『機体をアップグレートします』
何のことだ?何かの音で目覚めた僕の視界に、文字だけが浮かんでいた。
『システムをダウンロードします。しばらく、お待ちください』
漆黒で冷たさを感じる黒バックに、白い文字だけが浮かぶ。ここはどこだ?
くらい…暗闇の世界で目覚めた僕。場面の暗転中か?やっと再会出来たのに…
つらい…僕は幸せになってはダメなのだろうか。幸せの時間が長続きしない。僕は何者なのだろうか…
クライ…叫びたい。妹の名前を…だけど、妹の名前が思い出せない。こんなにも会いたいのに…名前…そうだ、僕の本名は何だっけ?これも思い出せない。妹と生きた時間が消えていくのか…くそぉぉぉぉぉぉ~!
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脳裏に浮かぶ、神楽舞を踊る妹の姿。顔はモザイクが掛かっている感じ、ディテールがわからない…妹の顔さえ忘れている。僕が僕で無くなりそうだ。
『システムを再起動します』
再起動により、意識が刈り取られたようだ。そして、来た事の無い場所で目覚めた。ここはどこだ?周囲を見回すと、蓋の無い棺のような物がある。近づき、中を覗いてみると、女性が死んだように眠っていた。
ステイタスを見てみる。名前はミト。種族は人間。所属はシガ王国。職業は元勇者…はぁ?元勇者が女性なのか?はて?
全裸で横たわっている女性。呼吸をするたびに、小さめな胸が上下動している。状態はコールドスリープとある。何らかの理由で寝ているのか。起こすかどうかを考える。
結論…起こさずに。僕もコールドスリープをすることに。密着度を高める為に、僕も全裸になり、彼女の上に載った。体温低下状態の彼女の身体はひんやりして気持ちが良い。そのせいもあって、邪魔な存在がある。どうするかな。彼女の中に収納すれば、気にならないかな?邪魔な存在を彼女の身体の中に収納して、彼女と身体を密着して、サスペンドモードに移行しようとすると、
『アドバンスモードに移行します』
と表示され、意識が遠くへ旅立って行った。そして、あれからどの位、寝たのだろうか?何かの刺激で覚醒していく。
『システムを再起動します』
目の前に文字が表示された。ここはどこだ?何かが聞こえる…
「ねぇ…だよ…している…てよ…」
女性の声…妹では無いみたいだ。話し方は似ているけど…いや、妹の話し方ってどんな感じだっけ…薄れていく僕の記憶。
『音声認識モードを起動します』
彼女の言葉が文字として表示された。
「ねぇ、君は誰だよ。私に何をしているのよ。ちょっと、退いてよ。まさか、寝ているの?こんな状況で…信じられない」
女性の言葉が、文字として理解出来た。だから何?もう、どうでもいい…何もかも。自暴自棄な僕。
「中で出さないでね…」
恥ずかしそうな女性の声…何を出すのだ?愚痴を出していいのか?
「えっ…ギル…ギルなの?って…あぁ~出したのか…って、若い…セクハラ心をそのままに、若返ったのか?」
凹んだような女性の声。ギルって誰だ?
「ズルい…自分だけ若くなるなんて…このヤロ~!」
パチン!パチン!
女性から往復ビンタ…頬に感じる久しぶりの皮膚感…新鮮である。
ドスン!
背中に衝撃を感じた。投げられたようだ。身を起こすと、全裸の女性が、目の前で仁王立ちしていた。
「ギル…ギルガメッシュ!説明しないさい。どうして、こんな状況なのよ~!!」
女性が怒っているようだ。何で?理解が出来ない。
「ギルって、誰?」
「え…記憶を失ったの?今、頭を打ったのかな?」
怒り心頭の女性が、おろおろしだして、心配そうに僕を見下ろしている。
「あなたはギルガメッシュ。宝物庫の番人で、私のパーティーのサポートメンバーだったのよ。どうやって、ここへ侵入したの?」
ここ?見覚えの無い場所。
「ここって、どこ?」
「うっ!そう来たか…『場面暗転』能力で飛ばされたのかな…」
彼女によると、『場面暗転』能力とは、耐えがたい苦痛を受ける場面から、更なる苦痛を得る場面に飛ばされる修練能力らしい。そんな能力は要らないし、欲しく無い。
「ここに飛んで来たってことは、魔王の季節ってことか」
彼女によると、魔王の季節とは、66年周期で訪れる大魔王が出現する年のことだと言う。僕には関係ないことだな。
「今世も私をサポートしてよね」
「なんで?」
頭を抱えている女性。どうしたんだ?
「おぃおぃ、役割も忘れたのか…ねぇ、私の初めてを奪ったんだから、協力しなさいよ!」
初めてを奪った?何の話をしているんだ?記憶にまったない。
『ミトに関するデータをリストアします』
ミトに関する記憶が甦って来た。
「ミト…想い人と会えたのか?」
「はぁ?その想い人の為に、大切にしてきた物を、アンタが奪ったんでしょ?まったく…」
あぁ、そういう意味か…あの初めては…あれ?なんで、こいつ、この世界にいるんだ?
