ハリボテの指揮官   作:杜甫kuresu

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それは優しく残虐。男性的で女性的。災害であり無害。
それは矛盾を持ち合わせない、何故なら双極する何もかもが混じらないから。生まれ育んだ歪を背負って、そして当然のように息をする。

それを星と呼ぶのなら、紛う事無き凶星である。
――故にその名は星を冠する。その歪さ故に、燃えゆくその身の熱さを、苦しさを、絶望を、恐怖を――――誰とも分かち合えないのだ。


十一話

――――夢なのはすぐに分かった。特有の浮遊感と言うか、誘導される思考を認識できてしまった。俗に言う明晰夢というものらしい。

 

 内容はあまり詳しく分からない。漠然と自分が見た生き地獄を眺めている感じだ。

 

 小学校で出し物を多数決で押し潰された瞬間とか、死ぬ程頑張ってたやつが世の中舐め腐ったような顔してるやつにテストの成績で負けてる瞬間とか、特に意味もなく絡まれてるオッサンを見てる瞬間とか――――どう言えば良いのかな。

 単純に「辛そう、大変そうだ」というよりは「耐えれるし、耐えることを強要される程度だからこそ辛い光景」を沢山走馬燈のように見ていた。

 

 俺の持論だが、耐えれない絶望より耐えられる小さな不運の山の方が場合によってはキツイ。

 耐えれない絶望は同情される、自分の不運を嘆ける、境遇のせいにするならそれをバネに立ち上がれる。とにかく、行動できる。

 

 耐えられる小さな不運の山は違う。「みんなそんなもんだ」と諦めてしまうし、それが辛いと思う自分を責めるし、境遇のせいにすればそれは唯の悲劇のヒロイン気取り。

 

――それは違う。

 どっちも地獄だ、きっとそう。

 

 彼女達だってそうだ。腕がもげただ、眼がなくなっただ――――そりゃあ辛い。

 でも。自分の存在意義に悩む瞬間も、戦いの果てを見失う失望も、それを嘆くことが無駄に感じる虚無感も辛いに違いない。

 

 

 

 

 

 辛くないやつなど、この世に居る訳がなかった。何で其れを、誰も理解しないんだ?

 

 

 

 

 

「…………寝覚めの悪い夢だな」

 

 開口一番悪態をついてしまう。起き抜けの俺というやつは妙にテンションが低い、そして隠してる悲観的な感性が膨張していてつまり――――何というか、かなり根暗だ。

 

 どうやらベッドの上らしい。

 起き上がると、足元に僅かな体温と重み。霞む視界を擦ろうとすると右手が激痛で動かない、仕方なく左手で擦って眼を開く。

 Z46が眠っていた、眼が赤いのを見るともしかすれば泣いていたのかもしれない。

 

「寝てるのか」

「そうだね」

 

 さっき話した通信機越しの女の声、多分坂本真綾だな。もう此処についているとは。

 女の姿は黒いダッフルコートに軍服で黒ずくめ。砂金のような金髪に、蒼海を思わせる瞳というと流麗な顔立ちを想起するだろうし実際そうなのだろうが、左眼を覆う黒い眼帯や鋭い目つきがどちらかと言えば凛々しく見える。

 

 手袋で両手を覆っている彼女はパイプ椅子ごと距離を詰めて話し始める。

 

「えっと――――ズイカクだっけ? さっきまでこの娘と一緒に泣いてたよ、罪作りな男だねえ」

「そりゃ不味いな、後で引っ叩かれる」

 

 艦に? と彼女は不思議そうな顔をしている。言いたいことは分かる、俺も何で引っ叩かれるような関係性になったのかと言われたら回答に困る。

 

――横を見るとグラーフ・ツェッペリンも座っている。禍々しい例の艤装はしまっているのだろうか、それでも背丈自体が190を越しているから座っていても威圧感が有った。

 

「右腕はしばらく動かせない。結構深くまで刺さってたらしい――――っていうか、正直ちょっと切除するか迷ったらしい」

 

