俺は桜が嫌いだ。春の季節に咲き誇り、春の季節が終わりに近づくと全部散っていく。その散り際を大抵の輩は美しいと言うが俺は永い時を生きてきてそう思った事は一度もない・・・・・・。俺は人が目の前で死ぬのを何回も見てきたからはっきり確信を持って言う事ができる、桜とはまるで人の一生その物だと・・・・・・。人間が神によって限られた命を与えられその短い人生を精一杯生き、死ぬ様はまるで桜の様だと、祖龍様も俺と同じ事を嘗て言っていた。確かに普通の家庭に生まれた者はその生涯を生き抜き死ぬときは安らかに逝くだろう・・・・・・だが、もし家族にも恵まれず友人にも恵まれなかった者が死ぬ時、その散り際はとても儚く、切ない・・・・・・。俺は様々な人や妖怪と触れ合って来て他人の死を嫌という程見てきた・・・・・・目の前で俺を庇って死んだ人間もいれば、直らない不治の病にかかり、死んでいく人間など、生きる事を諦め命を投げ捨てる人間など・・・俺は沢山の『死』を腐る程見てきた。アイツを失って以来俺はもう二度と失わない様に頑張った・・・しかし、俺は幽々子を失った時、自分が背負っていた使命も友人も家族すらも捨てて人間へ転生した。だが何の因果か、俺はまたこの世界へと転生し俺は記憶を取り戻した。運命って奴はとことん俺の精神的障害(トラウマ)を穿り起こしてくる・・・・・・嫌というほどに・・・・・・
俺はそう思いながら眼前の人物と相対していた。その人物は黒く咲き誇った桜を見上げながら薄く笑みを浮かべていた。あの時と服装が違っているが見間違える筈がない・・・俺の友人でもあり、あの時救えなかった女性・・・『西行寺 幽々子』本人がそこに居た。だが、俺はとてつもない違和感を感じていた。明らかに目の前の幽々子から感じられる力は亡霊とは思えない程強大だったからだ。それに幽々子の表情は笑顔そのものだがその感情からは一切の『色』を感じることができない。俺は警戒しながらも軽い微笑を浮かべ、幽々子に声を掛けた。
「久しぶりだな、幽々子・・・・・・」
俺がそう声を掛けると桜を眺めていた幽々子は振り返り、俺をじっと見据える。あの頃と何も変わらない筈なのに・・・今俺の目の前に居る幽々子の姿をした『何か』に嫌悪感を抱かずにはいられなかった・・・そんな俺の心情を知る由もない幽々子はあの頃と同じ笑顔を浮かべながら俺に言葉を掛けて来た。
「貴方とは初対面だと思うのだけど、何処かで会ったかしら~」
「ずっと昔に紫の知り合いとして君の屋敷に招待されたんだよ・・・覚えていないだろうけどね・・・」
いつもの様子で微笑を浮かべながら幽々子にそう言った。その言葉に幽々子は頬を赤く染め胸に手を当てながら小さく呟く・・・
「そうなの。でもなんだか貴方と話していると胸の奥が温かくなってくるわ・・・とても心地の良い温かさ、何だか凄く懐かしい気分・・・」
幽々子の言葉に俺はとてつもない違和感を感じた。確かに目の前の人物は紛れもない、嘗ての俺の友人『西行寺 幽々子』だ。だが、生前の彼女は俺と会って話すとき、冗談で激しいスキンシップや臭いセリフを言う事はあったが胸の内を話す様な軽い性格ではなかった。そしてその一言で俺の感じていた違和感は確かな物となり、嫌な予想は的中する。
(やっぱりこの幽々子は・・・)
俺は気を解放し、幽々子に向かって大量の気弾を放つ。しかし、幽々子は体に纏っていた霊魂を防御壁の様に張り巡らせ、その攻撃を防ぐ・・・
「いきなり攻撃とはマナーがなってないわね~・・・少しぐらい浸らせてくれてもいいじゃない・・・」
「やはりお前は俺が知っている『西行寺 幽々子』じゃない。誰だ、お前は・・・本物の幽々子を何処へやった・・・」
「あーあ・・・もう少しこの茶番を続けていたかったけど、流石に無理か」
幽々子の姿をした『何か』はそう呟くと、体から黒い瘴気が漏れ出しその瘴気は人の形を創っていく・・・そしてその瘴気から一人の男が姿を現した。容姿は短髪でその髪は白く瞳は金色・・・極夜とは似ても似つかない容姿をしている青年を極夜は知っていた。その人物は極夜にとっては忘れたくても忘れることなどできない相手でもあり一番会いたくない存在だったからだ。
「久しぶりだね、極夜兄さん」
「久しぶり・・・だな・・・白夜」
天界と対となる世界・・・『邪神界』の統治神【邪神王】『星屑 白夜』。兄である極夜と同じ時期に【祖龍】『ミラルーツ』によって生み出され、裏の世界の統治を任されその使命を全うしてきた存在だ。だが、白夜は数千年前に極夜によって封印された身・・・ここ(幻想郷)に居る筈がない存在・・・
