「出ない」
雪原が絶望した顔で言う。
彼は左手に持っているスマホの画面を下に向け、残った右手で顔を隠して泣いている。
何故こうなったか、単刀直入に言おう。
雪原が欲しかったゲームのキャラクターが出なかったからだ。
あいつは今HGOという人気スマホゲームを去年からやっており、そこで本人の推しの限定キャラがガチャ内に出たとのこと。そのために先ほど、小手先の十連を引いた結果、大爆死してしまったらしい。
可愛そうに。
「ぐぬぬぬ、諦めてしまう他ないのか……!!」
「そうだな、諦めたら?」
「……なんか返しが適当過ぎないか、お前」
え……そんな事を言われても。だって人事だし。俺関係ないし。
…
……
………
数日後
ピンポーン
部屋で一人チェスをしていると、下からインターホンの音が聞こえてきた。
「雷雨出てー」
「ほーい」
下に降りて玄関のドアを開ける。
「はーい……え?」
俺はドアを開けた先の状況に驚いた。
そこには、顔に生気がなく、右手にスマホを持って倒れている雪原がいた。
「おい!大丈夫か!?」
うぅ、とうめき声をあげて隈だらけの目を開ける雪原。気がついたようだ。
「気がついたか!」
「すまない、やらかした」
「何を、何をやらかした?」
もしかして、雪原は
「……雷雨」
「なんだ?」
「……一つ頼みがある」
「なんだ?出来ることなら叶えてやる!」
「実は……」
…
……
「はぁ!?HGOのために二日完徹した!?」
「雷雨、うるさい!」
「……はい」
雪原の衝撃発言に俺は驚き、大声をあげた(まぁ、その過程で時雨に叱られたが)。まさか、こんな近くにゲーム馬鹿がいるなんて。
ほんとに呆れる。
「で、俺の家に何しに来たんだ?お前に出せるのはせいぜいきびだんごぐらいだけど」
「十分過ぎるだろ。寧ろ何であるんだよきびだんご」
それはもちろん、これをあげて桃太郎の犬、猿、雉のように自分の家臣にするためだけど?
「おい、今恐ろしい事を考えていただろ、お前」
「考えていないさ、親友」
「いや、お前が俺のことをそう呼ぶ時は大概ろくな事考えてないだろ!?」
チッ、ばれたか。
「まぁ、それは置いておくとして、何のようだ?」
「あぁ、そうだ。雷雨、頼みがある」
「なんだ、
「おい、音読みになってんぞ。あと、漢字が何一つとしてあってねぇよ」
すげぇ、俺のイメージしてた漢字までツッコミしやがった、こいつ。もう、ツッコミ仙人になれるんじゃないかなぁー。
「まぁ、それも置いといて。雷雨、知っているか?運って言うのは生まれながら持っている物って」
知らないよ、初めて聞いたよ。
「そして、俺は気づいた!俺はそれを持っていないことを!」
それも知らない。初耳だよ。
「ところで、お前の運はどれぐらいだ?」
「え?Dだけど?」
「A、B、C、D、Eで?」
「あぁ」
低いな、お前の運。普通より下なのかよ。
「そこで俺は思いついた!名案を!」
ふーん、それはまた良かったですな。じゃあ、俺の出番はないな。
「ちょっと待て!」
この場を去ろうとした俺を引き止めにかかる雪原。なんだよ、まだ何かあるのかよ。
「頼む、最後まで話を聞いてくれ!」
「嫌だもん、雷雨君は部屋で一人チェスをするもん!」
「テメェ、俺より酷いじゃねぇかよ!!」
うるさい!俺の楽しみはもうこれしかないんだよ!邪魔しないでくれ!
あと袖を引っ張るな。服が伸びる。
「本当に頼む!」
とは言え、ここまでこいつが粘るのも珍しいな……。うん、親友の頼みだし、ここは……
「いいよ、で何がお望みなんだ?」
雪原は嬉しそうな顔をして、その願い事を俺に述べた。
…
……
「雷雨……ってどうしたの、雪原君」
「あ、良いところに時雨」
俺は台所にやってきた時雨に手を振る。一方の時雨はちらちらと雪原の方を見る。
当たり前だ。何と言ったって、こいつ今落ち込みすぎて塞ぎこんでるからな。
まったく……こんなの見られたら、俺が何か酷いことをこいつに向けてしたように見えるだろ。もちろん誤解だ。聞いてくれ、皆。
あの時、俺はこいつにガチャをお前が引いてくれ、というお願いをされた。本人曰く、自分の運はそんなにないから、お前に引いてほしい、とのこと。勿論、断った。加えて自分で引け、とも言った。しかし、こいつはしつこく、粘っこくお願いされたから仕方なく十連だけ引くことにした。
その結果、出た……あいつの欲しかったキャラクターと同じくらいのレアリティーのやつが。しかも、俺好みのキャラクターが。
その瞬間のあいつは凄かった。「これじゃないんだよ〜!!」なんて言って悲しんでいた。
『いや、それ人に引かせといて、それ?』と思ったが、可愛そうなので放っておくことにした。だって本気でしょげてたら言いにくいじゃん。
「まぁ、そういう訳なんだよ、時雨」
「なるほど……雪原君の自滅か。まぁ、雷雨に引かせたのは間違いだったね」