 何だ其れは。待て待て、そんな設備はこの鎮守府にはないだろう。まさかノコギリ――――考えるのを辞めておこう、身震いしそうだ。

 

「まあ? その横の娘さんにも原因の一端があるんですがね?」

 

 グラーフ・ツェッペリンはバツが悪そうに顔を逸らす。正直な所、そこまでは怒っていないが。

 

 俺の腕がぶっ刺さったぐらいでZ46に届かないような勢いでもなかったし、元より寸止めのつもりだったのだ――――と時間を置けば冷静に判断できた。

 要するに、俺は水を刺しただけだ。

 

「その節は本当に申し訳ない、無辜の人間に危害を与えるのは流石に此方に非がある」

 

 その雰囲気に似合わない律儀そうな口調。

 

「腕がぶっ飛んだわけでもないし特に追求はしないよ。それより――――アンタの名前は?」

「あぁ――――シュテルネ。こっちでも有名かな、私の名前は」

 

 思わず口が空いた。あまりにも予想外な名前だったのだ。

 

「え、あの――――世界最初に人型セイレーンとやりあったあの?」

「星の女、とか呼ばれてるらしいね。シュテルネ自体が偽名なんだけどなあ……」

 

 シュテルネ――――ドイツ語で星か。昔知り合いがそんな事をカッコをつけながら教えてくれた。

 

――何か一時期ニュースになった。何でもこのシュテルネ本人がやりあったらしく、都市伝説ではその時にセイレーンの血を浴びて半分化物になっただとか、戦闘で失った部位をセイレーンのもので代用したとかいうのもある。

 

 それからも最初は色々な報道がなされて、彼女の動向は注目されていた時期がある。

 

 まあ眼帯はしてるが――――まさか眼を、なんてことはないだろうし都市伝説の方は唯のデマだろう。

 しかし重桜で噂が立ち、ニュースで追われるほどの有名人である。

 

「こりゃ凄い人と会う羽目になった。俺は平穏に安月給の安寧を求めてるだけなんだがな……」

「変な事を言う。ひーちゃんはまるで欲がないのか?」

「ひーちゃん? 俺は弟でも何でもないんだが」

 

 何で咄嗟に弟を思い浮かべたんだ俺は――――何かこの人から姉御肌の臭いがするからかな。

 

――弟という単語が相当ツボに入ったのか、ずっと笑っている。

 

「外人の私が言うのもアレだけど、ひーちゃんは言語センスがアレだな」

「そういうアンタは予想より背が低いな――――ああすいません、土下座でも何でもするんでワルサーP38を眉間から離してくださいお願いします靴だって舐めますから」

 

 何か190とかのヤベー奴を期待していたのだが、彼女の背丈は160ちょいが良い所。エンタープライズもそれくらいだった気がするし、それは女性基準なら実は高いのだが――――イメージで言うともはや巨女だから仕方ない。

 

 まあその顔で160ちょっとっていうと…………うん。

 

「アンタ普通に男寄ってこないか?」

「え!? いや、全く…………」

 

 急にしおらしくなってしまう。

 こういう事を言われ慣れていないのか少し動揺している。いや、もっと大人な人だと思って話を振ったつもりだったんだが…………。

 

 この人扱いが難しそうだな。

 

「ふーん、ワケあり20代…………っていうか何歳?」

「デリカシーの欠片もないな――――まあ良いや。27」

「年上だと? 若すぎる、逆に怖いよアンタ」

 

 行き遅れ系女性軍人。尚生きる伝説的扱いをされている模様。

 

――まあそんな無粋な質問は置いておいて。

 

「で、フィーゼちゃんの状況を教えてもらえるって事でいいのかこれ」

 

 軽く忘れかけていたらしく、彼女の右眼がキョトンとする。

 

――うーん? どうなってんだこの人、子供っぽいのかギャング気質なのかよく分からない。色々な属性をごっちゃにした感じがするな……。

 

「そうだった」

 

 何処と無く暗い顔付きになる。その瞳が見据えているのは俺の手でも、Z46でもなさげ。

 この人も何か有るのか。小野といい、指揮官はドラマがなきゃなれない決まりでもあるのだろうかね――――っていうか俺にはドラマもクソもなかったな。

 

