二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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流れ者の噂
謎の『彼』


 

 

 

「………暖かいな」

 

「暖かいですね」

 

北の大地北海道から九十分の空の旅を終え、鞄を背中に荷物は両手に、朝早くから東京の羽田空港に降り立った二人の第一声がそれだった。

一組の男女だ。

異様に目付きの悪い青年に、灰青の髪をした少女。

歳は十六才前後だろうか、この季節にしては若干厚着すぎではないかという服装をしている。

今は時間帯が早いのでそう気にはなっていないようだが、日が上ればちょっとしたサウナに早変わりという憂き目に遭うことは間違いない。

記録の上では人間が生きれないような数字を出したりもする北海道だが、実の所暮らしぶりはそう厳しいものではない。

気温ゆえに徒歩五分の距離でも車で移動する土地柄、寒さを感じるのは建物から車に移るまでの十数秒のみ。外で寒風に震えながら電車が来るのを待つこともなく、あっても大体が地下鉄。

外に身を晒して歩くことがほぼほぼ無いのだ。

さらに家そのものにも徹底的な防寒対策が為されているため、マイナス二十度の最中でも室内は適温。

言ってみれば、そんなえげつない寒暖差の環境に住みながら突然の大規模な南下だ。

現地の気温の感覚を掴めなかったのかもしれない。

 

「……そうか、何につけても車で移動するのは北海道だけか……。東京での移動が基本的に徒歩となると、これは服装を間違えたか……?」

 

「最悪、学校の制服で乗り切るしかありませんね。なんならどこかで服を買うのもありですが」

 

「それもいいが、目的が第一だ……。まずは早速、挨拶を済ませに行こうじゃないか……!」

 

「まずは旅館のチェックインに決まっているでしょう」

 

早々に気勢を折られた男がガクッとよろけた。

そんな青年を他所に、少女は予約していたタクシーに手を振って合図する。

 

「準備は大切ですよ。一つずつ順番通りに段階を踏まなくては、為せることも為せません。行動の方針はお任せしますが、まずはチェックインを済ませてご飯を食べましょう」

 

少女のその一言は、さぞかし運転手をギョッとさせた事だろう。

二人が慌てて身分(学生)証を見せなければ、多分こっそり通報されて凄まじく厄介な事態に陥っていたに違いない。

まるでこれからピクニックにでも行くような気軽さで、少女は青年にこう言った。

 

「これから破軍学園に殴り込むんです。まずは燃料を補給しておくのが最善ではないですか?」

 

 

 

 

「『学園破り』?」

 

日本に七つ存在する、異能を持って生まれた《伐刀者(ブレイザー)》と呼ばれる者たち集う『騎士学校』、その内の一つである破軍学園。

午前の授業を終えて学食で昼飯を食べていた黒鉄一輝(くろがねいっき)とステラ・ヴァーミリオンの頭にクエスチョンマークを浮かべさせたのは、破軍学園の新聞部である日下部加々美が発したそのワードだった。

 

「そう、『学園破り』。言ってみれば道場破りみたいなものですね。

何でもその男、禄存(ろくそん)巨門(こもん)とか、あちこちの騎士学校に出没してたらしいんです。

名前の通ってる生徒相手に『俺と戦え』って迫るそうです。

やっぱり強い人っていうのは挑まれた勝負を拒まない性質(たち)の人が多いみたいで、よっしゃこーい!って具合にそこそこ相手されてたみたいですけど……やっぱり厄介者扱いではあったみたいですね」

 

「……それ、一般人なの?伐刀者(ブレイザー)なら……仮にもどこかの騎士学校の生徒なら、そんな無法な事はどうやっても無理よね」

 

「いやー、それがよくわかってないのよ。ステラちゃん」

 

もぐもぐと口の中のハンバーグをペーストに変えながら加々美は首を捻る。

 

伐刀者(ブレイザー)であることは確実みたいなんだけどね。

これが聞く人によって話が全然違うんだよ。

ある人は『廉貞(れんてい)の制服を着てた』って言うし、別の人は『武曲(ぶきょく)学園の制服だった』、またある人は『文曲(ぶんきょく)だ』……どの学園に属してるかもバラバラで。

そのくせ新聞部つながりの友達に聞いたら、全員が口を揃えて言うんだよ。

 

『それウチの生徒だよ』……ってさ」

 

「その彼の学年を皆に聞いてみたらどうかな?そこで証言にバラつきが出れば矛盾は無くなるはずじゃないかな」

 

「それがわかんないんですよ。例の彼の学年を聞いたら、また口を揃えて『一年生だった』って言うんですから……同一人物が同時期に別の場所に存在することになっちゃうんですよねー」

 

「都市伝説みたいなヤツね。もしいるなら是非会ってみたいものだわ」

 

どうやら『川〇浩探検隊のDVDで日本語を覚えた』と公言する皇女の琴線に触れたようだ。宇宙の外に想いを馳せる男の子とおんなじ輝きを瞳に灯している。

また、一輝もその妖怪・学園破り(仮)になんとなくシンパシーを感じていた。

とにかくがむしゃらで、あちこちの道場の扉を叩いて破ろうとしていた己の中学生時代を思い出したのだ。

その節は各道場の皆様には多大なご迷惑をおかけしたと思う。

 

 

「その人の話は有名なのかい?僕は一度留年してるから二年ほどこの学園にいるけど、そんな人がいるっていうのは一度も聞いたことがないな」

 

「そうなんですよ。何でかその人、破軍(ウチ)貪狼(どんろう)には来たことないみたいで……だからこの話、私も知ったのはつい最近なんですが、『いる』ことは間違いないみたいです。

だからもう少し深く調べていかないと」

 

「……でも、何でまたそんな話を?カガミの口振りからして、そいつの噂が流れてたのは過去の話よね」

 

提供される情報量の多さに何かを感じたのはステラだ。

加々美が話した内容は、あちこちを当たり話を聞かねば判明しないものばかり。さらにここからも調べを進める気でいるようだ。

世間話の話題に上げるためとしては───彼女は少々、調査に腰を入れすぎている。

どうして過去の、それも自分達と関係のない噂をそこまで気にかけているのか………彼女の疑問を受けた加々美の表情が真剣なものに変わった。

 

「また動き出したって話なんだ。その『学園破り』が」

 

彼女はそう静かに語り出す。

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