今回はギャグ大幅カットのシリアス回です。
プロローグ
俺は午後六時に起床の時間を迎えた。昨日の疲れが残っているのか、目蓋が重い。
今日は土曜日。学校に行かなくていい日だ。
俺の名前は吉谷雷雨。この名前は両親の結婚式の時の天気で付けたらしい。不吉にも程がある。
まぁ、そんなのを気にしないぐらいウチの親は頭のネジが取れているのだ。
俺の親は二人共軍人で、小さい時はよく兵士に必要な訓練をさせられていた。おそらく、俺を軍人にしたかったんだろう。しかし、それは親が仕事の都合で遠くへ行ってしまったことでなくなった。これは俺が中学生の頃だ。俺はこの時期に訓練をするのをやめた。普通なら、ここで俺は他の人達と同じ様な学生生活を送ることになるだろう。だが、俺はそうはならなかった。逆に、普通ではない学生生活を送っていた。
それは親に隠れて、ギャンブルをしていたのだ。そしてやるのは決まって一つ、ポーカーだ。
俺は元々カードゲームはかなり得意で、負けたことは一度もない。それはポーカーに生かされ、連戦連勝。もちろん、イカサマをされる時もある。だが、そういう時があっても、すぐにそれを見破り、対策をねって軽々と勝利してみせた。今ではギャンブルで勝った金で財布は潤っていた。
それを元手にして今日も荒稼ぎしに行く。金を得るために。そして………
俺の空虚な心を満たすために…………。
俺はいつも通り変装して、外へ出る。幸い俺は身長が高いから、仮面で顔を隠せれば何とかなる。後は父のスーツを着て行けば完璧だ。
「よし行くか」
そう言ってドアを開けた。
腕時計で時間を見ると、針は午後七時を指している。この時期によく吹く冷たい冬の風が体ヘとめがけて吹いてくるので、すごく寒い。こんなことなら、上着を着て行くんだったと後悔するが、そんな暇はないなと思い、鍵を閉め、目的地へと歩を進める
ウチの近くの電気屋のテレビからニュースが流れてくる。
『今日の午前八時、我が国の艦娘達が最後の深海棲艦の掃討作戦で……』
やはり今日も俺と関係のないニュースがやっている。本当に退屈なことしかテレビはやらない。そう思って電気屋の前を通り過ぎる。
ふと電気屋の横の路地から気配がする。はっと振り向くと、そこにいたのは……
「ひ、人……………………………?」
そこにいたのは、少女だった。雨は降っていないのに、青いレインコートを上に着ていて、そこから僅かながら綺麗な黒髪が見え、そして、下にはスカートと思われるものを着ていた。
何だあいつ、と思ったが、どうせ家出か何かでいるのだろうと思い、無視して通り過ぎることにした。
「無視は酷くないかい、君」
そう言って俺の腕を引っ張る。それに対し、薄気味悪さを感じた俺はその手を振り払おうとする。が、少女の引っ張る力はとても強く、その力は男顔負けで、逆にどんどん路地へ引っ張られて行く。何この娘、何者なの⁉
「お願い、話だけでも聞いて!」
嫌だ、絶対にこいつ金を脅して取る奴だ。逃げないと……そう思って逃げようとしたが、結局駄目だった。
路地裏に無理矢理連れてかれたが、どうやら本当に金は盗るつもりはないらしい。さっきから、今日の夕飯を姉妹と食うのだが何がいいかとか、おすすめの本や映画はないかというもの。お金を盗られることはないだろうが、世間話をするだけにここまでするとは思えない。もしそうだとすれば、ただの変人だ。
「…で、本題に入るんだけど」
やっとか、心の中でそう呟いた。
「何だ」
「君、こんな夜中にどこへ行くの?」
その言葉を聞いた瞬間、心がぞっとした。こいつまさか気づいているのか?いや、そんな訳がない。だって……
「『俺はそんな素振りを見せていないから』とでも思っているのかい?」
少女が俺の思っていた事を口にした。
