互いの技量が伯仲しているのなら、武器の相性は勝敗を左右する大きな要素になり得る。
そういう展開になると間合いを支配する蔵人の
このままいけば、遠からず仁狼が削り切られて終わりだろうが……
(それを覆すものがあるとすれば───)
「そう、だな……同じ二刀では、どうも軍配はそっちに上がりそうだ………」
「ハッ……じゃあどうすんだ。武器でも変えるってか!?」
「ああ。そうしよう」
思いもよらない返答に蔵人が戸惑う。
言うや否や、仁狼は静かに刀と脇差を握る両手を合わせた。
二刀のシルエットが横に重なり、まるで一本の刀になったようにも見える。
そうして重ねた二刀を、仁狼はあたかもそれが一本の刀であるかのように青眼に構え───
「───
静かに唱えた召喚の言霊。
持っていたはずの二刀が消え。
腰に提げた鞘もその数を一つだけ減らし。
仁狼の両手が、一振りの大刀を握っていた。
「な……
己を
一輝の知っているもので言えば《アズール》や《
しかし
複数展開でも変形でもなく、まったく別物の固有霊装を喚び出したというのか───!?
「……こういう霊装なんだ。……
「驚かせてくれんじゃねえか……だがなぁ。テメェ、いっこ思い違えてねえか?」
ギシ、と
「テメェが俺と打ち合えたのはな。テメェ自身の天性と、二刀の手数があったからだ!それを捨てたら圧し潰されるだけだってんだよぉおお!!」
好機とばかりに蔵人が飛び出した。
その考えは半分正解で半分は間違っている。
正解なのは、仁狼が蔵人と打ち合えたのは手数の多さと天性があるからという点。
そして間違いなのは───
「圧し潰すために、俺は一刀にしたんだ……!」
蔵人に呼応して強く踏み出した一歩。
それはそこにいる全員の視界から仁狼の姿を消し───彼は蔵人の背後に、正々堂々と
「なっっ!?」
予想外の速度にここまで対応できたのは
慌てて背面の仁狼に左右から噛みつくような二点同時攻撃《
その時にはもう首筋に仁狼の刃が迫っていた。
しかし仁狼も蔵人の反撃を無視できない。攻撃を中断し、受け止めるのではなく
足運びはするすると滑らかに軽く、しかし火花が弾けるような速度で仁狼は再び距離を取る。
「スピードがはね上がった……!」
黒鉄一輝の全速力を知るステラから見ても、それは驚くべき速度だった。
二刀の優位である手数の多さによる攻撃力と、対応できる範囲の広さによる防御力の高さは確かに失われた。
しかし二刀の優位を持つのは蔵人も同じで、そして一刀流には一刀流にしかない強みがある。
仁狼はその差違に勝負の命運を託したのだ。
脇差が無くなったことによる自身の軽量化。
長さの差により重心点が違う武器を両手に持っていることから来る、体重移動や身体動作のほんの僅かな制約。
一刀流になることでそれらの軛から解き放たれた仁狼の移動速度の向上は、タイムに換算すれば───精々が0.1秒に届くか否かという程度だろう。
されど0.1秒───
短距離走などの陸上競技ならハッキリと目に見える差を生み出すには充分な時間であり、仁狼の速度なら移動距離の差はさらに大きく広がるだろう。
刹那の間を奪い合う騎士の戦いにおいて、それだけのタイムの向上は勝負の天秤を大きく傾ける!
「チッ……!」
刀を両手で持っているため刀を振るう力もスピードもグンと上昇した仁狼の一撃は、蔵人といえど片手では到底抑え込めるものではなかった。
横合いから叩くように軌道を逸らし、返す刀で斬りつけようとした時にはもう離脱を済ませている。
同時攻撃で攻撃と防御を一回で行えば、ご丁寧に出始めの太刀を弾いて離れる。
嫌なピンポンダッシュだった。
───しかし、なぜ蔵人は刃を伸ばして追わないのか?
小突くだけ小突いていちいち離れる相手など、的でしかないはずなのに……?
「……足運びの技術か。柔術と共通する部分も多いな……『脱力』と相まって、動きが読めないんだ」
伸ばした刃の操作は、当然だが蔵人によるマニュアル操作だ。
操縦者が敵を捉えきれなければ、伸ばしたところで隙にしかならない。
「あれは迂闊に刃を伸ばせないね。しかも僕が見てきた中でも、移動速度がトップクラスに
「『一太刀だけなら一刀の方が有利』……理屈はわかるしそれを遵守した戦い方だけど、随分チマチマとつついてるわね。まるでわざと引き伸ばしてるみたいに……あ。ん、あれ?」
「ええ、引き伸ばしてるんですよ。《
それは過去に一輝と蔵人の戦いを見たステラも気が付いていたが、重大な矛盾を孕む故に確信には至らなかったことだ。
仁狼のスタミナの残量と消費量では、持久戦に持ち込めば敵の体力を削っても結果
「決着に向けて動き出していますね。何をする気かはわかりませんが……お互いの体力が尽きかけているなら、残り一絞りのスタミナで仕留める自信があるみたいですよ。ジンロウには」