柔らかな物に挟まれて、目覚めた。右にアーゼ、左にナナ…僕の腹部には傷跡が…そうだ、サトゥーに刺されたんだ。
「意識は戻った?」
「戻って欲しいです」
ポチとタマが顔を出した。
「ギル…」
ミーアが少し遅れて顔を覗かせた。
『ドライアド…サンキュー♪』
『なんくるないさ~♪もっと、頼っていいんだよ、ご主人様♪』
なんだかなぁ~。
「セーラとリザ…あとミトは?」
ミーアが部屋の隅を指差した。三人に対して、額を床に付けての土下座を敢行しているサトゥーとアリサ。それを心配そうに見つめる黒髪の少女…え?なんで…ここにいるんだ?
「ルル…」
僕の声で僕に気づいたルル。
「え…ニーサン…どうして?ここに?って、ギルさんてニーサンだったの?」
僕の本名で呼ぶルル…僕の想い人だった人物である。だった…今は違う。今の想い人は…
「えっ!ルルとギルって知り合いだったの?!」
アリサが驚いている。いや、僕も驚いている。こんな偶然ってあるんだね。
「おい!アリサ、よそ見するなよ!」
リザの怒声。はっとしたアリサが土下座をして、サトゥーと共に、謝罪の言葉を述べている。
「傷跡は、あなたの薬剤で治しなさいね、ギル」
幻想の森の魔女様だ。そうか、ここなら安全だものな。ドライアド、本当にありがとう。
『もーまんた~い♪』
どこで、習っているんだ?沖縄方言と中国語だっけ?
「うっ!」
起き上がろうとすると痛みが走る。筋肉の再生が完全では無いのかな。いや、肉離れか?まさか…腱の部分も筋肉で再生したのか?後で、自分で修復してみるか。
「ダーリン、大丈夫?」
「マイマスター、支えます」
アーゼとナナに支えられて、上体を起こした。
「ナナ、ロスタイムは?」
「一日半だと宣言します」
36時間か…だいぶ寝たなぁ。って、どこを基準にしたロスタイムだ?再質問する気力は無いので、スルーしておく。
「イチロー兄ぃ、絶対に許さないからね!」
ミトとサトゥーは知り合いか?本名呼びしているような。
「ヒカル…すまない。ちっぱいは興味無いんだ」
それは言っちゃダメだと思う。ミトが気にしていると思うし、なかなかどうして、気持ち良い触感だったけどなぁ。
「ほぉ~、謝罪をしながら、愚弄をするのか、おのれは~」
ゴン!
土下座をしているサトゥーの頭を思いっきり、足で踏み込んだミト。あれは痛いと思う。
「星が…いっぱい見える~」
レベル315も形無しだな…あれ?もしかして…
「ミト…132年振りの彼氏って、サトゥ-?」
「え?!そ、それは…」
ビンゴだな♪
「おい…ヒカル…俺はお前の幼なじみではあるが、お前の彼氏になった覚えは、過去にも一度も無い」
額にデカいたんこぶを発生させたサトゥーが、涙目でミトを見上げた。
「ミト…どういうことだ?」
ミトの思い込みか?いや願望か?妄想だったら、痛いぞ…
「え…いや、その…ほら♪132年振りだから、イチロー兄ぃは忘れているだけだよ~」
「132年振りってなんだ?俺にとっては、1年振りくらいの再会なんだけど…」
パッチ~ン!
ミトの平手打ちがサトゥーの左頬を撃ち抜いた。アレも痛そうだな。
「謝罪しているやつが、口ごたえするなよ!」
あぁ、サトゥーの体液塗れにされた件か?そういや、頭から塗れていたよな。中には入れていないのか?それよりも、
「痛みが引いたら、アーゼとミーアを送らないとな」
僕の言葉に、ミーアとアーゼが不思議そうな顔をしている。
「二人とも、里に帰らないとマズいだろ?」
「帰らない」
「帰りませんよ、ダーリン♪」
なんか、この二人の意志は固そうだ。だけど…
「アーゼはダメだろ?」
「なんでですか?もう、神様の伴侶は失格ですから、問題無いんですよ~。その意味ではサトゥーさんに感謝はしますが、された行為は絶対に許さないですよ~」
プンプンしているアーゼのステイタスを見た。「廃エロフ堕ち経験者」と有る…ハイでなくて廃になったのね…高潔性を求められる職業だものな。種族がハイエロフになっているし。
「じゃ、高潔性を元に戻してあげるよ。そうすれば、職場復帰が出来るでしょ?」
「ダーリン!それは余計なお節介です。こうして、ダーリンといられる機会を、どうして奪うんですか?」
いや、ダーリン呼びが辛いんです。僕を見るルルの視線が、悲しそうなんです。
「で、状況の説明は、誰に訊けば良いのかな?」
一瞬、場に静寂が訪れた気がする。状況の説明が出来ないくらい、混乱しているのか?う~ん…
「マイマスターは、全治3日であると報告します」
後3日は動けないんだね。
「里は…徐々に回復しているようですよ」
って、アーゼ。「永久凍土」を24時間モードで発動したんだっけ。
「じゃ、僕から質問する。サトゥーとアリサ、後ルルの立ち位置はなんだ?」
「あぁ、それは…当面、サトゥーさんとアリサは、ミツクニ卿の下男、下女です。で、ルルさんは料理担当として、働いて貰います」
って、セーラ。下女って何だ?まぁ、意味合いは分かるので、敢えて訊くことはしないけど。
「サトゥー達は反省をし、ミツクニ卿に仕えるんだな?」
「そういうことよ!」
ご立腹のミト。
「で、ミトはこれからどうするんだ?」
「え?何を言っているのさぁ。ギルと一緒に行動だよ♪」
嬉しそうに言うミト。意味がわからない。それとも、僕の記憶が消えているのか?
