゥーがあきたら、お古を引き取れって?」
「そうなるかもしれない。しかしだ!」
「時間の無駄です。あぁ、待たせている者がいます。彼女と生きるのも手ですね」
僕はギルド長の部屋を後にした。街の外に出て、龍翼を展開して、アーゼの部屋を目指した。行きは滑空で楽で早かったが、帰りは時間が掛かりそうだ。なかなか高度が上がらないし。飛行訓練なんかしていないものな。
散々な目に遭いながら、アーゼの元の帰り着いた僕を待っていたのは、予想外の言葉だった。
「ごめんなさい…サトゥーさんと、みんなの見ている前で、婚約の儀式をしました…」
あのヤロー…僕から総てをはぎ取っていくのか…
『ちょっと、待った!お前みたいな愚民は、彼女に相応しくない』
脳裏に響く言葉…これはサトゥーが放った言葉だっけ?記憶が曖昧で良くわからない。そうだ、僕は愚民である。誰も仲間を護れない…すべて、サトゥーが奪っていく。勇者はハーレムがお似合いなのだろう。愚民である僕は…
「アーゼ…幸せにな…」
僕はアーゼの部屋を後にした。