ハリボテの指揮官   作:杜甫kuresu

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地の文のドイツ語表記にはルビで日本のポピュラーな表記入れてるのでどうぞ。
ドイツ語使いたくなかったけど常用英語とかをそのまま使えなくて…………。
喋る時は通じやすさを考慮してるって意味づけできるのだが。

最近またペースが戻ってきたね。自分で言うのも何だけど早くない?

あ、今回結構重要な回だと思う。じょうほうりょうすごい(こなみ)。


十三話

「荷物持ってきたし、今日からしばらく此処に泊まるよ」

「はあ!? 帰れ!」

 

 夜の廊下にサトーの発狂気味の絶叫。もう寝たらしいしズイカクとかに迷惑じゃないかな、それ。

 

 其処まで言うこと無いじゃないか、別に部屋に押しかけると言ってるんじゃないんだから。

 ご飯美味しかったしね、丁度ホテル代ケチりたかったのも有る。安い所に泊まるって言ったんだけど国の方から「お前それは地位的に勘弁してくれるか」と言われちゃどうしようもない。

 

――別にそれを気にするような国民性じゃないし、Medien(メディア)で私が変わり者って話は伝わってる筈だけど。

 

「良いじゃないか、美女が増えるわけだし」

「自分で言うなっていうか俺は平穏に低月給になりたいんだから帰って! お金あげるから!」

 

 相当だなあ。まあお金なんて腐るほど有るしそれで引き下がらないけど。

 

――人畜無害な空気感は有るけど、何だか変だ。どうやらサクライのお気に入りのようだけども、アレがマトモに人に肩入れするなんて事自体が気味が悪い。

 それに持ってる情報量が着任して一ヶ月の其れとは思えない。

 

 危険とか不穏とは違う。明確に()()()()()()()()()()()()()()()()()というか。見えてる世界、なのか本当に生きてる界隈が別なのかは分からないけど。

 

「まあまあ、コネは持って損はないよひーちゃん」

「そのコネを使う機会自体を減らしたいんだよ俺は…………」

 

 ホント逃げるなあ。とっくに雁字搦めに見えなくもないけど。

 オノを知ってて、サクライの支援を受けてる状況自体が相当危険なんだけど……。まあ、変に情報を出しすぎても駄目か。

 

 反応も読めないし。話を聞く感じだと面倒事が嫌みたいだけどフィーゼちゃんを普通に保護してたり立ち回りが下手というか奇妙というか。

――これがワザとやってるのか、単純に無知なのかすら不明瞭。面白いから別に良いけど。

 

「フィーゼちゃんを今すぐ連れて帰るのも色々と酷だしね、また嫌われたら困る」

「――――? いや、別にアンタのことを嫌ってるって感じには見えなかったが」

 

 嘘をつけ。食事中も目を逸らされたし。

 まあ散々な扱いをした事自体が消えたわけじゃない。記憶喪失とは言っても印象ぐらいは頭の隅に残ってるだろうし。

 

「食事中はグラーフさんが必死に話題作りしてたような気がするけど…………」

「あの娘の必死とかそうじゃないとかは正直私はよく分かんない」

 

 私が言うのも何だけど雰囲気が他と違いすぎる。つまんなそうにバンドの事を喋ってるなあと思ったら後でオイゲンちゃんから

 

『いや、アレ凄いお気に入りみたいだけど』

 

 って言われたこと有るし。何考えてるのかちょっと本気で分からない。

 

「喋る時だけ足とか手を組み直したり動きが忙しなかったし、話題選び自体も二人共参加できそうな感じのじゃなかったか?」

「へえ、そういう所に出るんだ」

 

 よく見てるなあ、というか私が見てなさすぎかもしれない。

 軍事的な事以外はからっきしだからなあ、父上殿もマトモに社交術は仕込んでくれなかったし。

 

――まあ、悪い人ではなかった。私に汲み取れない形だっただけで、アレはアレで懸命だったのだろうというのは分からなくもない。

 合う合わないなんてどうしようもない。私はどうしても合わなかっただけ。

 

