ハリボテの指揮官   作:杜甫kuresu

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書くのめっちゃ早い。自分で言うのも何だけどめっちゃ早い。前代未聞なスピード。
今回はメンタルブレイクしてもらおう。テンションの落差注意。しかも長いです。


五話

「はあ、デートするんだ。良かったね佐藤さん」

 

 朝一番に尋ねたら、扉を開けて一言目はこうだった。

 良かったねじゃないんだよどうすりゃ良いんだよと言おうとしたら現れたのがエンタープライズ。隣が騒がしいから起きたのか、それとも小野が起きたから起きたのか。

 

 どっちでも面白いね。

 

「ああ、艦と絆が深い場合は戦闘力も上がると統計も出ている。良いことだ」

「プライズちゃん、俺が言ったのはそういうことではない」

 

 エンタープライズさん軍人気質すぎません? 小野、ちゃんとこういう時の喜び方を教えろ。

 

――じゃなくて。老婆心を利かせてる場合じゃねえ。

 

「俺デート初めてなんだけど!?」

「知らんがな、好きにやりゃいいでしょ。おやすみ」

「待って下さい小野様ぁ!」

 

 扉を閉められまいとしがみつくと、顔付きが露骨に面倒そうに変わる。エンタープライズからは引かれたと思ったが、どうやらコイツもそういう事するらしい。まるで動じていなかった。

 っていうか指揮官が午前八時に二度寝をかますな。マイペース過ぎるぜお前。

 

「ダイジョブダイジョブ、美少女は相手が好きなら大体許してくれる」

「多分俺そんな好感度高くないです!?」

「アレで…………? 指揮官、彼は冗談を言っているのか?」

 

 お前らも大概やぞ。いや俺は違うけど!

 

「っていうか俺だってデート経験ないし」

「エンタープライズは!?」

「有ったら傷つくぜプライズちゃん!? 俺に一言言ってくれよ!」

「居るとは誰も言ってないのだが!」

 

 ちょっと顔赤い。その手の話題はエンタープライズはダメなんだ、ふーん。

 ふーん??????

 

 まあそれは置いておいて。

 

「エンタープライズ様! 何か俺にアドバイスを一言女子目線で!」

「様付けするのはちょっとやばいぜ佐藤さん」

 

 さっきのお前のうろたえ方も相当だっての。

 エンタープライズは朝から面倒事だと思っているのだろうか、溜息を付いて俺に呆れたように細めた目を向ける。

 

 ぶっちゃけ面倒なのは分かるよ。でも瑞鶴の中での俺の位置が残念だけど一応出来るオジサンか、常に残念なオジサンかになる分かれ目なんだよ!

 

「女性目線と言われてもな…………」

「取り敢えず、誠実に相手と向き合えばそれで良いのではないのだろうか?」

「失敗は誰にでも有る。瑞鶴も気にはしないだろう」

 

 圧倒的正論。

 

 仰る通りです何かすいませんでした。何か評価とか気にしすぎた俺がバカですねはい。自然体じゃないとね。

 

「じゃ、寝る。Good Luck.」

「私は発着艦訓練をしよう」

 

 この二人これでオッケーなの? 指揮官起きようぜ? 何でその異常事態に馴染んでるのエンタープライズさん?

 

――何というか、これでいいのかね?

 俺は無人になっていく廊下に取り残された。

 

 

 

 

 

「私服もクソダサしかねえまま昼じゃねえか!」

「貸すよ。プライズちゃんとのデート用だったんだけどな」

「有りもしない事実を言うのはやめてくれるか、指揮官」

 

 この人達、俺と瑞鶴以上にボケとツッコミが完成してるんだけど。書いてる人この二人を以前にも書いた経験がお有りで?

 

 あ、ZIKK君は現在艦載機整備中だゾ。また懲りずにエンタープライズに喧嘩売ってたみたいだけど不調が有ったのに気づいたらしい。

 一応冷静に喧嘩売ってるらしい。もうそれはただのチンピラだと思うが本人に言ったら怒られそう。

 

「えっとな、チェックの上とジーンズだけど良いか?」

「無いよりマシ」

「何が無いよりマシだよ、言葉に気をつけないと貸さないぞ?」

「ああすみませんすみません! 小野様ぁ」

 

 でも無難すぎるぜ。なにそれ没個性って思っちゃった俺は普通じゃないか?

