十二月二十五日、クリスマス。
今日はサンタが子供達にプレゼントを「えっさほいさ」と言って届ける日ーー。
「いや、サンタは『えっさほいさ』って言わないですよ」
「右に同じく」
俺の構想に村雨と涼風が口を挟む。
まぁ、何がともあれ今日はクリスマス。いつもは家にいるのが恒例だが、今年はこの二人と隣町にある遊園地に来ている。
一つ言っておくが、別に『リア充な感じを周りにアピールしたい』とか『ハーレム気分を味わいたい』という理由で来たわけではない。
俺、ひいては俺達の目的は別にある。
それは……
「雷雨君、来ました」
「やっとか」
村雨の言葉を聞いた俺はその辺にあった叢へと隠れ、首に掛けてあった双眼鏡を使って見る。
その視線の先に何があるかというと……
「初霜、急にどうしたの?遊園地に行きたいって」
「いえ、あの、近所の人に貰ったんですよ!遊園地のチケットを!」
「そ、そうなの」
「そうなんです!」
二人は取り敢えず、遊園地の中へと入って行った。
「行きましたよ、雷雨君」
「よし、行くぞ!お前ら」
俺はそう息巻いて二人を連れて遊園地へと入っていくのであった。
さて、どうしてこうなったかと言うと、昨日俺が初霜ちゃんにある提案をしたからだ。
それは『遊園地に行ったら、どうですか?』というものだ。
しかし、初霜ちゃんは
「雪原さんは了承しないと思います。と言うのも、雪原さん自身はお祖父さん、お婆さんにお小遣いを貰ってはいるのですが、私の家具とかを揃えるのにお金を使っちゃったようで、ほとんど持っていないようなんです。もちろん、私が払えばいいんですが……頑なに断るんですよ。『それは初霜ちゃんが欲しいものややりたい事ができた時に使いなさい』って。だから……」
と言って、しょぼんとした様子でうつむいた。
なるほど、言われてみればこの頃、『遊ぶ』と言っても雪原の家で『戦闘高』とか『大乱闘ボクサーエジソン』というゲームで遊んたり、公園で委員長達と一緒に『講義王』というカードゲームしかしていなかったような気がする。
なるほど、そういう事なのか。
しかし、一応こんな駄目になりそうな雰囲気になるのはこれまでの経験上(今日一日)により想定済みだ。
「実はね初霜ちゃん。家にね『遊園地特別招待券』って言うのがあるんだよ」
「招待券?」
実感が分かっていないのか、ハテナマークが出そうな顔をしている。
「うん。実はその券があると対象の遊園地が無料で入れるという魔法のアイテムなんだよ!」
「えぇ、そうなんですか!?」
うんうん、いいリアクションだね。お兄さん、わざわざやったかいがあったよ。
「だけど、困った事にこの券の期限は明日までなんだ」
「え、だったら、どうにかしないと!」
「そうそう、どうにかしないと行けないんだよなぁ」
そう言うと、俺はちらっと初霜ちゃんを見る。初霜ちゃんはモジモジしながら何か言いたげにこちらを見てくる。
俺はそこですかさず決め手となる言葉を吐く。
「良かったら、あげようか?」
……
…………
……………
そして今に至るのだ。
俺の提案を受け入れた初霜ちゃんは雪原と絶賛遊園地のアトラクション巡りをしている。そして、俺と村雨と涼風も二人を見つつも、アトラクションを楽しんでいる。
ついでにだが、俺達は自腹で行ったのではない。
これは初霜ちゃんには言っていないのだが、実は招待券は五人分あったのだ。そもそも、あの券は家の親父とお母さんが二年ぐらい前に知人から貰ったという代物でその中には五人分の招待券が入っていた。まぁ、何故五人分なのかは分からないが。それを先月辺りに海風が見つけて、俺に渡してきてくれたのだ。
曰く『友達と一緒に行ったら、どうなんです』と。
まさか、何気に受け取ったあの券にこんな使い方があるなんてな。いや〜、雪原と初霜ちゃんがイチャイチャしているのかどうかやっぱり気になっちゃうからな〜俺達。
と言う訳で、俺は迷彩柄の服装と双眼鏡という格好をして、叢とかから尾行している。もちろんだが、村雨と涼風は流石に私服で一般の客達と一緒に遊んでいるような感じでしてもらっている。もし一緒にやったら絶対バレやすくなるし。
……
俺は内心今すごい嬉しい。
まさか初霜と一緒に遊園地に行くことになるなんて夢にも思わなかった。最初に誘われた時はびっくりして、「うん、分かった」というありきたりの返事しかできなかった。
そして一時間後、ようやく実感が湧いてきて思わず頬を十回ぐらいつねったっけ。まぁ、夢かどうか確かめるとはいえ、もし仮にそれが夢だったら俺は泣くけどな。
そんな訳で今遊園地に来ているわけなのだが、最初はどれに乗ればいいのだろうか?俺、なんだかんだで久しぶりに来たからな、遊園地。取り敢えず初霜の要望を聞いてみるとするか。
「初霜、何か乗りたい物とかはある?」
「いえ、特には雪原さんが選んでください」
「分かった」
ふぅむ……これは困ったぞ。別に俺は乗りたい乗り物とかは……ん?なんだ、これ?『マーライオン』?
