ハリボテの指揮官   作:杜甫kuresu

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ドイツが出ると話は荒れる。これはどんな世界でもありがちらしい。

Z46の仕様上、絵とかがないと殆どロリエンプラになる。どうにもならんぜよ。
今回はかなり長い。遅くなったのは特に関係ない。


十話

――自分が何であったのかは明白だ。きっと彼の言う通り、私は兵器だったのだ。

 この目は標的を捉えるために有り、この足は標的に向かって疾走るために有り、この手は標的を壊すためにある。

 故にそれは偶々ヒトを模された破壊の道具、本質的に『生きる』事に特化している他の生物と根本的に異なることも分かった。

 

 草食動物が草を食い殺すのは生きるため、肉食動物が他物を貪るは生きるため。

 そう、如何なる生物にも必ず搭載された最初の欲望にして機構。『生きる』というものに私の体はそれ程比重を置いていない。

 形而上の心が生きる事を何らかの手段にしているとして、結局生物の体は生きる事を大前提に動くはずだ。私は――――艦は違う。

 生きるのは何のためだろうか。この問いに、哲学以上の価値が発生するのが私だった。

 

 

 

 

 

「明日から外に出ても良いだろうか」

 

 質問が予想外に思えたのか、書類に釘付けだった彼の眼がこちらに向く。

 私は書類作業に忙しいのだから別の場所で時間を潰すと言ったのだが、ああだこうだと丸め込まれて執務室にずっと居た。

 

 彼が少しあたふたとしながら返事をする。

 

「え、それは良いけど唐突になんで?」

「あなたも言ったではないか。外に出てみるのも嫌ではない」

 

 別に彼の言葉を鵜呑みにしてそう言っているのではない。

 

 言われてみて気づいたことなのだが、どうやら私には行動の選択肢があまり思い浮かばないらしい。それこそ経験に乏しいようで、私がしたいことは「知ること」。

 本を読むこと自体ではない。欲しいのは知識で、手にしたいのは生きている実感。

 

「俺のアレは個人的意見だから別に気にしなくて良いんだよ?」

「違う、あなたの言葉で道が見えただけだ。決して流されたわけではない」

「言い切られても複雑です」

 

 そういうものなのか。目に見えて彼はへこんでしまう。

 

――何か言うべきだろうか。

 

「私は様々なことを知りたい。だけど――――本を読むという手段しか思いつかなかったのだ」

 

――そう、私が欲しいのは自分が此処にいる実感。記憶もなく、正体も知らず、何者でもない自分という白紙を塗りつぶす知識の黒色。

 それは後ろめたさすら帯びているが、それでも白紙の自分は不安になる。これはどうしようもなくて、心細くて、何かに縋り付きたくなる暗闇に居るような恐怖だ。

 逃げ切りたくとも、そうも行かない。仕方なかったし、別に悪いことでもなかった。

 

 つい考えすぎてしまう、一旦忘れよう。

 

「あなたの言った経験することも知ることだ」

 

 字を追うことだけが知ることに繋がるとは限らない。

 花の匂いを知ること、踏みしめる道路を感じること、見慣れない物に触れてみること――――どれも新たな風になる。経験であり、そして新たな情報で、知ることである。

 

 言われてみればそうだったというのに、どうやら私の発想力は酷く乏しいらしかった。

 

「そういうことなら良いんだ。失礼なことを言ったみたいだ、ゴメンね」

 

 彼の謝罪が単純に理解できなかった。

 

「何故謝る?」

「要するに浅はかな子だと思いこんでた訳だし、それは駄目だ」

「その程度の認識の齟齬、この世界に砂の数程有る」

 

 それでもだ、とその瞳が少し鋭く光った。

 

 いつもこうではないが、時々彼の眼は何か輝きのようなものを強く見せる時がある。

――そういうものを持たない私には少し羨ましいものだ。極端な言い方であれば、その在り様には恋い焦がれる所がある。

 