――もしかして私の服、なさすぎ?

 その没個性に勝てる服がねえ。スーツばっかり持ってるがそれすらマイハウスに放置してるぞ。

 

「そういえば、指揮―――――あなたは何と呼べばいいだろうか?」

「豚で」

「プライズちゃんの口を汚すな痴れ者め」

 

 ご尤もで。でも呼ばれたさ有る、ネタ的な意味で。

 

「ヒロシで」

「クレ○ンしんちゃんかよ」

「了解した」

 

 でも了解されたから俺はヒロシ、ざまあみろイケメン。っていうか俺は何に勝ったんだ全然意味分からんなこれ。

――待って、美少女に名前を呼び捨てされる!? 責任とって結婚しなくちゃならんくなるな!?

 

「では、ヒロ」

「やっぱりサトーで良いよ!」

「ヘタレめ」

「うるせえ!」

 

 あっぶな。笑ってんじゃねえぞ小野ぉ!

 

――ゴタゴタしてる内にエンタープライズが早く要件を喋らせて欲しい、と静かにオーラを発している。何かすんません、俺達絡むと更に馬鹿になるみたいです。

 バカxバカでカオス。ギャグ作品の基本構図だよな、でも俺はギャグキャラじゃねえよ!?

 

「それでサトー、昨日瑞鶴と何かあったか?」

「俺何もやましい事シテナイデスヨ?」

「マジでしてないだろうから怪しい言い方しないでくれよ」

 

 まあしてないよ。

 だろうな、とエンタープライズが顎に指を当てて考え込む。知的? いえいえビューティフォー。

 

 瑞鶴は可愛いなあ、って感想になるけどエンタープライズはお美しいんだよ。分かるかこの微妙な美少女判定ラインセンサーの細かさ。

 細かすぎて伝わらないネタ選手権に出れるぞ。

 

「今日の彼女は何だか焦っていた」

「しきりに執務室の方を見ていたから、てっきりサトーが何かしたのかと」

「何でだろ」

「俺も分からん」

 

 分からんな。

――うん。何か分かった、アイツも初デート奴だ。

 

「恋愛クソザコ幸運空母瑞鶴」

「プライズちゃんもそうだぞ」

「なっ!? 何で私まで巻き込まれるんだ!」

 

 突然矢面に立たされたエンタープライズは何だか躍起になって小野に訂正を求める。

 なあ気づいてやれよ、それ多分好感度がラブの手前だと思うんだけど…………。エンタープライズ可哀相…………。

 

 

 

 

 

「という訳で買い物だ」

「うん」

 

 しおらしい、辞めろ俺まで緊張する。25歳で初デートとかもう動きが気持ち悪い予感しかしない。

 予算一杯、やること少ない。ちゃちゃっと済ませたらつまんないだろうから何かして帰りたい、でもデートしたくないなあ…………。

 

 瑞鶴は羽織を薄いフード付きの半袖に変えただけで配色も一緒。まあそれで余所行きになる、かな……。二次元のファッションワカンネ。

 

「ねえ、外出の許可はもらった?」

「もらったもらった、櫻井さんめっちゃ喜んでた。仕事ニッコリして引き受けてくれたしアイツマゾだわ」

「怖い人なの?」

 

 まあ俺が瑞鶴とそこそこ上手く行ってるのが嬉しいんだろ。櫻井さん的には直結で「瑞鶴を利用できる可能性」ってわけだから。

 まさか俺自体が方針に逆らう気満々とは思わないよね。

 

――もしかしたら単純に喜んでるのかもしれないが、あの人は俺の最後の敵なのが見えてるからな。あの人だけにはそういう意味で甘い見通しは立てない。

 甘さは害のない人間に向けるものであって、ラスボスに向けるものじゃねえ。

 

「ちゃんと食堂の人にも言ってる?」

「オカンかよ。大丈夫だって」

「そ、そう」

 

 緊張するな俺が緊張するだろぉ!?