 最近自分が指揮官だということを忘れそうになる。

 

「いつも思考回路が分からないって言われるから、私の生い立ちからになるけど構わないかな?」

「はあ…………もう何でも来てくれ。俺の適応力はメキメキ向上してるからな」

 

 何だ思考回路が分からないって。アンタどんだけブッ飛んだ軍人なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

――――さて、まずは何で偽名かっていう所からお話を始めよう。

 私は孤児だ。今でも名前もよく覚えてない辺鄙なスラム街で、スリをして生計を立てていたのが大体10歳まで。ちなみに当時は字も書けなかったよ、絵に描いたような捨て子ってわけ。

 親の顔は知らない。さぞ絶世の美女が私を捨てたんだ、と適当に思っておいてくれ。正直私自身は出自に興味が無いんだ。

 

 10歳の、9月だったね。金持ちそうな厳しい顔付きの男から財布を盗った――――此処で人生が狂ったんだろうさ、多分。

 そいつの名前は――――ああ、どうでも良かったね。取り敢えずハンス・ウル――――何だっけ。そんな感じの伝説の軍人の家系の男だったらしい。

 名前を覚えてないのかって? 最近は名前はシュテルネだけで通すからね、どうでも良いことはすぐ頭から抜けるんだ。

 

 私はすぐに取っ捕まえられた、ミスはなかったんだが男の動きがあまりに速かったんだ。

 一応当時は有名なスリで通ってて、自分でも運動神経と瞬間的な判断力には自信が有った。自分を超える奴が居ることに驚きだった、重桜で言う所の『井の中の蛙大海を知らず』ってやつかな。

 そして言われた。

 

【貴様の力をマトモに活用できる場所がある】

 

 すぐさまこう答える。

 

『飯は有るのか』

【無い方がおかしいと思えるくらいには生活を保証しよう】

 

 契約は数秒の間に成立。私はソイツの養子として大体22ぐらいまで生きることになる。

 

――え? 地獄だった、何がと言うかクソッタレな人生がもっと濁っていった。

 ほら、今でも頭数が揃わないから陸軍って人間で構成するでしょ? アレに入る予定だった、確かその家系の名を知らしめた軍人は空軍だったんだけど、まあ艦の艦載機に勝てっこないわ。

 

 つまり旧式の軍人。女が入るなんて私もどうかなって今でも思うんだけど、残念ながら私の陸軍将校での成績は実技筆記ともにトップ。世の中変なことも有るもんだよ。

 途中までは同時進行で凄まじい初等教育からの追い上げを家でされた。辛かったけどマトモな教育が受けれるのは、正直ちょっと嬉しかった。それに頭の出来は悪くないみたいで、何だかんだ環境には慣れた。

 

 ああ、勿論男だらけの環境で色眼鏡は絶えなかったね。まあそれはどうでも良い、結論だけ言うと『実績で捻じ伏せた』、それだけ。私は傷つきもしなければ考えるところもなくただ相手が勝手に僻んで、勝手に諦めただけ。

 告白されたか? 何でそういう事ばかり聞くかな…………ま、まあ有る。私は興味ないから全員振ったけど。

 

 そして私が陸軍に入るべく日々を走っていた間に、残念ながらその養父と亀裂が入ってた。

 というのも大層な話じゃない。ソイツの持論が気に食わなかった。

 

『軍人とは国の道具だ。我々は道具として磨かれ、道具としてこの生命を全うするのだ』

 

 それが大嫌いだった。っていうかアイツもそう思うのは勝手だけど私が嫌いな考えなのは分かってるだろうに。

 何せ金銭的自由のために言うことを聞いてるようなものだ、元より自由とか自己決定を求めていたのにそんな事言われちゃやる気が失せるに決まっている。

 

――それで、まあ陸軍をそこそこやった頃に失踪した。私は道具じゃなくて、道具を使う戦士の方がまだマシだった。

 私は特別頭が悪いわけではないけど、生きる場所は動物的な生死を賭けたりする類の場所にしか無いと確信してた。人生もそういう風になったし、私自身それが向いているだろうと思えたから。