 何も無いわけではない。きっとそうだが、無いと思い込んでしまうと苦しい。

 

「当たり前だから流すのは駄目だ、そうやって省き続けたら碌な事にならない」

 

 碌な事とは、とまで問いかける勇気が出なかった。不幸の種類なんて、知るべきでも知りたくはない。

 

「これぐらいやるのは当たり前、当たり前、当たり前って繰り返すでしょ?」

「何もかもが当たり前になったら、誰も『当たり前の事』に関して不平も要請も出せなくなる。これは不味いことだ、起きたことや行ったことに対して考える自由が壊されることになる」

 

 時々酷く難しいことを言う。少しわかりにくい。

 恐らく顔に出ていたのだろう、彼は手を振ってヘラヘラと笑って誤魔化そうとする。

 

「まあ取り敢えず今のは駄目って事。それだけ」

「そうか、覚えておこう」

 

 いつかは意味が分かるのかもしれない。そんな事を何となく思う。

 

――彼と言葉を交わすのはとても有意義だ。

 気づかないこと、知らないこと、多くを私に与えてくれる。どんな会話を誰とするよりも、彼とすることに捉えどころの無い幸福感を私に与える。

 

「やはりあなたと言葉を交わすことはとても心地良い――――――何もない私の、数少ない財産だ」

 

 他の誰と語り合うより、彼とそうすることに価値を感じる。

――こういうものを、何というのだろうか。

 

「そういうことばっかり言ってるとオジサン勘違いするから辞めて」

 

 突然彼が軍帽を被り直して顔を伏せる。

 どういうことをいってはならないのかよく分からないが――――

 

「私は嘘偽りなく言葉を伝えたつもりなのだが…………」

「グハァ!」

 

 

 

 

 

「フィーゼちゃんが天然たらしでオジサン落ちそう……」

「何情けないこと言ってるのよ指揮官」

 

 はじめてのしきかんっ!こと「はめかんっ!」を片手に読みながら唸る。あ、略称は使いまわしです。

 飯は食ってる感じがしない、なにせ明日はデートである。今度は白髪ロリと来た、俺は下手な動きをしたら軍人のくせに警察さんのお世話である。

 

 勿論このイカレ指南書である「はめかんっ!」にそんなパパお役立ち情報みたいなのは載っていない。

 

「しかも明日はデートだぜ?」

「ちょ指揮官と二人きりで!?」

 

 そりゃそうだろ。そりゃフィーゼちゃんのお願いは聞きたい所だが、此処の人員を絶やしたりしたら櫻井さんからお注意されてしまいますよぉ。

 

――という俺の事情を知ってか知らずか、瑞鶴は机を叩いてこちらに身を乗り出してくる。

 

「指揮官と二人きりとかフィーゼちゃんが危ないでしょ!」

「お前と二人きりの方がよっぽど俺は怖いね!」

 

 なんで俺までロリコン扱いなんだよ、お前抱きついてるときの目がイッてたからな!

 俺は小さい子は素直で好きだけど、別にそういう対象じゃねえよ。ましてや瑞鶴だって俺にとっては対象ではないわけで。

 

――なんだろうね、中身が完璧おっさんだから美女とかに靡かないんだろうか。あぁでも、大学生の時は普通に付き合ったりしてたしそれだけとも言い切れないのかもしれない。

 

「そ、そんな事ないと思うけど」

「そんな心当たりありまくりだわーみたいな風に目を逸らして説得力有ると思う?」

「心当たりなんて全然ないし、多分、きっと、メイビー」

 

 絶対あるだろ、眼が泳いでますよ瑞鶴くん。

 

 しかし茅原実里はいいぞ。何がと言わんが良いぞ、あの声で喋りかけられるとトゥンクってなる。普通に接している俺の理性を褒めてほしいぐらいだね。

 