 

 

 

 

 

 さて、電車に乗ってそこら辺の都市へ。今は海沿いの街なんて成立してないからね、すぐ砲撃飛んでくるなんてのが在り得るから。

 電車に乗るのに若干ドキドキしてる瑞鶴は良かったぞ。全部初体験ですもんね~、和む。

 

『え、これで良いの!? 通れるの!?』

 

 とか改札駅前でめっちゃ涙目で聞いてくるし、電車の中でも人が多いわけでもないのにしがみついてくるし。しがみついてくるのはね、正直オジサンドキドキして困ってた。そこはホントだよ。

 

 お前ら覚えとけ、転生者はそのハッピーな状況を味わう余裕がないくらいの臨場感を伴ってることがかなり多いんだ。

 ぶっちゃけ、そんな楽しめない。心臓バックバクで倒れるかと思った。

 

「よっしゃまずは遺書の書き方を先に買うぞ!」

「はい!?」

 

 いやだって通販とか使えなかったしさ。タイミング的に今なんだよね。

 真面目な話、俺あっさり死ねるギリギリラインで生きてるから早めに書きたい。

 

――にしても。

 街中で遺書の書き方とか言い出しても誰も振り向かないの、やっぱ無関心の気味悪さが滲んでるよなあ。

 俺こういうのに振り向いて「何だアイツ!?」とか知り合いに喋るタイプだったから逆に変な感じ。

 

「あぁ~、本嫌い? じゃあ俺がぱぱっと行って適当に買ってくるけど」

 

 本が好きって感じしないしな。スポーツ用品買いに来てる時点で見えてることだが。

 別に書き方が分かれば良いんだよ。遺族が遺書の解釈違い起こして金がメチャクチャになったり、遺産で荒れたりするみたいなのが怖いだけだし。

 腐女子界隈の受け責めの話みたいになってるけどアレよりはもっと慈悲がない進行だからね、遺産争いとかそこらへんって。

 

 遺産は姉貴に渡す予定。あの人ちゃんと使い方を知ってる人だし、俺より正しい人だからな。

 

「い、いや本屋と言うか遺書書くの!?」

「そりゃ(条件重なって)こっちだって(内輪揉め巻き込まれそうだし)命懸けのお仕事ですよ」

「言いたいことは分かるけどちょっと私信用なさすぎ無い!?」

 

 いやいや、グレイゴーストさえ絡まなければ良い娘だと思ってますよ。絡んでるから良い娘じゃないね。

 

 実力も相手が公式主人公だからちょっと苦戦するだけだろうし、これから成長してくれると信じてるよ。いざとなったら櫻井さんから俺を守ってほしいという下心も有る願望だが。

 

「俺は所詮人間、瑞鶴も所詮一隻の艦。保証なんて無いからね」

 

 櫻井さんにも言った気がするが、大きな事では台本と配役が有る。

 配役が有るって事は代わりが居るってこと、代わりが居るってことは代われる程度の役割ってこと。

 

 俺もそう、瑞鶴もそう、櫻井さんだってそう。多分エンタープライズや小野だって一緒。

――だから代わられる前に、思いつくことはどんどんやってくべきなんだよ。

 後、代わりが居るようなキャストだからこそ大事にするべき。あっさり居なくなるのに、その本人はたった一人しか居ないんだから。

 

 ピンとこない? エ○ァのレイちゃん思い出せ。代わりはいるものってな。

 

「世の中何が起きるか分かんないし、取り敢えず行動は前倒しでするもんだ」

 

 転生したりしたら大変だぞ? 前の両親の顔が思い出せない夜は、正直ちょっと泣きそうになる。

 そんなもんなんだよ。

 

「…………その遺書、数年以内に開かれないと良いけど」

「バカやろう俺は生き残るぞお前、ってかお前が守るんだよ」

「もちろん頑張るけどさ」

「頼もしいこった」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、小野也人さん」

 

 櫻井ボイスの胡散臭い声が執務室に木霊した。帰りてえ……。

 お二人さんがデートでイチャイチャしてる中、俺は()()()()()()()と会う羽目になっていた。

 

――マジで帰らせるかプライズちゃんとデートさせろ。私服見たい、お洒落なんだろうなあ……。

 

「今回はわざわざユニオンよりお越しいただき有難うございます」

「……そっか、俺も客人だな」

 

 つまんねえの。一応生まれ育ちは殆ど重桜なのに、今は敵になりかねない状況なのか。

 

