「雷雨君、私とお出かけしましょうよ!」
そう言って部屋のドアをバンと開ける音がする。はっきり言って、うるさい。君達には眠っている人に対する配慮はないのか。
よし、寝ているふりをしよう。
「ねぇ、起きてってば!」
うるさいうるさい!良い子はまだ寝る時間なの!さっき、ちらっと時計見たら朝の六時だったけど。あと誰だか分からないけど揺すりすぎ。頭がおかしくなる。
「…起きないようね。こうなったら」
お、何だ。諦めるのか?
「時雨姉さ『あぁ、いい朝だ!』」
ほんといい朝だ!(適当)
「で何?」
朝食後に今日俺を起こした村雨に訳を訊く。
「そうね…あ!お洋服買いに行きましょう」
「いや、時雨達と行けよ」
「姉妹同士でも行っていいんだけど、男性の意見を聞かないと……ほら、モテないし」
それ君が言う?きれいな髪をして、顔も良く、胸も大きい、そんな恵まれている君が言う?
「と、とにかく行きましょう!ほら、こういうのって男性がエスコートするものよ♪」
「そんなの聞いたことねぇよ」
っていうか、お前の言っているエスコートってかなりいい風に言っているけど、要は道案内じゃねぇか。
「さ、行きましょ雷雨君!」
そう言って、村雨は無理矢理俺の手を握って引っ張って行った。君達って、たまに強引なところがあるよね。
行き先は雪原と前一緒に来たエコンホールだった。休日もあってかやはり人が多い。
「はぁ…」
「どうしたの?ため息ついて」
「いや、最近こういう明るい施設ばっか行っているせいか、暗い建物に行きたくてな」
「暗い建物って例えば?」
「そうだな。カジノと「駄目です」…はい」
やっぱ駄目か。
「そもそも、ずっと気になってたんだけど、何で雷雨君はあんな危ない場所に行っていたの?」
「危ない場所って……何でそういう表現を使うんだ。」
「いいから答えて」
村雨はそう言って、俺の顔を見てきた。彼女の顔は今日の朝のような冗談が通じるような明るい顔ではなく、寧ろ真剣さをかなり帯びていて、前に見た時雨のあのオーラとは違う、別の何かだった事は分かる。
ただ一つ、俺に言えることがあるとするなら、ここで正直に俺が何故あんなギャンブラーになったかを話さなくてはならない、ということだ。
「…毎日がつまらなかったからだよ」
「つまらない?」
「そうだ。毎日毎日同じ日々の繰り返し、まるでループしているみたいにな。それに俺は飽き飽きしていたんだ。まぁ、俺にとっては毎日はつまらないクソゲーみたいな感じだった」
「だから、やったと」
「あぁ、ところでなんで急にそんな事を訊くんだ?」
俺が村雨の方を振り向くと、彼女はメモ帳に何かを書いていた。だが、それを俺が見ていると気づいた村雨は慌てて、メモ帳を隠す。
「何を書いていたんだ。村雨くん?」
「いや〜、別に何も〜」
とあからさまな怪しい言い訳をする。
「あっ、そうだ。私トイレに「待てや、ゴラ」はい」
さっきとは形勢逆転して、今度は俺があいつに尋問をする番になった。取り敢えず立ったまんまは嫌なので、近くにあったベンチに村雨と一緒に座る。
「で、何か俺に隠してる?」
「いや〜、特には」
「じゃあ、何で俺の方を見ないのかな〜君は」
「それはですね。その」
早く答えてくれ、村雨。お前は気づいていないだろうが、周りの視線がさっきからこっちに向けられて痛いんだよ!もう何か殺気立っている人もいるよ!俺だってさ、こんなことしたくないよ。だけど、お前のせいで問い詰めなきゃいけなくなったんだ!そういう事だから、さっさと言ってくれーー!!
「えーと、あのその」
もう早く…ん、あれって……
「え、雷雨君!?」
「あとで聞くから、ちょっと待ってくれ」
俺は群衆に紛れて通り過ぎようとしているあいつを見つけ、肩を掴む。
「よっ!雪原!」
さ〜て、どんな表情かな?
