ハリボテの指揮官   作:杜甫kuresu

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一章
一話


「おはようございます、今日もキレイな顔ですね」

 

 朝の母親へのご機嫌取り。露骨だが、しないといよいよほっぽりだされるぜ。

 ロクデナシは辛いなあ全く! 仕事しろよ俺ぇ!

 

――で、こういう時は俺の身辺紹介をするべきだろう。

 簡潔に言おう、25歳、無職、男、特技はタイピング、苦手なことは10分以上考えることだ。悩む能力を失った、バカっていうのはこういうのを言うんだって自虐的なのが悩み。

 後転生者だ。多分此処はアズレンのワールドじゃないか? はっきり確認してないけど。

 

 終わり。俺に特徴はあんまりない。姉曰く「真面目にすればイケメンじゃね?」とは言われたが俺は真面目にしないから意味ないよねっていう。

 

「世辞は良いから朝飯食べな」

 

 今日は――――トーストとヨーグルト。しかもスクランブルエッグ!

 この日本人が好きな朝食の形態は英国のイングリッシュ・ブレックファストって言うらしい。

 アッチは真似すると量とカロリーがヤバすぎて運動不足のやつは太るから気をつけろ、俺との約束だぞ。

 

 まあ言うほど多くないのでなんやかんや食える量。早速俺は座って牛乳をぐいっと一気飲み。

 

「相変わらず牛乳好きやねえ、アンタ」

「牛乳は最強だぞ母上、なんせバストサイズだって改善する最強アイテムだからな」

 

 まああれ本当が疑惑が有るけど、こうやって全世界で刷り込んで俺はプラシーボ効果を期待していきたい所存だ。

 母上は完璧に俺のこの手のタワゴトに慣れてしまっていて

 

「変なこと言ってないでさっさと食っちまいな」

 

 と言うだけ。優しいんだ、何か無職なのが申し訳ないね。

 

――無職な理由は、まああんまりキャラじゃないんだが「会社にキレた」。

 だって残業二時間以上当たり前だったし、サービス残業と来た。意味がわからないから、残業は良いから金くださいよって三回くらい言ったけどあちら方は無視。

 

 とうとうガチギレした俺はあっさり退職という流れである。うん、キャラだねこれ結構アレな人のアレだわ。何か努めてる同僚には評価されたけど、ソイツは金くれないわけで問題は解決しない。

 事情は汲めても金は増えぬ。実家が快く受け入れてくれたのは嬉しいが、申し訳無さも消えずに残っている。

 

「アンタさー、何社落ちたって言ってたっけ?」

「300ぐらい」

 

 絶望。コミュ力低いのが仇となったというか、俺は大人として立ち回るのが致命的に下手だった。

 

 冴えない普通の男だったと思うのだが、この世界に来てからの俺はこうだ。

 まあ景色が常に二次元っぽいような気がするし、俺もその手のキャラにでもなったのかもしれない。転生者って皆ぶっ飛んでるもんな、俺もぶっ飛ばなきゃダメなんだろうか。

 

 まあ若干ネジ外れてるはずだ、この脳内で出力する地の文的な何かが十分な証拠。

 

「何時になったら定職についてくれるんだか……」

「いやー、返す言葉もないですよ母上」

 

 仕事をする意欲は有るし、エネルギーも有るのだが雇ってもらえなきゃ意味なし。

 

 これは俺の面接態度にも問題があるんだろうが、もっと言えば現在の重桜の情勢に問題が有る。

 此処はアズールレーンの世界観だと俺が気づいたのは、この重桜とかいう名前で動いている日本のせいだ。そしてアレのメインストーリー…………もう分かるね?

 

 戦争になる。クソッタレな理由でな。ああ、ホント碌でもないよこの国は。

 

――うーん、定職につける予感がしない。一航戦がたが無茶してない内に職に就かないとヤバイよね、何か結構追い詰められてたし。

 っていうかセイレーンだっけ、あの深海棲艦ポジの。アッチに本気になれよな、何で身内揉めしようとしてるんだ?

 

「それで、今日は予定ないんだっけ?」

「無いな」

「今日、軍の人がアンタに話有るって」

「は?」

「いやだから話有るんだって、軍の人じゃ私だって断れないよ」

「軽すぎるよオフクロ!?」

 

 急いでパンを齧る。その姿は木を齧るビーバーに似ていたと後で聞いたが、そんな悠長なこと言ってる暇ないと思う。

 

「おいおい、俺はまだ寝巻きだぜ!? 何時来るって!?」

「確か9時ぐらいだから――――あと5分だね」

 

 WTF!? 何でうちの家はこう軽いんだ!

 軍の人って俺だって流石に怖いよ、せめて髭とか切ってマトモな服着ないと。今着てる俺のシャツとか前に思いっきり「仕事より趣味」ってでかでかと書かれてるんだぞ殺されるぞ!?

 

「何で言わなかったわけ!?」

「昨日珍しくアンタが9時ぐらいに寝たじゃない? あの後の電話だし、何だか優しそうな人だったから大丈夫かなって」

「母よ、多分大丈夫だが俺にだって最低限の常識は有る」

 

 別に一度限り出会う軍の人にどう思われても――――――うん?