「…………何か達観してる所とそうじゃない所が極端だよな、アンタ」

「よく言われる」

「所々が10歳で止まってるんじゃねえか?」

 

 大体当たり。あの日から頭自体は多分止まってる。

 

 何だろうなあ、それこそ形だけの知識とか戦闘とかを急ぎ足で詰め込まれた分の皺寄せみたいな感じなんだろうか。

 思えば軍人になるまでの記憶は酷く薄っぺらい。机の感触よりマグナムの感触の方がハッキリ思い出せる程度。

 

「まあ27だろ? 男は見つけようぜ」

「そういう話は年上に向かって辞めなさい」

「年上、年上ねえ…………」

 

 明らかに同年代かそれ以下だと思われている。何でだろう。

 

――というか本題を忘れてた。

 

「そうだそうだ、フィーゼちゃんなんだけどしばらく預けていい?」

「いや、別に良いんですが……」

 

 ああ、こっちの事情も考えてるつもりなのか。

 まあ機密情報扱いだしね、重桜の普通の指揮官に預けるっていうのはパット見かなり頭のネジの飛んだ行為に見えるのは間違いない。

 

「どっちみち、記憶喪失が何とかなるまでは連れて帰っても問題なのよ」

「懐いてるみたいだし、サンプル提供さえしてくれればそこまで問題は無いよ」

 

 というかむしろコチラの方が対外的に都合がいい。

 何せ最近ちょいちょい問題になってる『命令』を受け付けない艦、に対する打開案のProbe(サンプル)という扱いになるわけだし。

 

 実際記憶喪失のせいなのかよく分からない所も有る。

――まあ、そこも探ってみようか。

 

「ねえ、着任して一ヶ月ちょっとだって言ってたよね」

「ああ、まあそれぐらい」

「他に艦は居ないの?」

 

 ずっと気になってたんだよね、『あまりに数が少なすぎる』というか。

 性急に頭数を揃えれば良いものじゃないのは分かる。指揮官と艦のKommunizieren(コミュニケーション)も大事だからね、ぽこぽこ数を集めたら指揮官が胃に穴を開けかねない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。数週間もしたなら一艦隊分ぐらいの配属はされてるはず。

 一体何が理由でこうなってるんだか。

 

「居ないけど」

「着任予定は?」

「櫻井さんはまだはっきりとしないって」

 

 これもおかしい。確かに建造は安定する作業ではないけど、ある程度までは日程は決められるしこんな遅いはずがない。

 着任させる艦が恣意的に選ばれている――――しかも、選ばれる理由は今の技術だけではあまり制御できてないのかもしれない。

 不定期ってことは何か特殊な艦の可能性が高い。

 

 要するに、サトーに回される艦には()()()()()()()()()()()()ということになる。本人がわかってないんじゃ確かめようも無いんだけどね。

――サトー自身が、じゃないんだなコレ。彼の後ろで何かが蠢いてる。

 

「ふーん。っていうか演習とかどうしてるの? 頭数が足りないよね」

「え? 毎回免除の手続きみたいなのに判押してる」

 

 思わず顔に手を当てる。

 あちゃー。これ本人がよく分かってないやつか、困ったなあ。

 

「何だよ、おかしなこと言ったか俺」

「だいぶね」

 

 どこまで教えて良いのかな、何か下手に教えたら面倒事が起きそうだ。

――まあ取り敢えず、普通は知ってる筈の情報だけは提供しておこうか。これは普通に善意のものとして。

 

「あのね、重桜の演習って基本的には義務化されてるのよ。だから免除も何もない」

「でも数が足りない事もあるんじゃないのか?」

 

 結構基礎から分かってないのか。サクライ、が上司なのかな。

 アイツが敢えて教えてない?