 まあ国に情は無い。人殺しをするはめになるのはご勘弁願いたい所だが、別に倒閣とかその程度ならどうでも良い。上の人間は勝手に潰し合ってれば良いのだ。

 

――しかしだな、コイツは違う。

 

「手違いでこの様な所に滞在する流れとなってしまいましたが、私は貴方がたを歓迎しています」

「それは彼も同じことでしょうからご安心を。危害を加えようなどという気もございません」

 

 胡散臭いけど危害加えられたら即戦争だからな。俺自身、慎重に行動しなきゃならない。

 

 佐藤さんも不憫だよなあ、コイツの差し金ってわけか。話は聞いてたが本当に黒幕櫻井なボイスを発してるし胃に穴が空いちまうぜ。察してプライズちゃん帰ってきてくれないかな。

 

「俺の目的分かってます? 櫻井さん」

「勿論。この国の研究を調査しに来たのでしょう?」

 

 うげっ、速攻でバレてる。やっぱ黒幕櫻井だ、一応「艦隊運動の視察による指揮官の認識改善」みたいな理由のお膳立て有ったのに。

 しかもコイツ、他の国とも妙なコネクト持ってるしよく分からんのだ。

 

――若造って感じはするんだが、能力は有る。問題はその過剰搭載された能力という兵器が、一体どこに向けられるかだ。

 使い方の分かってない力は、実に厄介だ。

 

「セイレーンの能力を取り込んでるなんて物騒な噂が出回ってるもんでね」

「ははは、まさかまさか」

 

 分かってんだぞ、調査って分かってるから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってこと。バレない今のうちに準備してるんだろうな、それでもってデートは都合がいい。

 俺を合法で監視できる、民間なんか幾ら言っても櫻井も信用しきれてはないだろうし。

 

 猫耳見たら一発で摘発なんだが、バレバレな避け方されても証拠がないんじゃ動けない。

――俺だって戦争は止めたいが。ドンパチ始めるのは重桜からだし、戦争自体を止めようなんてデカイことは思わない。

 構えとけば被害は減るのは間違いないから、取り敢えずそうしたい。

 

「どうぞ問題が有ればご指摘下さい」

「艦に関して重桜はしっかり”管理”しているつもりですので」

 

 胸クソ悪い、俺も同類とは言え何が管理だ。

 

 所詮俺もそうなのかもしれないが、艦は道具だ。殺し、殺され、使い、使われ。そういうギブアンドテイクオンリーなものだと思われてる。

 俺は出来るだけそういう態度は避けているが、やってることは変わらないのは事実だしな。決して否定はできないが、にしたってコイツの言い方は不快感が有る。

 

――佐藤さんも、コイツにとって多分道具の側面が有る。

 だって考えてみろ。

 

 今の腐敗政治に反旗を翻す民間から現れた指揮官と、その英雄に続く海の女神達。

 シナリオとして良く出来てる。それを見込んで佐藤さんはここにブチ込まれてるんだろう。

 

 まるで偶像の英雄。言うならば()()()()()()()()ってわけだ。都合のいい道具と言わずして何と言う。

 

――あの人ちょっと抜けてるから分かってないかもしれないけど。

 大丈夫かなあ、俺何かちょびっと手を回してやるべきなのかなあ。一応今暇だし。

 

「それは今も変わりませんし、これからも一層引き締めて管理していきたい所存ですからね」

 

 ああマジ胡散くさ。帰らせろ。お前の言葉はさっぱり信用が出来んよ、経験則的に。

 

「……アンタが管理していきたいのって、ホントに艦だけなの?」

「ええ、何もかもを管理しようなどと烏滸がましいでしょう?」

 

 櫻井が口元に微笑を浮かべる。悪魔の微笑みにしか俺には見えない。

 

「私が管理できるものなど、精々台本が良いところですから」

「ええ、配役はしっかりと選べる自信が有ります」

「何を演出するべきか、誰が演出するべきかなんて事はきっと得意な事でしょう」

 

 あっそ。まあそのうち何とかしないとな、このラスボス。

 佐藤さん、俺は他人事なことを思うが許して欲しい。

 

 頑張れ、挫けんなよ。

 コイツ、アンタが思ってるより面倒くさい怪物(モンスター)だぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「目標をセンターに入れて――――撃ち抜く!」

 

