〜因島〜
「龍輝ー!!」
大声で家の中に入っていく声がする。おそらく、ゴーヤだろう。彼女はここに来てから事ある事に叫んで帰ってくる。まぁ、大概はどうでもいい事にだけど。この間なんてカカシの一つだけで、散々騒いで、
「不審者がいるー!!」
と言っていた。
だから彼女が騒ぐことなんて日常茶飯事に起きるから慣れた。
ドタドタと走り、バンと襖を開く。
チラッとゴーヤの顔を見ると、何処か嬉しそうな顔をしている。
「ねぇ、私聞いたよ!今日って七夕なんでしょう?」
あぁ、そういえばそうだったなー。田舎だと夏の盆踊りとかお花見ぐらいしかイベントがないから、ついつい忘れちゃうんだよな。
「そういえばそうだったな。ところで、それ誰から聞いたんだ?」
「靖子婆さんからでち」
久我さんから聞いたのか。あの人達は季節のイベントとかを重視しているからな。去年のバレンタインデーだって村人全員に手作りチョコ作って渡していたし。
「とにかく私達もやろうよ!七夕!」
「やるって何をさ」
「えぇと……ほら短冊書いたりしてさ」
ふーん、にしても……
「意外だなぁ」
「何が?」
「いや、ゴーヤってそういうのを気にしないタイプだと思っていたから」
「逆に気にしない人なんているんでちか?」
「え?」
「え?」
あれれ?なんだこの雰囲気。ゴーヤ、どうしてそんな顔するんだ?
「もしかして龍輝ってこういうイベントとか気にしない人?」
「うん」
その返事にゴーヤはため息を返す。そして「よし!」と何か決意したらしく、顔を上げ俺の方を見る。ゴーヤはなぜか目をキラキラさせながら、しかしどこか顔が赤くなっている。
「決めたでち!今日から龍輝にイベントの面白さをゴーヤが伝える!そして龍輝がいつの日か毎日カレンダーを見て、イベントを気にするようにさせてみせるでち!」
おいおい、ゴーヤさん。何もそこまでしなくても……
「そうと決まれば早速……」
ガシッと急にゴーヤが俺の腕を掴む。
「おい、何すんだ!?」
「それはもちろん、ささの葉を貰いにでち」
「はぁ!?」
「そうと決まれば行くでちよ!オリョクルで鍛えた忍耐力を見せつけてやるでち!」
強制的に俺は連れて行かれるんですね。はい。というか、オリョクルって何さ?
「さぁ、ささを貰いに行くでち!」
「お、おー」
ゴーヤはすごいな、なんでもかんでも気分上げる事ができるなんて。
「ところで、何処に行けば貰えるかな〜?」
「あ〜。だったら木津さん家だな。あの人はこの辺の林業を統括しているからな」
「だったら、そこに行くでち!」
うん。分かったけど……
「なんで手を繋ぐんてますかね、ゴーヤさん?」
手は繋がなくていいでしょ?って、なんで無視するんですか?あと気のせいですか、手を握る力もっと強くなってません?……ちょっと遠藤さんに加藤さん、なんでこっち見て、そんな微笑ましい笑顔をしているんですか!?
「ここでちね」
「うん。ここ」
恥ずかしかった。周りの目がこっちに集中してくるし、皆微笑ましい笑顔をして、こっちを見ていた。すごい恥ずかしかった。
だが、そんな俺の気持ちを知らないゴーヤは木津さん家のインターホンを押した。
はーい、という返事とともにドンドンと足音がし、やがてガラガラと扉が開く。
中から出てきたのは、ツルツルの頭をしていて、格好は汗をかいてもいいようにティーシャツに短パンを着ていて、下駄を履いて出てくる五十代ぐらいの中老男が出てきた。この男こそ木津さんだ。
木津さんは俺らの姿を見てニヤっと笑い、
「おやおや御二人さん。何しに来たんだい?」
と言った。あんたもか。
「今日は七夕の短冊を飾るのに必要なささを貰いに来ました」
「あぁ、何だ。そんな事か。ほれ、そこにそれ用に出来そうなもんがあるから持ってきな」
「ありがとうございます」
「礼はいい。それより末永くやっていけよ御二人さん」
最後ものすごく変な言葉が出たと思ったのは俺の気のせいだ。うん。……ゴーヤ、お前なんで顔赤くなってるんだ?おまけに「えへへ」って……。
「取り敢えずこんなところかな?」
「うん!いいと思うよ!」
俺は家に帰ると、木津さんから貰ったささをいい感じにカットしたりして、庭に飾れるようにしておいた。我ながら上出来だと思う。
「あとは短冊なんだが……それ用の紙がないんだよな」
「あ!紙ならあるよ。ほら」
そう言って、出てきたのは短冊用の紙だった。準備いいな。
「よし、だったら、願い事書いて飾るぞ」
「了解でち!」
