東方吸血王   作:龍夜 蓮@不定期投稿

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長らくお待たせして申し訳ありませんでした、それでは本編をどうぞ。


終始の神と創破の神

今の彼に感情という物は存在していなかった。

 

あるのは何かを為そうとする使命感と目の前に広がる景色、自身がいるこの世界、そして心に空いたこの焦燥を埋めたいと考える自分がいた。

 

だからこそ自身が持つべき忌むべき力を解放することも今の彼にとっては造作もないことだった。

 

―――壊れろ

 

その一言で彼が立っていた地面が一瞬で消滅した。本当に一瞬の出来事だった、攻撃の余波(よは)で地面が抉れた訳でも地響(じひび)きを立てて割れた訳でもない・・・文字通り音も無く消滅したのだ。

 

これこそが彼が嘗て創破神王(そうはしんおう)として生きていた頃に宿していた力、『創造(そうぞう)破壊(はかい)を司る程度の能力』

 

この能力の危険性はどの様な存在であろうと文字通り破壊してしまう所にある。『八意永琳(やごころえいりん)』や『蓬莱山輝夜(ほうらいさんかぐや)』、『藤原妹紅(ふじわらのもこう)』といった蓬莱人(ほうらいびと)でもこの能力の前では無力に等しくなる。蓬莱人(ほうらいびと)肉体(からだ)が死んでも魂さえ無事なら何度でも復活することができる。しかし、それは死という概念(がいねん)がなくなった訳ではない・・・(たましい)という概念が()現象(げんしょう)を無かったことにして元の肉体を再構築(リザレクション)しているだけに過ぎないのだ。

 

その魂すらも破壊してしまうこの力に対抗できる者など居る訳がない。彼に対抗できる者は彼と同じ存在か、同等の実力を持った強者だけだろう。

 

駄神(だがみ)の中で逃げるという選択肢が思い浮かぶことはなかった、嘗ての力を宿した彼に勝てる訳がない。かと言って意識が無い幽々子を背負って逃げ切れたとしても状況が良くなる訳でもない。むしろ悪化させるだけだ。

 

今の彼にこの世界で知り合った者達の記憶はない、あるのはゼウスに仕えていた時の記憶のみ。今の彼はこの世界で愛してくれた人達すらも手に掛けてしまうだろう

 

「まーた派手にやらかしてくれたもんだな、師匠としてはその成長ぶりは喜ばしいことだが少しばかりおいたがすぎるぞ・・・極夜(きょくや)

 

だからこそこの絶望的な状況を変えてくれる人物がここに来ることなどこの場の誰しもが予想していないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンは駄神の前に降り立ち、彼の姿を一瞥すると意識がない幽々子の霊体まで歩き彼女の霊体を抱え、駄神へと託す。その時駄神が見たレンの表情は普段の穏やかなものではない。

 

普段のレンからは想像もできない程『怒』の感情が滲み出ていた、だがその感情は自分自身に向けた物だった。大事な家族が苦しみ助けを求めているのに何もできない自分の不甲斐なさに腹が立って仕方がなかった。

 

「ここは俺に任せな。この状況であんたら二人を守りながら戦うのは無理だ、今のあいつには俺の声すら届かないだろうしな」

 

「し、しかし・・・儂は・・・」

 

「今はここから逃げ延びることだけを考えろ。安全な所まで逃げて助けを呼ぶんだ、それが今あんたができる最善の手だろ。感情に流されて自分の命すら無駄にする気か!」

 

レンの怒声に駄神はハッとなる。そうだこの事態を他の者に伝えなければと・・・もはやこの異変は自身が知る異変とは違う、自分一人の力で解決できる様な代物ではないと。

 

駄神は幽々子を抱きかかえると、その場から飛び立ち全速力で白玉楼から逃走した。決して振り返らず全速力で逃げた。逃げてる駄神には極夜をレンに任せてしまった罪悪感と一早くこの事態を幻想郷に住む者達に伝えなくてはいけないという考えが頭の中を埋め尽くしていた。

 

レンは逃げる駄神が攻撃されまいと彼に注意を配っていたが、彼が攻撃することはなかった。突然現れたレンに意識が集中していた、まるで親しい親友に久しぶりに会った様な生き別れた家族と再会したかの如く彼はレンをじっと見ていた。

 