実はあの時、あいつが俺をチラッと見て、そそくさと逃げようとしていたのを目撃したのだ。何故かは分からないが、そうやって逃げるのは嫌いな奴だけにしろよ。友達である俺が悲しくなるじゃないか。
「な、何、雷雨?」
雪原はすごく驚いた顔をしながら言った。ただすごく驚いた顔じゃない。雪原が見せた顔はまさに驚天動地のような事が起きた時に人がする表情だった。うんうん、その表情が見たかったよ、お兄さんは。やりがいがあったぜ。
「どうして、ここに……ってあぁ、そういう事ね」
村雨と俺を見て、ニヤニヤする雪原。なんかムカつくな。
「なんだよ」
「べっつに〜」
「あの、私と雷雨君はそういう仲ではないんですけど」
そうだ、もっと言ってやれ。あいつに現実をたたきつけてやれ。
そう思っていると、雪原は何かに気づいたのかそわそわし始めた。
「どうした、トイレに行きたいのか?」
「違うよ。俺は今友達と待ち合わせをしてんだよ」
ふ〜ん、友達ね〜。そうか。
「そりゃあ、悪かった。じゃあな」
「あぁ、じゃあな」
そう言って、急いで行った。ほんの一瞬だけだが、あいつは嬉しそうな顔をしていたのが見えた。なんか俺と一緒にしている時の笑みとは間違っていた。誰と会っていたんだろうか?
おおっと、村雨のあの件についての追求があった。
「さて、村「私達も行きましょ!」えっ?」
何言ってんの?あの件が…
「その件は後にしましょう!ね」
「あっ…あぁ」
「それじゃあ出発進行!私のいいところ見せるんだから♪」
こうして村雨の勢いに流されるまま俺は村雨と一緒に買い物をするのだった。
[帰宅路]
「は〜、疲れた〜。休憩しようよ!」
「ふふっ、体力がないんじゃありませんか雷雨君?」
いや、デパートの中の服屋とかに全部行ったんだよ。荷物も服が中に沢山あって重いし。俺じゃなくても誰だってヘトヘトになるわ。
「白露姉さんや時雨姉さんはあともう一周するのだけどね」
アホじゃない?いや、艦娘って体力が普通の人よりかはあるのだから、当然とも言えるのか。なんだかこれだと俺のひ弱さがますます明るみになってしまって情けなくなってしまうな。そして彼女もできず…ぐっ、頭痛が……。
「どうしたの、頭を抱えて?」
「なんでもない」
まぁ、この悲しい案件は今は忘れよう。悔やんでもモテるわけじゃないから。
頭を上げた俺は村雨のいるところにちょうど夕日がさしているのが見えた。オレンジ色をしている斜光がきれいにあたりを照らしている。
「きれいだな」
「なにが?」
「夕日が」
村雨はそれを聞き、後ろを向いて夕日を見ると「そうね」とちょっと嬉しそうに言った。だがその後、少し浮かない顔をして夕日を見ていた。
「どうした?」
「ちょっと鎮守府にいるときのことを思い出していたのよ」
ふーん。…そういえば俺はこいつらの鎮守府についての思い出話を一回も聞いた事がなかったな。
「なぁ、村雨」
「何?」
「お前たちがいた鎮守府ってどんな所だったんだ?」
「そうね、明るくて賑やかな所だったわ。とても戦争をしているとは思えないぐらいに」
どこか遠くを見ながら話す村雨だったが、懐かしそうに語るところから見て、相当良いところだったらしい。
「良いところだったんだな」
「えぇ」
「だが、なんで今その事を思い出したんだ?もしかして、近くに同じ艦娘が居たのか?」
それを聞くと、クスッと笑って「違うわ」と否定した。
「司令官がね、夕日を見ると、よく言っていたのよ。『暁の水平線に俺らの名前を刻むんだ。そして、人間と艦娘で、この平和な日々を、毎日を守るんだ』ってね」
「ずいぶんと綺麗事をいう奴が提督だったんだな」
「ふふっ、そうね」
でも、そんな綺麗事をこいつらの提督は成し遂げたすごい奴だ。一回会ってみたいな。
「その提督は俺と違ってモテたんだろうなぁ」
「まぁ、そうね」
いいなぁ、俺もその人みたいにモテたい。
「ところで雷雨君って初恋ってした事があるの?」
この村雨の余計な一言が俺の心に直撃し、心の中で血を吐いた。それ、聞いちゃう!?