 

 それで評価をしてもらえる軍は嫌いじゃなかった。無意味に他人の物を奪い取ってはそれで生きるだけの10歳までよりよっぽど生きてる心地がして、生き甲斐を覚えて、ついでに言えば生きる理由になってると思ってた。

 

 だけどあの養父は駄目だった。思想がかけ離れすぎてて、アイツの手元で生き続けるのは無理だと見切りをつけた。アイツもその気配は気づいてたみたいで、それこそ『道具としての価値』の無い私は放置された。

 

――勿論路頭に迷った。そりゃ仕事も同時になくなったからなあ、幾らそこそこの成績で入ったと言ってもそんなに長く勤めてなかったのも有る。逃げ出す時に持ってた貯蓄なんてすぐスッカラカンだよ。

 

 で、また違う軍人に拾われた。どうやらソイツは私に惚れたらしい、一目惚れだそうだ。バカじゃないのかと罵ったが

 

『愛にバカもアホもない。好きなもんは好きだ』

 

 って言い切られちゃって。流石にどうしようもなくなってずるずると家に転がり込んだ。

 今? 今は――――――死んだよ。戦死。

 

――こっからは大きい声では言えないような手続きを重ねて軍人に戻ったわけだが、抜き打ちで入った指揮官の適性試験に引っかかると来た。

 前まではその適正とやらはゼロだったのに、突然湧いて出た。ちょっとびっくりはしたけど起きたことは仕方ない、重桜と同じで適正があるなら殆ど強制連行なのも有るし。

 

 

 

 さて、もう私の話は良いだろう? 私もこう自分のことをおおっぴらに話すのは恥ずかしいんだ、あんまり良い生き方だとは思わないから。

 それで指揮官になって、実績をそこそこ重ねてそこそこの地位について。そんなぐらいでグラーフちゃんとも出会ったんだがそれはまた。まあ興味があるって言うなら話すよ……。

 

 こういうわけでいよいよ本題。Z46――――ごめんごめん、フィーゼちゃんだったね。あの娘に会った――――遭遇した、エンカウントした。そんな感じ。

 やっとここ半年ぐらいの話に戻るよ。

 

 ひーちゃんも知っての通り、人型セイレーンを撃退した私は名実ともに英雄――――みたいな扱いをされた。偶々な部分も大きかったと思うから正直、飾り立てられた()()()()()()()()だよ。

 まあそれでも一応は実力がないわけでもないから手に入れた地位で戦力を整えて、後は勢いで駆け上がった。実力は名誉に追いついて、有り様は虚像を掻き消すほどになった。

 

 勿論膨張していた。私だって人間だ、そんなものだよ。

 私は戦うことで生きる意味を見出した。それは世間に評価された、だから自分よりそう在ることを強いられる艦は尚更そう在るべきだと思っていた。

――思っていた、だよ。今は思わない。

 

 フィーゼちゃんは強かった。模擬演習は単艦で駆逐艦三隻を相手取って勝利した、対空演習では航空機は残らなかった、艦隊運動に混ぜればまるで指揮棒に従う演奏家の如くピタリと動きが噛み合う。それには勿論理由が有る。

――記憶がない故に、彼女は常に『覚醒』に近い状態だった。未完成艦故の特質だった、生まれた頃から潜在能力を引き出せていた。

 え、覚醒ぐらい知ってるんじゃないの? フィーゼちゃんの事を知っててそれを知らないって白々しい……。

 

――そして、配属されて一ヶ月で彼女は異常をきたした。それは艦としての異常だ。

 

『何故私は戦わなくてはならない?』

 

 最初はその質問から始まった。指揮官をやっていて初めての質問だった。

 

『セイレーンは本当にただの敵なのだろうか?』

 

 私は口を噤んだ。答えのない問いに、懸命に答えることすら放棄した。

 艦に私の個人的意見なんて教えて、納得するわけがない。そう思ったから。

 

『私達の正体は何だ?』

『この戦争に勝った先に我々はどうなる?』

「何故」

『どうして』

『何で』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私に名前は、無いのだろうか……』

 

 嫌気が差した。分かってる、分かってるんだそんな事って頭の中だけで叫び続けて、言えないから唇を噛んで口はいつも噛み傷だらけだった。

 

 それは解決するべき問題だ。私は逃げてはいけない、善処しなくてはいけない。

――でも何も出来ないじゃないか! 適当なことを言って言い包めてそれでおしまい!? それって道具と何が違うのよ!