 何かさっきと言ってること違うけどあの声は良い。聞いていると心の奥底に響いてくる、まあ石川由依もその類だけど。

 

「あ、そうだ。そんな心配ならお前も一緒にカラオケでも行くか?」

 

 瑞鶴に呆れた顔をされる。何故だ。

 

「指揮官から外出を勧められてしかもカラオケとか、昔の私に言ったらキャパオーバーで卒倒しそう…………」

「何だよ、堅っ苦しく訓練しろ訓練しろって言われるよりは気が抜けて良いだろ」

「そりゃそうだけどさ」

 

 まあ軍人としては不合格も良いところだとは思うけどな。そもそも真面目にやる気がないってそれ何度も。

 

 どうせならみ○しるべとか歌ってほしい。良ければ境界の○方とか歌ってほしいし瑞鶴と約○の絆とかも歌ってほしい。

 おお、生声で声優の歌聞けるとか指揮官になってよかった。来世でも自慢できるぜこれ。

 

「指揮官、顔が気持ち悪い」

「言いたいことは分かったけど普通に聞いたらかなり俺が可哀想だから言い方を改めてほしい」

 

 可哀想な人じゃない、と鼻で笑われた後また天ぷらを食べ始める。

 

 この野郎好き勝手言いやがって、大人ってものをな――――この! このぉ!

 何もする気が起きないぞ。もうこの程度で動じないし、動じても瑞鶴に何か仕返しする気力もない。

 

「まあともかく、来るのか来ないのか」

「行く」

「翔鶴にも聞いといてくれ、一応外出間際でも外出届は出せるはずだし」

 

 出来れば早くしてくれって事務員のお姉さんに言われた気がするけど、まあこういう場合は仕方ないと許してくれる人だ。

 

 指揮官とか艦以外は結構まともで善良な人多いんだよなあ、この鎮守府。

 いや軍事施設的にはゆるゆる過ぎてマトモじゃないんだがな。

 

――まあ、翔鶴も行きたいなら俺はパスすれば良い。多分金とかは瑞鶴と翔鶴で何とか出来る――――よな? ああ……怪しいなこれ。

 

「うん、後で聞いとく」

「頼んだ、俺はもうちょい書類作業終わらせてから寝るから」

「了解しました、指揮官殿」

 

 今更かしこまられても逆に困るところだよな……。

 

 

 

 

 

「はいついたぞ、当小説二回目の街(詳細不明)だッ!」

「誰に言ってるの?」

 

 わからん。何か二次創作的に言っておいたほうが地の文の負担が減るかと思って。

 

 例のごとく電車はカット。フィーゼちゃんの方がスムーズに改札通っていったなあ、瑞鶴だっせ~って言ったらやばいことになりそうだった、主に俺の顔面が。本格的にアイツ暴力女化してきてるよ。

 しかも二人共近い。俺を挟んで座りながら会話しないで欲しいね。電車スカスカじゃなかったけどさあ、通勤ラッシュの終わり時ぐらいだし。

 

「っていうか翔鶴来ないんだ」

「みんな居なくなったらいざというとき困るでしょうから、だって。指揮官も翔鶴姉を見習うべきだよ」

「お前もな」

 

 ううむ、姉ヅラをしおってからに。俺は弟じゃないと言っておろうに、あれからずっと子供扱いである。

 まあ前回の外出はうまく行っただけで、毎回誰も来ないとも限らないから当然の対応か。昨日一日とはいえ秘書艦を任せたから勝手は分かってるだろうし。

 

 なんか買ってきてやるかな。

 

「翔鶴って何が好きなんだ?」

「指揮官、あっちもこっちも女の子を引っ掛けて見苦しいよ?」

「ちげえよ失礼な!?」

 

 ちょっと労おうと思ったらこれだ全く! こういう所は姉譲りだね君は!

