見てない人向けに説明すると、何故かリクエストの有ったエンタープライズイチャコラ物語です。瑞鶴は? それは次回なんだよ。
「指揮官、離れないでくれ」
ぴとっ。俺には刺激の強すぎる柔肌がバッティングして拍動急上昇。
――あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!
おれは奴と一緒に温泉旅行に連れてこられたと思ったら、いつの間にか密着を強いられていた。な、何を言っているのか(ry。
はいどうも、皆勤賞の小野也人です。転生芸人やってます。胡散臭いとか言うな、俺も頑張ってる。
「あ、あのですねエンタープライズさん」
仲よさげに歩く二人を他所に、耳元で囁きかける。
「な、何だ急に」
「ちょ、ちょっとだけお離れいただいて宜しいでしょうか?」
何が起きてるかをちゃんと話そうと思う。
俺は今、腕に抱きつかれて歩いているのだ。頭がバカになりゅ。
女の子の肌って柔らかいよな~とか実質中年同士で盛り上がってたような初心な俺に、そんな柔らかいものは押し当ててはいけません。頭から除外しろ、精神統一だ俺。
「そんな事を言ってる場合じゃない。私だって恥、恥ずかしい」
「オイ辞めろ、そういう言い方すると俺がラッキースケベ主人公みたいになるだろ!?」
それどころじゃねえんだろうな、分かってるけど俺は美女に弱い。
グラーフとかが淡々とやってくるなら「そう、これは遊びじゃないんだ(キリッ)」とか思えるけど、俺より抱きついてる相手がすっごい緊張してるから駄目。
――ああうん。何で俺が色んな意味で蜂の巣になりそうな状況なのかというと、これは少し前にさかのぼって回想が必要だ。
よし、任せたぞ三人称! 俺はテンパってるからガンバ!
幕間とはいえ彼らの言動がフリーダム過ぎる、という野暮なツッコミは置いておこう。というか
遡ること正確には四時間程前。何時も通りに朝からサトーとお喋りに洒落込もうと豪快なスライディングと共にダイナミック入室を果たしたところから話は始まる。
余談だが小野はホモではない。多分。
『たのも―ッ!』
彼はいつもサトーに呆れられる側。今回もツッコミ待ちな台詞で入ったのだからツッコミが入る――――そういう甘々固定概念で埋め尽くされていた。
甘いぞ、ドモン!
『よしヘタレ君も温泉行くよな!? 行くだろぉ!?』
『ヒエッ、いきなり何だ!?』
入った瞬間に鼻息荒くサトーが小野に押しかける。
――何この人テンション高くね!?
彼の予想外はごもっともである。サトーは朝に弱く、恐ろしいことに一応テンションが低いのだ。
具体的には!とか?がつかない。喋る内容は所詮サトーなので同じである。
『朝にちょっと来てた櫻井さんが、温泉行って来いってくれたんだよこれ!』
サトーがかざしたのは此処に近い場所の温泉の券。
小野はあまり見ずに対応したが、しかしよく見ると「此処は混浴です」という内容でゴリ押している。まともな温泉宿とは思えない。
『櫻井だぁ?――――――ああ、アレか』
内心舌打ちする。奴が絡むと小野はどうしても「ユニオンの指揮官」としての判断を余儀なくされる。
単純にサトーと喋る普段のように適当には動けない。
――でも、今日は出る予定ないよな。
普段の彼は朝にサトーの邪魔をし、昼から調査をして報告するというルーチンで動いているわけだが、今日の予定は奇跡的になかった。
逆に言うと、櫻井がこのタイミングでこんなものを勧めてくるのには裏がある気がしてならないのも事実だが。
『サトーさんと瑞鶴で行ってきなよ、俺はパス』
『いやこれ四人来ないと使えないっていう謎縛りが有る』
『マジで謎だなその縛り!?』
――何のために四人なんだ! ご都合主義に巻き込まれてる感が凄い!