 認められなかった。自分がやりたくなかった『道具として生きる』事を強要しているなんて事実に絶えられるほど頑丈じゃなかった、英雄じゃないから。

 戦いに自分を見出して欲しい――――自分勝手な価値観を押し付けた。

 

 そんな子供みたいなことばっかり頭で考えて、彼女を見る時の私の目は多分、虚ろになった。

 どんどんフィーゼちゃんの成績は落ちた。段々と言うことを効かなくなった、暴れるときだけは異様な能力を発揮するようになった。

 

 参ったさ、権力の濫用で多くの指揮官に『命令』させたけど聞きやしない。ついでと言わんばかりに私も作戦がずさんになった、ミスも増えた。

 やってられなくなって、Z46を閉じ込めた――――今回はそう呼ばせて欲しい。今の彼女とは多分、別のものを私は見ているつもりになっていたから。

 

 しかし放置していては軍に文句を言われる。私は仕方なく――――――今、此処にやってきてる。

 

 

 

 

 

 

 

「どう? 向き合うことも出来ない卑怯者が英雄なんて、それこそハリボテどころの騒ぎじゃない」

「詐欺だ、とんだ詐欺師だよ私は」

 

 段々と自嘲的になった口が、漸く自傷を辞めた。

 

――俺は他人だ。他人だからこの人がどういう苦しみ方をしたのか、客観的にしかわからない。

 それは誰も悪くないとか言えばいいだろうし、アンタは頑張ったとか言ってやるべきなんだと思う。眼の前の小さな少女のような彼女に今必要なのは、理屈付けだった。

 

 でも、それは出来ない。代わりに

 

「…………辛かったな」

 

 とだけ答える。それは誰にも否定できない事実だから。

 俺はこの人を正しいとは思えない。仕方ないと同情もしない。だけど、辛かったんだろうなとは思う。それだけは俺が誠意を持って伝えられる言葉だ。

 

 別にこの人の行動は、如何なる事情が有っても俺はやるべきではないと思う。だから庇えないが、辛かったのは間違いない。

 

「そう?」

「アンタ自身が辛いって叫びながら喋ってる風だったし、俺が同じ立場でも辛いって言うから間違いない」

「慰めのつもり?」

「違うね、それは事実だ。慰めなんて主観的なプロセスを俺は挟んじゃいない」

 

 それに、この言葉が今俺という存在に出来る彼女への最大の後押しだ。

 

「それで此処に幽閉しながら船でやってきてる最中にぶっ壊されたってか?」

「そんな感じ。まさかサーベル一本で艤装を回収された挙げ句、船を半壊させられるとは思わなかったけどね」

 

 力なく笑う。何だか最初に見た時より彼女の顔はくたびれているような気がした。

 

――全く、碌でもない世界だな。ほんと。

 小さな幸せも奪われるし、理不尽は唐突に突きつけられるし、楽しいことは嫌なこととハッピーセットだ。言ってやるとくそったれ、やってられないにも程がある。

 

「何か、話し過ぎた。ごめん」

「別に良いよ、俺は暇人だ。指揮官の仕事から逃げる口実にもなるし悪くない」

 

 紛れもない事実を言ったつもりだったが、小さく笑われる。

 

「嘘が下手だね、ひーちゃんは」

「いや、結構大マジだぞ」

 

――笑っている顔は、やっぱり少女のままで止まっているような気がした。

 環境に潰されて突貫工事で大人になって、生き甲斐を見つけたと思いこんで生きるやつ。俺のイメージを纏めると、まるで彼女まで小さい子供だった。

 

 全く、善人は早死にする。出来れば長生きして、生きていたことを後悔しない何かを見つけて欲しいものだ。

 

 

 

 

 

「ああ――――よっす、元気だぜ俺」

 

 放置で医務室を出るなり瑞鶴が居た、出待ちか?