にしても願い事か。思い浮かばないな。今までこれといった願望なんて持ったことがないからな。うーん……
チラッ
ゴーヤを見てみる。本人は願いをスラスラと書いている。
……よし決めた。俺の願いは……。
「できたよー!」
「よし、じゃあ飾るか」
俺とゴーヤはささの葉と紐を通した短冊を結ぶ。あまりいい結び方ではないが、一応は結べた。
〜一方、その頃〜
ー横浜ー
皆さん、こんにちは。白露達に短冊のお願い事を見てみました。いやね、今日母さんがささを送ってきたから、皆でお願い事を書いて飾ろうって言ったんですよ。それで書いたんですよ。で、俺が最後に書き終わったんですよー。それで、興味本位で皆が何書いたか見たんですよ。俺のも合わせて見てください。
『良い事が起きますように 雷雨』
『美味しいものがいっぱい食べれますように。あと、私は常にイチバン! 白露』
『雷雨が早起きしますように。あと姉さん、姉さんっていっつも僕達に負けてるよね。 時雨』
『雷雨君達と平和に暮らしたいです! あと、時雨姉さん、白露姉さんがイチバンになるときだってあるよ。偶に。 村雨』
『もっと遊びたいっぽい! あと、村雨。それって食欲とその気持ちだけだよね 夕立』
『キュティーガールとお友達になりたいです! あと、夕立姉さん。食欲はこの間涼風に負けてましたよ。 春雨』
『ドジっ子の汚名を挽回してください! あと、春雨。白露姉さんは大抵の事はいつも最下位になっていますよ 五月雨』
『料理をもっと上手くなりたいです。 白露姉さんは努力はしていますよ。努力は。 海風』
『人ともっと話せるようになりたい。 白露姉さんは努力家ではあるんだけど…… 山風』
『アクションゲームが欲しい! 白露姉さんは努力家だぜ!変な方向に向かっていっているけどな! 江風』
『こうした平和な日々が続きますように。 江風に同意見だな。 涼風』
願いと共に綴られている白露へのバッシングに近い意見。これは……本人に見せないようにしよう。あいつが可愛そうになってきたわ。
〜因島〜
「出来たぞー」
「ホント!?今日の夕飯は何?」
あーはいはい。見れば分かるから。
「ってあれ?なんでダイニングで食べないの?そっちは……」
「あぁ、今日は庭で食うぞ。ほら、シート敷いて、そっちの長机を置いて」
俺の言葉に何か解せない顔をしながら、言われた通りシートを庭に敷き、長机を置いた。俺はその上に料理を載せる。
ゴーヤは料理を見て、「あ!」と何かに気づいた。
「ご飯の上に星が……というか星まみれでち!」
そこまで驚くと、お兄さん作った甲斐があったな。今朝自家栽培していたオクラを星型にして、豆腐に載っけたやつとご飯の上に焼いた星形の人参を載っけたやつと近くで買ったゼリーに星形のラムネを載っけた簡素な料理の品だ。。まぁ、それ以外に今朝釣った魚と味噌汁があるが、これらは特に何も手をつけていない。
それに……
「上を見てみろよ」
ゴーヤは上を見ると、やっとここで食べる本当の意味を悟ったようだった。俺達の上には天の川が雄大に流れていて、それを挟んで二つの星座がある。こと座とわし座だ。それ以外にも白鳥とか色々あるが。
「ゴーヤ行ったよな?『私達もやろうよ!七夕!』って。だったら俺も性を尽くしてやってやるさ。さぁ、食べよう」
「うん!」
この後、俺とゴーヤはご飯を美味しく食べた。あいつ、本当にいい笑顔するな……って思った。こんな簡素な料理なのに。
食べ終わると、ゴーヤのリクエストに合わせて、星座の解説をする事になった。
「あそこにあるのはこと座で、あそこにあるのがわし座。それぞれに変に光っているのがあるだろ」
「あるでちね」
「あれはそれぞれベガとアルタイルっていう星で、それぞれ織姫星と彦星っていう星なんだ」
「へぇーそうなんでちか」
「ためになるのね」
「でも、こととわしにあるなんてね。どうせなら、そういう星座でも作ればよかったのにね」
「そうだな。俺もそう思って……」
ゴーヤの方を振り返ると、そこにいたのはゴーヤと青い髪をした水着姿の少女とピンク色の髪をしたこちらも水着姿の少女がいた。
「お前ら誰ーー!!??」
「え?えあーー!??」
俺とゴーヤは天の川まで届くぐらいに絶叫した。
この時、俺は気づかなかったが短冊が二人分新たに飾られていた。
『この日常が長く続きますように 龍輝』
『龍輝君とずっといられますように 伊五十八』
『これから、皆で仲良く過ごせますように、なのね ???』
『平和に過ごせますように ???』
あなたはどんな願いを短冊に書きましたか?