 

――というか、フィーゼちゃん静かだな。

 

「どうしたの? 人が多いと怖い?」

「いや――――見たことのないものばかりだ」

 

 違った。凄い目が輝いてる、外に出た経験がゼロと聞いたが興味はあったらしい。

 

 きょろきょろと辺りを見回して凄い早歩きでどこかへ行ってしまう。

 

「あ、ちょっと置いてかないでくれよ!」

「フィーゼちゃん喜んでるのかな?」

 

 瑞鶴は呑気なことを言っているが、もう軽く見失ってしまっていた。

 

 

 

「居た居た、急に歩いていったら駄目だよ」

「すまない、つい気になって……」

「ゆるそう!」

 

 駄目だ子供に甘すぎる。

 見ていたのは――――アクセサリーだった。意外と女の子な趣味をしているらしい。

 

――へえ、最近のアクセサリーって色々有るんだな。俺の彼女ってやつは身につけるものは一人で買ってきてしまう人だった。こういうものを見たのは久しぶりのことだ。

 完璧に釘付けになってる、光り物好きとは意外だ。

 

「入る? 一杯は買えないけど幾つかなら」

「良いのか?」

「良いよ、瑞鶴は?」

 

 後ろから小走りでついてきた瑞鶴はうーん、と唸る。

 

「まあ、買ってもらえるなら一個ぐらいは」

「そうか、二人で見てこい。男は急かす生き物だからこういうところに一緒に入らないほうが良い」

 

 俺は意外とせっかちらしく、言いそうになるのを飲み込んで爆発しそうになることがある。母上には随分怒られた覚えがある。

 

 瑞鶴に財布を渡すと不思議そうな顔をしていたが、動く気配がないのを見て諦めたらしい。手を繋ぎながら入っていった、仲が良いようで何より。

 

 

 

「時間を取った、すまない」

 

 出てくるなりフィーゼちゃんがなんだか申し訳無さそうな顔をしている。

 

「いやいや、今回はフィーゼちゃんのために来たんだし問題ないよ」

「有難う」

 

 軽く礼をされる。ちょっと照れてて可愛いし礼儀正しいなあ、なあ瑞鶴?

 

――こっちは慣れていると言うか、軽い礼の言葉を言ってから財布を返される。

 いや良いんだよ、良いんだけどさ…………。何だろうな、気兼ねないという奴なんだろうがなあ。

 

「よし、どんどん回るぞ。フィーゼちゃん最優先だが、三回に一回ぐらいは瑞鶴の行きたいところでいい」

「別に私は……」

「出る機会無いんだから遠慮するな」

 

 何というか気恥ずかしそうな様子で歩いていく。

 うーん、遠慮は本当にしないほうが良いと思うんだが…………。

 

 

 

 

 

 色々した。服を見たり、本を見たり、路上ライブを何となしに聞いてみたり、流行っているらしいデザートを食ったり。

 九時に出たはずだったが、軽くカラオケをして帰る頃にはもう昼の三時半だった。時間というのはときに合っという前に過ぎ去ってしまうものだな、なんてフィーゼちゃんがボソリと呟いていたのを覚えている。

 

 

 

 

 

「ただいまー。翔鶴、土産に人気らしいシュークリーム買ってきたぞ」

 

 瑞鶴にもはっきりと趣味嗜好が分かるわけでもないらしく、消え物が無難だろうとのことだ。この姿になってから会ったことはないらしいし仕方ない。

 

 予想通り執務室の椅子に座って字をカリカリと書いている。眼鏡を掛けているのにも驚いたが、何より凄く――――ぶっちゃけ、可愛い。

 何だろうなあ、普段とのギャップと言うか。俺の中でのイメージがガキ、だからだろうな。口を開かないと美人的な。

 

「……指揮官、気づいてなさそうだよ」

「だな」

 

 歩いて近寄ってみるがこの間にも反応はない。

 よし、これは耳元でだな――――――ははは、私の計画は完璧だ!