「なんでお前がここにいる・・・お前は俺が・・・」
「じゃあ、逆に聞くけどあれだけの年月が経って僕があれくらいの封印、破れないとでも思ったのか?僕はこれでも邪神界の統率神なんだよ。修行は常にしていた・・・兄さんに追い抜かれない為にね」
「門の前で倒れていたあの子をやったのもお前の仕業か・・・」
「あぁ、あの半人前の出来損ないの剣士か・・・「幽々子様には指一本触れさせない」って言って切りかかってきたから返り討ちにしただけで後は何もしてないよ・・・それに、『西行寺 幽々子』には少し協力してもらっただけさ」
「協力だと・・・?」
「兄さんに会わせることを条件としてその霊体を貸してもらったのさ。まぁ、記憶が戻った今の兄さんには何の意味もなかったけどね」
極夜は倒れている幽々子の霊体に歩み寄り、確認する。白夜の言った通り意識がないだけで特に異常は無かった。だが分からなかった、殺すのが目的なら幽々子の霊体を使って俺を騙す様な真似なんかしなくてもいいはずなのに・・・
「なんでまたこんな事をする・・・。そんなに俺が憎いのか?殺したい程に・・・だったら、殺せば「僕だって好きでこんな事をやっている訳じゃない!!」・・・白夜?」
「僕は好きで天界の幹部達や兄さんの想い人を殺した訳じゃない・・・でも、駄目なんだ・・・兄さんの様な存在は・・・後に他の次元世界の未来に破滅を招くだけ・・・だから、僕はあの時兄さんを殺そうとした・・・」
極夜の言葉を遮り白夜は大声で叫ぶ。目から大粒の涙を流し、肩を掴み静かに震えながら極夜が知らないであろう真実をぽつりぽつりと静かに呟く。極夜の知らない真実を知りながら天界を滅ぼさなくてはならなかった理由・・・それが自分だと知り極夜は動揺を隠せなかった。
狂気と同化し、殺戮を繰り返し憎まれてもおかしくない所業を犯したのも全部・・・俺のせいなのか・・・!?
(あいつは一体何を知っているんだ・・・?)
(儂が出よう)
(爺・・・?)
(儂はあやつの真意を探る必要がある・・・あやつが誰の命令でこんな事をしでかしたのかを・・・)
駄神の声が震えているのを直感的に悟った。だが、すぐその理由を察する。駄神は恐れているのだ。たが、そうなってしまうのも無理はない。駄神は神の中でも一番下っ端に過ぎず、他の世界で死んでしまった人間の管理や手違いで殺してしまった人間を転生させるのが主な仕事で荒事が得意という訳ではない。だが、戦闘経験が浅い駄神でも最高神直属の部下であり生と死を司る力を持った白夜を前に恐れを抱かずにはいられなかった。下手に戦いを挑めば死ぬ、なら話し合いの中で白夜の真意を見極めるしかないと・・・駄神がそう言うと同時に極夜の体から光の粒子が溢れだし、その中から一人の老人が姿を現す。顎に立派な髭を蓄え、淡く輝く翡翠の目を持ち・・・腰まで長く伸びた白髪、そして教会に務めている宣教師が着ていそうな黒いローブを纏い佇んでいた。駄神は極夜の魂と融合する形で極夜のサポートをしている。本来、神や天使は実体を持たず魂だけの存在として生み出された、その為下界で活動するには人間の体を創り一時的に実体化をするしか方法がない。もし戦闘になってしまった場合、実体化している体に致命的なダメージが入りその体が機能を停止したら体に入っている魂は一瞬で昇天する。駄神が攻撃されないことを祈りつつ極夜はたった一人で対話を試む駄神を静かに見守ることにした・・・
「お前は・・・兄さんに手を貸していた名の無い神か・・・」
白夜は現れた駄神を見据え、小さく呟いた。しかし依然表情は変わることはない。駄神を威圧するように目を鋭くし、睨みつける。恐い・・・逃げ出したい、本能がそう囁いてくるが屈するわけには行かなかった。ここで引いてしまえば真実に辿り着けない、そして駄神は祖龍から極秘に頼まれていた任務、『天界を滅するよう命じた人物』を白夜から聞き出す為、その重い口を開き静かに問う。
「邪神王・・・お主は誰の命令で天界を滅ぼした?他の神王か?それとも他の次元の者か・・・?」
駄神はそう言い白夜に質問をするが、白夜は表情を変えないまま淡々と返した。
「・・・それに関しては黙秘権を行使させて貰う。『あの人』の事は話すことはできない」
もう対話では白夜の真意を見極めることも和解しあうこともできない・・・極夜はそう感じた。たが今の自分に白夜を倒す術はない。あるのはこの肉体に宿った『ありとあらゆる物を破壊する』力と吸血鬼としての身体能力だけだ、なんとか幽々子だけでも逃がすことができれば・・・!