彼は表情には出していない。だが彼がレンに対して誰かの面影を重ねていることは察してはいた。心を読む(さと)りの妖怪ではないがレンは他人の心情を読むのが上手い・・・いや、彼に修行をつけていたレンだからこそ分かるのだろう。

 

レンは彼に対して言葉を投げた。修行の合間の休憩に彼と話したあの時の様にいつもの軽口で、変わらない表情で。

 

「それにしてもお前があの戦争の当事者とは知らなかったなー・・・。正直ゼウスから聞くまで半々半疑だった。だけど、今のお前を見て確信が持てた。俺と会うのは初めてかな?『創破神王(そうはしんおう)』」

 

「貴方の力で私が現世に呼び戻されるとはさすがに予想外だったが、一応感謝はしておこう・・・『終始神(しゅうししん)』」

 

「おっと、俺の事もご存じとは光栄だね・・・ってそうだよな、俺の力で呼び戻されたんだから俺の事は知っていて当然か」

 

「ゼウス様から聞いてはいたが、まさか貴方だったとはさすがに驚いた。私の中で眠っている(わっぱ)の記憶を探って知ったが何故私に修行をつけた?」

 

「・・・さぁ、なんでだろうな」

 

レンは自嘲気味(じちょうぎみ)に笑って空を見上げる。なんで彼に対してあそこまで世話を焼いたのか、それはレン自身にも分からなかった。

 

最初は依頼で彼に関わっただけなのにいつの間にか自分は彼に対してあそこまで肩入れをする様になった。修行をつけ、共に暮らした・・・年甲斐もなく口喧嘩をすることもあった。だが、そんな何気ない日常を楽しんでいる自分がいた・・・

 

レンがここまで彼に肩入れするのは自分と同じ道を歩んでほしくないからだ。レンは他人の幸せの為なら自らが不幸になってもいいといつも思っている。それは自分が犯してきた罪への償い、悠久(ゆうきゅう)に消える事のない自身への(ばつ)

 

この世界は嘗て自身がいた幻想郷とは()()なる世界。この世界に住む彼女達は自分が知る彼女達ではない、だとしてももう彼女達の泣き顔を見るのは御免だ。その為なら甘さを捨て非情になってでも今のあいつを止める。それが自分の役目だ。

 

「駄目元で聞くが極夜に肉体(からだ)を返す気は?」

 

「ない、それに私はこの世界を修正しなくてはならない使命がある。貴方の頼みでもこれだけは譲れない」

 

「そうか、だったら・・・」

 

レンは腰に差した刀を抜き放ち、その()(さき)を創破神王へと向けた。今のレンの表情(かお)は紛れもない祖龍一族(そりゅういちぞく)に属していた時の表情(かお)。敵を殲滅(せんめつ)をさせるまで決して手を抜かず、相対する敵への同情も甘さも捨て去った狂戦士(バーサーカー)がそこにいた。

 

「お前をぶった斬って極夜の意識を引きずり出すまでだ」

 

「貴方は身内に対していや、他人に刃を向けることを何より好まない性格のはずだ。この童は貴方にとって家族に等しい存在、本当にできるのか?」

 

「そんな甘い考えでここまで来ると思うか?最悪の事態も予期してここまで来たんだ。今更ここで引き下がれるか」

 

「そうか、なら・・・」

 

創破神王は手に力を集中させ、一本の剣を具現化した。それは北欧神話において【狡猾(こうかつ)なロプトル】によって鍛えられ、女巨人シンモラが保管していると語られている神器の一つ炎剣(えんけん)【レーヴァテイン】

 

それもスペルカードで生み出した(まが)(もの)ではなく、初めてレンが彼と会った時に渡した本物(オリジナル)だ。刀身から神力が宿った炎が()(さか)り、放つオーラは尋常(じんじょう)ではない。

 

「私も貴方と同じ考えで行かせて貰いましょうか」

 

「作った俺が言うのも今更だが、とんでもない神器渡してしまったな・・・」

 

「利用できる物は何でも利用する。それが私の主義なんでね・・・例え他人から貰った力だろうと自分の目的の為なら戸惑い無く使う。貴方だってそうして戦ってきたはずだ」

 

「確かにな、だがこんな馬鹿げた目的の為に他人から貰った力を悪用した事はないからな。そういう点では俺はお前とは違うと自信を持って言えるよ」

 