そうだよ。世の中には都合のいいものを求める傾向って有る。
さて、小野はガンガンとサトーに振られて言葉通りの激しい勧誘を続けられる。
『頼むよ! 俺は温泉に行きたい!』
『えぇ~…………こればっかりはちょっとなあ…………』
クソ、と言いながらサトーがもう一押し。
『此処混浴なんだぞ!?』
『よし行きますか佐藤さん!?』
『はいハイタッチ!』
コイツラはバカだった。性欲に負けるな脳内年齢50代。ハイタッチをするな、纏めて痛い目を見るのはもう見えているというのに。
『――――――――それ、マジなの?』
『ああ、俺は今男になる』
何でこうなるんだろうか。
そして昼。葉の生い茂る木々の囁きの絶えない山を背景にした、普通の旅館の前に彼らは立っていた。
『兄弟、作戦は分かってるな?』
『来てからやっぱり申し訳なくなってきたし佐藤さん一人で……』
遅すぎるとしか言いようがない。
『馬鹿野郎、ビビるんじゃねえ!』
むしろビビって欲しい。せっかく美しい景色に温泉があるというのに、サトーの頭はピンク色状態である。よくも悪くも正直な彼らしいところでは有るが。
――ここに来てから急に怖くなってきた、帰りたい。
さっきは「襲うメリット無いしな」とか適当に済ませてしまったが、目前に目標物を捉えて急にリアリティが増したらしい。
ダメダメな男衆に対して、艦の二人は極普通に楽しみにしている所が強かった。
『温泉って行ったことなかったのよね~』
『私も聞いたことは有ったが、見るのは初めてだ』
温度差が激しいどころの騒ぎではない。まるで大学のサークル絡みの旅行のような様相で話は進んでいった。
『…………まあ、普通に温泉行きたかったのも二割は有るし』
『二割しか無いんだ佐藤さん、やらし~な~』
『バッ、お前も乗り気だったくせに!』
サトーがパシンと肩を叩く。小野がバランスを崩して前で話している二人に割り込む形になってしまった。
『二人共気が抜けすぎじゃない?』
『待ってくれ瑞鶴、俺は今佐藤さんについて憂慮するべき事態が有ってだな――――』
彼がやや保身に逃げながらサトーの野望を暴露しようとした。
咄嗟にエンタープライズが小野の働いたら負けTシャツの首元を思いっきり引っ張った。
――首痛い痛い!?
『スイマセンでした測り間違ってもサトーさんに加担したりしませんから――――!』
『何を言ってるんだ、指揮官』
『アレ?』
――気づかれてない?
よく聞こえてないなと感心している間もなく、エンタープライズが周りを見渡しながら耳元で呟く。
『物陰に人が居る』
『え、マジかよ!』
静かにしろ、とエンタープライズが小野の口を塞いだ。
――そりゃ大声出すでしょ。
ノリでオーケーを出したらこのザマである。彼は驚愕というより、予想通りすぎる上に自分が浅はかであると若干ヘコみ気味になる。
――この前の言動も怒られたし、不用意に動くくせが治らない。
サトーに対する言動然り、今回然り。ストッパーに入るエンタープライズが居なければよくこういう暴走をする。
『……にしても、こんな直接的に殺りに来るとはな。どうする?』
『下手に帰るわけにも行かないだろう。取り敢えず出来るだけ離れないでくれ、部屋も同室にしよう』
――はい、今なんて?
予想外の一言に彼の頭がトンカチショック。一瞬点滅する。
何度も直前の音声を脳内再生している。ドウシツ、ドウしつ、ドうシつ、どうしつ――――ああ同室か。
――は?
『同室?』
『それと――少し目を離したスキになんてことも有るからな』
そして、現在。
いや最後の一言だけおかしいよ、作為を感じるよ俺は。っていうかそのフロントにくっついた危険なボールを手に当てるのは何、もしかして俺で遊んでる?
――っていうか何がムカつくって、前のお二人が
「まー、こんなお昼からイチャついちゃってはしたないわね~、瑞鶴?」
「明日から絶対いじってやろ」
と事情も飲み込まずに好き勝手言ってる所だ。アンタラこの旅館出たら覚悟しろよ?