この時、俺の心にピシッと何か亀裂が入る音がした。
「おい、時雨。お前だったら当てられたって言いたいのか?」
「え、そうだけど」
「無理無理、お前じゃ無理だよ。だって艦娘の中で一番運が良いのなら分かるよ。でも、所詮二番だろ?それじゃあ、当てられないよ」
「……へぇ〜、そう思っていたんだ。」
時雨は負のオーラを撒き散らし始める。そのせいで近くにたまたま来ていた涼風が時雨のオーラにびびって逃げた。そして、それ以外の皆は……そもそも別の部屋にいたり、外出していたりするためこの騒動は知らない。皆、普段は思い思いにしたいことをしているからね。
「じゃあ、雷雨。そのキャラを僕が引いてあげようか。勿論、僕が引くのは雷雨と同じ回数だけ回す。もし、これで出たら暫くの間は雷雨のおやつをトルコアイスのオリーブオイルかけにするよ」
うわぁ〜、俺のおやつが苦手な食べ物二つでぶっつぶされる!っていうか、何その美味しくなさそうな組み合わせ。
「……まぁ、それで良いさ」
「良し、じゃあ引くよ。白露型二番艦『時雨』出撃!」
え、なにその決めぜりふ。初耳何ですけど。
…
……
「姉さん……そろそろ良いか……って、え?」
涼風は俺達の雰囲気に驚いたことだろう。雪原と時雨のどんよりとした感じ、そして、彼等を慰める俺。ぱっと見たら、俺が二人に何か酷い事をしたような感じがあるだろう。
しかし、それは誤解だ。この二人は自爆したのだ。
雪原はさっき説明したのでおいて置くとして、どうして時雨がこんな感じになったかと言うと、さっきの件だ。
時雨はあの後、ガチャを引いた。彼女は自信満々に引いたが、結果は……
お見事、俺と同じ結果になった。
時雨の場合は男か女かよく分からない僕っこを出した。
まぁ、そんな光景を見た俺は吹き出して、思いっきり時雨を笑った。結果はまぁ、お察しの通り、時雨はガチで落ち込んだ。さっきから、「良い雨が降っているよ」とずっと言いつづけている。正直怖い。
「別に今日は天気が雨降ってないどころか、快晴じゃん」
というツッコミはやめといた。何となく。
「どうしちまったんだ、姉さん!雷雨、お前が姉さんを?」
いやいや、そんなサスペンスドラマの犯人を見るような目で見ないでくれ。罪悪感が何処からともなく来るから。
「涼風、それは違う!誤解しないでくれ!」
「いや、お前だろ!お前が姉さんをこんなのにしたんだろ!」
ぐぐ……それは半分正解だな。俺としてもあまり言い返せない。
「取り敢えず、姉さん達に知らせないと!」
「え?ちょっと待っ……涼風ーー!!」
…
……
「なるほど、そういう事だったのか……。だったら、もっと早く言ってほしかったなぁ〜。心配して損した」
「何が『損した』だよ!俺の方がその台詞を言いたいわ!」
あのあと、俺は涼風を止めることができず、結果白露型全員(時雨を除く)が集まってしまう事態になった。本人達も最初こそは涼風が何か喚き散らしているなぁ、と思っていたらしいのだが、(涼風、お前は以前に何かしたのか)俺が時雨に何か酷いことをした、と涼風が訴えるのを聞いて皆駆けつけてきたのだ。
そして、皆で「雷雨バーカ」「アホー」「雨男ーー!」と散々悪口を言われた。というか、最後のやつに関してはお前らも似たような感じだからな!その理屈だとお前ら雨女だからな!
「……ともあれどうするの?時雨姉さん」
「こんな状態だしな〜」
本当に時雨は……。どんだけ自分の運を誇りに思っているんだよ。普通、そこまで落ち込まないよ。もうなんか魂抜けそうな感じでいらっしゃるけど。
「ねぇ、雷雨」
ぐっと袖を掴んできた感触がしたので、振り向くとそこには山風がいた。何処かそわそわして落ち着かない様子だ。どうしたのだろう?
「これ、引いていいかな?」
山風がそう言って指差したのは雪原のスマホだった。あぁ、山風はあいつのやっていたゲームのガチャを引きたいのか……。ん?ちょっと待てよ。
そもそもこんな事になったのはそこに寝ている
石も白露型が十連引ける分はある。よし決めた。
「山風」
「ん?」
「引いていいぞ、代わりにこの娘を当てるんだぞ〜♪」
「うん、分かった」
その後、時雨を除いた白露型全員に引かせた結果……
雪原の欲しがっていたものは出た。
しかし、代償は大きかった。それは白露型のsという娘が引いて出した直後、たまたま外で遊んでいた子供たちのボールがたまたまこっちに物凄い勢いで来て、たまたま開いた窓を通って、たまたまあいつの携帯電話をぶっこわしたのだ。
俺達は青ざめた顔をして、壊れた携帯をじっと見るしかなかった。
翌日、雪原にその旨を伝えると、あいつは干からびた米に進化した。
なお、たまたまデータのバックアップはしていたため新しいスマホを買って、そこからのゼロから始める、なんて事はなかったそうです。
次からは新学期偏、別名新学年偏です。
どんな感じになるのかは全く考えていないわけでもありません。