 さて、テンションも戻ってきたし普通に行こう。

 

 完璧にトラウマを掘り抜いて意気消沈気味のシュテルネさんは放置した、いや俺はなんて言ってやれば良いんだよ分かるわけ無いだろ。

 俺なんてアレだぞ? 仕事したくないーって喚きながら飯作ってるんだぞ? リブしてるワールドがディファレントだ。こういう時はそっとしておくって奴だ、多分グラーフが何とかしてくれる。仮にも秘書艦だし。

 

「…………何だ、生きてたんだ」

「お前がボロ泣きで俺に抱きついてたという情報は握ってるんだぜ?」

「ちょ、誰よそんなデマを流したのは!」

 

 君より圧倒的にエラーイお方だ。

 

「抱きついてないし!」

「泣いてたのはホントなんだ」

 

 軽くからかったつもりだったのだが、瑞鶴は本当に涙目になる。

 

――アレ、これ俺また日本刀でハラキリされかける? それは嫌だ俺は死ぬなら膝枕されながら美少女に囲まれて死にたい!

 いやそこまでじゃなくていいから老化とかそんな苦しくない病死とかが良い!

 

「…………当たり前でしょ」

「――――はい?」

「当たり前じゃない!」

 

 唇を噛み締めて、手を強く握って涙を堪えて。

 始めて見た姿だった。俺はそういう奴だと思ってたし、強いんだろうなあとばかり思っていた。

 

――普通に泣かれて、俺は普通に困惑した。

 

「一息ついたと思ったら急に倒れるし、血は一杯出るし!」

「心配しない方がどうかしてるわよ!」

 

 怒ってるのか泣いてるのかもよく分からない。本当に切羽詰まると誰でもこんなものなのはよく知っている。

 

 ただ、あんまり想像してなかったと言うか。俺って、そんな重要度が高いものって認識がないんだよね。

 何でってそう立ち回るから。理解者ヅラした薄っぺらいやつには見えるかもしれないが、根本的に誰かに必要とされたりかけがえのない物とは思われない。

 

 そう思われても困るのも有るし、俺はそういう人間になる才能に欠けるからだ。

 今更な話だが、俺は普通の人間と言うかとりわけ利己的な部類だ。誤解は利用するし、時には誰かを捨てる日もやってくる。

――それを見透かせないほどの馬鹿ではない、と思ってた。

 

「おいおい、泣くこたぁ無いだろ」

「有るわよ! 馬鹿!」

 

 明らかに自分の顔が引き攣っているのが分かった。

 多分これから、相当的はずれなことを言うんだろうなあ――――他人事のように頭の隅がぼやく。

 

「泣くほど重要度が高い人間か? 俺」

「重要度とかそんなんじゃない」

「じゃあ何だ? 顔?」

「馬鹿」

 

 今日はバカバカと手厳しい日だ。日々IQが下がっている自覚は有るから許してくれよ。

 

――どういう顔をすれば良いのかもわからない。まごついて顔を逸らしそうになると、すごい剣幕で詰め寄られる。

 琥珀の目に映る景色も、唇の質感も、吐息の様子さえはっきりと見える距離。幾ら何でも近すぎる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

――カポーン。風呂場の桶でもぶつけられたような音が頭に響いた感覚がした。

 ああ、言ってたなみたいな。物語に直す所の何話前の事だったろうか、着任の二日目ぐらいにそんな事を言われたな。

 

 うん、確かにそうだった。そりゃいかんな。

 

「あぁ――――――そういう事ね、悪かった」

 

 誰であれ、いきなり居なくなられるのに極端なトラウマが有る。

 まああの史実じゃあな。

 