 女ならざる剛の音を立てて金属バットがフルスイング。

 吸い込まれるように衝突したボールが、すんばらしい勢いで無限の彼方へさあ行くぞ。お前はベースボール界のスペースレンジャーだ、犠牲者ボール第一号(仮)。

 

「え、何お前バッティングうまっ!?」

「そうなの? 多分もっと勢い出せるんだけどなあ」

「プロかな? すっげえ」

 

 まあでも瑞鶴って運動部の助っ人ポジみたいなキャラの匂いするよね。突然異能力背負わされる運動できる系の主人公みたいな。

 

 所属がバスケ部でライバルがエンタープライズ。うーん俺でも今なら二次創作が出来そうだ。

 

「俺なんかまず当てるのですらって感じなんだが」

「ホント運動不足じゃない?」

「気をつけていきたいね、うん」

 

 はい交代。

 

「よーし、お父さん頑張っちゃうぞ~」

「お父さん?」

 

――一球目、空振りっていうか三球目まで全部空振りだったダッサ!?

 

「指揮官、嘘でしょ!?」

 

 めっちゃ笑われた。なんでい、現代社会に必要なのはバッティングの腕じゃねえんだっての。

 コミュ力とか顔とか仕事処理能力とか――――全部ないわ、顔は有るんだっけ? いやでも自覚ねえし誰も触れねえし無いのと一緒だ。

 

「教えたげようか?」

「多分そういう問題じゃねえと思うんだけど」

「まずへっぴり腰だし」

「相当俺は運動をしていないようだ」

 

 気づいてすら居なかったんだけど。やっぱり運動って気をつけるポイントをどれだけ気をつけてるかでぜんぜん違うよね。まあ艦と張り合うのは無茶だけど。

 仕方ないなあ、と瑞鶴侵入。どうやらマジでご指導するらしい。

 

「ほら、しっかり構えて」

「お、おう?」

 

 めっちゃ手で固定される。っていうか危ないよ?

 フルスイングで頭ガコーンだぞ? いや絶対振らないけど。

 

「体ガチガチ、深呼吸」

「ひーひーふー」

「それ出産の時の深呼吸じゃなかった?」

「一周回ってこれで落ち着く」

 

 何いってんの、と凄い引かれた。俺も自分に引いてるから大丈夫だぞ。

――何普通のデートしてるんだ俺。まあこれパパと娘っぽい感じだけど。

 

 いやでも瑞鶴みたいな彼女欲しい時期有ったなあ。最近はまず女から遠ざかってたと言うか母上以外会ってなかったと言うかね、色々あって興味が失せてましたが。

 

「指揮官、ボールボール!」

「え! 突然ですか!?」

 

 空振りフルスイング。結局打てたのはたったの一打であったのでござる。

 恥ずかしいね、でも最近羞恥心が薄れてきたんだ。環境のせいかな、元々そうだったのかもしれないが。

 

 っていうか瑞鶴距離感近い。やめろ勘違いするだろ!?

 

 

 

 

 

「あぁ~、スッキリした~!」

「すっげえ疲れた」

 

 お肌ツヤツヤの瑞鶴と恐らく三キロぐらい痩せた俺のご帰宅だ。お肌ツヤツヤは元々じゃね?

 買ってきたのは案の定バスケットボールとかバットとか。っていうかスポーツを一人でする気なのか、よっぽど動くのが好きと見た。

 

 執務室にげっそりしたまま帰ってくると、櫻井さんは不在だった。先に電話欲しいとは言ってたけど、先に帰っちゃうのね。瑞鶴にも胡散臭い面を拝ませたかったのに。

 代わりに小野が机に座ってる。お前はいらん。

 

「お、お疲れさん。デートは上手く行きましたかね佐藤殿?」

「デ、デート!? どういうことよ指揮官!」

 

 ほらビックリしちゃったよ。お前ニヤついてるしわざとだろ。

 

「あんまり瑞鶴をからかうなよ」

「面白いからつい」

「オッケー俺もエンタープライズとお前を全力でイジるとしよう」

 

 それは勘弁して欲しいと本気で怯えられる。え、何お前あの後エンタープライズに何かされたのか? 怖すぎるぜおいおい。

 

「ってか何で俺の軍服着てんだよ、型崩れするだろ」

 