「その薄汚い口を閉じろ・・・さもなければ、殺す」

 

「汚いのはお前だろ?他人の力を利用してまで目的を果たそうとする馬鹿弟子(ガキ)に今から俺はきつーいお灸を据えようとしているだけだ、殺される気は毛頭ない。それに・・・」

 

そう言葉を切ると、レンの背中から二対(につい)の翼が生える。彼との修行中に見せた祖龍の翼ではなく、本来の『力』を受け入れ行使(こうし)する事ができる様になった力で生やした翼。右翼が黒、左翼が白・・・神話に出てくる天使と堕天使の翼の色に酷似しているが翼の色は彼が持つ二つの力の象徴でもあり嘗て次元世界全てを滅ぼしかけた災厄の力【終始(しゅうし)(つかさど)程度(ていど)能力(のうりょく)】だ。

 

「これから行うのは『殺し合い(ゲーム)』じゃない、『卒業試験(そつぎょうしけん)』だ。お題は俺に膝を付かせる事、師匠越えやってみせな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界とは何か、強さとは何か、愛されるとは何か・・・私は今でもそれが分からない。

星を司り、全ての星座を管理する【星神王(せいしんおう)

狂気を司り、異常とも呼べる概念を管理する【狂神王(きょうしんおう)

時を司り、次元全ての時を管理する【時神王(じしんおう)

生と死を司り、次元世界全ての存在の生の運命と死の運命を管理する【邪神王(じゃしんおう)

 

私以外の神王達は尊敬され崇められ、愛されていた―――

 

じゃあ、何故私は愛されない?私が表の世界以外の力を宿しているから?それとも私がゼウス様以外の命令しか聞かないから?

自分に問いかけてもその答えが返ってくる筈もない、私の中に残るのは自分という存在がなんで生み出されたのかという疑問だけだった。

何故私はゼウス様に生み出されたのだろうか。何故こんな力を俺に授けたのだろうか、なんで私にこの役職を命じたのか。

胸の中にある不安や疑問を忘れようと必死にゼウス様から命じられた仕事をこなす。

 

創造と破壊・・・こんな力があるから私は誰からも認められず、誰からも愛されないのか・・・

答えなどありはしなかった、どんなに頑張っても私は誰からも認められなかった……

 

暗闇の中を私はずっと歩いていた、ある筈のない幸せを探して私はずっと暗い暗い世界で今も彷徨っている―――

こんな辛い思いをする位なら全部壊してしまえばよかったんだ……そうすれば、愛される必要もない、誰からも必要ともされない――

 

誰か私を殺してくれ、私の人生(いのち)を終わりにしてくれ・・・もう生きることすらも辛いんだ。

 

誰か私を・・・俺を楽にしてくれ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いへの意味と理由を見いだせず今も俺は悩んでいる。

何故?とアイにもハデスに何度も質問されたが明確な答えを出す事はできなかった。

先生が幼少期の俺に対して『明確な目的もなく剣を振うのは愚かな人間達の争いと同じだ。目的が無いなら時間を掛けて見つけろ、そうすればお前はもっと高み行ける』と言っていたのを今でも思い出す。

 

しかし今更高みに行った所で何になる?俺にはもう剣を振う理由がない。あるのは次元世界を見守り、他次元で起こる異変を解決するだけ・・・ただそれだけしかない。

 

そんな時に出会ったあの青年は昔の俺と似ていた。何かを守る為に貪欲に力を求めるあの姿勢も、大切な物を守る為に命を投げ捨てようとするあの姿勢も昔の俺その物だった。そんな彼を見て俺は思った『絶対に俺と同じ道を歩ませてはいけない』と・・・

 

それから俺は彼に修行をつけた。剣術、体術、魔術その他にも戦いの極意や心得など自分が持つ技術を彼に叩き込んだ、そんな中で彼は俺に何回か質問をしてきた。『戦いにおいて最も重要な事は何ですか?』その質問に対して俺こう返した『戦いの上で必要になるのは実戦経験だが、それ以上に相対する敵への同情や甘さを捨てる事が最も重要だ』と。

 

この考えは俺の持論に過ぎないが、甘さを捨てきれなかったせいで俺は大切な人を二度も失っている。例え強大な力を持っていようと守れなければ意味がない、眼前に立ち塞がる敵を殺す覚悟で戦いに臨まなければならない。例えそれが家族だろうと友人であろうと、眼前に立ち塞がるのであればそれは敵対した事と同じだ・・・もし俺がアイやハデスに非殺傷なしの戦いを望まれれば俺はそれを拒むこと決してないとはっきり断言できる。

 

だが彼は甘さを捨て切れていない・・・もし俺と敵対することになった時、果たして彼は俺に剣を向けれるだろうか?俺を殺さなければならない状況になった時彼は俺を殺す事ができるだろうか?