 

「あのね、だから此処は鎮守府として運営されてるのが認められる頃には最低限の頭数は揃ってるはずなの」

「そもそも数週間経って二隻だけ、っていう状況自体がおかしいの」

 

 大体フィーゼちゃんを除いたら前衛艦が居ない状況だし。普通前衛も一隻は配属してる。

 

――段々と奇妙さに気づいてきたのか、サトーの顔付きが気分の悪そうなものへと変わっていく。まさか誰も教えてあげてないの、これ。

 

「そして鉄血の私でも知ってるような事も書いてない資料を渡されてるのもおかしい、っていうか最低限の指導は民間採用でも入る筈だし」

「纏めるとね――――――ひーちゃん、面倒事に最初っから巻き込まれてるんじゃない?」

 

 平穏も何も有ったものじゃないね、これ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事になるわけだし。

 

 何かふらついてる、ストレスに弱すぎるねホントに。

 

「冗談だろぉ…………?」

「一応コレで親切心のつもりだから冗談でも嘘でも無い」

 

 嫌いな相手ならともかく、サトーは普通に嫌いじゃない。ちょっと逃げ腰は気になるけど、悪い人間でもないし。

 そもそも嘘を言っても私に何のメリットもないというか。

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事だよ…………」

 

 部屋に戻って適当な書類を眺める。手にとったのは「出撃及び委託の免除手続き」の書類。

――言われてみれば適当にスルーしてきたが、「免除」という文字のついた書類を多く見かけた気がする。

 

 確かにおかしい、数週間も経ったのに此処まで免除を受けるような鎮守府がそうそう有るはずがない。

 俺は何もしていないのに、艦は少ない。

 

「っていうか、最初からおかしかったのかもなあ……」

 

 言われてみれば最初から変だった。

 

――俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 二次創作で見たことが有る流れだからそうだと思いこんだし、実際当たったけれどそんな話は全く聞いたことがない。

 そんな重要なことを何の前情報もなしにいきなり始めるだろうか? そんな訳がない、大本営はこれ以上世間の印象を悪くしたいわけがない。

 冷静に考えれば俺の経緯は奇妙なところだらけじゃないか。

 

「ふーむ、どうするかね」

 

 椅子にもたれかかってくるくると回ってみる。景色が回転するほどに俺の頭も回転、急転、とうとう混乱。

 

――今更分かってどうすれば良いんだコレ。

 何となくでスルーしてきた事がどんどん山積みになっていた。サボり方を、間違えた。

 これは不味い、かなり。

 

 何故他の重桜の指揮官と会う機会が無いのかもそれで説明がつく。

 俺は何らかの形で差別化された特殊な運営をしていて、それが露呈するわけには行かなかったからだ。

 

 考えるほどに思考がぐるぐると回り続けるが結論は見えてこない。ただ降ってきた問題点を拾い上げるだけで俺はヒイヒイ言っている。

 

――突然ノックの音。

 

「どうぞ」

 

 しかしノックをするような礼儀正しい奴が――――。

 

「また椅子で遊んでる」

 

 瑞鶴だった。何だよ。

 

「フィーゼちゃんだと思ったのに」

「私じゃご不満ですかね!?」

 

 眉をヒクヒクとしながらこちらに歩いてくる。うわこわ。

 

「ノックをして入るなんて瑞鶴も成長したなあ」

「もしかしてバカにされてる?」

「いやバカでしょ」

 

 うわやめろやめろ。すぐ抜刀しようとするなお前は江戸時代の侍か。

 本当に抜刀されたことはないが、最近いよいよデンチューされる可能性が出てきてオジサン怖い。

 

――さて、色々カットして俺達の戦争が終わった頃合い。

 

「で、何の用だよ。夜更かしは美容の天敵って何か言うんじゃないの?」

 

 もう夜の11時だ。早く寝ないといよいよ美容がですね……。

 でも美少女って肌荒れるのかね、俺は荒れない説を推していきたい。だって夢があるから。

 

「まだ作業してるの?」

「そうやぞ、残業は無能の証拠。よく覚えとけ」

 

 知ってる、と半笑いで言い捨てられた。テメコラ。

 最近いよいよコイツ失礼になってきたな。そろそろ教育行っとく? 行っとく?