 ボタンは空けるわ袖は捲くるわ。何してんだよ、ってか人の服着るなよ。

 

「カッコよくね?」

「正直コッチのほうが指揮官っぽい」

「瑞鶴、俺を安易に見捨てるな泣くぞ?」

 

 パパ悲しいょ。

 まあ小野が着たら何でもかっこいいじゃん? あんまり勝負にならないよね。それってアレだぞ、ダルと鳳凰院凶真を比べる感じだぞ? 何となく凶真さん勝っちゃうよね、主人公だし。

 ダルも好きだけどね。

 

「ともかく脱げ」

「へいへい、佐藤さんはお硬いんだー」

 

 俺でお硬いとかユニオンの規律ガバガバスギィ! 自分宣戦布告いいすか?

 ユニオンだけモヒカン世紀末なんだろうか、人の服は勝手に着ないって常識過ぎて逆に困るんだけど。

 

「よし、脱がすぞ」

「What's!?」

「やるぞ瑞鶴!」

「了解」

 

 小野とその後は追いかけっこしてた。何か俺のことをめっちゃ見ながら逃げてたけど何だ、お前もホモか?

 

 もう櫻井さんでパンク寸前なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひえ~、容赦ねえよこの民間指揮官」

 

 無理やり着替えさせた矢先、「働いたら負け」Tシャツを着ている小野がぼやいた。ってか私服で執務室の中を彷徨くな。

 

「俺はやりたいことをするんだよ」

「最強の俺様キャラなのに何か小物くせえよなあ、佐藤さん……」

 

 ま、言えてるねそれは。小物だわ。

 一応弁えてるつもりだ、だからでっかいことを為す気は転生した時から無い。

 

 本当は何となく生きて、まあそれなりに社会人らしいながら快適な人生を過ごしたかったんだしな。俺は大役に向いてない、逃げることすら出来ないやつにデカイ役目を終えることなんて不可能だ。

 

――っていうかまた瑞鶴エンタープライズのところに行っちゃった。今日はバスケとかで勝負するのかね、だとしたら鎮守府的にアウトだ。

 まあ頑張ってたし自分で仕事しよう、ってか本来の俺の仕事だし。

 いざってときに俺も出来なきゃ困るのも事実だ。

 

「あ、佐藤さん。アンタに一個聞きたいこと有ったんだよね」

「何だよ、別に大体の質問は受け付けるが」

 

 っていうか俺のほうが暑いはずなのに、小野はやたらとシャツをはたはたと振って涼もうとする。エンタープライズってことは真珠湾だから、あそこ年がら年中暑いよね?

 

――彼の口が開いた矢先、突然目つきが変わった。

 

「今ので思ったけど、アンタは指揮官がどういうもんかピンときてないだろ?」

「――――? そりゃそうだろ」

 

 突然何の前準備もなくなったんだし。「はじめてのしきかんっ!」は未だに愛読書だぞ、そろそろ何かカバーでも掛けたいぐらい使ってる。

 

 そうじゃねえよ、と俺の顔をじっと見つめてくる。

 何というか、蛇に睨まれた蛙みたいに動けない。本当に転生者なのか疑うような内容物の読めない重圧がかかってくる。

 

「指揮官の命令の範囲とか、もっと細かく知った方が良い」

「アレは実際は『命令』っていうみたいにはっきりしたものじゃなくて、洗脳に近いんだ」

「嫌いなんだろ? 命令すんの」

 

 意味が取れない。何というか、クトゥルフTRPGやってるみたいだ。何が言いたいのか釈然としない。

 

「どういうことだよ」

 

――このパターンは知ってる。

 俺が自覚したくないだけってタイプ。もう答えは多分出てるくせに、それからも逃げてるんだと思う。

 悪癖だとは思うんだが仕方ない。俺は後先考えない行動が多いから、その後の責任問題からは逃げたくなる心理も一緒に育ってしまったのだ。

 

「俺が命令しないって言ったのは要するに「明言しないだけ」だからな」

「指揮官ってのは――――――アンタみたいな甘い人間には、あんまりメンタル上よくない事実があるんだ」

 

 心臓が嫌に五月蝿い。何だかこれは不味い気がするのだ、宜しくない言葉が次に繋がる。

 俺が守ってる下らない何かが、今からあっさり壊される。

 