 

もしそうなった時は俺は本気で彼と敵対しよう・・・敵対する理由で何であろうと関係ない。強者に対しては常に敬意を払い手を抜かず全力を尽くし、戦いに臨む・・・それが戦う相手に対する最大限の礼儀だ。

 

昔の様に自分を見失っていたあの頃の俺はもういない、今の俺は【祖龍一族(そりゅういちぞく)】の【レン・リュウヤ】でもあり【終始神(しゅうししん)】の【レン・リュウヤ】でもあるのだから。

 

だから俺に膝を付かせてみろ【創破神王(そうはしんおう)】・・・いや、二十代目【龍神王(りゅうしんおう)】『星屑極夜(ほしくずきょくや)』。

 

 

 

 

 

 

 

 

正面から振われた炎剣(レーヴァテイン)から放たれる神器の斬撃、その場から飛び退き回避には成功するが神器の炎が少量だがレンの左肩を掠った。

 

少量掠ったと聞けば被害は最小限に抑えられたと普通は思うがレーヴァテインから放たれるのは神器の炎、神力を宿らせた神の(ほむら)だ。少量とはいえレンの左肩に激痛が走る。

 

(スペルカードで創ったレーヴァテインも厄介だが、やはり本物(オリジナル)の一撃が一番重い・・・少し掠っただけでこの激痛とはな・・・)

 

しかし泣き言など言っていられる暇などない、創破神王は次の攻撃へと移っていた。

 

 

――マスタースパーク

 

 

手に魔力を集束させ、密度を高めた砲撃が放たれる。霧雨魔理沙の代名詞でもあり『弾幕はパワー』の彼女を表現するに相応しい技、彼が魔理沙と一度戦ったことがあることを聞いてはいたが一度見ただけで本人以上の火力をここまで再現するとは思ってはいなかった。

 

「(って感心してる場合じゃないな、防がないとさすがに不味い)神盾『アイギスの加護』!」

 

レンは手に神力を集中させ、巨大な盾を両手に生成しその砲撃を受け止める。

 

その行為を見た創破神王は疑問に思った、『何故防いだ?』と。あの程度の砲撃で態々防御耐性を取るような者は中々いない。幻想郷の人妖ならまだしも目の前にいるのは最高神『ゼウス』の創造主でもあり全ての次元世界を生み出した神だ。そこまで考えて創破神王は確信した『嘗められている』ということに。

 

「何故防いだ?あの程度の攻撃でその技を使う必要もないはずだ。この私を嘗めているのか?」

 

「いやいや、嘗めるなんてそんな無礼な事はしないよ。本来の能力は極力使わないように普段からを心がけているだけで決してお前を嘗めている訳じゃない」

 

他人が聞けば侮辱ともとれる言い方だがレンのこの言葉に嘘も偽りもない。

本来ならレンは緊急の事態でない限りは本来の力を解放したりはしない、レンの能力は他の神が対処できない問題や敵に遭遇した時の為の言わば『最終手段』だ。本当ならこんな何も意味も持たない『殺し合い』で使う能力ではないのだ。

 

「まぁ、最後まで防ぎ続けるのもいいがそうすると永遠に終わりそうにないからな・・・【そろそろ行かせて貰う】」

 

 

 

―――喰符『満たされない空腹』

 

 

 

その瞬間創破神王の体から力が抜け地面に片膝をつく。レンがした行為はただ刀を縦に振っただけで傍から見れば何か特別な事をした様には見えない。だがその行為をした途端一瞬にして創破神王の神力が無くなった。

 

「グッ・・・!?(私の中の神力が・・・!?)」

 

「あぁ、言ってなかったな。俺の刀は只の刀じゃないんだよ・・・妖刀でもあり神刀でもある業物の刀『氷狼(ひょうろう)』。名前位は知っているだろ?」

 