(爺・・・あの様子だと白夜は絶対に真実を語ろうとはしない。戦いの中で俺が直接・・・)
「残念だけど、僕は兄さんと戦う為にここに来たんじゃない。兄さんをここにおびき寄せる為に西行妖を利用しただけ。兄さんはもう僕が仕掛けた『罠』に嵌っている」
白夜のその言葉と同時に極夜の周りを巨大な結界が包む。何とか壊そうと技を放とうとするが思考にノイズが走り、とてつもない激痛が極夜の体中を駆け巡る。
「これは結界ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「や、やめろ!?お主は一体何が目的なんじゃ!?西行妖の封印を解き、幻想郷を滅ぼそうとしていたのではなかったのか!?」
「僕の本当の目的は兄さんの記憶を呼び覚ます事だ。兄さんは『龍神王』じゃない・・・嘗て、誰からも愛されず『道具』として生きてきた神王・・・それが兄さんだ・・・」
意識が薄れ、様々な記憶が流れ込んでくる・・・それは、最近夢で見た悪夢とは違う、ずっと前に人間として生きていた頃に見た悪夢の一部だ・・・
―――――お主は・・・『・・・破・・・王』とし・・・みだした・・・れ・・・しく・・・む
―――――何で・・・俺は誰からも相手にされないんだ・・・
―――――お前は只の道具だ!愛される必要なんてないんだよ!!
―――――実は俺は元人間でね、転生を断ってゼウスに仕えている身だ。前世で誰からも愛されなかったから君の気持ちはよく分かるよ・・・
―――――俺はここで・・・死ぬのか・・・結局、俺は何の為に生み出されたんだろうな・・・こんな事なら全部壊シテシマエバヨカッタノカナ・・・
―――――お前はここで死なせはしない、俺の戦友の頼みなら禁忌を犯してでもお前を・・・!
流れ込んでくる記憶・・・極夜はこの記憶の中心となる男を知っていた、いや忘れていた・・・自分が何者なのか、どうして生み出されたのか、何故『道具』という言葉を祖龍の前で言ったのか・・・だがその記憶全てを思い出した瞬間極夜の意識は暗闇へと沈んでいった。意識が無くなる前に小さく誰かが呟く声が聞こえたが、それが極夜の耳に届くことは無かった。
極夜を包んでいた結界が解かれ、辺りに静寂が満ちる。極夜の髪は黒く染まり瞳は紅と蒼の二色に変わっており、虚ろな目で虚空を眺め泣いていた、何に対して泣いているかは分からない。白夜は兄である極夜の過去に何があったのか詳しいことは知らされていない。白夜は悔しそうに拳を握りしめ、自身の頬を力強く殴りつけた。命令された事とはいえ、兄であり目標でもあった人にこんな事はしたくはなかった。だが兄である極夜は他の次元に歪みを引き起こす元凶。兄弟でも殺さなくてはならない。そう分かっていても白夜は未だに納得ができなかった、本当に兄を殺して全ての次元世界は安定するのかと・・・。それでも・・・もう後戻りはできない。白夜は空間を腰に差していた剣で切り裂き、その中へ消えていった。
泣いている極夜を見た駄神はこの状況で何もできない自分にとても腹が立った。自分は本来神々の中でも下級の存在、ゼウス直属の神王に勝てる勝算も無ければ勝てる自信もない。それでも・・・共に過ごし、孫のように可愛がっていた極夜を守ることができなかった。ただ、その事実が駄神に重く圧し掛かる・・・そして虚空を眺めていた極夜は突然周りを見回し始める。そして小さく呟いた・・・
「目標対象補足・・・創破神王の名の下に、この世界の修正を開始する」
白玉楼――――――上空――――――
「!?あれは・・・」
「お兄様・・・これって・・・」
「これは・・・マズイかもしれないね・・・」
上空から様子を伺っていたレン達は極夜の状態に気付いた。極夜が発動させた『終焉』は嘗てレンが終始神として生きていた時に宿していた力の一端。その力は使うものによって様々な形に変えるのだが、もし転生者の様な前世の記憶と知識がある者がその力を使った場合はその者が転生する前に宿していた能力と種属をもう一度自身の体に宿らせるという物になる。だが、強大な力には当然代償もある。だがその代償は・・・とてつもない破壊と殺人の衝動に飲み込まれ、自分以外の周りの物に見境なく攻撃を仕掛けるという恐ろしいものだ。嘗てレンはその力に飲まれ、次元世界の一つを崩壊寸前まで追い込んだこともありその恐ろしさは身を持って知っている。しかし、この様な事態になるのは流石のレンでも予測する事はできなかった。レンの額から嫌な汗が流れる・・・
非常時の為にあの力を渡しておいたが、嫌な予感が的中するとは・・・幸いまだ極夜は動き出してない、あの段階で止めればまだなんとかなる・・・!
