東方吸血王   作:龍夜 蓮@不定期投稿

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試練

 

博麗霊夢は強い、だがそれは表面上だけだ。それは修行をつけている自分自身がよく分かっている。課せられた修行を必死にこなしていく姿を見てレン顔を曇らせていた。

試練相手として彼女が名乗りを上げ困惑したものの最後の相手として極夜が乗り越えるべき過去として彼女はうってつけの相手だった為レンは渋々許可した。だがこの試練が終わればそれは極夜と霊夢の・・・家族としての関係が終わる事だ。このままでいいのかと思慮はしたが良案が思いつかないままただ時間だけが過ぎていく。

 

(一つだけある、極夜と霊夢を引き離さない方法は・・・だがそれは霊夢に一つの選択を強いる事になる。それだけはしたくない)

 

 あくまでその選択肢があるというだけで最終的に選ぶのは霊夢だ、だがレンは近くで彼女を見てきたから分かってしまうのだ。彼女の弱さや精神的障害を・・・自分が知る彼女ではないと分かっているがだからといってこの案は禁じ手だ。神としてやってはいけない事だ。

 

 頭をすっきりさせる為に湯呑の入れてあった水に口をつける。ゆっくり喉に流し込んでいると模造刀を肩に担ぎ息を切らせた霊夢が戻ってきた。レンの隣に腰を掛け同じく水に口をつける霊夢を横目に見つつレンはまた思考の海に沈む。

 

(いっそ能力を使って極夜がいたという記録だけをこの世界から消して・・・いやフランの肉体でいた時のほうが長いから今更歪みが無くなる訳ない。だったら極夜の知り合いの記憶だけを消す、というのも駄目だ。この手段で解決できるという確信が持てないし・・・ああッ、糞!肝心な時に頭が回らないな俺は!!)

 

「あの・・・」

 

(自分の立場を考えれば時には強硬な手段を取らなければいけないということは重々承知している。だけど俺の血から生み出され、利用され苦しみ続けた極夜を救う為には・・・)

 

思考の海に沈んでいた俺の頬に温かい手の感触が伝わる。顔を上げると自分を心配そうに見つめる少女がそこにいた。

 

「たとえどんな結末になろうとどんな道を歩むことになるとしても大丈夫です。だから、そんな顔しないでください。レンさんが笑ってくれないと私も笑えませんから・・・だからレンさんの考えを私に教えて下さい」

 

霊夢は自分の考えを見通しているかの様な表情だった。その表情に昔の自分の師の面影を見た気がした。自由気ままで何も知らなかった自分を最期の時まで振り回し続けたあの人に。

 

――この娘に・・・この世界の中心であり『自由』の象徴でもある素敵な巫女を信じよう、絶対に何があってもこの娘なら乗り越えてくれるはずだ・・・

 

 

 

 

 

レンは修行時の彼女との会話を思い出し口元に笑みが浮かべた。よくもまぁ、自分の提案を迷うことなく受け入れたものだと。だが同時に世界が違えど歩んだ過去は違えど『博麗霊夢』という少女の根底は変わらないと改めて安心もした。

 

二人の刃が混じり激突する様を眺めながら彼は隣で観戦する為に具現化した相棒に喋りかける。

 

『自分が提案しておいて今更だけどよくあの提案を受け入れたよな、正直少しは迷うと思ったんだがなぁ・・・氷狼(ひょうろう)

 

――何を今更・・・彼女と嘗て関わった貴方なら理解した上であの提案をしたのでは?

 

『関わった事があるといっても違う世界でだぞ?俺が知る彼女も虚な俺と違って強い信念を背負って生きてきたんだ。それにこの世界の彼女も選択した運命を背負う意志と強さがちゃんとある・・・俺と違ってな』

 

――それはわかっていますが・・・一つ大事な事を忘れてませんか?

 

『ん、何をだ?』

 

――この試練の勝利条件・・・極夜様は把握済みなんですか?

 

『あ・・・』

 

――最悪、主が止めて下さいね、後極夜様に半殺しにされる覚悟もしておいて下さい

 

『半殺しだけで済めばいいんだが、それだけじゃすまないだろうな・・・』

 

遠い目をして二人の試練を眺めるのを再開した仕える主君のやらかしに相棒の『氷狼』は堪らず深い溜息を吐き同時に極夜と霊夢に対して心の中で謝罪をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び掛かってくる霊夢の一閃を躱し、極夜は攻撃を叩き込んだ。だが彼女も負けじと自分の得物である刀で防ぐ、火花が飛び散り金属音が辺り一帯に響く。

レンの指導により実践レベルまで引き上げられたが、それでも極夜を相手にするなら無謀としかいいようがない・・・それでも霊夢は極夜の動きについて行っている。

 

(たった短期間の間だけでここまで強く、いや違うこれは・・・)

 

極夜が感じた違和感、そして自分の動きにピッタリついてくるこの感覚。そして一つの結論に思い至った。

 

(まさか、勘だけで俺の動きを・・・!?)