「魔王を倒して、元の世界に戻ったんじゃなかったのか?」
「神様から神託があって、元の世界に戻っても、会えないって…だから、この世界に戻ってきたのよ」
「僕に逢いに?」
「な訳ないでしょ?アンタ、私のサポートメンバーだった時は、ヨボヨボのエロ爺さんだったじゃないの…なのに、今はそんなに若いなんて、理不尽だわぁぁぁぁぁ~」
先代の死体はヨボヨボとは思えない体格だった。その前ってことか?
「どの位経ったのかな?」
「はて?」
「どこかで、事情を知る者に会わないとダメか…」
先代のパーティーメンバー…あれ?誰だっけかな…う~んっと…リリーかな?
「リリー…」
『テニオン神殿巫女長リリーに関するデータをリストアしました』
「え?誰かが生きているの?どこにいるの?」
「テニオン神殿…」
「そこへ行きましょう。で、服を出して」
服?あぁ、全裸だな。僕は僕の服を着た。
「私の服は?」
そうか…ミトの服は風化して無くなったのか…全裸で寝ていた訳では無いってことか。宝物庫から、女性用の服を出した。
「うん?スケスケのレオタード?着る意味が無いでしょ?」
では、これを…
「なぜ、競泳用の水着なの?」
文句が多いなぁ~。これでどうかな?
「…ペアルックってこと?」
僕と同じTシャツにジーンズだった。まぁ、無難な選択だな。
「で、下着は?まさか、ノーブラでTシャツ?」
ノーブラだと、出る物が出ちゃうか…下着…ウニクロのカップ付きキャミとパンツが出て来た。
「こんなのが売っているの…私よりも、後の世界から来たのね…」
ブツブツ言いながら、着衣を終えるミト。次の瞬間、テニオン神殿の前にいた。
「転移術?」
「これでも、元勇者だからね♪」
得意げに言うミト。入り口にいる巫女さんに、リリーに会いたいと伝えると、お化けでも見たような表情で、走って行った。あれ?僕って死んだのかな?
しばらくすると、萌葱色の瞳にプラチナブロンドの髪のかわいい巫女さんが出て来て、僕達をリリーの部屋へ案内してくれた。
「ギル…生きていたのね…って…え?あなたはもしかして…ヤマト様?」
「そうです。このバカに起こされました」
心外だな。僕は愚民であって、バカでは無い。うん?ヤマトって、誰?
「ヤマト様…」
ミトに対して、リリーが跪いた。それを見た巫女さん達もミトへ跪いた。この差は何?
「復活されたのですね…その為に、ギルは消えたのですか?」
「まぁ、ギルがやらかさなかったら、私はまだ目覚めていなかったでしょう。で、あなたはどなた?」
「私は先代の勇者様と共に戦ったリリーと申します」
「先代?このバカもいたの?」
「えぇ、ギルもいました」
「ふ~ん…ちゃんと、働いているんだね」
冷めた目でジトっと僕も見つめるミト。
「そうなると、132年前振りってことかな?」
66年の倍か?
「そうなります」
「じゃ、シャロリック君は、もういないのね」
「誰、それ?」
「うん?私の養子だよ。シガ王国の2代目の王様」
「うん?ミトって、エライの?」
「一応、シガ王国の始祖だよ。その当時の名前はヤマト。で、引退してミツクニ公爵になって、ミトに改名したの♪ほら、ミト・ミツクニ卿って、水戸光圀公ぽくて、響きがいいでしょ♪」
そうか…こいつのせいで…
「お前が、ミトとかミツクニとかを名乗るから…僕はイエローゲート卿にされたんだぞ!」
アナル卿で無いのが、せめてもの救いではある。
『神託の巫女セーラに関するデータをリストアします』
「あれ?セーラ…」
「思い出してくれたのですね」
セーラが、立ち上がり、僕に抱きついてきた。僕が声を掛けるまで待っていたようだ。
「有り得ない…ギルがこんなかわいい少女と…」
ミトの顔が引き攣っている。
「お前、いつからモテキャラになったんだ?」
「モテていない。彼女は僕の仲間だよ。幸せだなんて思うと、消えちゃうからさぁ」
「えっ!そんな理由で、私達の前から消えちゃうんですか…」
セーラが驚いた顔で僕を見ている。
「でも、再会出来て良かった…セーラ…」
「はい♪」
「納得出来ない…132年の間に何があったんだ?」
ミトが納得しない顔になっている。
「ヤマト様の頃って、ギルは、どんな人物でしたか?」
リリーがミトに訊いた。
「うん?人間嫌いの偏屈だよ。宝物庫を管理するだけの爺だった。宝具を取り出す度に、私達にセクハラ紛いの行為するエロ爺たよ!」
役得感満載のジジィだったのか…僕は…
「人間嫌いといいますと、ギルは人間では無かったのですか」