 この流れどっかで見たな。というか思い出した、艦○れの二次創作で腐るほど見た。

 

――言われるんだよな、「貴方には司令官の適性があります」とか。この場合……指揮官だな。

 で、大体その手のやつは逃げれない。

 

「母さん。一生の頼みが有る」

「何さ」

「その人が来ても、息子は昨日から失踪していると伝えてくれ」

「私に嘘がつけるように見える?」

 

 そうだった、この人嘘がとんでもなく苦手だった。

 詰んでる、不味い俺は指揮官にされるぞ!?

 

――チクショウミスった、死んでもなりたくねえ!?

 もっと深く考えるべきだった。漠然と転生するだけで終わるはずないよねそりゃあ。この手の流れで一般市民の提督――――とか死ぬ程俺読んだよね。

 もっとちゃんと二次創作の内容覚えておくんだった。

 

「何か、何か逃げ道はないか――――――」

 

 考え始めた矢先、地獄の鐘が鳴り響く。

 

 ピンポーン。インターホンに廊下飛び出し、玄関のすりガラスを見るとデカイ人影ぞろぞろと。これはそろそろ辞世の一句のお時間がやってくるのかもしれない。

 

 佐藤 (ひろし)、日本では一番多いシリーズの組み合わせの名前だった筈の俺は、一世一代の勝負に出る羽目となった。

 

 

 

 

 

「すみません、前日の夜に電話して押しかけなんて」

 

 櫻井ボイス。コイツは裏切る方だイヤだ帰りたい、ってここ家だわもう良い子宮へ帰らせろ。

 エネミーの顔付きはとてもいい。程々にきりりとしたダークブラウンの瞳に、男の匂いを消しきらないながら整った目鼻立ち。男の俺でもメロメロだがしかし櫻井ボイスだ。

 

 後ろのガタイの良いカイジの黒い人みたいなのには入ってもらわずに、取り敢えずこの人だけリビングへご案内。この人から下がらせてくれたのはさすが櫻井。でもお前は裏切る匂いがするんだ怖いんだ、無駄に人心掌握うまいとかそういう人だよね多分。

 

「そ、そそそそれでお話というのはあ!? っていうかお名前はなんですかぁ!?」

 

 ガッタガタである。笑うな、俺は櫻井ボイスの軍関係者ってだけで嫌な予感しかしてないんだ。

 

 すみませんでした、と男がはにかむ。わおイケメン、男じゃなければ即死だった。実際我が母君が顔を逸らしてらっしゃる、乙女だなあ。

 

「名前は櫻井といいます」

 

 ほら櫻井!? え、マジで櫻井なんだ生粋の櫻井って普通に凄い。

 しかしあっちは軍服。俺はまさかの「仕事より趣味」って書いてあるTシャツでの対応。

 

――うーん、もうこのまま呆れて帰ってくれねえかな。

 しかし櫻井さんは何だか寛大らしい、俺がちらちら自分の服装を見ているのに気づいたのか

 

「服装が気になるのでしたら着替えてからでも構いませんよ」

 

 イケメンだな、仕事が出来そう。

 しかし俺は今から狂人になる、ああ狂人になるぞ俺は。

 

「いや、これが正装だから」

 

 きりりと表情を引き締めて言い切ると後ろから殺気。母上待って、俺が指揮官になっても良いというのか。

 しかしエネミーは大きな声で笑い出す。

 

「面白い冗談を言う方ですね」

 

 違う違う、俺はマジモンのおかしい人なんだって!?

 くそ、こうなりゃヤケだ。話を急かして適当に蹴ってダイナミック二度寝をキメてみせるぞ俺は。

 

「それで要件って何、早く話せよ」

 

 後ろからゲイボルグでも飛んでくるレベルの殺気。俺の心臓はもう色んなもんで刺し穿たれてるから勘弁してくれ、パンク寸前なんだよ。

 

 心臓の音を止めながら馬鹿げた態度で対応するのだが、櫻井さん全く動じない。アイアンハートか?

 

「そうですね、本題に入ってしまいましょう」

「すみませんが、指揮官になって頂けませんか」

 

 ほら来た。俺は知ってるぞ、このまま俺は地獄へ走らされる。

 

「却下だ。このゴミみたいな国の為に何で俺がご奉仕せにゃならんのだ」

 

 もう手が後ろから伸びてきている錯覚を起こす、実際の距離は5メートルはあるはずなんだが。妄想心音かな?