「なんで?」
「なんでは、こっちのセリフだよ。私のイチロー兄ぃが迷惑を掛けたし、元々一緒に行動していたでしょ?」
「そうだっけ?」
記憶があいまいである。痛いし…そうだ、鎮痛剤を飲もう♪宝物庫を検索するとあった。取り出して服用すると、痛みがすっと消えていく。でも、治った訳では無いので、無理は出来ない。
「あぁ、思い出したよ。僕は大罪人だから、一緒にいちゃマズいだろ?」
公爵と一緒にいて良い身分では無いはずだ。
「大罪って?何のこと?」
「セーラの時もだけど、今回もアーゼを助けるのに、大量殺人をしたはずだけど」
ルルの顔から血の気が失せていく。しまった、聞かれたくなかった。
「あぁ、問題無いよ。ギルに罪を問うようなヤツがいたら、そいつを捕縛だよ。だって、神託の巫女と、大樹のハイエルフを救出する為の非常時だよ。ギルがやらなかったら、二人共生きてここにいないよ。きっと、自ら命を絶つレベルの屈辱だし」
ミトの言葉に、頷いている当事者であるセーラとアーゼ。そうなのか…って、ミトもアレって屈辱だったのだろうか?蒸し返すと、誤爆、誘爆しそうなので、敢えて訊けないけど。
「そもそも、あの状況下で、被害が無い方だと思うよ。建造物の破壊は無いし、罪の無い物は殺していないしねぇ」
殺した人数は問題ないのか。今回はなんか、多かった気がする。
「寧ろ、罪を問うならば、イチロー兄ぃの方だよ!」
アリサとルルを除く女性陣が一斉に、サトゥーへ怒りの視線を浴びせていた。
「いや、俺は操られていたんだよ…なぁ、ギル…」
俺に助けを求めるサトゥー。ミトには弱いのか?
「確かに操られていたけど、レベル315が、アノ程度のヤツに操られるって、隙が有りすぎたんじゃないの?」
頷く女性陣。
「問題はいつ、アリサが操られ始めたかだな。サトゥーはたぶん、アーゼの媚薬投与後だろう。ムラムラ来た隙を突かれたんだろうな。そのくらいしか、サトゥーには隙が無いと思う」
アイツは、チーターで慎重な男だ。そういうムラムラ感以外に隙は、考えられない。
「アリサ、どうなの?」
ミトがアリサに訊いた。
「わからない…いつの間にかって感じだった」
「完全な憑依状態では無かったから、宿られたのだろう。例えば、瞳にだよ。紫色に光っていたし」
ステイタス上では「憑依」であったけど、どうも違う気がするのだ。ギルガメッシュとしての記憶の断片が、違和感を感じさせているようだ。
「あっ!そう言えば、セーラさん達をさらった時も光っていたような」
って、サトゥー。そうなると、今までの対立基軸は、アリサが元凶か?