特に変態佐藤は許さんぞ俺は。
「絶対何らかの形で報復するぞ、プライズちゃん」
「全く同感だ、指揮官」
特に佐藤さんの方はこっちが爆弾抱えてるの忘れてるだろオイコラ。
――いやでも瑞鶴も可愛いよなあ。元気いっぱいでしかも献身的、これは佐藤さん恵まれてんなあって思っちゃうもん。
横の人はデレてくれないからなあ、真っ直ぐ来る信頼って貴重で素晴らしいと思うよ俺。
「いだっ!? 何耳引っ張ってんだよ!」
「手が滑った」
「滑る空間無いから!?」
おっかねえ、ちょっと他の女の子見ただけでコレだよ。
「俺は一途だぜ?」
「そうニヤニヤと瑞鶴を見ながら言われてもな、というかそういうのではない」
いや絶対そういうのだろう、女子だなあ。
この小野也人にもっと溺れても良いんだぜ? おえ、今の台詞を言う姿を想像するだけで吐き気がする。
「てっきり浮気を疑われたのかと――――い”だい”い”だい”!」
藤○○也みたいな声出たじゃねえか。どぼじでな”ん”だよ”オオオオオオオオオ。
それは美術マニアがエル・グレコの受胎告知見たらテンション上がるぜみたいなもんなんだけどな。大○美術館、こっちにはあるかな?
――というか前の二人が案内受けてるからこの理不尽な感触を誤魔化すタイミングがない。歩く度に変なもの当たるんだよなあ、盗んだバイクで逃げ出したい。
「なあ、ぶっちゃけこんなにくっつく必要ある?」
「い、一応だ」
「すっげえ怪しいんだけど」
一応って言われたら一応ですけど。備え有ればドラゲナイって言うしな、言わねえよ。
――まあ、ナンカ気配はするよな。案内役の人とか客とかだけじゃねえ、数人とかじゃないもん。この密度はもう疑いようもなくアレだ。
「おやおや、お二人とも仲がよろしいのですね」
突然後ろから声、思わずビクリとなるがプライズちゃんの方が駄目だった。
「何だ!? 敵か、敵だな!」
「ちょ暴れないでくれ! 手がもげるぅ!」
痛かったりやわっこかったりの様々な天国と地獄を味わいながら声の方に振り向く。
――ワオ、イケメン。黒幕君じゃん、どうりで櫻井ボイスなわけだ。
「だ、誰だ!」
また暴れる。このまま腕がもげたら素晴らしい感触を覚えたオーパーツ品なのでは? いやならば俺という存在はそれ以上にオーパーツ的価値があると信じるしかねえ。
「落ち着いて!? らしくないよプライズさん!?」
痛い痛い、コイツが今すぐ危害を加えてきそうな顔なんて――――してるな。悪役感が有るツラしてるし。
プライズちゃんは見たことないんだった、アカンマジで腕がもげる。
「この人櫻井さん! 佐藤さんのサポートしてる変な人だからストップ!」
「私は変な人というイメージなのですか!?」
そりゃそうだろ。指揮官を後ろからバックアップしてるとか立ち位置自体が変というか、オンリーワンだよな。
多分佐藤さんが甘っちょろいのもそこら辺の真っ黒事情を処理してくれてるからなんだろう。
そして怪しい。佐藤さんは気づいてなさげだがコイツは悪役とか云々より隠し事が多そうなんだよ。
「…………そうなのか?」
「うん、重桜の多分えらーいお方だよね?」
「いえいえ、其処までではありませんが」
プライズちゃんに腰を曲げてはにかんでくる。お、何だ俺に喧嘩打ってんのかアンタ。
うちの娘はまだやらんぞ。俺が納得したやつ以外には渡さん。
俺だって同類では有るが、娘を”管理”しかねない奴は駄目だね。
――にしたってコイツ、マジで何考えてるのかがさっぱり分からん。
「今紹介がありましたが改めて。レディエンタープライズ、私は櫻井です」
「今回の温泉旅行も、私が招待したのですよ?」
何でさらっと俺悪い人じゃないよみたいな主張してんだこの人。っていうかむしろ怪しまれるわ。
意外と抜けてる?