「成程・・・私の神力が一瞬で減ったのはその刀に宿る『氷狼(フェンリル)』のせいか・・・」

 

「ご明察、挨拶代りにお前の神力喰わせて貰ったぞ、ごちそうさん」

 

「全く、悪趣味ですね・・・グッ・・・(神々の黄昏(ラグナロク)を引き起こした北欧の神々を喰らいし魔狼(まろう)・・・その力を宿した刀で挑んでくるとは流石に計算外だ、このままでは・・・)」

 

「余所見してていいのか?こっちの仕込みは既に完了しているぞ」

 

「何を・・・ッ!?」

 

見渡すと辺りには神力で生み出した特殊な光弾が大量に張り巡らされていた。しかし明らかにおかしい、何故今まで気づかなかったのか。そこまで考えて気づいた、あの時態々盾を生成し攻撃を防いだあの行為の本当の意味に。

 

「成程、防いだ盾を露散(ろさん)させると同時に大気中の妖力と混じ合わせて私に気づかれない様にこっそりと仕込んでいた訳か・・・これはまた派手な」

 

「派手なのは大好きなんでな」

 

そう言ってレンは指を鳴らす。その瞬間光弾は一斉に創破神王へと降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とてつもない爆音が冥界の空全体に響き渡る、アイ・スカーレットは屋敷の方向を見ながら一つ溜息を吐いた。普段ならレンがやりすぎてしまわないかとか加減できているかとかの心配をするがどれも違った、もしレンが本気で殺しに行けば一瞬で勝負は付くだろう。だがあえてそれをしない理由・・・それは創破神王に対しての話し合いが目的だった。

 

創破神王はゼウスに生み出された初代の神王達の中で実力はトップ、龍神王には及ばなかったものの当時の天界で彼に勝てる者はいなかった。

だが実力面で勝っていても人望の面では彼は誰にも勝てなかった、その理由は能力の強大性。

 

どんな物だろうと彼の言葉や意志によって破壊され、存在しえない物すらも創造した。当時の神王達からすればこれ程恐ろしい能力はないだろう。

 

だが彼からしたら迷惑極わりないことだ。持っている能力のせいで嫌われ、道具としてその人生を終えた。

 

悲しすぎる・・・その話をゼウスから聞いた時に思った。当時の事を知らないとはいえ自分も道具として扱われる恐怖が嫌というほど分かる。だからこそレンは確信を持っていのかもしれない、創破神王はレンに殺される事を望んでいるということに。

 

生きる意味を失くし、現世に蘇った者の望みは『死』だけだ。だが、レンはあえて挑発し創破神王の敵意を煽った・・・レンは戦いの中で答えを見つけるという結論に至ったということになる。

 

「お兄様も随分と無茶するなぁ・・・まぁ、私が言えた義理じゃないけど」

 

レンを救う為なら死んでもいいと思った時は何度もあった、だけどその度にレンは何度も同じ言葉で自分を叱った。

 

 

―――俺の代わりに自分が死んでいればよかったなんて言わないでくれ・・・もう誰にも死んでほしくないんだよ、俺は・・・

 

 

あの時のレンの表情(かお)を思い出す度に心が痛む。レンに出会う前なら他人の為に死んでもいいなんて考えは絶対にしなかった、だからこそあの時レンを助けられるのなら自分が犠牲になればいいと思った。だけどレンはそれを許さなかった、今となってはあの時の自分の行いに後悔している。この世界の霊夢はあの頃の自分とよく似ていた・・・必死になって止めたのは自分と同じ思いをしてほしくなかったからだ。

 

血が繋がってはいないとはいえ霊夢と極夜は家族だ、もし今の極夜を見れば霊夢を自分を保てなくなるだろう。それだけは絶対に避けなければならなかった・・・だからアイは『あの記憶』を見せてでも霊夢を止めた。もう自分の中で使う事はないと禁じていたあの技を・・・

 

「結局・・・私もお兄様も約束果たせないまま別れちゃった身だけど、それでも・・・今回ばかりは許してくれるかな?」

 

 

――『フラン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放たれた光弾が命中し、辺りに硝煙(しょうえん)が舞う。しかし今の攻撃で倒せるとはレンも思ってはいない。今の彼にとって自分の攻撃など蚊に刺された物と同じだ・・・それに彼なら今の攻撃を防ぐことなど容易にできるだろう。

