俺と白露型の日常   作:夜仙

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25 今と昔、ヲタクの定義は変わっている

「お願いがあるんだ、雷雨」

 

「ん〜、なに〜?」

 

 夜二時、俺の部屋に涼風がやってきた。やっと宿題が終わり、寝ようとしていた、ちょうどその時だった。

 

 俺は眠る気しかないため、頭は早く眠りたい、という一点に思考は集中していた。

 

「まぁ、ちょっとした事なんだ。明日お前に手伝ってもらいたいたくてな」

 

「おー」

 

 ちょっとした事とは何か。そんな事を一瞬だけ思うも、やはり眠い、という考えしかない。

 

 いつの間にか右足が貧乏ゆすりをしていた。

 

「だからさ、お願い!明日、〇〇〇で〇〇してくれ!」

 

「いいよー」

 

「本当に!?」

 

「……うん」

 

「よし、じゃあ明日よろしくな〜♪」

 

 俺はその肝心の要件を聞き逃したにも関わらず、適当に了承してしまった。あまりの睡魔の前の事だったが、ちゃんと聞けば良かった、と思ってしまう。やってしまった事はしょうがない。そんな言葉があるが、それでもやはり後悔してしまうのが人間の本性。だから、間違いを何度でも犯す。

 

 俺は今まさに、そんな哲学的な思考を耽りながら、立っていた。

 

 

 

 

 

 

 コスプレをしながら。

 

ーー二時間前ーー

 

「おはよう、涼風」

 

「おはよう、雷雨。今日もいい天気だな〜♪」

 

 久々にけたたましいノックの音を聞いた。あぁ〜うるさかったなぁ、そして懐かしい。最近は普通に早く起きれるようになったからドアをノックされる事がまずなかったから、ちょっと耐性が無くなってたな。

 

 そして、そんなノックに出たら涼風がいた。正直、珍しいと思った。だが、涼風が笑顔でいたため、俺はぞっとした。俺は知っている。こういう感じで出迎えられる時は大抵、ろくでもない事が待っているということを。

 

 しかも、それを普段しない人間がすると余計にだ。

 

 俺は取りあえず自分の部屋に引きこもろうとドアを閉めようとした。

 

「おいおい、何逃げようとしてるんだ、雷雨?」

 

 しかし、俺の逃走パターンを読んでいた涼風はそれを艦娘の力で阻止する。詰んだな、これ。

 

「いや〜、ちょっとゲームの続きを」

 

「じゃあ、なんで見たところゲーム機が置いてないんだ?それに、この家にはテレビゲームはないんだが」

 

 くそ、逃げ道が!

 

「雷雨、別にあたいはお前に金をよこせとか、そういう無茶は言っていない。ただ、あたいはお前に手伝ってもらいたいだけなんだよ」

 

「つ、ついでに手伝いはどのようなもので」

 

 嫌な予感の的中を悟った俺はせめてその手伝いの要件だけでも聞こうと思い、そう訊いた。

 

 すると涼風は笑顔で振り返り、

 

「それは着いてからのお楽しみだな!楽しみにしとけよ!」

 

 と言った。

 

 言ってくれないんですね、はい。

 

……

 

………

 

 そして、俺はここにいる。

 

 ここと言っても、何処だよって感じだろう。

 

 じゃあ、言おう。

 

 ここはコミケだ。

 

 そして、俺は涼風の知り合いの店の手伝いをしている。

 

 いや、おかしいだろ。なんで俺は涼風の知り合いの手伝いをしているんだ?涼風本人ならまだしも、知り合いだぞ。断る理由がいくらでもあったじゃないか。

 

 と言っても、もう遅い、遅すぎた。

 

 もうすでに俺は……

 

「あの〜、良かったら写真を一枚撮らせてくださいませんか?」

 

「なにこれクオリティー高すぎじゃない!」

 

「だよね〜」

 

「決めポーズを取ってください!お願いします!」

 

 ついでに俺は何の格好をしているのか。そう、それは……

 

「すごい、そっくりだね。あの人」

 

「ほんとにクオリティーが高いよね。もしかして、それだけ好きなのかな弾奏少女シロップ」

 

 弾奏少女シロップの格好をしている。

 

 言っておくが、別にこれは俺の趣味でもないし、性癖でもない。

 

 これは涼風が俺用に作ったコスプレ衣装だ。そして、俺はこれを着てただ涼風の知り合いである秋雲とかいう娘の店番をしているだけ。

 

 そうそれだけだ。別にこれを好きで着ているわけではない。

 

 というか、そもそも弾奏少女シロップってなんだよ!?俺知らないよ、そんなもの!

 

 なんか涼風が、「弾奏少女シロップっていうのはなぁ、弾奏少女の中でのクールキャラなんだけど、それでいて、おっちょこちょいな一面があるドジッ娘の一面があって……(以下略)」

 

 とか言ってたけど結局、何のアニメなのか一つも分からなかった。

 

 まぁ、好きな物に関しては愛が強すぎて冷静でいられないことも多いしな。実際、俺もよく好きなことをやって、夢中になって周りが見えなくなるからね。

 

 え?お前の好きなことは大概碌な物がないって?よろしい戦争だ、覚悟しろ。

 

「おーい、何ぼーっとしているんだ?」

 

 声のしたところを見ると、手に大量の本やキーホルダー等々のヲタクグッズを抱えて歩いている涼風がそこにいた。なんか君、開き直っているよね。前までヲタクっていうのをひた隠してたのに、今やすっかり堂々と明かしている。

 

 面倒臭くなったのか?