――やっぱり怪しいんだろうな、紹介を聞いてもちょっと警戒の取れないプライズちゃんを見ながら溜息をつく。
「どうしてこう皆さんに警戒されがちなのでしょうか…………」
「すまない、失礼な態度をとるつもりはないのだが……」
お互いに萎縮しちゃったよ。意外な反応が起きる組み合わせだな。
――じゃなくて!
咳払いをしてこの妙な雰囲気を吹き飛ばす。
「おい櫻井さん、これはどういう事だ?」
「どういう事だ、と言いますと?」
何しらばっくれてんだよ。
「何で周りに知らない人間の気配がしてるんだよ、デカイ旅館でもないのに数がおかしいぜ」
「――――――ああ、気づいてしまわれましたか」
櫻井の笑いが急に作り物臭くなる。もう色んな化物もどきは見てきたつもりなんだが、コイツの急に人間性の剥がれ落ちるような瞬間は見てるだけで背筋が震える。
プライズちゃんも本格的に警戒してるらしく、気付かれない程度に腰が落ちてる。何かあったら最悪殺す構えだな、コレ。
「…………申し訳ありません、今回の件というのは――私共の抗争に巻き込んでしまうものです」
「本当は貴方がたを巻き込みたくはないのです。もしもお二人にもしものことが有ればを思うと、メリットが無いのもお分かりでしょう?」
ああ、そうだな。俺もそう思うよ、俺らに危害が加わればユニオンと重桜――――最悪、アズールレーンvsレッドアクシスの構図が完成する。
櫻井は何を考えているか分からないが、佐藤さんの話を信じるなら愛国心は本物だ。無闇に国を潰すのは本懐ではないだろう。
「じゃあ何で俺達を連れてくる縛りを設けたんだよ」
プライズちゃんを手で制する。何というか、コレは危険なパターンじゃない気がする。
最初は俺に正気なのかという顔をしていたが、俺が眼で
『最悪顔面殴ればなんとかなる☆』
という超適当なアイコンタクトを送ると警戒を解いた。これで良いのかよマジで?
「今回狙われているのが、彼らと貴方がた――――二つであるためです」
「…………話が掴めねえな、部屋で話そう。佐藤さんも呼ぶし、艦も傍に置くが勘弁してくれよ」
仕方がないことですので、とニッコリと微笑んで返される。
――俺らが遅いからと戻ってきた佐藤さんが櫻井を見てびっくりしていたが、どうやらサプライズのつもりだったと本人からは説明された。
あの、ユニオン的にはサプライズどころか奇襲なんですがちょっと遊び心有りすぎない?
「それでは、まずは私が説明するべきですね」
ホントそうだよ、佐藤さんガッチガチなんだぞ。こういうの慣れてない可哀相な人枠なんだからさっさと説明してやってほしいぜ全く。
机の周りに櫻井、向かい合う形で俺と佐藤さん。それぞれの隣に秘書艦。要は「お前の首を何時でも飛ばせる」という構図にさせてもらった。
櫻井はちょっとヘコんでいたが本当に仕方ないことだと受け入れた。警戒されるの苦手なんだな、警戒心ゼロの佐藤さんが良くしてもらえるわけだ。
「申し訳ありません、今回は完璧に私のミスです」
「現在指揮官のお二人は狙われています、直接的に言うなら『アズールレーンとの抗争を望む集団』にです」
佐藤さんが泡吹いてるけど!? これは不味い、一般人には刺激が強すぎる内容だったか~!
「さ、佐藤さんしっかりしろ」
「指揮官落ち着いて、最悪私が守るから!? ね!?」
ちゃっかり私が守る発言。何とも言えないこの気軽さは素晴らしいもんだ。
「イノチ、ネラワレテル。コワスギワロタ」
「アカンこの人メンタル雑魚すぎる」
駄目だなこれ、もう瑞鶴が看病始めちゃったよ。膝枕良いな、あの太腿だろ?