まずい。もしかしたら、俺は人生最大の危機に直面しているかもしれない。ここで選ぶ言葉を間違えると破滅するのは、目に見えている。考えろ俺、冷静になって考えるんだ……
「もしかして、そんなに返答が詰まる質問だった?」
そう言って、くすっと笑う少女。これを普段だったら可愛いなと思うが、この状況だとぞっとするものでしか思えなくなった。
少女はさらに言う。
「学生がこんな夜中に何しに行くのかなって、思って質問したんだけど」
俺はその言葉を聞いて、いよいよこの少女が化け物のように思えてきた。反論をしようにも口がパクパクするだけで、言葉が出ない。心臓の鼓動は大きく、速くなっていた。
「お、俺は、その………………………」
どうにかして、言葉を紡いでいく。その声は自分自身でも分かるぐらい弱々しかった。それを聞いて、少女は確信へと辿り着いたらしく「やっぱり、あの人の言う通りだ」と呟いた。
「ねぇ、君」
そう言うと、少女はレインコートの頭のところをとった。癖っ毛の黒い髪と綺麗な肌、そしてサファイアのような色をした目が出てきた。彼女は、にっこり笑って、こう言った。
「僕とギャンブルをしよう」
「……はぁ⁉」
思わず俺は声を荒げた。コイツ、いきなり何を言っているんだ。ギャンブルをしよう?どこをどう考えて、そういう結論に至ったか全く分からない。
「そんなに驚く?」
驚くよ、普通。だって、そういう台詞を吐くのは漫画やアニメの主人公だけだからね。
「まさか、そういう反応をされるなんて」
溜め息混じりに彼女は言う。
しかし、今思い返すと何で彼女はああ言ったんだろう?
「…で、お前の目的は何だ?」
「君とギャンブルすること」
何言ってんの、という言葉を押し込み、訊きたかったことを訊く
「百歩譲って、俺とお前がギャンブルをして、俺が勝ったらどうなる?」
「ん〜そうだね。あっ!」
そう言って、レインコートの中から何かを探している。レインコートのしたに鞄があるのだろう。
「これをあげるよ」
自信満々そうな笑顔を見せている少女。どんな物かは分からないが、彼女の笑顔を見る限り余程の物らしい。何だろう?
…次の瞬間、俺は彼女の出した物に目を見張った。
それは大量の札束だった。見た感じだと百万はあると思う。こんな大金を見たのは初めてだ。そのせいか心の中で興奮と大金を賭ける時に起こる勝負師としての喜びが出てきた。
「じゃあ、負けたら」
やや興奮まじりで訊く。やはり百万の威力はすごい。
「私の願いを叶えてもらうよ」
願い、か。なるほど確かにそれぐらいはやらないとな。でも百万とつり合う願いって一体何だろう。そう考えると、ハイリスクハイリターンだな。しかし、彼女の持っているあの札束が欲しい。だが………………
頭の中で葛藤する。受けて万一負けた時の事を思うと、中々踏み込めない。だが、このまま何もせずに時が過ぎるのも駄目だ。何しろ、一生に一度あるかどうかのチャンスだ。
そう迷っていると、俺の頭に一つの言葉が出てきた。
ーーー時は得難くして失い易し、と。
「いいだろう、その勝負やるよ」
「やっとやる気になってくれたんだね!」
そう言って少女は不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあ、君がやるゲームを決めなよ」
まるで俺がハンデをつけられているみたいで癪だが、チャンスだ。この機を逃すなと、何処からか声が聞こえてくる。
俺は少女に向かい、にっと笑ってみせた。勝利を確信したからだ。
「じゃあ、ポーカーだ」
「準備ができたよ」
「よし分かった」
今のところ、イカサマをしている様子はない。少女が手に持っているトランプは俺が自宅で戦略をたてるために使うものだ。事前にイカサマの準備はできない。よって、お前の勝率はかなりさがった、残念だったな――!!うわはははは!!