 

硝煙が晴れると彼は何事もなくそこに佇んでいた。あれだけの神力を氷狼で喰らったのにも関わらず今の攻撃を全て防ぎきるなど本来なら不可能に近い。となると考えられるのは自身の能力で神力を一時的に増やして防いだのだろう。

 

「あれを防ぐとはな・・・流石に驚いた」

 

「正直ギリギリでしたよ・・・咄嗟に能力を発動していなければ粉々でしたから・・・ね・・・」

 

「あれでギリギリとはね。お前程の実力者なら避けるのも容易だろうに」

 

「他の神王や下級の神程度なら警戒する事もありませんが貴方に対して油断や慢心は命取りだ、例えどんな強大な能力を宿していようと優れた才能を持っていようと戦いにおいてそれは殆ど意味を為さない・・・戦いにおいて一番大事なのはどれだけ相手より『先手』を取れるかどうかですからね」

 

ゲームにおいても現実の戦いにおいても敵より先手を取り、どれだけの致命傷を与えられるかが鍵・・・それはレンも理解はしていた。しかしレンは明らかな疑問を抱いていた。

 

 

【戦いが始まってから創破神王は一度も能力を発動していない】

 

 

終焉の力が暴走する形で黄泉返ったとは言え、創破神王の能力は自分が持つ能力には及ばないにしても幻想郷を破壊することなど容易い筈だ。それにさっき防いだマスタースパークも本気で放ったとは思えない程威力が低かった。

 

(ゼウスから聞いてもしかしたらと予想はしていたが、ここまで死にたがりだとは思わなかったな。戦いの中で答えを見つけると決めたのはいいもののこれだと解決の糸口すら見えてこないぞ・・・)

 

創破神王は今か今かと自身が殺されるのを待ち望んでいる・・・だが、彼を殺した所で全てが解決する訳ではない。今回の異変はあくまで暴走した極夜を止める事が目的だ、殺す為に介入した訳ではない。

 

(こうなったら、駄目元でやってみるしかないな・・・)

 

レンは「フゥ・・・」と一つ息を吐き、氷狼を鞘に納め創破神王に問いを一つ投げた。幽閉された少女と出会った時に同じ問いを、狂気を身に宿し生きる意味を見いだせず苦しんでいた少女に出会った昔を思い出しながら・・・

 

「一つ質問だ、お前はたった一つしかない大事な命を・・・『コイン』を誰かの為に捨てろと言われたらどうする?」

 

――貴方はこの戦いに何を懸ける?

 

「命をコインに例えるとは貴方も物好きだな。ええ、捨てられますよ・・・そんな何の価値も持たないたった一つの『コイン()』なんて」

 

――そうだな・・・懸けられる物なら腐る程持っているが、ここは無難に俺の命でも懸けるとするよ。

 

「人生に二度はない、俺やお前の様に『コンティニュー(輪廻転生)』が許された存在もいれば転生することも輪廻(りんね)()に逝くこともできない存在もいる。お前は他の神王達の気持ちを考えた事があるか?あの戦争で死んでいった仲間の為に何かしてやったのか?」

 

――なんで?なんでそんなにボロボロになってまで戦おうとするの!?

 

「他の神王?自分の為にしか動くことのできない道具共の為に何かしてやる道理があると本当に思っているんですか?死んで当然ですよ・・・あんな奴ら・・・」

 

――俺はこんな方法でしかお前を救う術を知らない。だが分かって欲しい、確かに世界は理不尽だ、運命は非常だ。だが生きていれば、歩き続けていれば必ず手を差し伸べてくれる奴は現れる。だからもうこんな事はやめよう・・・もういいんだ、そんな意地を張らなくても・・・俺がずっと傍に居るから・・・

 

「確かにお前以外の神王は救う価値が無い奴が多かったかもしれない、だが他の神王を否定するということはお前が兄の様に慕っていたアイツまで否定する事になるんだぞ、それを分かって言ってるのか!?」

 

「それは・・・」

 

「生きる意味を見い出せず苦しんでいるのは知っている・・・だが、死んだ所で何になる?そんなことをして本当にアイツが喜ぶとでも思っているのか?」

 