……なんか面白そうだなぁ。
……
「雷雨君、雪原さんと初霜ちゃんが『マーライオン』に」
「なに!?」
「おいおい、初っ端からすげぇ所に行くな、あいつ等」
『マーライオン』……これを聞いたら、普通の人は温泉においてある物を思い浮かべるかもしれないが、それは違う。この遊園地での『マーライオン』は獅子の口から乗客が乗っているアトラクションがマーライオンのように吐いているように見えるからつけられた名前で、本当は八十度にも及ぶ急激な坂が初っ端からあるトラウマ度八のジェットコースターだ。
ついでにトラウマ度とは、この遊園地により生まれるトラウマの大きさの事である。
「……どうする、二人とも。行くか?」
「私、行きます!」
「あたいも行くぜ!」
「よし!じゃあ、行くぞ!」
俺は二人とともに雪原の後をつけていった。
……
…………
……………
「いやぁ、楽しかったなぁ!」
俺と初霜はさっきから『マーライオン』についての感想を言い合っていた。
俺の感想はと言うと、かなり急勾配なジェットコースターで、それによるドキドキ感などがあってとても楽しかった。
そして、これはあくまで俺の希望なのだが、できるなら後ろ向きのやつにしてほしい。そうしたらか、もっと楽しめると思う、といった感じだ。
「本当ですね、また乗りたいです!」
初霜も同調して、こくりとうなずく。
ただ、どうやら初霜の場合はあれをもう一個坂を追加すれば、さらに楽しくなるとのこと。
俺はそれになるほど、と思い、心の中で納得する。
「さて、次はこれにするか!」
……
………
…………
「無事か、皆」
「……はい」
「なんとか」
顔が青ざめているだろう顔色を出しながら俺達は会話をしている。雪原が選んだ『マーライオン』はその名に相応しくないぐらいの恐怖を俺達に与えることとなった。
俺達は尾行している事などを忘れて絶叫していた。もう見つかる恐れなんて気にしないぐらいの恐怖だった。
「はぁ……もう絶対にあんな乗り物に乗らないぞ、あたいは」
まぁ、そう言いたくなる気持ちは分かる。最初からあんな地獄のようなアトラクションに乗るのは確かにきつかった。
「雷雨君!」
双眼鏡を使って雪原と初霜ちゃんを監視させていた村雨が俺のもとに駆けつける。買ってきたのであろうソフトクリームを左手に持って。
「初霜ちゃん達が『絶叫観覧車』に!」
「何!?」
「また、そんなんに乗るなんて……」
『絶叫観覧車』。普通にガイドとかに書いてあるのには普通の観覧車と書かれている。だが、本当はそれは回る速度九十キロを超える恐ろしい乗り物だ。
これのトラウマ度は七。さっきのよりかはマシな感じらしいが、やはりトラウマになる人は少なくないらしい。
「……行くか」
「「おー」」
俺達はやる気のない声と共に乗り物の所へ行った。
……
………
「終わったな……」
「はい」
俺と初霜はふらふらとよろめきながら歩く。
簡単に言うと、俺達は酔った。乗り物酔いではない。景色を見ようとしたら、段々目がぐるぐるになって酔ってしまったのだ。
「やばいな……これ」
「はい、酔いました」
スタッフさんや他の人達にぶつかりそうになりながら、俺と初霜は空いているベンチを目指して、歩いて行った。
…
……
………
「なんか楽だったな」
「あぁ」
「さっきのアトラクションが酷かったんですよ」
平然と歩いていく俺達。言っておくが別に頭がおかしくなったのではない。ただ観覧車で恐がることが出来なかっただけだ。
と言うのも、観覧車の中はあまり揺れないし、怖くなりそうになったのも、最初と最後ぐらい。これを怖がれるのは余程心臓が弱い人ぐらいだ。
「まぁ、何がともあれ、あんな思いをしなくて良かったです」
「本当だよなぁ」
ハハハ、と笑う村雨と涼風だが目が笑っていない。二人がどれだけ「マーライオン」に恐怖したのかがよくわかる。それは俺も同じなのだが。
「とりあえず、お昼にしようか。腹減ったし」
「そうですね」
「だな」
こうして、俺らは一旦昼飯を食うために尾行を中止した。
……
………
…………
この後も雪原と初霜の「絶叫アトラクション」をどんどん乗り、「楽しかった」だの「もうちょっと恐くしてほしい」という楽観的な物が口から出るのに対し、俺達はそれを尾行していく事でアトラクションにも乗り、地獄を体験した。
あるときは涼風がものすごく揺れるメリーゴーランドに乗って酔ったり、村雨は知らない間に遊園地のデザートを全部平らげるし、俺はコーヒーカップに乗って紅茶を優雅に飲もうとして失敗するという散々な目にあった。
おかげさまで俺達が家に帰ってきたときは涼風は俺に担がれ、俺はびしょ濡れになりながら帰ってきた。
ついでにこのことを春雨に話すと、
「楽しそうですね!」
と言った。
こんなにまで前話との間を空けて、尺の都合でこんな締まらない終わり方をしたな、とつくづく思います。