二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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破軍学園壁新聞
キャラクタートピックス 文責・日下部加々美

RUNA YOMITSUKA
詠塚琉奈

■PROFILE
所属:禄存学園一年三組

伐刀者ランク:D

伐刀絶技:NO DATA

二つ名:飼い主(ブリーダー)

人物概要:道場主


運:D

攻撃力:E

防御力:D

魔力量:D

魔力制御:B

身体能力:C


かがみんチェック!:
言うべきことはズバッと言う、NOと言える日本人。
道場主ということになってるけど公式戦に出た記録は一つもないし、話を聞いてみても直接戦うタイプではないみたいだね。
同じ流派を名乗る去原くんとの付き従うとも手綱を握るともつかない関係も気になるところだけど、それより気になるのは流派のことかな。
二天一流の詠塚派ってさ。
いくら調べても、名前すら出てこないんだよね。




漂泊の牙
人は過ちを繰り返す


『一閃!変幻自在の剣士の対決、禄存に軍配!』

 

───その模擬戦の結果と顛末は、日下部加々美が発行した壁新聞により破軍学園に報じられた。

それぞれ別の学園の生徒により予告なく行われたイベントがあったことに驚く者、見たかったと残念がる者、蔵人を侮る一部の馬鹿。掲載された写真を見て何人かは食堂にいた奴だと思い当たったりもした。

前触れもなく現れて前触れもなく掻き回していった嵐のような訪問者を皆が口々に噂している。

そんな中において、ある少女も例外なくその記事に釘付けになっていた。

デカデカと書かれた煽り文に縫い止められた視線は、計算されたレイアウトにより極自然に止めの太刀を振り抜いた瞬間を見事に収めた写真へと導かれる。

見事な型だ───斬り終えた姿勢を見ればそうとわかる位には、はえー、と間抜けな声を上げそうなほどにポカンと口を空けている彼女にも心得があった。

 

清楚な黒髪の、真面目そうな美少女だった。

 

 

違う制服はよく目立つのか、数歩歩けば誰かが気付く。気付いた誰かから波及して、また別の誰かが注目する。

その注目と注意の波が作り出す中心には、二人の男女が歩いている。

きょろきょろと回りを見回す男とすまし顔の少女、その両手には袋詰めの荷物。

掲示板に張り出されている今破軍で最もホットな男(と女)は、また破軍学園に顔を出していた。

 

「ルナ……あちこちから視線を感じるぞ……」

 

「多分あの眼鏡の人が新聞部だったんでしょう。昨日の戦いが記事になって貼り出されているようです」

 

また騒ぎが大きくなる前にとっとと済ませますよ、と促す琉奈と共に足を速める仁狼。

名前が売れているのが嬉しいのか時折向けられる視線に笑顔を返す仁狼だが、元々の凶悪な縁取りの三白眼のせいで凄まじい形相になっていた。

見た側の感覚的にはいきなりナイフを向けられるのに近いのだろう、仁狼に笑いかけられる度に恐ろしい勢いで視線を顔ごと逸らしている。

慣れているとはいえ若干メンタルに傷が入り始めた仁狼だが、ふとある事に気が付いて足を止めた。

 

「ジンロウ?」

 

「………、」

 

何かあったのかと振り返る琉奈だが、仁狼が注目するようなものは何もない。

少ししてまた歩き始めたが、またもやピタリと足を止める。

流石に訝しんだ琉奈が一体どうしたのか聞こうとした時、不意に仁狼がスッと目を細めた。

 

「………尾行されてるな……」

 

「えっ?」

 