「私はないんですよね、だから、どんな感じか分からなのよね」
「お、俺もしたことは……ない」
「そう……ってなんで、今度は胸を抑えてるの?」
「……気にしないでくれ」
はぁはぁ、ダメージが。相当な傷が。この話題は変えよう。俺が死ぬから。しかし話題がない。傷がどんどん開いてくる。これはまずい、と思ったその時だった。村雨から見て左側の角にある角から、猛スピードでこっちに来る車が見えた。運転手は何をしているのか速度も落とさず、こっちへぐんぐんと来る。さらに運が悪い事に村雨本人は俺に何かを話しかけていて気づいていない。まずい、このままだと村雨が死んでしまう。そして、車があとちょっとのところで村雨の所に来る。…村雨、ちょっと痛いかもしれないから許してくれよ!
「村雨、危ない!」
「へ?」
次の瞬間、俺は村雨の手を思いっきし握って引っ張った、それと同時に車が村雨のいた所を通り過ぎる。間一髪のところだった。
しかしあまりにも引っ張りすぎたのうえ、荷物が重すぎたせいで勢いのあまり、俺は右横にあった電柱に頭を思いっきし打った。どうやらやり過ぎてしまったようだ。俺はあまりの衝撃に気を失った。
「ん…ここは」
目を開けると、俺はベッドで寝かされていた。窓から入ってくる風が心地良い。そう思っていると、ドアが開く音がした。中に入ってきたのは皆のオカンこと、時雨だった。時雨は俺が起きている事が分かると、心配そうな顔をしていた。
「大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
「それは良かったよ」
そう言って、勉強机の椅子に座った。身長が足りないのか足は宙に浮いている。
「ほんと無茶をするね、君は」
「ごめん」
「いや、いいよ謝らなくて」
「まぁ、おかげさまで夕飯作るのが遅くなったけど」ボソッ
時雨、聞こえてるぞ、お前の本音が。
「わざとにきまってるじゃないか。何を言ってるの?」
怖いよ、怖いよ時雨さん。
「まぁ、冗談だけどね」
それ本当にジョークですか?
「うん、アメリカンジョークのつもりだったんだけど…もしかして怖かった?」
今のをアメリカンジョークと、とてもじゃないけど思えません。あと、怖かったです。
「そんな感じじゃ女子からモテないよ」
「ぐっ、心に刺さる」
「まぁカッコいい武勇伝を作ったからね。ちょっとはモテるんじゃない?ちょっとは」
「うぅ〜、そのちょっとはいらない」
「まぁ、いいや。それじゃあ」
そう言って出口へと向かう時雨だったが、突然ピタリと止まった。そして俺の方を振り向いた。その顔は目覚めた時とは違って、少し嬉しそうだった。
「そうだ。下に雷雨の知っている人が居るから会ってみなよ。じゃあ」
そう言って、今度こそ出て行った。誰だろうか、俺の知人というのは?雪原だろうか?
取り敢えず俺は階段を降りていく。そこからは懐かしい声が……ん?この声って……
「まさか!」
俺は急いで階段を降りると、声のする方へと行った。
そして、声のするダイニングへと行くと、やはり居た。
「おう、雷雨!起きたか!」
俺をここに置き去りにした張本人であるがあいつが鍋をムシャムシャと美味しそうに食いながら言う。
「起きたか、じゃねぇよクソ親父!!」
家に近所迷惑になるぐらいに大声で俺はそう言った。
すごく長くなってしまいました。あと次回は他の所の話を書くので、これの続きではないことを知っといてください。