「で、ギルはイチロー兄ぃを許してくれるの?」
ミトに訊かれた。ミトは許さない立場だけど、それはサトゥーに対して、優位性を持つ為なのかもしれないなぁ。
「許すも何も…それは、ミト達の問題だよ。今の僕にとっての問題は…ルルだから…」
ルルを見つめる僕。僕の視線から逃げようとするルル。う~ん…最悪な再会だな。あの後、どうなったのかを知りたい僕。
「あぁ…そういうことね。良かったですね。ペンドラゴン卿。イエローゲート卿は許してくれるようですよ」
「あっ…そうだ、ミト。サトゥーには捧げたのか?」
僕の言葉に真っ赤になるミト。それは恥ずかしさからなのか、怒りなのかの判断が難しい。
「コイツ…思い出した…私の中に入れていない。出す物だけ出して…酷い…」
サトゥーを怒りのオーラで抱き締めていくミト。やはり、頭からぶちまけただけか。
「そうなの?もったい無いなぁ。サトゥー君、食わず嫌いは良く無いよ」
ミトの顔が、違う系統の赤色に染まっていく。
「お前が言うな!艶めかしい記憶が…くそっ!私は、男運が無いのか…」
凹んだ元勇者様。
「どっちにしても、後3日は動けないし。それまでに方針を決めるか」
ミトとサトゥー達以外の者達が頷いた。
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動けるまで5日も掛かってしまった。寝ぼけたタマ、ポチ、ミーアが、夜中にお腹にダイブしたせいである。普通なら飛び載っても大丈夫なんだけど、あれは痛かった。で、ミトの修復だけど、予想通り、アキレス腱などの腱なども、筋肉として修復したようだ。痛い訳だよな。ミトには人体解剖図なる書物をプレゼントした。次回の修復までの宿題も出した。
で、タマ、ポチは反省中ってことで、僕が動けるまで肉断ちを宣言をして、1日で降参していた。僕があの肉を振る舞ったからだけど♪
「で、本当のレベルはいくつなのよ?」
「レベル?1だよ。僕は戦士で無いから」
「じゃ、あの肉は何の肉?やたらに美味しいんだけど…」
「あれは、砲龍っていうドラゴンタイプのホムンクルスの肉だよ」
これは、ギルガメッシュの記憶に残っていた。で、肉は食料用にもする為に、コーベ牛のような上質なお肉にしてあるようだった。
「そんなのがいるのか?」
って、サトゥーが喰い付いた。
「いたよ。敵の罠に嵌まったギルガメッシュを、逃がさないように、放たれたらしいよ」
「誰に?」
「魔神様じゃ無いのかな?最後の希望を使わせない為にね」
「最後の希望って?」
アリサに訊かれた。
「わからない。ギルガメッシュの記憶にも無い項目だよ。ソレを知るのが、僕の役割のようだ」
たぶん、ギルガメッシュは僕に宝物庫だけ継がせたかったのだろう。だけど、彼の遺体には、ギルガメッシュに擬態したウィルスを仕込んだヤツがいる。それが僕の敵なんだと思う。
「じゃ、その謎を解くのを、旅の目的にしましょう♪」
って、爵位の一番高いミトが仕切る。
「取り敢えず、王都かしらね。城の地下にある書物庫で、ヒントが無いかを調べましょう」
馬車は2台用意されている。どちらも僕のだ。初代馬車に僕とリザが真っ先に乗った。二人で御者台に載り、リザのお気に入りの彼女の調子を確認する。彼女は彼女で、またリザと僕を載せて走れることが嬉しそうである。
「じゃ、2号車はサトゥー、アリサ、ルルと荷物にしましょう」
って、ミト。そんなには載れない。なので、ミトとナナは2号車に移ってもらった。馬の負担を考えておかないと。
幻想の森の魔女様に挨拶をして、馬車を走らせていく。途中、ムーノ男爵領のムーノ市
という街で、補給をすることになった。そこはサトゥーの顔が利く街だそうだ。
街の中は活気に満ちあふれていた。
「どこに泊まるんだ?」
「男爵の迎賓館を借りた。そこで宿泊をする」
って、サトゥー。この街での仕切りはサトゥーである。なので、コイツの指示に従う。迎賓館に着くと、男爵がサトゥーに抱きつき、労っている。僕達は、馬車から、荷物を屋敷に運び込んでいく。
「ペンドラゴン卿の使用人達は、テキパキと動くなぁ。感心感心♪」
って…その言葉にミトがキレた。
「サトゥー…下男のお前が、何故働かぬのだ?」
どこかの王女様のような口調のミト。いきなり印籠でも出すのか?
「おぃ、君!ペンドラゴン卿に失礼ないことを申すな!使用人の分際で!」
その男爵の言葉に、勝ち誇ったような顔のミト。
「お初にお目に掛かりますムーノ男爵。私はミト・ミツクニ公爵と申します。そして、彼はイエローゲート子爵です。以後よろしくお願いします。ほほほ♪」
ミトは公爵の証である品を、男爵に印籠披露の様にして見せた。男爵の顔から血の気が失せていく。公爵も子爵も、男爵より上位の爵位であるから…
「え…あの…王家に仕えているミツクニ公爵様ですか…」
ミトは男爵の言葉をスルーして、屋敷の中に入っていった。
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屋敷の外に固まったままの男爵と、説明をしているサトゥーがいた。
「ミト…やりすぎじゃないのか?ただで宿泊させてくれているのに」
「いいのよ。男爵程度で、私達を使用人扱いって、ふざけているでしょ?」
何か外が騒がしい気がする。窓から外を見ると、ゼナ隊がやって来た。そういや、ゼナとは久しぶりの気がするが、何をしにきたのやら。
コンコン!