琉奈にしか聞こえない大きさで呟いた仁狼に琉奈が頓狂な声を上げる。

尾行している本人は隠れているつもりで、そして実際にちゃんと隠れている。不穏な空気を感じてきょろきょろと周囲を見回す琉奈が下手人を発見できないのがその証左だ。

しかし熟練の強者にしてみれば、この程度隠密のおの字にも掠らない。

特に仁狼は他者の気配や注意といった()(たぐい)を、誰よりも鋭敏に感じ取る。

───気付いたか。

自分の追跡がバレたのを察した下手人がこそこそと遠ざかっていく気配を、仁狼はそちらを見ないまま感覚として感じ取る。

敵意は感じない。

八時の方向、茂みの向こう。木々に隠れて撤退しようとしているのだろう。

距離はおよそ十メートル弱といったところか。

仁狼は荷物を地面に置き、彼我の距離を脳内で測定。

そしてとても軽い動作で斜め後ろに地面を蹴り────

 

「何の用だ?」

 

「ひゃわわあぅ!?!!」

 

どんぴしゃり。

木々の隙間を縫い音も立てず独自の足捌きで高速移動した仁狼が、下手人のすぐ目の前に立ちはだかった。

姿勢を低くして逃げようとしていたそいつが、奇声を上げてバネ仕掛けのようにびょーん!と直立する。

必然顔の高さが仁狼に近付くが、その顔を見た仁狼はやや驚きを禁じ得なかった。

 

思ってたのと違う。

 

……いや、じゃあどんなイメージをしてたんだと聞かれたら困るが、ともかく何か(いわ)くがありそうな人相を想像していた。

ところがどうだ、目の前にいるのはいかにも日本の美人といった少女ではないか。

両手に木の枝を持っているベタさ加減は置いておくとして、少なくともこういう手合いに絡まれるような生活は送っていない。

若干戸惑ってしまった仁狼だが、逆に目の前の彼女のテンパり様は半端じゃなかった。

 

「あ、そ、そのっ……違……違っ……ぅぅぅ……っ!!」

 

わたわたと手を振り必死で何かを否定しようとする彼女。

敵意もなく目的もわからない、しかし何やら鬼気迫っているので落ち着くまでじっと行く末を見守ることにした仁狼だが、沸騰寸前の脳回路ではその視線に耐えられなかったのだろうか。

顔面の紅潮が臨界点に達すると同時に、彼女は踵を返して全力で逃げ出した。

 

「あう、あ、ううううううっ……、ごっ、ごめんなさぁ~~~~~ぎゃふっっ……!?!」

 

ひどく嫌な音がした。

彼女が全力で逃げ出した先にあった木に額から激突し、首がちょっとよろしくない角度でひん曲がる。

上半身から抱き着くような勢いで突っ込んだ彼女は、そのまま木に身体を預けるようにズルズルと倒れていき、ぐちゃっと地面に沈み込む。

尻を高く持ち上げる四つん這いのような姿勢で突っ伏したせいで彼女のスカートは思い切りめくれ上がり、純白の下着に覆われた形のいい尻が露になっていた。

 

「………ええ……?」

 

ひどい自爆芸を見せられた仁狼が辛うじてそれだけ絞り出す。

がさがさと草が擦れる音が近付き、灰青の髪が木陰から現れた。

置いてけぼりを食らった琉奈が、彼女の悲鳴の出どころを頼りにようやく琉奈がやってきた。

 

「ど、どうなりましたか?もうストーカーは退治してしまっ……た……」

 

言いかけた琉奈が硬直する。

何とも言い難い表情の仁狼。

彼が見つめる先には突っ伏したままピクリとも動かない女性、その高く持ち上げられた尻があった。

事情を説明しようとする仁狼を手のひらで制し、何も言うなとばかりに首を振る。

胸の中央を両手で握り締める様は祈りにも似ていた。

その表情は責めるようで哀しそうで。

それは決定的な過ちを犯した親しい者をそれでも見捨てられない、切実な訴えだった。

 

「……今ならまだ間に合います。ジンロウ。自首しましょう。あなたが性欲で身を滅ぼす、獣以下の畜生に成り下がる前に」

 

「待てコラ」


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