 

 クソ、種田梨沙ボイスじゃなければ札束で殴りたくなってるぞ。

 

「どうせまだやるんでしょ、なにか作ろっか?」

「お前天ぷら以外で作れるもん有るの」

「わかんない」

 

 よくそれでそんな事を抜かしよる。

 

 お妙さん顔負けのダークマターとか図り間違っても作るなよ。お前はそういう事を成し遂げかねない匂いがする。

 まあ、だが腹は減ったな。最近はチョコチッ○クッキーも食えてないから菓子も不足しておる。

 

「じゃあ何か、食えたら何でも良いよ」

「分かった」

 

 流れるような動作で扉に向かって歩いていく。

 

――まあ、こういう時しか言う機会無いな。

 

「なあ」

「何」

 

 うわ、素っ気な! まあ良いや。

 

「えーと、その、アレだ。いつも有難う」

 

 こういう時に言っておかんと冗談抜きでタイミングに困る。

 おい固まるな、何か恥ずかしいぞ俺。

 

――すぐに顔を引き締め直して、と思うと何だか諦めたような笑い顔で溜息をつく。

 何だか気落ちしたようにも見える表情は、暗に俺に尋ねて欲しがっているようにも取れた。どうしたんだ、何か有ったのか、とか。

 

「これぐらいしか出来ないし、ね?」

 

 出来なかった。俺は普通で、それで誰かの悩みに触れるのは凄く怖かった。

 漠然とした不安だ。何が不安なのかもわからない、でも其処に踏み入って良いのかを凄く躊躇ってしまうようなそれ。

 

 妙に淋しげな横顔のまま、瑞鶴は扉を締めた。

 バタンという音が妙に耳に残って気持ち悪い。アイツの顔が妙にフラッシュバックして嫌な気分になる。

 

――何だよ、それ。

 

「何か悩んでんならちゃちゃっと言えよな…………」

 

 まあ、俺も一緒か。

 全部正直に、なんて誰も出来ないもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり好きなんじゃないの、瑞鶴」

 

 いや絶対違う。もうそれを考えるだけで他人に見せられないげんなりした顔になるし。

――勿論一人でやったことのない料理をする気概もなく、コレ自体翔鶴姉の差金だったりする。

 

 まあ料理したかったのも有る、一人でやるのって妙に勇気がいるっていうか。レシピもないし。

 

「何というか、頼りない親戚のおじさんみたい」

「妙にリアリティが有るわね」

 

 自分でも思った。でもしっくり来る表現がそれくらいしか無いと思う。

 ぼんやりと手を洗っていると、要らないことばかり考える。

 

――最近は人数が増えた。翔鶴姉然り、フィーゼちゃん然り、あの鉄血の二人もそうだ。

 漠然と一人でも何とかなっているつもりだったけど、よく考えたらこんな事も一人じゃ私は出来ない。

 

「瑞鶴が一生懸命してる、それだけじゃ駄目なの?」

「え?」

 

 横に立っていた翔鶴姉にふいにそんな事を言われる。どうやら考えていることはお見通しらしい、今日の態度に出ていたのかもしれない。

 

――まだ気づいてないかもしれないけど、指揮官は()()()()()()()()()()。多分明日辺りに時計を見て凄い形相で走り回るんだろうなあ。

 右腕がしばらく動かないだけで済むと言っていたけど、それが私にとっては大問題だった。

 

 肝心な時に私は出遅れた。居なかった。今回は何とかなったけど、次もそうだなんて誰にも言えない。

――もし、次こんな事が起きた時に。私はちゃんと指揮官の横で、出来る限りのことをしているのだろうか。

 

 予想外だった。あの人に限って庇うだなんて、と少し驚いた。

 そういう事をする人だということが分からなかった。たかだか数週間、されど数週間はずっと横に居たのにそれが分からなかった。

 

「どうだろ、結果が大事じゃないのかな。結局は」

 

 作業に入った。翔鶴姉の指示に従って手は勝手に動いてくれた。

 