ドアがノックされた。セーラが対応してくれた。メイド専任がいない為、礼儀作法を仕込まれているのは、元巫女で爵位家系のセーラくらいだったのだ。
「あ…あのですね。セーリュー伯爵の命を受けて、アーゼ様の護衛をしに参りましたゼナ・マリエンテール以下3名です」
軍人らしい挨拶をする、何かに緊張をしているゼナ。で、彼女は室内を見回している。もしかして、護衛対象の顔を、忘れたのでは?
「そのような依頼はしていませんが」
ミトが対応に出た。
「あの~、あなたは?」
「私はミト・ミツクニ公爵といいます。この旅団のリーダーですよ♪」
ゼナにプレッシャーを掛けていくミト。
「おい!あまり、虐めるなよ。サトゥーの彼女なんだからさぁ」
と、一応言っておく。だけど、いや、もはや、そう…この場にいるメンバー達は、彼女はサトゥーの対象外であることを知っている。唖然としているみんな…
「いえ…彼女だなんて…うふふ♪」
まんざらでも無いゼナ。ミトに動揺が走っている気がする。
『私よりも、ちっぱいのに?』
ミトからメッセージが届いた。そう…ミトよりもスリムな胸のゼナ。
『触れないであげて…ミトもイヤでしょ』
『了解♪』
「あっ!ギルさん…どこをどうして、ここにいるのですか?」
「彼は、私の配下で、この旅団のサブリーダーのイエローゲート子爵です」
またプレッシャーを…まったく、ミトと来たら…助け舟を出すか。
「ゼナさん、お久しぶりです。今は、ギル・イエローゲート子爵ってことになっていますが、気にしないでくださいね」
ゼナが固まった。暫く合わない間に、子爵になっているから。
「え…大出世ですね…」
オドオドしているゼナ。
「で、ゼナさんと言いましたか。あなたはガード対象の顔を知らないのですか?」
ミトがツンツンとした声で、訊いている。サトゥーの彼女は、敵ってことか?ちっぱい同士仲良くして欲しいのだけど。ここにはちっぱい者が多いんだし。アリサ、ミーア、ポチ、タマなど。
「申し訳ございません…失念しています」
平謝りのゼナ。
「それにアーゼよりも、もっとガードしないといけない人物がいるのにねぇ」
それは、公言しないで欲しい。僕の中でドロドロした物が湧き出してくる。
「ミト!もう止めろ!セーラを虐めたと判断したら、お前ですら許さない」
僕からミトへプレッシャーを掛けた。
「なんくるないさ~?」
「ダメなのです」
ポチとタマが僕の殺意を感じ取り、抱きついて来た。リザとナナは、ミトに対して、敵対の陣形をしている。アーゼはいつでも魔法を放てるようだ。
「うっ!そんなつもりじゃないわよ…」
僕達の敵意を一身に受けて、動揺するミト。これだけの戦力だと、ミトでも勝て無いだろう。
「ねぇ、機嫌を治してよ~」
僕に抱きついてきたミト。僕の頬に自分の頬を重ねて、親愛の意を伝えてきた。コイツ、よくわからない。高飛車なのか?小動物系なのか?
「おい、公爵だからと言って、ギル様に密着するな!」
リザが、ミトを引きはがす。
「公爵様は、お客様の相手をすることを進言します」
ナナがミトを羽交い締めにして、ゼナの前に連れて言った。僕のガード陣は、ミト相手でも容赦しないなぁ。
「ダーリンは、私が護りますよ♪」
って、アーゼ。彼女とセーラが、僕に甘える分には、リザとナナは反応しない。不思議だ。ミトと何が違うのだろうか?
「あぁ、ギルに寄り添っているのが、アーゼだよ」
って、ミトがゼナに説明している。
「ギルさんとアーゼ様の関係って?」
「私の旦那様♪」
僕の頬にキスをするアーゼ。
「と思い込んでいるんだよ…」
「私の旦那様にも、なってくださいね」
背中にセーラの胸の感触が…気持ち良いです…はい♪
「僕はそのような身分では無いですよ」
「「かまいませんわ♪」」
って…あの~…想い人だったルルの目の前では、止めてくれませんか…ルルの寂しそうな顔は見たくないんだよ~。リザとナナの助け舟は入らなかった。