こっちもしてくれないかな――――あ、スイマセン真面目にやります。
佐藤さんがしそうな質問とかもしないとな、この人に今死なれても利害的にだって困る。
「…………気を取り直して、じゃあ俺が質問するぞ」
「どうぞ」
「俺が狙われるのは分かるぜ、殺せば即戦争だ。でも佐藤さんは何でだ?」
それは…………と櫻井が説明しにくそうな顔をする。何を隠してるんだ、俺の目を見て話してもらおうかな。
俺は眼に変な迫力があるらしいからな、実際眼ってのは相手の印象として占める所は割りとデカイ。
「…………詳しく言うことが出来ないのは申し訳ありません。簡単に言うと、重桜内での派閥の問題とお捉えいただければ」
「というとアンタは温厚派なのか?」
「ええ、一応は」
一応は? 何か意味深だが、あまり深く捉えすぎるのもアレか。
此処でパパっと明言されてもそれはそれで胡散臭い。
――ってか佐藤さん大丈夫かな。何か瑞鶴がうちわ仰ぎ始めたけど顔真っ青だぞ。
「今回のコレは囮作戦――――と言ってしまえばそうです」
櫻井がそう言うと目を閉じて、静かに頭を下げる。
「ユニオンの指揮官に対してこれは許される行為とは思っておりません」
「責任問題は全て私にありますので、どうしてもというのならこの首でご勘弁頂けないでしょうか」
其の顔付きに嘘は感じない。本当に俺が殺そうとしても抵抗をしない、それが分かるくらいに体に力が入ってない。
最初から胡座なのはそういうことか。ユニオンでは足を組んで話すのがすぐさま攻撃に移れないという意味でのマナーになってるが、それの重桜版だ。
抵抗はしないんだろう、本当に。
「…………もう仕方ねえよ、小野」
「指揮官、大丈夫なの?」
手を振って顔面蒼白なまま、佐藤さんが起き上がる。
「俺も重桜だから言える立場じゃないんだが、櫻井さんはそっちの安全を確保するためにもこうするしかなかったんじゃねえかと思う」
「この人は胡散臭いかもしれないが」
「佐藤さんにまでそう言われてしまいますか」
櫻井がちょっとシュンとなる。何かアンタって意外と人間臭いのな。
「ちょっと黙っててくれ、真面目な話だから」
それに珍しいな、佐藤さんが庇うのは。
いつもなら『俺は無関係だからそこは頼むぞ』とか超逃げ腰発言するのにな。ホント、転生者の中でも逃げ腰レベルは言っちゃ悪いが度が超えてると思う。
「胡散臭いが、悪い人じゃねえんだよ」
「特に恨みもない奴をハメようとか、そういうタイプじゃないのだけは俺が保証していい」
櫻井が何か眼潤んでる。うーん、道具扱いってわけじゃないんだな……ちゃんと信頼関係みたいなのが有るらしい。
佐藤さんはまた寝込んでしまう。無理ばっかりするからまた顔色悪くなってるし。
やたらと黙秘を貫くプライズちゃんにちょっと尋ねてみよう。
「どう思う?」
「私は指揮官の武器だ。武器に問いかけてどうする」
俺が振るい手で、彼女が武器。その構図はいつものこと。
完全に間違っているのに、一番効率のいい立場関係だ。
――まあ、プライズちゃんと意見がぶつかったりしても困るし、この態度が正解なんだろうな。
上手く振るえば上手く殺せるし、下手に振るえば無闇に殺す。
そのプレッシャーは俺がだらけた脳味噌を引き締めるのに相応しい発想であるし、彼女はそうであるべきだと常に言っている。
「…………そっか。ありがとう」
「私はまるで具体的な意見は出していない」
それが大事なんだよ。言葉に出さない信頼が有るからこそ、俺は行動に責任を持つべきであると気付かされる。
この関係性はきっと間違いで、佐藤さんの思うように対等であろうとするのは至って人間的だ。
俺はそういう意味では主人公じゃない。この解決できない複雑な問題を放置して、その泥沼の中での生き方を見出すやつは主人公じゃない。
ある意味、佐藤さんみたいにそれに足掻いて行くべきだったのかもしれないと今では思う。
いやだいやだと叫んで、でも駄目なんだと気づいて、それでも何か今とは違う着地点を見出すべきだったのだろう。
俺は、彼女の優しさに甘えっぱなしなのだ。それを構わないと許してくれる相手に、甘えている。
「いつもそう言ってくれるから、俺は今此処にいるんだと思う」
俺は沢山の失敗を知っていて、数えきれない成功を見てきた。
失敗であれ、成功であれ武器であると言い切って、俺についてきてくれる彼女が居るから。今の俺は主人公のように振る舞えているだけだ。
目を背けることを利用して、上手く利用されようと振る舞ってくれているからだ。
「…………そういう話は後で聞く、本題に戻ってくれ」
あ、顔に出てないけどこれは照れているな?