「そうだよ。コイツは元々人間ではない。でも、今世は人間のようだが、フェイクかもな」
「では、元々何だったんですか?」
「元々は知らない。私と出会う前から、存在はしていたようだから。私と組んでいた時はエロ爺姿の騎士だよ」
「私共といた時は、頑強な戦士でした」
「今では単なる旅人です♪」
険しい眼差しで僕を見つめるミトとリリー。
「本当は何者なんだ?今世のギルは…単なる旅人に偽装する意味がわからない」
偽装…まぁ、レベル隠し程度だけど…
「まぁ、いいや。仕事の時に働いてくれればね♪」
「仕事?」
「ソレも忘れたのか?お前は…」
呆れているミト。忘れたのでは無い。記憶に無いのだ。
「ギル様!」
「ギル様?」
「ギル様なのです♪」
懐かし者達の声が耳に届いた。
『神刃の槍使いリザに関するデータをリストアしました』
『忍者タマに関するデータをリストアしました』
『剣士ポチに関するデータをリストアしました』
「リザ…タマ…ポチ…ゴメン…」
僕に抱きついてくるみんな…ごめん、傍に居られないで…
「ますます、おかしいぞ。なんで、ギルがモテるんだ?」
ミトが怒っている。どうしたんだ?
「ギル…」
「マイマスター♪」
『ミーアに関するデータをリストアしました』
『ナナに関するデータをリストアしました』
「ミーア…ナナ…」
「おいおい、エルフとホムンクルスまで、手懐けているの?今世のギルは、何かが違うな…う~ん…」
手懐ける?そうでは無い。妹だよ…みんな…特にリザは一目ぼれした妹である。
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積もる話をしながらの夕食。ミトは現状を把握しようと、みんなから、色々な話を訊いていた。
「そうか…溜まった物を私にぶちまけたってことか?」
何の話だ?
「お前…あんな大事で大切なイベントを忘れたのかぁぁぁぁ~!」
何故か怒っているミト。僕にはまるで思い当たる記憶が無いのに…
「何かあったっけ?何があったんだ?」
ミトの顔が茹だって行く。
「くそっ!自慢げに言える話じゃない。お前…地獄の淵まで付き合えよ!」
「地獄って淵があるのか?僕は行ったことが無いから知らない。そうか、ミトは地獄へ堕ちたことがあるのか♪」
「ものの例えだよぉぉぉぉぉ~!」
「ヤマト様がお相手だと、ギルは会話を楽しんでいますね」
って、リリー。楽しんでいるのかな。これが楽しいってことなのかな?その辺の感覚が、よくわからない。
「何故、私には攻撃的な会話をするのに、他の者にはしないんだ?!」
「ミトって、そういう存在だからかな♪何でも言い合える妹って感じかな♪」
「コイツ…大魔王を殺したら、次はお前だぁぁぁぁ~!」
「以前も言われたような…」
うっすら残る記憶の断片…
「あぁ、言ったよ。なのに。大魔王を倒したら、突然、暗転して消えただろ?くそっ!」
ミトの言葉でセーラ達の顔色が悪くなっていく。
「ギル様…最後の時まで…この命が果てるまで、お供したいです。ですから、もう置いて行かないでください」
リザが涙を溢しながら、言い出した。それを皮切りに、皆に同じことを言われた。
「僕の能力は、僕の意志で発動出来ないし、僕に対してしか発動しない。自発的に消えるのでは無い。だから…だから…ごめん…約束は出来ない…」
静まり返る場…こればかりは、どうしようも成らない。
「ヤマト様、どうにかなりませんか?」
「う~ん…オススメは出来ないけど…高みを目指すことだよ。高みに達した者は、死する時に、たまに宝具へ魂が宿るらしいんだよ。宝具になれば、ギルガメッシュの管理する宝物庫に収納される。但し、ギルガメッシュの記憶から、その者の記憶は消えて仕舞うが、永遠に近い時間、一緒には居られるらしい。ソイツの持つ宝具に宿る者から聞いた話だけどな」
ルシファーとかミカエルか?彼女達の記憶がまるで無い。ごめんなさい…
『気にするな♪』
って、文字が…会話が出来るのか…
『暇な時はな』
そうなのか。僕は何者なんだ?
『検閲対象ワードを発見。排除しました』
自分で見つけろってことか…
寝る為にベッドに行くと、セーラとリザ達が一緒に寝るという。1つのベッドで、皆と寝ることにした。
しかし…夜中に身体中が痛くて目を覚ますと、僕は床の上にいた。僕のいたベッドの上にはミトがいて、ミトとみんなが寄り添って寝ていた。そして、僕の幼生体はナナの手の平の中にいた…