 

霊夢の勘はそれこそ他人の心を読んでいるかの如く鋭いものだということは極夜も理解はしていた。

だが、まさかここまで成長させているとは予想はしていなかった。

 

歴代の中でも『天才』であり『最強』・・・前代の巫女ですら霊夢の才能には遠く及ばず、そして霊夢の限界を引き出すことはできなかった。病で亡くなり、その役を自分が引き継いだがそれでも霊夢の才能を開花させるには至らない。

 

それをたやすくやってのけたのは自分が尊敬し、この試練のきっかけを作ったであろう彼だということはすぐに分かった。

 

(本当に期待を裏切らないな・・・なら俺もッ!)

 

持っていた得物を振り切るとそれは衝撃波となり霊夢に向かって放たれる。霊夢はあせらず横に飛んで回避するが極夜は素早く背後に回り蹴りを叩き込んだ。

 

霊夢の体が地面に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべる。すかさず追撃しようと刀を振り下ろしたが腰にある鞘で刀身を受け止め見事に防がれた。これ以上の追撃は悪手だと悟り極夜は距離をとる。

 

『腕上げたな・・・昔は俺との修行に対しても本気を出さなかったのに』

『それは昔の話よ。さすがにこの試練の為に準備はしてきたわ・・・これでも博麗の巫女だから』

『成程な、その心構えは称賛の一言に尽きる。だけどまだ試練は終わらない・・・そうだろ?』

『そうね、それにこれで終わらせるには勿体ないしね・・・』

『『全力で押し通る!』』

 

 

試練の果てに何があるのかどんな結末が待っているかなどの葛藤は既に無かった。ただ全力で戦う、その思考のみで埋め尽くされていた。血は繋がっていなくとも楽しそうに刀を振るう二人はとても似ていた。

 

――楽しい・・・ただただ楽しい。こんな気持ちになったのは久しぶりだ

 

この戦いがこの世界から歪みを取り除く為に必要なものであり自身の運命を決める大事な一戦、頭では理解してはいるが刃を交わす度に眼前の強者を倒したいという願望が沸き上がる。

 

――レンさんやアイと違って自分は平和主義者だと思っていたけど結局俺もあの二人と同類って事か・・・

 

だがそれも悪くない、一度認めてしまえばこの戦いの前の不安など消し飛ばしてくれるだけの活力が沸いてきた。

 

未来(さき)の事は考えない、ただ現在(いま)を楽しんでやると・・・

 

 

『楽しそうに戦うのはいいんだが、あの二人試練の事絶対忘れているだろ・・・』

 

(だがやはり極夜のほうが一枚上か、極夜のほうは全然息切れの様子はないが明らかに霊夢のほうは疲労の色が見えてきている)

 

極夜と霊夢の戦いはさらに激しさを増した、攻める防ぐという単純な繰り返しだが二人とも勢いと鋭さが増していく。

 

この空間内で致命傷を負ったところで現実の肉体に何ら影響はないが魂を元の肉体に戻したとき何かしら悪影響を及す。どの場面で止めればいいか完全にタイミングを計りかねていたが少なくともそろそろ止めないと最悪の事態になりかねない。

 

『氷狼、戻ってくれ。そろそろ試練を止める』

『御意、お気をつけて』

 

氷狼の体が粒子となり刀の中に戻った事を確認し鞘から引き抜く。妖神刀は表向きは顔は管理の刀だが実力を認められた者のみがその真名を知りその形態を行使できる。

 

『解放、【氷牙双終狼 (ひょうがそうついろう)】』

 

レンの瞳の色を彷彿させる深い蒼に変化し刀から冷気が溢れ出す。レンの纏うオーラも氷狼と同じものに変化していた。

 

『束縛【氷結の棘】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい刀の打ち合いは激しさを増していきさらに昂ぶりを加速させる。永遠とも思える一瞬の間切り結ぶ二人。二人の刀が踏み込み止めの一撃を加えんと振り下ろすその瞬間。氷でできた巨大な棘が地面を突き破り這い出一瞬で二人の足に絡みついた。

 

最後の一撃を放とうとしていた二人はバランスを崩しその場に倒れた。

 

静寂の中二人の息遣いだけがその場に響く。

 