「何か誤解してるみたいだけど、相手が誰でも言うわけじゃないからね」

「は?」

「――――――もう、察し悪い!」

 

 忙しなく怒鳴られて頭が常にアースクエイク。俺はひこうタイプになりたい。

 

「指揮官だから言ってるのよ!」

「はあ、そりゃあ司令塔居ないと――――」

「そうじゃなくて、アンタ個人!」

 

 んなアホな。俺は好感度50を永久キープしてるつもりだったんだが。

 

――俺なんかしてやったっけ? いきなり掃除始めて、次の日倒れて無茶して心配掛けて、落ち着いたと思ったら急にヘコミだして、そんで仕事をするわけでもなく幼女を拾ってぐうたらぐうたら。

 

 いや真面目に好感度上げるポイント無かったぞ?

 

「いやいや、何で俺?」

「何でもへったくれもないわよ、何となく」

「お前は動物か」

 

 怒るのにも疲れてきたのか、今度は嗚咽を漏らし始める。まあ怒ってる時は出ないだけだからな、そういうの。

 

――うーん? 結構客観視してもそこまで好感度上がる要素あるか? 仕事はしないし、何か特段突き抜けた良い所も(あるかどうかは知らんが)見せたわけでもなし。

 ぶっちゃけ部下と上司じゃないのか?

 

「俺何もしてねえじゃん、何処でそういう感じになるわけ」

「何処って――――――何処だろ?」

 

――まさか『命令』の効力とか? 都合のいい人格になるって小野が言ってたもんな。

 俺は心配されたい人種だったのか、今更自分を見つめ直してるけどこれどうなのよ。っていうかこの能力の範囲広すぎるな、どれがどれだか真面目に分からん。

 

「お前、俺が性格良いと思う?」

「全然」

 

 ぐさ。キツイこと言うぜ。

 

「何か俺がお前に一生懸命なんかした?」

「全然」

 

 してないな。

 

「じゃあお前にとって泣くほど居なくなって困る男か? 俺」

「…………うん」

 

 何でだよ。

 

「いや真面目に理由聞いてんだよ」

「えぇ? 何ていうのかな、こう――――」

 

 手でよく分からん物体をこねるような動作。何だお前、パン作りにでも手を出したか?

 

 結局よくわからなくなったらしく、頭をくしゃくしゃと掻いてキッと俺を睨む。

 

「何やかんや一緒に居る内に情が湧いたのよ! 多分!」

「うえー夢も希望もない理由だなオイ!」

 

 何、アレじゃん。「嫌いな同僚でも急に居なくなると寂しい」的なレベルのやつじゃん、一瞬期待した俺が馬鹿だったね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――待て、()()()()()()()()()()って期待してたのか? 何かおかしいな。

 期待してるんならそうなるんじゃないのか? 小野の話が合ってるなら。

 

「…………アイツ、もしかして俺に何か嘘を吹き込んだか?」

「急に何の話?」

「結構重要な話」

 

 多分『命令』という概念は存在する。フィーゼちゃんが明らかに自分の意志と違う動きを見せたのははっきり見た。

 

――だけど、何か違うな。小野が俺に教えた情報は、()()()()()()()()

 でも何が違うんだ? っていうかこれを究明できるのか?

 

「……まあ後でシュテルネさんに聞いてみるか」

「え、何を?」

「コッチの話だ――――まあとにかく、もうちょっと薄情になれ。そんな性格じゃ外に出た時に保たんぞ?」

 

 余計なお世話と怒られた。

――本人が良いなら構わんが、俺みたいな普通のやつにそう真面目に接してると気が狂うと思うがなあ……。




シュテルネ。美味しいキャラ設定の塊。行き遅れ最強系軍人。ぶっちゃけオリジナルの主人公の見た目を使いまわした。
オリキャラ多いのはタグ追加案件ですね…………っていうかしとこ。序盤と路線が違う? 正直5話ぐらいからこういう予定だった。

ちなみに断言しておきますがサトーは誰ともくっつきません。まずその関係に発展しかけることもありません、大丈夫だ皆の味方だぞアイツは。
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