 

「しょうかくぅ~、パパが帰ったぞ~」

「…………何を言ってるんですか、ケダモノさん?」

 

 あれぇおかしいぞ~? この至近距離で振り向かれると俺の方が無理だ助けて。

 

 っていうかケダモノさんって言うの辞めて欲しい。瑞鶴の眉がピクピクしてるからさ。

――ああだから誤解なんだって、もうコイツ言っても納得しねえな?

 

「殺されるから指揮官って呼んで下さいお願いします」

「――おかえりなさい、パパ♪」

 

 オーノー! このアマ信じらんねえ!

 せっかく土産買ってきたのにこの野郎、勝手に食うぞ。

 

――まあ、そんな大人げないことしても仕方ないか。袋ごと書類の上に置く、指揮官として許されない行為的な気はしたが何度も言うが真面目にやる気がない。

 

「ほれ、シュークリーム。行き先で評判良かったやつ」

「ご丁寧に有難うございます、パパ」

「パパじゃない!」

 

 こんな危ない娘を持った覚えはない。俺の娘というともっと阿呆と言うかだな、少なくとも「うふふ」とか言わねえんだよ!

 

 という俺の脳内の叫び虚しく、翔鶴は立ち上がって俺のシュークリームを受け取るなり口に手を当ててニマニマとこちらを見る。

 

「こういうこともちゃんと出来るんですね、えらいえらい」

「こ、このぉ! お、大人をバカにしやがって!」

 

 何でいつもこういう扱いなんだ! 頭を撫でるな10センチ以上低いくせに!

 

――俺が妙な満足感と決死のキャットファイトを繰り広げていると、小さな声で

 

「……ありがとうございます」

 

 と言ったのが聞こえた。もしかしてこれ照れ隠しなの? ああでもやっぱり嫌なものは嫌だからそれでも嫌なんだがな!?

 そこら辺のヘナチョコ主人公みたいに照れ隠しだから許してやろうとかならないからな俺は、むしろガッツリ何らかの報復を企てるぞ。

 

 

 

 

 

「で、何で客人が来るって話を櫻井さんは俺にしてないんだ」

『すみません、少し遅れてしまいました……』

 

 いやもう来てるんだけど、小舟がこっちに近寄ってきてるんですけど。

 と言っても、俺も把握しないまま外に出ていったのにも多大な問題が有る。一概に櫻井をクビにしろとデモを起こしたりするようなことではないんだけども。

 翔鶴は把握していたから最悪対応する気だったらしい、っていうかアイツのほうが書類業務は速かった。もう任せてる。

 

――船は黒が基調な上に、例の鉄血の十字架のような妙なマークが描いてある。間違いなくフィーゼちゃん絡みだわコレ。

 近づいてくる内にちょっとずつ見えてくるのは――――何だあれ!?

 

「おい、何かすげえゴッチャゴチャした塊みたいなの居ない!?」

「そうだな、しかし何故私についてこい等と……」

 

 君絡みだからだよフィーゼちゃん。もっと具体的に言えば鉄血と揉めそうだから先にご査収くださいどうぞどうぞの姿勢。

 

――何というか、これはちょっと俺も気が引ける立ち居振る舞いではある。

 しかしいきなり此処でドンパチ始められたりしてみろ、俺以外の艦とか、従業員まで巻き込む。そこまでにならんためには――――仕方ない。

 

「仕方ない、か…………」

 

 相変わらず不可抗力に弱い。

 

「そろそろ見えてくるのではないか?」

 

 見えたのは黒い艤装だった。鮫のような気味の悪いデザインの飛行甲板が幾つかと、空母ならばちょっと気色悪いぐらいに搭載された連装砲――――連装砲?