嘗て救った少女も持っていた能力と常軌を逸脱した精神状態である狂気に苦しみ『壊す』事でしか自分を保てなかった。創破神王も同じだ、道具として扱われ誰からも認めて貰えず、死に場所を求めて戦いに身を投じていた。

 

当時の天界の事情をレンは詳しくは知らない、部下でもあり信頼していたゼウスが生み出した神王達に対して何故その様な酷い仕打ちをしていたのかすらさえ。

 

「なら私にどうしろと言うんですか・・・私には何もない、慕ってくれる部下も愛してくれる人も・・・私には最初から何もない、名前も存在意義も・・・」

 

「・・・存在意義か、それなら俺のほうが無いな」

 

「え・・・?」

 

「俺はな、一族に仕える前は孤児だったんだよ。行く充も無く、愛してくれる人も、叱ってくれる人すらいなかった。何処で生まれたのか、自分が何者なのかすら分からなかった・・・今のお前と一緒だな」

 

自分の種族も名前も知らなかったレンにとって他人から『嫌われる』ことや『憎まれる』ことはあっても『愛される』ことは無かった。

 

後に先生と呼び慕う師と出会うあの時までは・・・

 

「だからこそ記憶を取り戻した時、どんなに嫌われようと誰かを幸せにできるなら自分は一生『不幸(ふこう)』でいいと思えるようになった。他人から見れば俺の生き方は『異質(いしつ)』だし『(くる)っている』と言われても仕方のない事かもしれない・・・だけど、それでいいんだ。俺は消す事のできない『(つみ)』と『(ごう)』を背負って生きているからな」

 

(この人は私と同じ・・・いや、それ以上に辛い事を経験していたのか。それを経験した上で自分の幸せすらも捨ててまで他人の為に動けるというのか・・・)

 

目の前の男は自分が尊敬していた人以上に先を見据え、自分以外の誰かの為に動けると言い放った。

 

その言葉だけで信じるというのはすぐにはできないだろう、だがその男の言葉に嘘も偽りもない。彼の言葉は確実に自分の心に響いていた。遥か昔に兄の様に慕っていたあの人が語っていた理想とは違うが目の前の男は揺るがない信念と強さを持っている。

 

(これが現在(いま)の自分の・・・『星屑極夜(ほしくずきょくや)』が追い求める理想か)

 

創破神王は持っていた炎剣(レーヴァテイン)を消し、空を見上げた。灰色の空・・・光が差し込まないこの空の下で嘗て自分は戦っていた。他の神王が死に逝く中、一人で敵を切り伏せて行った。味方がいなくても、自分の力だけで何とかなると・・・そう思っていた。

 

だがそれは傲慢だった、自分一人では何もできなかった。一人の力では何も成し得ることなどできなかった・・・自身の死が近づく中で愚かな自分の行いを悔いながら無意識にそう思った。

 

やっと自由になれる、やっと解放される・・・あの時まではそう思っていた。だが自分は生き返った、名前を与えられ、あの人と同じ役目を与えられて。

 

家族を知り、愛されることを知った・・・誰かを好きになり、誰かを愛するということを知った・・・。前世では手に入らなかった物が全部手に入れることができた。そしてそれら全てを失った後に天界を抜け、旅に出た。

 

人間を知り、妖を知り、領地の為に下らない争いを続ける神達を知った。それと同時に自分と同じように迫害され誰からも受け入られない妖や半妖がいるということも知った。

 

(旅をして得た物は多いと感じていたが・・・意外にも少なかったらしい・・・)

 

口元に薄い笑みを浮かべ創破神王は覚悟を決めた・・・起こりえない形で起こった歪みを終わらせる為に。

 

「・・・貴方の覚悟は嫌という程分かりました。その上で頼みたいことがあります」

 

―――私を殺して下さい

 

創破神王が告げたその言葉にレンは目を見開く。驚きの感情より先に怒りの感情がレンの心を満たした。

 

しかしその感情も一瞬で消え去る、創破神王が言った言葉の意味を理解してしまったからだ。本来起こる筈のなかった歪みを正す為に創破神王は【『星屑極夜』を殺さずに自分の魂だけを消滅させろ】と言っているのだ。

 

本来起こりえない歴史を修正しこの世界の『歪み』を修正することはできるがそれは同時に昔の彼を今ここで殺さなくてはいけないということになる。

 

「お前は・・・それでいいのか?」

 