 

 でも実際、この国に奉仕はしたくねえ。

 メインストーリーをやってる頃から思ってたんだよ、重桜はそんな無茶な作戦に付き合わされる国民の気持ちがわかっちゃいない。

 それこそ第二次世界大戦と同じ。それに付き合って死んでいかなくちゃならない艦が不憫でならない。

 

「アンタラが国民のことを考えて、守るつもりで戦っているように見えない」

「俺は一般市民だ。その中では外れものだが、でもアンタラとは違う」

「つまりだな、俺はアンタラと同類なんて思われたくはない」

 

 最近は重桜の上の方が不祥事やら何やらを揉み消そうとしてるって話も風の噂でよく聞く。

 それがホントか嘘かは知らないが、嘘なら「それがばら撒かられる程度の信用」だし、本当なら「信用に値しない組織」だと俺は判断できる。

 

 俺は別に何か出来る男でもなけりゃ、きっと立派にもならない。

 だが、本物のバカの一員にはなりたくない。そんな無茶で振り回す側であるくらいなら、振り回される側のほうがマシだ。

 

「そういうわけだ、帰ってくれ。大体俺にそんな仕事ができるとは思えないしな」

 

 会社に文句つけて退職、300の会社から蹴られた。

 俺には指揮官をやる能力も、責任感も、動機も無い。

 

 多分俺には適正みたいなのが有るんだろうが、宝の持ち腐れで、そして重桜の腐敗に手は突っ込みたくない。

 バカだが潔癖症なんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「貴方のような方を、探していました」

「…………は?」

 

 櫻井さんががっちりと俺の手を握る。

――待て、どういう流れだこれ。

 

 櫻井さんの眼はマジだ。俺に何かを見出した、そう言わんばかりに輝き、何だかよく分からない使命感で燃えたぎっている。

 

「私は最初、貴方が『彼女達』に指揮官と呼ばれる――――その適正の為だけに尋ねました」

「ですが、今の言葉でこの勧誘の意味が変わりました」

 

 櫻井さんが手を離して、綺麗に姿勢を整えた後に深く礼をする。

 

「そういう貴方だから、私は指揮官になってほしい」

「ど、どういうことだよ?」

 

 待て、待てよこれ。

――勘違い物の流れじゃねえか!?

 

 櫻井さんは顔を上げた後に俺の眼をじっと見て話し始める。

 

「仰る通り、現在の重桜はとても国民を見て、地に足の着いた方針を取っているとは私も思っていません」

「そ、そうなのか」

 

 ヤベえ、コイツの眼が真っ赤に燃えてる。これは俺の話をもう都合良く捉えちゃうアレだ。

 

――コイツは単純に導入から出てくるサブキャラタイプの櫻井だ! 主人公に優しいしなんか色々知ってるお助けタイプだ!

 変な火を付けたらしい!

 

「私はこれから、重桜の上――――大本営の権威を崩すための手はずを整えています」

「貴方のような方にこそ、この計画に手を貸して戴きたかった」

「今の重桜の軍人に対して、貴方のように物怖じもせずに正しさを語れる方は少ない」

 

 うん、うん。俺もやったらといいと思うよ。革命とかカッコイイじゃん良いぞ。俺もさっき多分、ちょっとだけカッコよかったな。主人公っぽかったな。

 でも俺は巻き込まないでくれるか。

 

 ってかもしかして普通の軍人に言ってたらこれ処罰モノ? 普通に気づかなかっただけなんだが!?

 しかし俺の抵抗の意志を汲み取ってくれない櫻井さんは続ける。

 

「もう準備は進んでいます。後はそれに武力が必要だった」

「例えば――――『彼女達』に匹敵する、もしくはそれ自体」

「つまり俺に艦で謀反しろって?」

 

 もうチビりそう。何で電話からたかだか12時間ぐらいのやり取りで俺は国家転覆に付き合わされかけてるんだ?

 勘弁してくれ。俺はマジで頭がそこまで良くないし、正義感も精々会社辞めるので精一杯なんだ。

 国崩しに付き合えるほど度胸がない。

 

「それやったら、姉貴とかに迷惑かかるだろ」

 

 櫻井さん微笑み。辞めろ、何を言う気だ。

 

「もしも、もしも失敗するようなことが有っても――――貴方と、貴方の家族の安全は保証します」

 

 いやすごいね、やるメリットしか無いように見えるよ。俺がやりたくないということを除けば。

 

「俺は政治は出来ない」

「相応の報酬はご用意いたしますが、無理に新たな体制の一員になれなどとは言いません」

「俺が艦と上手くいく保証はない」

「私に続く者で出来る限りの援助をしましょう」

「俺にはそこまでの事をする能力なんかない――――」

 

 後ろの母親をちらりと見る。止めろ、この暴走櫻井を止めろ。

 

――しかし駄目だった。

 母親の眼からは決意の匂い。

 

「出来るか出来ないかじゃないでしょ。アンタはやりたいの? やりたくないの?」

 

 何だこれは。待ってくれ、まるで俺がやりたいけど物怖じしてるみたいな空気は。

――絶対やらん、やらんぞ。

 

 もう作ったキャラなんか構わずに言ってやろうと思った矢先、櫻井が小さく息をついて

 

「良かった……この勧誘を断る事は不可能でした」

「軍に無辜の民が無理やりなどと…………そんな事は、私はしたくなかったのです」

 

 俺もされたくねえよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺もされたくなかったよ!?」

 

 夢から覚めて第一声。声は鎮守府内を響き渡っていた。

 はい、そういうオチです。色々有ってもう指揮官だよ、胃に穴が空く日も近い。




続くのかなあ、続けたいなあ。
不用意にやらかす転生者。悪い人ではない。
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