(最悪、俺が止める必要が・・・って、誰かがここに向かってきている・・・ッ!?この気配・・・まさか、この世界の霊夢か。今あそこに向かわせるわけにはいかないな、最悪の場合命を落としかねない・・・相当弱っているみたいだなしな・・・)
「アイ・・・」
「了解、この世界の霊夢止めればいいんだよね?」
「あぁ、狂気は解放するなよ・・・相当弱っているみたいだしな」
「よーし、じゃあ行ってきまーす!!」
アイはそう言うと背中の吸血鬼の翼を変化させ狂神王の証である黒が特徴的な堕天使に似た翼に変化させると向かってくる気配の方向へもの凄い速さで飛んで行った。レンはアイの行った方向を一瞥し、西行妖の様子を窺っているハデスへ指示を出す。
「ハデスは西行妖の再封印を頼む。俺は極夜を止める」
「了解、これで二度目になるがあの木の封印が完全に解けると厄介だけからね。私が使役している霊達に頑張って貰うとしますか」
ハデスはそう言うと次元に穴を開け、黄泉の国と繋げる。
「黄泉『死者の鎮魂歌(レクイエム)』」
ハデスが詠唱すると、黄泉の国に繋げたゲートから大量の霊魂が西行妖に向かっていき、その霊達は西行妖と同化する。そして霊が同化した瞬間、ハデスの体にとてつもない激痛が走るが、ハデスは苦しそうにしながらも笑顔を絶やすことなくレンに声を掛けた。
「これで一先ずは大丈夫だが、再封印には時間が必要みたいだ。レン、任せっきりで悪いが彼のことを頼んだよ」
「あぁ・・・ちょっくら行ってくる」
本来の歴史とは違った形で起こってしまった今回の異変。レンは感じていた・・・次元世界の運命が少しずつ乱れ始めていることに・・・。敷かれていたレールが突然無くなりそれが突然姿を変えて現れる様なそんな感覚、この歪みの原因は分からない・・・だが、今は自分のするべきことをするだけだ。
他次元から来た神々は動き出した、願わくばこれ以上被害が出ないことを祈りつつ・・・そして、たった一人の家族を救う為に・・・
龍夜「今回も軽い解説を入れていきたいと思います」
Q:神王について
龍夜「神王は最高神ゼウスが生み出した、本来の歴史上には存在しない『異端分子(イレギュラー)』な存在です。ゼウスや他の神々は他次元で起きる異常事態にいつ何時介入できるとは限りませんし、解決できるという訳ではありません。そこでゼウスは人間がもっとも恐れている架空の生き物や感情、現象などを自身と同じ存在にして創造し、生み出そうと考えました。それが神王です。そして龍神王を頂点として存在していた彼らは他の神達より強大な力と能力を持ち、ゼウスからの信頼は厚かったのですが、決して生みの親であるゼウスから『名前』を与えられることはなく『役職名』でしか呼ばれませんでした。これが神王の主な説明です」
Q:何故主人公は『星屑 極夜』という名前を与えられたのか?
龍夜「この『星屑 極夜』という名前は主人公と唯一関わりがあったある人物の人間だった頃の名前でした。祖龍が主人公にその名を授けたのはその人物から祖龍は『もし彼があの戦で死んでしまったら、彼の記憶を消して名前を授け、新たな存在として転生させて欲しい』と頼まれたからです。その為、神王の中で唯一極夜と白夜だけ名前を授けられました」
龍夜「という訳で今回はここまで、毎度のことながら投稿ペースが安定せず待たせてしまっている皆様には申し訳ない気持ちで一杯です・・・。ですが、失踪はしないので気長に待って下さると有難いです」
フラン(極夜)「というわけで今回もこんな駄文を見てくれて有難な」
龍夜&フラン(極夜)「「それではまた次回お会いしましょう」」