まあその通りなので、息を吐いて表情を整える。
「………………よし、櫻井さん」
「今回は、アンタを信用する」
櫻井の顔がぱっと明るくなる。ラスボスだったり小動物みたいだったり掴みどころのないやつだ、全く。
――まあ、でも佐藤さんの眼は其処まで間違ってないんじゃないかな。
それに、今櫻井の首を切り落としてもそれはそれで問題だし。そもそも無理な相談だったな、色々と。
「有難う御座います」
「まあ客観的に見てアンタ殺してどうすんだって話でも有るからな」
戦争の火種だ。それこそ抗争してる勢力の思うつぼだろうし。
――これを最初っから分かってないはずもないんだが、今回は見逃そう。何でも突っかかりゃいいってもんでもねえ。
佐藤さんにカッコいいところを見せたかったとか? いやいや、それはねえな。どんだけ佐藤さん好きなんだよって話だし。
「で、俺らはどうすりゃいい」
「佐藤さんの予定通り混浴で皆だんご大家族でもいいが」
俺の発言に艦のお二人がギョロリとして、佐藤さんの顔が完璧に死んだ。
反撃するタイミングは今だよね、死んでもらうぞ佐藤。
「ちょ指揮官!? 混浴ってどういう事よ!」
「いや~それはですね~…………あ、でもヘタレ君も(最初は)一緒に入ろうと画策してたぞ」
「なっ!? 本当なのか指揮官!」
ああこの野郎、微妙に語弊のある言い方しやがって!?
ってか佐藤さんが膝枕から叩き落とされた。
「ぐはぁ! 痛い痛い!」
鼻引っ張られてる。ざまあみやがれ。
「ち、違うんだプライズちゃん! 俺は辞めようって途中から言ってたんだよ!?」
「途中まではそれ目当てだったのか?」
「ア、イヤソレハ」
やめろその何か察したみたいな目線。違うんだ俺は本当に温泉楽しんでほしかったんだマジだって!?
途中までだから、途中までだから!
「な、なあ櫻井さん!? 俺がそんな事考える奴に見える!?」
「え、私に振るんですかこの流れで!?」
もうアンタしか居ねえんだよ頼むよ。さっき見逃しただろ、何か上手いこと言ってくれよ。
「え、えーと? しかし男性というのは常に女性に良からぬことを考えているものではないのですか?」
「何でアンタ他人事なの!? すっげえ株が落ちちゃうぞこれぇ!」
何でまるで自分は対象外みたいな言い方なんだよ、アンタも一緒に崖に落ちてるからね今。
ああもう滅茶苦茶だよ。
そう言えば「ダブル主人公というかサトー頑張れよ」って話が有ったんですけど実は逆です。
小野也人は「理不尽に立ち向かう人間」になれていません。「理不尽をより良く生きる」のはただの要領が良い人止まりなんです。まあかっこいいっちゃあかっこいいですが。
サトーの唯一主人公らしいのは「理不尽な絶対条件に抗う所」です。彼はあくまで成されるがままを本質的に許容しないし、よく考えたら会社を辞めたときもやたらと行動力は有るんですね。
このエセ主人公はそういう対比のために用意してあるんですよね、一応。
次回はサトー頑張れ回。皆がエンプラばっかり褒めるから何か反抗心が生まれてしまった。