「私は終焉の力によって現世に呼び戻された記憶の残像でしかありません。居てはならない存在です・・・それに私を含めた他の神王達もあの戦で皆死に絶えてしまっている以上私だけが生き返るなんて不公平にも程があるでしょう?それに・・・もう未練は無くなりました」

 

そこで創破神王は一度言葉を切り、西行妖のほうへ視線を向ける。黒々と咲き誇っていた桜は既に封印され枯れた巨木のみがそこにあった。

 

異変の根源である西行妖が咲くことはもうない、ハデスが施した封印はそこらの陰陽師が施す様な生半可な術式ではない。ハデスが統括している黄泉の国に住む霊達を媒体として封印をする為ハデス以外の者では絶対に解くことができないからだ。

 

「私は『道具』として『力』と『役目』を与えられて生み出されただけの過去の遺物に過ぎません。だが現在の私は『星屑極夜』という『名』と龍神王としての『力』を与えられた・・・本当になりたかった物になることができた以上別に死ぬことに後悔はありません。それに、貴方に現在の自分を託してみたくなったんです」

 

「・・・分かった」

 

だがこれでいいのかとレンは思っていた。今ここで昔の・・・ゼウスに仕えていた頃の彼を殺して本当に解決するのか?と・・・もっと別の方法もあるはずだ、誰も死なずに誰も悲しまずに済む結末が・・・

 

「なぁ、やっぱり他の方法を・・・」

 

「まだそんな事を言っているのか!貴方は『星屑極夜』追い求める『理想』だ、その貴方がこの程度のことでうろたえてどうする!!」

 

――俺はあいつに俺と同じ道を歩ませない為に修行をつけただけで決して俺を目標にしてほしかった訳じゃないんだけどな・・・

 

レンは自嘲気味に笑いながら術式を創破神王の足元に展開させる。解放した本来の能力でこの異変を終わらせる為に・・・

 

――始まりは終わりへと続き、終わりは新たな始まりへと続く・・・

 

――命は巡る、巡り巡ってまた新たな命となる・・・それ即ち世界の成り立ち・・・

 

――輪廻の輪によって決められた運命(さだめ)に従い、彷徨(さまよ)える魂に永久(とわ)の安らぎと祝福を・・・

 

――始終(しゅうし)『始まりへの序章』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創破神王の魂を浄化し終えたレンは安堵し、その場に座り込んだ。過去の・・・それも自分が知らない神と戦う事ができてレンはとても満足していた。こんな事態じゃなければお互いの全力を出し切った最高の戦いができていただろう。

 

だがそんな気分に浸っていられる暇もない。今回起きた異変をこの世界の霊夢達に話さなければならないからだ。本来の歴史通りに事が進んでいればレン達が介入する必要はなかったのだが、ここまでズレが生じた以上『星屑極夜』がこの世界のフランの肉体に憑依転生していた事も含めて全て話さなければならないだろう。

 

 

 

――問題が山積みで頭が痛くなってくるな。特にレミリア達への対応が一番疲れそうだ・・・

 

 

ハデスとは連絡を取り合うことが多いため黄泉国の現状をレンは常に把握している。この世界のフランが禁術を使ってまで黄泉国に逝った理由も含めて全て知っている以上この世界のレミリアとは直接話を付けなければならない。

 

この世界がこれからどうなるかは分からない・・・ただ一つだけ分かるとすれば今回の様な事がまた起きてもおかしくないということだ。

 

「まだ序章(はじまり)に過ぎない・・・ってことかね・・・」

 

                          

 

                          ―――――To be continued?

 




龍夜「という訳で第一章完結です。いやーここまで長かった・・・いやほんと本気で・・・」

レン「いや、長いっていうか遅いから。一話投稿するのにどんだけ時間掛けてんだよ・・・」

龍夜「仕事が忙しくて中々時間が取れなくてね・・・時間の合間を見て修正しながら書いていたらこの有様。死にたくなりました」

フラン(極夜)「それにしても今回の章で俺の過去について明かされた訳だけど次章はどんな話にするんだ?」

龍夜「その事については座談会を投稿する予定だからその時にしようと思っています」

アイ「という訳で今回はここまで。待たせてしまって御免なさい、次回はそこまで掛からないと思うので安心して下さい」

龍夜&レン&極夜&アイ「「「「それではまた次回お会いしましょう」」」」
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