二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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ある事をすれば影が立つ

「これが普通の道場破りみたいなものだったら、ただの問題児だって平和的な解釈で終われる。はた迷惑なやつもいるもんだね、って」

 

「………、」

 

「(ステラ。僕を見ないで)」

 

 

「でもさ。強い奴と戦わせろ──もしこれの目的が、何か行動を起こす上での威力偵察だったとしたらどうかな?

急に動きの無くなった空白期間中どこで何をしていたか、とか……こう勘繰ると、ちょっとよくない方向に話が進むよね」

 

 

一輝は思わず加々美の目を見返し、ステラは七杯目のどんぶりを空にしようとしていた手を止めた。

突飛な飛躍だと笑うには、加々美の表情はあまりにも真剣だった。

 

「……まさか、何かを企んでその人に偵察をさせている組織が存在するのかい?それにしてはやり方が少し強引な気がするんだけど」

 

「ええ、雑すぎるやり方ではありますけど……こうして『学園破り』程度の認識で落ち着いてる時点で成功ではありますから。

もちろんこの話は全部憶測でしかありません。

けど用心を重ねるに越したことはないでしょう。……この学園は一度、テロリストの襲撃を受けてますからね」

 

月影総理の主導により行われた《(あかつき)学園》の襲撃。

関わった全てを混乱に陥れたあの事件の中で、日下部加々美も実際に直接的な被害に遇っているのだ。

あの時彼女は常日頃から培ってきた情報の収集と分析の能力により、いち早く七星剣武祭に巣食う影の存在に気付いていた。

結果としてそれはある人物の妨害により皆に伝えるのが手遅れと言えるタイミングになってしまったが、そんな経験をしたからこそ彼女は情報の収集により先んじて手を打つことを重要視しているのだ。

 

「……騎士学校を総当たりしようとしてるなら、次にウチに来る可能性は高いわよね。生徒会には話したの?」

 

「外見や特徴も含めて一応ね。根拠のない話だけど、気に留めてはくれると思う」

 

「……僕たちにも、その人の外見を教えてもらっていいかな?」

 

「もちろんですとも。私も事前に知ってもらいたくて話した訳ですから」

 

水で喉と唇を潤し小休止。

言葉を区切ってから加々美は情報を口頭で羅列していく。

 

「まずですね……『学園破り』は特定の女の子を連れてるそうです。

友達か恋人か二人の関係性は不明ですが、どこへ行くにも何をするにも、常に二人一緒にいるんだとか」

 

「イッキ。負けてられないわ」

 

「ステラ、今はそういう話じゃないから……」

 

完全に別の所に反応した恋人を窘める一輝。

学食の自動ドアの入り口が開き、二人の男女が連れ立って入ってきた。

 

「『学園破り』の方は……話を聞くに長髪で、とにかく目付きが悪いそうで。連れてる女の子はその反対に清楚な感じだとか。灰色っぽい髪をしてるらしいので、そっちはわかりやすいと思います」

 

破軍とは違う制服を着た二人に奇異の視線を送る者も多かった。灰青(はいあお)の月を思わせる色の髪をした女に目を奪われる者もいるが、男の方を見た者は即座に目を逸らした。

激情によるものかそれとも()()が素なのかわからないその目付きは、無関係なはずの己の身の危険を感じるには充分だったからだ。

 

「身長は……流石に正確なところはわかりませんが、話を纏めるとちょうど先輩と珠雫(しずく)ちゃん位なんじゃないかなと。これといって目印になるような身長(サイズ)ではないので、遠目だとわからないかもしれません」

 

一輝とステラは静かに立ち上がった。

加々美の説明に合致する人物がいたから、というのもある。

しかし何よりも、隠す気のない闘争心を放ちながらその二人───正確には男の方が、明確に自分達を目指して歩み寄ってきているからだ。

 

「あと、当然ながら二人とも《伐刀者(ブレイザー)》ですね。ランクの方はわかりませんが、《固有霊装(デバイス)》は………、……」

 

異常を察した加々美が、冷や汗を流しながらゆっくりと後ろを振り向く。

目に写るのは獣のように獰悪な双眸(そうぼう)と、頭一つ低い位置にある灰青の髪。

(ことわざ)の通りに、それはいた。

 

「……見付けたぞ……。こういう時に……有名人というのは、助かるな……」

 

低く唸るような声。

『彼』が纏うただならぬ空気に神経を研ぎながら、静かに一輝は問いかけた。

 

「どちらに言っているのかわかりませんが。

……何の要件でしょうか、『学園破り』さん」

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