 

――えっと、じゃあアレはグラーフ・ツェッペリン? やべーやつじゃねえか勘弁しろください。

 っていうか尻尾でけえな、後ろ向かれるとアレのスケール感がまざまざと突きつけられる、でかすぎるぞアレは。俺ぐらいならはたき飛ばせそうだ。

 

「アレと戦ったら負けるだろうな…………」

「艦と言うにも過剰なほどの艤装だな」

 

 全くそうだ。実際アレが動くとなると並の空母じゃ勝てない。

 

 それこそエンタープライズとかぐらいじゃないのか、真面目に。主砲持っててあんだけ飛行甲板持ってるってなると機動力以外に弱点が有るとは思えない。

 

「すまない、彼女を見ていると頭が痛くなってくる…………」

「そりゃそうだ」

 

 間違いなく君の記憶に関係する人物だからね。お迎えで鉄血艦で同類の未完成艦な訳だし。

 

――そのまま船が港に繋がれると、そのやたら重い艤装を背負ったままに女が降りてくる。鮮血色の瞳に長過ぎる白髪――――間違いなくグラーフ・ツェッペリンだな。

 

「卿が佐藤弘――――か?」

 

 突然響き渡るかやのんボイス。いや冗談っぽく言ってるがスゲエ威圧感が有る。

 

「あ、ああ。始めまして、此処の一応責任者だ」

 

 手を差し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、グラーフの長い尾が彼に向かって放たれる。

 

「では、見せてもらおうか」

 

 佐藤はすぐに異変に気づいて俊敏に対応するが遅い。瞬く間に太い黒鉄の尾に巻き取られた彼は、そのままグラーフの横まで連れてこられる。

 

 尾が放れたのも束の間、グラーフが右腕で荷物のように持ち上げる。

 

「どういうことだいきなり!」

「いきなりも何も――――命令通りだ」

 

 すぐさまZ46がサーベルを抜いて突撃した。その捌きは素人のものとはとても思えず、見たことのない速度で弾丸のようにグラーフの懐に彼女が入り込んでいく。

 

 しかしグラーフの武器とは圧倒的レンジに有る。どんなに小さな体でも、乱雑に振り回された尾に弾かれてしまった。

 それはZ46の視点から見ればまさしく暴力。近づくほどに背丈の半分はゆうに越すことが分かってしまう其れは、何をしようと抗えぬ絶対的移動命令に匹敵する。

 

「ほう、前に見たときより速いではないか。何か教わったのか?」

 

 余裕すら読ませない無表情で尋ねかける。鮮血色の瞳が妖しく光ってはZ46の目の奥底から何かを引きずり出そうとしているような錯覚を帯びる。

 見ているだけで怖気だってしまったZ46は顔を振り払い、ステップを踏んで不規則な動きで退避、最接近のプロセスを数秒の内に成し遂げる。

 

 その姿はまるで踊っているようにすら見えるほど軽快。しかしグラーフの口が小さく吊り上がる。

 

「あなたは――――誰だッ!」

 

――頭が割れるように痛い。だがそう言っている場合でもない!

 次は薙ぎ払うように振るわれる尾に飛び乗って、踏み台にして大きく飛び上がり急降下する。

 

 グラーフはそれに気にもとめず、薄い怪訝な表情で佐藤に目線を向ける。

 

「誰だ、だと?――――佐藤。卿は何をした」

「は!? 何もしてねえっていうか離せよ!」

「それは出来ない相談だ」

 

 じたばたとする佐藤を揺さぶって抱え直す。

 それと同時にグラーフの肩周りに合った主砲が一斉にZ46に向けられる。指揮棒が振るわれ、奏者は破壊の交響曲に構えだすかのようだ。

 

 放たれる。その雑音は狂想曲、標的の死を以てのみ演奏は終焉を迎える。

 

「フィーゼちゃん! 避けろ!」

 

 佐藤が『命令』を告げる。Z46の意思に関係なく、その『命令』を遂行するために眼は主砲の射角を追い、体は避けるためにゆらゆらと揺れ始める。

 

――こんな時までイヤイヤ言ってらんねえからな!