 

「おいおい、なんだ?あたいを見ても何も生まれやしねぇぞ」

 

「あぁ、すまんすまん。お前を見ていると、なんか腹立つわ」

 

「ひどいな、お前」

 

 苦笑している涼風。怒らないのは、恐らく多少なりとも罪悪感を感じているからか。それとも、別に怒らない性格なのか……。

 

 まぁ、後者だろうけど、とにかくありがたい。どっかのオカンSや一番を夢見る少女Sとは大違い。あいつら、こういうのでも怒るから、本当に思うんだけど、あいつら心狭いよね!うん、俺そう思う!

 

「……なんか雷雨、お前今悪いこと考えていただろ?」

 

「いえ、そんなこと全く」

 

「ふーん」

 

 俺のことを信頼しない目で見てくる涼風。悪いが、そんな目をされても俺はポーカーフェイスを貫いて無視するだけだ。伊達に元ギャンブラーだぞ、こちとら。

 

 そんなことを思っていると、向こうから声が聞こえてきた。

 

 涼風と共に振り向くと、そこには涼風が言うには弾奏少女ソース……の格好をしている、ここの店のオーナーのオータムクラウドこと秋雲。

 

 彼女こそ俺が今の今までコスプレをさせられた元凶だ。というのも、彼女は自分が描いた同人誌を売るついでに、コスプレをするのがほんのちょっとした楽しみらしく、今回はそれで弾奏少女のコスプレをすることに決めたとのこと。しかし、弾奏少女は全部で五人、しかもそれぞれのキャラはキャラで色々と細かい設定があるらしく、それらのせいで一人ではできないとなったらしい。

 

 そこで秋雲は同じ鎮守府にいた涼風に応援を要請。涼風はもちろん、オッケーを軽々と出す。そして、二人なら困るでしょう、ということで俺を無理矢理(涼風は合意の上でとか言っているが、あれを俺は合意とは認めない)連れ出して三人でこうしてコスプレをしている訳だ。

 

「あの〜、俺さっさと帰りたいんですけど」

 

「え〜!まだその格好でいてよ!」

 

 こちらをもったいなさそうに見る秋雲。

 

 なんだよ、そんなに男の女装がお好みなのかよ!

 

「だって、似合っているよ!その衣装。本当に違和感がないぐらいにさぁ」

 

「そんな事言われても『はい、これから着用します』とはなりませんよ!ていうか、さっきから視線がすごくて……」

 

「あぁ、だって似合ってるもんな、その衣装」

 

 いや、だから似合ってるって言われても嬉しさなんて微塵もねぇよ。例え、似合ってるからって注目がこっちに集まるのも嫌なんだよ。

 

 はぁ、さっさと帰りたい。

 

「とにかく、あともう一時間だけ。一時間たてば、脱いで帰っていいから!ね?」

 

 そう言って、秋雲はこちらにお願いする。なんていうか必死さがすごい。どんだけ、帰って欲しくないんだよ!

 

 というか、そんな大声でお願いされると、周りの視線が凄くこっちに刺さる。

 

 まずい、早く止めないと!

 

「分かりましたよ!やりますから!」

 

「本当に!?」

 

 うわぁ、きらきらした目をこっちに向けて来る。なんか罠にはまった感じで複雑な気分だな〜。

 

「そうと決まれば……はいこれ!」

 

 そう言って渡された物は一つのプレート……ん?

 

「これって」

 

「あぁ、店番のプレートだよ!」

 

 それは分かる。プレート一面に『店番』て書いてますもんね。

 

 だけど、俺が聞きたいのはそういう事じゃなくて……。

 

「なんでこれを俺に『じゃ、そんな訳でよろしく〜♪』あ、ちょっと待て!」

 

 疾風のような速さでいなくなる秋雲。

 

 俺は察した。

 

 これは面倒なことを俺に押し付けたんだ、と。

 

「どうしよう、涼風。こんなの渡されたんだけ……ど」

 

 振り向くと、さっきからそこにいた涼風がいない。

 

 ん、あれ?なんで居ないんだ?トイレか?

 

 いやさっきから声が聞こえないしなぁ……。

 

 あれ、ひょっとして俺……。

 

「面倒臭い事全部押し付けられた?」

 

 俺はそんな独り言をぽつりと呟いた。

 

 レジなんて今までやったことないから分からないんだけど。

 

 まず、どのボタン押すかも分からないんですけど。

 

 どうしよう、どうしよう!

 

 いや、あの二人を捕まえて無理にでも連れて帰れば!

 

「そうと決まれば……!」

 

 そう決心し、俺は正面を向く。

 

 そして、俺は見た。店の前で今か今かと商品を買おうとする客達の姿を。そして、それがかなりの数いることを。

 

 俺は声にこそ出さなかったが、心の中で叫び声を上げた。




今年の夏休みにコミケ行ったんですけど、あんまり艦これのコスプレをしている人がいなかったのが、個人的に意外でした。

そして、唯一コミケで見たのが雪風のコスプレでした。

なんか意外……。

まぁ、個人的には全然よかったですけど(見た時六十パーセントぐらいテンション上がった男の台詞)。
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