――凄く、心配だった。

 想像すれば分かるけど、血まみれの人間ってその見た目だけで正気を奪われそうになる。私は特にそういう経験がなかったのも有ったから、あの後はただあたふたして泣いてばっかりだった。

 翔鶴姉とグラーフ・ツェッペリンが応急治療を終えて、医務室に運び込んでいったその頃になってやっと「何もしていない」事に気づいた。

 

「そう? やったことはしなかったことより絶対的に価値があるけど」

「するのは当然だよ、それからどうなったかだと思う」

 

 これじゃまた目の前で誰かが居なくなる、それはこの一日でずっと頭の中で渦巻いていた。

 弱すぎる。心も力も足りない、目の前にいる誰かを守りたいだけなのに――――それも出来ないくらい、今の私はちっぽけで弱い。

 

 これで『グレイゴースト』に勝つ方が難しい。アイツはもっと色々なものを背負って、戦って、勝って、護って来た側なんだから。

 

「ストイックね、瑞鶴は」

「現実主義者なんじゃないかな」

 

 結局グラーフ・ツェッペリンは()()()()()()()()()()()()。でももしかすれば、私だけじゃそんな奴にすら一手が届かない可能性がある。

 

――もっと。もっと強くならなくちゃいけない。

 それが本分で、私に出来る唯一の事だから。

 

 

 

 

 

「入るよ」

「あいどうぞ、ってか気持ち悪いよお前」

 

 失礼過ぎる。

 まあとにかく、と瑞鶴は扉を開ける。珍しくペンを持って書類とにらめっこをしていたのだが、すぐに瑞鶴の方を向いて何時も通りの何だか覇気のない笑顔。

 

 アレは一応取り繕っているものらしかった。

 

「お、ホットケーキか――――って夜食には重いな……はは」

「良いじゃない、さっきもあんまり食べてなかったし」

 

 バレてたか、と頭を掻いて誤魔化す。彼は実際のところ、中々無理をして今も起きていた。

 

 アレだけ血がなくなった翌日なのだから体調が良いわけが無い。それは瑞鶴の目から見ても明確に分かるほどだった。

 

「別に急ぎの書類はないって翔鶴姉言ってたけど、何で今やってるの?」

「あぁ~、ちょっとな…………」

 

 適当にはぐらかすと、瑞鶴は不満そうな顔で書類に向かう彼を見る。いつまで経っても相談という言葉を覚えない佐藤をいい加減じれったく思っていた。

 

――まあ、私も一緒かな。

 全部正直に、なんて出来れば誰も苦労しないだろうし。

 

「それじゃ食おうかね」

「どうぞ」

 

 食べ始める彼を見ながら、瑞鶴はぼんやりと翔鶴のことを思い出す。

 一緒に来たら良い、と言っても気味の悪い笑顔で頑なに断られ、結局一人で来る羽目になった。何を期待しているのかあの姉は、と瑞鶴も少し呆れたものだ。

 

 仕方なくソファに腰掛けてウイスキーボンボンに手を伸ばすとすぐに鋭く制止の声がかかる。

 

「食うなつってるだろうに。休日にしろ、俺が面倒くさい」

「バレちゃったか」

 

 にへへ、と茶目っ気を見せながら笑うが佐藤の顔はげんなりとしている。あの日のことを思い出したらしい、アレはたしかに悪夢だった。

 

 食べるものもないのでウイスキーボンボンを物欲しげに眺めていると、突然瑞鶴の中に奇妙な興味が降ってくる。

――何を期待してるんだか、ね。

 

「ねえ、指揮官」

なんふぁよ(なんだよ)ほっほへーひくっへるんはへほ(ホットケーキ食ってるんだけど)

「私のこと、どう思う?」

 

 佐藤が吹き出しそうになるのを必死で抑えて、置いてあった水でホットケーキを無理に飲み込む。

 けほけほと咳き込みながら口元の水を拭った。

 

「何だいきなり、頑張る娘だな~くらいのもんだが」

「そういう意味じゃなくて」

「は?」

 