 幸い太陽が邪魔をして上手くグラーフが補足できていないのも有って、軽く避けるだけで砲弾はすべて明後日の方向に消えていった。

 

「――――――何? Z46が『命令』を受け付けているだと?」

 

 グラーフは全く違うことに驚いているようだったが、その場の二人は気づきもしない。

 

 突っ込んできたZ46のサーベルを――――グラーフは左手で受け止める。

 勿論それで止まるわけがない。手の甲をあっさり貫通し、手を振ると同時に首のすぐ横をサーベルが突き抜けていく。

 

「何と――!」

 

 あまりに常識外。Z46の顔が固まるのと同時にグラーフが小さく愉悦を表す。

 

「Z46、筋は悪くはない。だが――――」

 

 そのまま血の流れっぱなしの左手でサーベルを掴んでいたZ46の手を持ち、顔を極限まで近づける。

 

「貴様の思う通りには踊らぬぞ? 我は」

 

 そのまま手を引いて体を引きずり込み、まるでボールのようにサーベルから振り払って放り投げる。

 何もなかったように尾の先ででサーベルを器用に引き抜くと、その眼に似た真紅の血が滝のように溢れる。

 

 サーベルをZ46に向かって投げる。

――何故だ?

 謎が深くなる。

 

「フィーゼちゃん!」

「問題ない、あの程度で壊れるなら我が来る必要など無いのだからな」

「何だとテメエ――――!」

 

 ますます怒りに顔を染めていく佐藤を他所に、グラーフはそのまま地面に叩きつけられて跳ねるZ46を冷たく睨め付ける。

 

 それは観察。植物の観察日記をつけるような退屈な仕草で、彼女の何かを量り取ろうとしている。

――何だ、この戦闘の違和感は。

 佐藤は必死で謎を紐解こうとするが、怒りばかりが邪魔をして思考が進まない。

 

 恐怖と狂騒に戦場が支配されていて、慣れていない佐藤では思考を元の調子に戻しきれない。

 

「…………まだ行けそうだな」

 

 グラーフが呟いた瞬間に、凄まじさすら有る表情でZ46は体勢を整えてまた疾走る。

 

 その速度は前回の比ではない。もはや神速の領域、ソニックブームに包まれた白糸の童女が砲弾の隙間を縫うように走り抜ける。

 

「何? やれば出来るではないか、これは――――――動くしか無いな!」

 

 突然笑い、尾を構えてグラーフが走り出す。グラーフの顔は享楽に呑まれてしまっていて理性に欠ける、そのまま佐藤は放り投げられた。

 

――不味い、これじゃ返り討ちだ!

 走る二人がスローモーションに映り出す。男は自分に問いかけ始めた。

 

――俺は何がしたい。

 生き延びたい? 何かを変えてみたい?

 違う。

 

――じゃあ何だ?

 分からない。知らない、そんなものは主人公だけが知ってればいい。

 やりたいことなんかない。目指す場所なんかない。

 俺に分かるのなんて――――

 

 

 

 

 

 今この瞬間に、するべきことだけだ。

 走る。マントを引きながらどうにか追いつき、グラーフの止まった勢いで彼が前に放り出される。

 

――今、俺がするべきなのは…………。

 

 

 

 

 

 ぐさり。グラーフの鋼鉄の尾が肉を貫いた。

 それは男の右腕だった。白い執務服の袖が血の牡丹で色づいていく。男の顔が苦痛と混沌とした感情で爆発しそうなほどぐちゃぐちゃになる。

 

 血を浴びたZ46の顔が青褪めていく、その眉間のすぐ傍にまで尾は伸びて血を垂らしていたからだろうか――――それとも。

 

「アァァァァァァァ――――――――――ッッ!!!!!!」

「何故だ――――ッ!」

 

 絶叫。処理しきれない強すぎる感覚を外に吐き出し続ける。

 

――痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 

 痛いと逃げたいを数億回。問いかけることなど無意味、考えなど不要。慟哭はただ響くのみ。

 其処に在るのは義務と責任、男は逃げられない。言葉も吐き出せぬ苦痛と淀みの底で、言葉にすらせず叫ぶ。

 

――何故って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そしてピースを掻き集め転機の一手を彼は打つ。のたうち回らず、痛みに足掻き、それでも前に進む。

 

 それはまるで、主人公のよう。

 

「痛い、クソ痛いしもう最悪だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だけどッ!――――――隙は作ったぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今だろうが、五航戦――――ッ!」

 

 刹那、彼の後ろから二羽の鶴が翔ぶ。

 

 その手に握るはスラリと伸びた玉鋼の刀。艦載機を展開し、その姿に有るのは怒り、殺意――――そして任務遂行に突き動かされる歪んだ感情。

 

『言われるまでもないわ!』

 

 二人の声が音叉のように共振を繰り返し、彼の脳にまで響き渡る。

――それでこそだ。

 

 グラーフの口角が、その二太刀を近づく最中に醜く裂けて釣り上がる。何の感情かも判然としない狂った表情に釣られて口が言葉を奏でる。

 

「面白い、彼は興味深いぞ――――アドミラル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何やっとんじゃこのバカ娘がぁッ!!』

 

 

 突然、グラーフの耳元から若い女性の怒号が響いた。今まで微動だにしなかったグラーフが、耳を抑えながらバランスを崩す。

 

 当然、目標が動くという予想外に太刀筋は修正不可。そのまま本体をすり抜けて両端の主砲が斬り壊される。

 

「――――は?」

「ええ?」

 

 気の抜けた佐藤と瑞鶴の声も束の間、バランスを崩したグラーフに引っ張られるように尾が動いて激痛が走る。

 

「イタイイタイイタイ!」

「あぁ――――すまない、彼女が五月蝿いものでな」

 

 グラーフが手で制した。眼から敵意は全く感じない。

 

――待ってこれどういうことだ? イタイイタイ!

 何だか彼の引っ掛かりが解ける気配が漂う。つまり、彼の見慣れたBパート終盤の臭い。

 

『誰が説明もなしにやっていいって言ったのよこのバカ! 間抜け! 中二病!』

「何を言っている、我は『見せてもらおうか』と前置いたぞ」

『あっちどう見ても本気でしょ! やっぱバカ!』

 

 叫ばれるのが辛いのか、片目をつむりながら通信機を離して会話している。

 

――ああ、言ったねそんなの。

 彼の頭が瞬間的にすっからかんになる。絡まっていた謎が解けていく感覚がして、すっきりした感じと尚更不満という感情が渦を巻いていたのだ。

 

 幸い、そんな事を考えているからあまり痛みは気にしていないが。

 

「えっと、『命令通りだ』っていうのもつまり」

「ああ、卿らを試しても良いと聞いて此処に来たのだ。命令通りに遂行しているではないか」

 

 

 

 言葉足らずかテメエは。

 

『えっと…………サトーだっけ。何かゴメンね、そいつ図体だけデカイとびきりのバカなのよ』

 

 もう知ってる。脳筋だな、何か三発ぐらい顔面殴りたい。初めて女を殴りたいと思ってるよ俺は。




グラーフヤベえな回。そのうち分かるんで言っとくんですけど、今までの戦闘描写で本気だった海外艦は「誰も居ません」。

クラナド泣ける。勘弁してくれ、ヴァイオレット・エヴァーガーデン見た辺りから駄目なんだよ……人生かよ……。エンジェルビーツも良かったね、クソkeyに呑まれた!
智代すき。やっぱりエンタープライズ系のキャラじゃねえか終わってんな?

というわけで引き続き、茅原実里ボイスのロリの純愛をお楽しみください。
前回は「figther」がメインテーマだったけど今回は「みちしるべ」。Z46がメインって事だ。
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