「よし、じゃあいくよ」
少女は山札からカードを引き始める。その細くて、綺麗な手でどうやってあんな力を出したんだろうな、と秘かに思う。
少女が引き終わったので、今度は俺が引く。正直、勝てる気しかしないので余裕な表情で、スイスイと引いていく。そして、引いた結果………
勝利の女神は俺を選んだ。出たのは、ハートの10、J、Q、K、Aだった。このカード達を出せば一瞬でかたがつく。思わず勝利の笑みが出そうだ。
(悪いが、この勝負貰った!)
「じゃあ、いくよ。いっせーの~せ」
その声が聞こえると、同時に出す。
「嘘だろ……………………………………………」
開いた口が塞がらなかった。少女が出したのは、スペードの10、J、Q、K、Aだった。ポーカーは数字の大小と、もう一つ役の強さがある。役というのは、トランプのハートやスペードなどのことで、これらの強さによって勝負は決まる。今回俺の引いた役のハートは、二番目に強い役だ。普通なら、この勝負は俺の勝ちで終わる。だが、少女が引いたスペードは役の中で一番強い。すなわち……………………………俺の負けだ。
信じられない、俺が負けるなんて。どうやって勝った?イカサマが出来ないのは最初のほうで、確認した。だったら、実力で勝ったというのか?
「あぁ、言っとくけど僕は実力で君を負かせたんじゃあないんだよ。君に勝てたのは運が良かったからだよ」
「運で?」
「うん。これでも雪風の次に運がいいからね」
その雪風という娘の事は知らないが、運だけで勝ったのか…………。癪だが、認めるしかない。現に俺はこいつに負けたからな……
「じゃあ、負けた君には僕の願いを叶えてもらおうか」
……そうだった。俺は負けたから、こいつの言う事を聞かなければいけないのか。
「何だ、言ってみろ」
もう、どうなったっていいや。いずれ、こうなる事は分かっていたし。
「じゃあ、僕の願いを叶える権利を二つに増やして」
「えっ」
何、その願い。反則じゃない。
そんな思いを無視して、少女は二つ目の願いを言うために口を開いた。
「まず、君はこれ以後ギャンブル禁止!」
ん?何で、そんな願いなの?……いや待てよ、もしかしたら、あえて最初は軽い願いを叶えさせて、後から無理難題な願いを叶えさせるんじゃないか?そうだ、きっと。
「次は……」
ゴクリと唾を飲む。何が来ても動じないぞ。平常心、平常心。
「僕を含めた白露型を君の家に住まわして。以上」
「…はぁ?」
思わず言葉が出てしまう。俺んちに住む?白露型?何か突然意味の分からない言葉が出てきて意味が分からない。
「言っとくけど、今更取り下げは無理だよ」
「いや、そうじゃなくて、その……話についていけないというか……」
「あぁ、そういう事ね。どこからだい?」
「ギャンブル禁止から全部」
「分かったよ」
「…まず、何で俺んちに住むの?家とかあるでしょ」
「あったけど、なくなっちゃった」
どういう事?あったけどなくなったって。
「君、テレビ観てないの?」
「うん」
「そっか。じゃあ、艦娘って知ってる?」
「知ってるよ、それぐらい。それが何?」
そう言うと、少女は笑顔を見せた。今までと違って、優しい笑みであった。
「白露型ニ番艦時雨。それが僕の名前さ」
この時、俺はやっと時雨という少女の言っている事が分かった。彼女たち、艦娘が今日行なわれた深海棲艦の掃討作戦をやった事をニュースでやったことを思い出した。そして、おそらくそれが成功した。そうなると、彼女達は用済みになる。当然彼女達が住んでいた鎮守府はなくなる。そうなると、彼女達は住む場所をなくす。つまり……………。
「お前らは今ホームレスということか」
「言い方は酷いけどそういう事だね」
なるほど、だから一緒に住むことを選んだのか。確かに、これは辛いわな。
「分かった、君とその姉妹たちが住む事ができるよう親に言っとくよ」
「うん、ありがとう」
まぁ、負けてしまったから結局やらないといけないだけだけどね。だから、お礼なんていいのに……
「そういえば、姉妹ってお前と合わせて何人なの?」
「十人だけど」
「多っ!!」
こうして、俺は彼女達、白露型と住むことになった。