極夜は大の字に寝転がったまま灰色の空を眺め、息を整えると足に絡みついた棘を刀で取り除き身を起こすと霊夢の傍まで歩いて行き霊夢の隣に座り込んだ。

 

『試練、終了みたいだな・・・』

『そうね・・・結果を見る限り、引き分けかしら?』

『さあな、まぁレンさんの事だしそこまで厳しい判定はしないと思うぞ。あの人凄く甘いから』

『それに関しては同感』

 

お互い出せる物は出し切った。もう何もない、後はレンの言葉を待つだけだ。極夜は霊夢の足元の棘を取り除くと無言で手を差し伸べる。霊夢は差し出されたその手を無言で掴み起き上がり極夜の肩を借りながら二人はレンの元へ歩き出す。

 

レンの元に着くと試練前はいなかったギャラリーが二人ほど増えている事に極夜は気づく、それは極夜にもなじみのある二人だった。

 

『お兄様、あれだけ試練前に勝利条件提示してって私言ったよね?なんでこういう時に限って忘れちゃうの?馬鹿なの?』

『いや、その・・・素で忘れてました。はい・・・』

『忘れてたで済まないでしょ今回のやらかし。氷狼が伝えたから大事にはならなかったけどちゃんと反省しなさい!』

『はい、おっしゃる通りです・・・』

 

狂神王(きょうしんおう)【アイ・スカーレット】がレンをその場に正座させ鬼の形相で説教しているという見慣れない光景に極夜は勿論霊夢も唖然としてしまった。その場に立ち尽くしているとハデスが二人の接近に気づき極夜達を出迎えた。

 

『二人ともお疲れ様。それにしても試練を忘れて戦いに熱中したと聞いてさすがの私も焦ったよ、まぁレンが止めたから結果オーライかな』

『いや、それはいいんですけどなんでアイがレンさんに対して説教しているんですか?状況が読めないんですが・・・』

『あー・・・まぁ、うん余り気にしなくていいよ。レンがドジを踏んだだけだからね』

 

そのドジが何なのかは分からなかったがあまり触れない方がいいだろうと思い二人は思考の奥にその考えを追いやった。

 

説教が終ったのかレンとアイがこちらに歩いてきた。

 

『ハデス、相手してもらって悪かったな。こっちの話も終わった』

『そうかい、それで早く結果を伝えてあげたらどうだい?二人も気になっているみたいだからね』

 

つい身を固くしてしまう、この試練の結果が重要という事二人とも理解している。だからこそ結果を聞くのがとても怖い。

 

だがレンの次の言葉は二人が予想していなかった回答だった。

 

『二人とも合格だ』

『え・・・?いや二人とも合格ってどういう事ですか?合格者は一人だけのはずじゃあ・・・』

『別に合格者が〈一人だけ〉なんて言った覚えはないぞ。それにこの試練の勝利条件は至って簡単、【納得するだけの力を示せ】ってだけだからな。二人は見事これを成し遂げた別におかしなところはないだろ?』

『で、でも私が合格なのはどうしてですか?この試練は父さんが【終始神】であるレンさんの代役を務めるに足りるかを見極める為のものだったはずじゃあ・・・』

『当初の予定ではそうだったんだが、あれからいろいろ考えた。確かにこの試練で極夜が勝利条件を満たしたとしても本当に二人が望む結末になるのかなと思ってな・・・』

 

レンは視線を二人から外し空を見上げる。暫くして二人に視線を戻すとレンは予想外の提案をしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

『というわけで霊夢!神になって世界・・・守ってみないか?』

『『・・・はぁ!?』』

 

 

 

                                             To Bo Continued...

 

 

 

 




後書きコーナー

龍夜「後書き始まってこんな事言うのもなんですが・・・投稿遅れて本当に申し訳ありませんでした!!」

極夜「まぁ、いいけど今回は何があったんだ?」

龍夜「いや、本当は早めに投稿しようとせっせと下書き書いては繰り返しのいつもの作業をしていたんですが実は数か月前位に大事件がおきまして・・・」

アイ「事件って?」

龍夜「作業用として使っていたPCが原因不明のエラーを起こしてお亡くなりになられました・・・」

レン「えぇ・・・それでデータは?」

龍夜「なんとかバックアップは取ってあったのでゲーム用として使っていたPCで復元はできたんですが物凄くモチベが下がってしまいこんな時期に投稿という事に・・・」

ハデス「まぁ、今回は多めに見るけど次は頑張りなよ?」

龍夜「はい・・・というわけで物凄く遅い投稿となってしまいましたが今回もこんな拙い小説を見て下さり有難うございました!」

龍夜&レン&アイ&ハデス&極夜「「「「「それではよいお年を!!」」」」」

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