二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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鍔迫り合い

「上等ォ───真っ向から喰ってやる!!!」

 

同時攻撃に割いていた思考領域を全て連撃に回した蔵人の凄絶なラッシュ。

今度は退かない。仁狼は正面から迎え撃った。

 

ギ────────ッッッ!!!と、速すぎて重なりあった戟音がもはや一続きの音に聞こえた。

刃が交わる度に咲き乱れる火花が刹那に瞬き散る様は、彼らの生き様と同じなのかもしれない。

その苛烈な交流の密なるは豪雨の如く、見ているだけで肌が切れそうな空気が二人分の熱を纏って観衆を撫でる。

 

人間の反射速度は最高記録でも0.1秒。

しかし上の次元にいる者同士の勝負では、その0.1秒では間に合わないという状況はザラにある。

だから一流の騎士は観察眼を養い、敵の行動を予見(よけん)(あらかじ)め動くことで対応するのだ。

 

だが仁狼相手には予見(それ)が出来ない。

筋肉の微細な動きどころか、注意も殺気も全て殺しきっている彼の剣には───前兆というものが一つもないのだから。

 

つまり敵は仁狼が動いたのを見て反応するしかなく、しかも彼の剣速は超一級。

防御されそうな攻撃を()()()()()()()()()()()()()という離れ業すらやってのける蔵人の反応速度でも、状況を拮抗状態から先に進めることができない。

そしてこれは蔵人にとって、かなり上手くない状況である。

 

(この野郎ッ……地で俺の剣速について来やがる!?)

 

蔵人の額から玉のような汗が散った。

一度に行動できる回数が多いということは、消費するスタミナもそれだけ激しいものになる。

それを自覚している蔵人は自身に厳しい体力トレーニングを課しているが、これは先延ばしには出来てもまず克服しようのない不可避の弱点。

……そしてこれは、かつて倉敷蔵人が黒鉄一輝に敗北した時のパターンだ。

 

(クッソがぁ……!打ち合いっつー絶好の土俵で拮抗されるなんざ初めてだぞ……!)

 

この状況が続くのは最悪に近い。

しかしここで別の行動を起こすために手を緩めたらその瞬間に細切れだ。

さりとてこのまま打ち合っている訳にもいかないが解決策が浮かばず、かなりのドン詰まりと言っていい。

 

しかし。

対する仁狼は、下手をすれば蔵人より追い詰められていた。

 

(《神速反射(マージナルカウンター)》……ここまでこっちの不都合を押し付けてくるとは……!!)

 

ゼロからマックスまでの瞬間加速。

最強と名高い《比翼(ひよく)》や黒鉄一輝と、コンセプトを同じくする仁狼の太刀筋。

『全身の筋肉を連動させる』という点においても共通点は多いが、しかし両者の根本となる原理には決定的な違いがある。

比翼(ひよく)》と一輝の場合は、一度に大量の運動命令を送り込める『特別な脳信号』によるもの。

しかしこの脳信号は通常で体得できるはずもなく、それをコピーしてのけた一輝が異常なのであって、まず他者には扱えない無二の特性だ。

仁狼が持っているはずもない。

 

対して仁狼の瞬間加速は、琉奈の言うようにジャーキングの応用だ。

手に入らない『特別な脳信号』という不可欠の要素を、脱力(リラックス)によるリミッターの解除、思考を介さない反射運動という二つの要素で補っている。

 

ここで曲者なのがこの『脱力』だ。

この仁狼独自の脱力こそが敵の行動選択を()()()()()()崩し、なおかつ瞬間加速を実現させるという最大のメリットを産み出す彼にとっての戦闘の鍵。

 

しかし、同時に大きなデメリットもある。

脳のリミッターを解除した行動は、当然ながら身体に相応の負担をかける。

しかも『特別な脳信号』がない以上、瞬間加速をしたいのなら、斬る前に脱力というプロセスを介さなくてはならない。

それを踏まえてこの状況だ。

機銃と同等の速度と頻度で迫る双剣。

脱力を挟む暇などあろうはずもなく、後ろに下がるだけジリ貧だ。こちらも無酸素運動による渾身のラッシュで応じるしかない。

だというのに───

 

(頼るしかない()()()()()、こんな条件じゃ自爆にしかならないな……!!

ただでさえ、俺はスタミナの総量が少ないというのに……!!)

 

技術の方向でも体質においても。

仁狼の剣は、()()()()()()()()()()()()()()!!

 

 

「「っっっあぁ!!!」」

 

 

一際大きな戟音を上げて、二人の身体が後ろに大きく弾かれる。

渾身の一振りで押し返し仕切り直そうという二人の思惑が偶然にも同期した結果だ。

仁狼が自分と同じ行動をとって肩で息をしているのは蔵人にとって意外なことであり、同時に彼の『天性』がいかなるものかを大雑把ながらも把握したきっかけでもあった。

 

「とんでも、ないなっ……、……ここまで、ゲホッ、自分の剣を貫かせて、貰えないのはっ、ハァ、……初めてだ………!!」

 

「ゼェ、っ……なら、そのまんま……ハハ……へし折れてやがれ……っ」

 

試合そのものは始まってからまだ数分も立っていない。

にも関わらずこの消耗は、それだけ時間の密度が濃かったという事。

焼け落ちていく展開を見据えていた一輝が、静かに分析を進めていく。

 

「速度も力も互角。こうなると去原くんが俄然不利だね。今のところは拮抗しているように見えるけれど、戦いの展開は手の内の読み合いから攻撃力勝負に移り始めてる。蔵人の得意分野だ」

 

「攻撃ならばジンロウも負けていません」

 

「単純に()()()()だよ。蔵人と違って、去原くんの固有霊装(デバイス)は得物のサイズが左右で違うからね。

近距離なら脇差、長距離なら刀と使い分けられる利点はあるけれど、逆に言えば距離に応じて片方しか使えないってことだ。

それに対して蔵人の大蛇丸(おろちまる)は、どんな距離にでも対応してくる。

去原くんと蔵人では、相手に届く攻撃の数が違いすぎるんだよ」

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