 

 

「まあもっと分かりやすく行こう、まどろっこしすぎだな」

 

 今日の朝設置されたばかりのソファに腰掛ける。

 

「例えばアンタが「手伝ってほしいなあ」って内心思って作業をしながら喋るとするだろ? これで命令は完成してる」

「命令は言葉じゃない、意志の伝達スキルだ」

「思わなかったのか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何かの体内に引きずり込まれて、胃液で溶かされるようなじっとりとした不快感が背中に張り付いた。

 

――心当たりしか無い。

 必死で逃げる。違うはずだ、そうじゃない、きっと偶々だ。

 

 けど、目の前の悪魔は言葉を辞めない。

 

「よーく思い出してくれ、瑞鶴は最初から攻略済みってくらい話しやすかっただろ?」

「出会った時点である程度、アンタの理想像にカスタマイズされてんだよ。そういうもん」

 

 体が溶けていく。意味が理解できて謎の解れが無いことに気づいてしまう。

 

 何であの挨拶であっさりと打ち解けたのか。

 何で都合良く俺の知ってる美少女の振る舞いを、俺という「三次元もどき」のいる世界で瑞鶴が取るのか。

 何でサボるなんて言ってる軍人に、普通に接してくるのか。

 何で上手くもないはずの飯を、美味いと言って食ったのか。

 何で、何で何で何で。突きつけられて頭が破裂しそうになる。

 

 何で櫻井さんが、俺の態度を見ても艦との関係に問題がないという態度だったのか。

 

 もしかしたらどれかは今の話とは関係ないかもしれない。でも、()()()()()()()()。疑念は勝手に確証じみた断定に膨れ上がって、どんどんどんどん俺の敵になっていく。

 

 目に見えて顔色を悪くしたのだろう、小野は呆れたように首を振る。

 

「世界はそんな甘かない」

「やっぱアンタはハリボテの指揮官だよ。知るべきことも知らず、結果の過程を見れず、ただ持っている力を無闇に振ってるだけ」

 

 言い返すことすら出来ない。それを許さない、覚悟のようなものが男の後ろに見えたから。

 俺にはないという事実を突きつけられたから。

 

「何で他の指揮官が艦を道具みたいに扱うか――――っていうと其処なんだよ」

「佐藤さん。俺はアンタみたいな人は嫌いじゃないし、言うべきじゃないんだろうが――――無知は罪だ」

 

 思えば最初からおかしかったのだ。

 上手く行き過ぎていた、俺は凡人のはずなのに。

 

「俺達はどうやってもアイツラと対等になれない。だから、誰も対等になろうとしない」

「見りゃ分かる、出来るだけフィフティーフィフティーが良いんだろ? 俺もそうさ」

 

 そこはすっごい良いと思うんだが。何だかせせら笑いをしたような様子で小野が続けた。

 多分せせら笑いだと思ったのは、俺がそうされるような道化だと自覚してしまったから。

 

 事実なんか関係ない。俺は自分がそうであると思うから、周りからもそうであると思われてる――――――そう思い込みかけているんだ。

 

「別に綺麗事は万々歳だけど、ちゃんと認識しといてくれ」

「結局俺達は、『艦を利用する』畜生にしかなれないってこと」

「そのために雇われてて、この力はそういうもんだってこと」

 

 後な。

 そう言うなり男はため息を付いた。そんな動作すら上手く頭が情報として処理できない。

 

「問題に向き合った方が良い」

「アンタは意味のないことを今一人でやって、勝手に手応えを感じてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では此処まで前置き、佐藤弘という人間に小野也人は尋ねよう」

「それでもアンタ、今の綺麗事を続けられるか?」

 

 分かるかよ、そんなもん。

 もう答える気力が湧かなかった。




やっとタイトル回収した。これエイプリールフールじゃないから、マジの鬱。
ぶっちゃけ二話ぐらいから考えてた。命令の範囲って俺も考えてなかったというか。

KANA-BOONのfighterのキーワード、覚えてます?
「一人のファイター」です、要するにそういう事。ずっと彼は戦う時は一人です。大変だなあ、まるで主人公だよ。
主題歌って聞かれたらあの曲。是非聞いてみて欲しい所。見直すとリンクしてるね。
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