 佐藤は頭に大量のクエスチョンマークを浮かべながら改めて瑞鶴の顔を見る。

 

 いつもより何処か色っぽい表情に見えて思わず顔を振る。

――目の錯覚だろ流石に。

 それは流石に酷いと思うが。

 ゆっくりと瑞鶴が歩いてくる。何だか彼にはスローモーションに見えてちょっと気持ち悪さすら感じてくる。

 

「何、何怖いんだけど」

「ねえ」

 

 佐藤は一歩歩いてくる度に嫌な予感に心臓が爆発する勢いで飛び跳ねる。

――何だ、酔ってるのか!? 酔ってるんだそうなんだろお前ぇ!

 

 しかし火照っている様子はない。前回の様子とは全く違った。

 

「本気で聞いてるんだけど」

「ど、どういう意味ですかね…………」

 

 とうとう横に立たれる。佐藤は逃げようとするが、妙な空気感に毒されて足がうまく動きそうにない。

 さながら蛇に睨まれた蛙そのもの。毒牙が瞬く間に蛙に突き刺さる。

 

 ゆっくりとした動作で耳元に顔を寄せた瑞鶴が、妙に艶っぽい声で

 

「こういう意味」

 

 と呟く。

 いやに艶めかしい動作で佐藤に寄りかかってくる。

 

 ドクン。ドクン。心臓の音が聞こえ続けて何回だったろうか。瑞鶴の顔を横目でちらりと見るが、気味の悪い胡乱な表情のままでまるで何もしてこない。

 彼の返事一つでどうとでもなりそうな勢いが有った。彼もそう思った。

 

 ちらりと姿を見る。

 心臓がうるさくて、妙な高揚感を覚えて、そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 動揺しながら比較的穏やかな動作で肩を突き放す。

 

「や、辞めろっての! 冗談でも俺が本気になったらどうするんだ馬鹿!」

 

 顔を真赤にしながら佐藤が怒鳴りつける。

 さっきの艶美さ何処へやら、その途端に瑞鶴はいつものからかう時の笑い方に戻る。

 

「あれ~? 今一瞬本気だったよね?」

「ん、んな訳あるかあ馬鹿者ぉ!」

 

 佐藤が時間も考えずに怒鳴り散らす。相当動揺しているようだった。

――危なかったよ、佐藤の中の佐藤がヤバかったよ!?

 

 しかし彼は「絶対に手は出さない」と最初から決めているのでそれは無理な相談であった。

 

「もう一回言うが本気になったらどうするんだよ馬鹿! もっと自分を大切にしろって!」

「まさか指揮官に負けるほど私弱くないし」

 

 困り笑い混じりに言われて確かに、と佐藤は目を丸くする。

――だからってそういうことする!? ある意味信用してたのに!?

 

 彼の中での瑞鶴像がひび割れた。

 

「クソ、お前やっぱり翔鶴に似てる! きらい!」

「ごめんって~。冗談だからさぁ」

 

 しばらくこの問答が続いたが、もうお腹いっぱいなのでカットである。

 その日の夜は、結局二人で他愛もない話を続ける内に徹夜となったのがオチである。




このヘタレ(直球)
この程度の展開で描いてる最中顔が発火するかと思った。耐性ゼロ兄貴ですどうも。
いざ襲われたら瑞鶴しおらしくなりそう、その方が好き。

放置してきた「違和感」を吊し上げました。全部伏線ってオチ、リアリティ無いとかで読むの辞めたやつザマアミロ(何を言ってるんだ)。
何故艦が少ないのか。何故出撃どころか演習もないのか。何故佐藤弘は予想もしない流れで無理やり指揮官にされたのか。
11万文字に連なる壮大な叙述トリックみたいなもの。こっからが本番。急展開感有るのは技術の問題で、構想は1話時点で決まってました。伏線に関わる描写は「一切」書いてなかったので、多分話がガラッと雰囲気変わる。

サン・ルイと出雲どちゃ好き(直球)。8-4で止まってた海域攻略を突然再開して備えるくらい好き。
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