二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

22 / 44
出陣

直ぐ様スピーカーモードで通話をオンにする。

 

『黒鉄。ヴァーミリオン。二人ともそこにいるな?』

 

「理事長。何が起きているんですか」

 

『手短に言おう。テロが発生した』

 

「「「 っ!! 」」」

 

自分達の居場所が知れていたことに驚きはない。

人間的に未成熟な若者が強い力を持っていることは非常に危険だ。故に学生騎士は学園により厳重に管理されている。

学園の長は任意の学生騎士の所在を、携行を義務付けられた生徒手帳内部のGPSによりいつでも知ることができる。

事件現場からの救援要請を受け周囲を検索した結果、近い所にいたのが一輝とステラだったのだ。

 

「ここまで早く私たち《伐刀者(ブレイザー)》に救援要請が来るっていう事は、そういう事なのよね?」

 

『その通り、また《解放軍(リベリオン)》の奴らだよ。

しかもテロ自体も尋常の沙汰ではないが、今回は前にお前達が処理したものより遥かに厄介だ』

 

「どういう事ですか」

 

 

()()()()()()()。ここまで大規模な襲撃はそうそう無いぞ』

 

 

「さっ……三ヶ所!?」

 

仰天して声を上げる二人。

 

『そこにいるのは二人だけか。クソ、一人一ヶ所でも一つ手が回らんな。こちらからも東堂か貴徳原あたりを向かわせるが、位置的に時間がかかる。可能な限り迅速に敵を処理してもらうしかないがいいな?』

 

「! いえ、そこは大丈夫です。去原くんと詠塚さんも一緒にいますから」

 

『? なぜそいつらが……いや分かった。その四人で事に当たってくれ。

今から現場までのマップを送信する。

───黒鉄一輝、ステラ・ヴァーミリオン。

両名に能力の敷地外使用を許可する。

死ぬな。そして一人として死なせるな』

 

「「 了解! 」」

 

返答と同時に通話を切る。

去原仁狼と詠塚琉奈、二人にも戦闘の許可を取ってもらわねばならない。生徒に能力の使用許可を出せるのは、その学園の長だけなのだから。

 

「去原くん。理事長に戦闘許可を」

 

「貰った」

 

「早っ!?」

 

「強制通話モードで呼び出して今の会話ダイレクトに聞かせたからな。いちいち説明するより早いだろ」

 

あの唐突さでよくぞそこまでの機転を。

少し状況を忘れて感心してしまった。

送信されたマップを開いてそれぞれが向かう場所を決め、琉奈を除く三人は席を立った。

 

「じゃあ行こうか。この後、水族館だの食べ歩きだの買い物だのが控えてるんだ。時間を無駄には出来ない」

 

「こっ、この状況でまだ遊ぶ気なのアンタ!?」

 

「当たり前だろ。何でボンクラ相手に俺らの都合を取り下げなきゃなんないんだ」

 

ぽんぽんと琉奈の頭を手のひらで軽く叩く。

 

「もちろん義務を蔑ろにする訳じゃないがな。

計画を立てる片手間でどこで遊べるか調べたり、昨日の夜から鼻歌歌ってたり……こいつ、今日の観光を随分と楽しみにしててたんだよ。

今俺が着てる服も、『お出かけが楽しくなるように』って手ずから選んで買ってくれた奴でな」

 

なんでそれ言っちゃうんですか!?と羞恥に顔を赤らめて遮ろうとする琉奈だが、仁狼は気にしてもいない。

ただ自分の主張に必要だから言ったまでである。

 

「さっさと片付けて終わらせる。

七星剣王に皇女様、言っとくが事後処理は全部あんたら二人に押し付けるからな。

日頃俺が気を使わせてばっかのルナが、ようやく羽伸ばせてんだ───テロリスト如きに邪魔される道理はねえよ」

 

静かに強く言い切った仁狼に、琉奈は何も言わずにそっぽを向いた。

表情は窺えないがその耳は赤い。

重い義務を預かる身分ではあまり好ましくない主張かもしれないが、さっさと片付けることに異存などあるはずもない。

それに、一輝とステラにもその気持ちは心底から理解できる。

いよいよ出撃しようとしたその時に、琉奈が一輝の背を叩いて呼び止める。

 

「黒鉄さん。これに触れてください」

 

「?」

 

そう言って差し出されたのは、黒塗りの鞘に納められた懐刀。

彼女の固有霊装(デバイス)水鏡(みずかがみ)》だ───一輝は言われるがままにそれに触れる。

 

「今、あなたに私の魔力をくっつけました。

私の能力は、すごくざっくり言えば『視界を操る』能力です。

戦闘向きではありませんが、こうすればあなたを中継地点(ハブ)にして、色々と回りに干渉できますので」

 

「それはつまり……」

 

「私は黒鉄さんの後方支援として参加します。

今回の状況。経験の方はわかりませんが、能力的に一番不向きなのはあなたですので。

あとこれ、私の生徒手帳の番号です。繋ぎっぱなしにしておいて下さい」

 

「わ、わかった!ありがとう!」

 

あれよあれよと琉奈が下準備を終えていく。

若干ステラがムッとしたのが気にかかるが、今はこれ以上話している時間はない。

投げつけるように財布から金をレジに出し、一輝は店を出た。

が、直後に地味に重大な問題にぶち当たる。

……現地までの足はどうしよう?

 

「じゃ、アタシも行きますか───!!」

 

続いて店から出てきたステラが、背中から紅蓮の翼を顕現させて唸りを上げて宙を舞う。

一度の羽擊(はばた)きで空高く躍り上がり、炎の矢と化して飛んでいった───あの速度なら数分とかかるまい。

少し一輝は焦る。走るのは流石にナシだ。

さてどうするか──?

 

(そうだ、同じ状況で珠雫は確か……!)

 

一輝は停車していたバイクに駆け寄り、破軍の学生手帳を見せながら騎乗している男に言う。

 

「すみません、破軍学園の学生騎士です!非常事態につきバイクをお借りしたいのですが───」

 

「はぁ? ふざけんな!何で俺が」

 

男の視界を横切る烏の濡れ羽色。

黒鉄一輝の固有霊装(デバイス)、日本刀《陰鉄(いんてつ)》が男の眼前に示された。

 

「どうかお願いします、非常事態なので!」

 

「はいよろこんで!」

 

男は引きつった笑みで何度も頷くと、バイクを乗り捨てて逃げていった。

手短に礼を言って一輝はバイクに跨がり、アクセルを全開。鉄の馬の心臓が爆音で吼えた。

………珠雫はもっとスマートに借りたんだろうな。

頭の中に浮かんだ『追い剥ぎ』の四文字を必死で打ち消しつつ、一輝は現場に向けて全速力で風を切り駆け抜けていった。

 

 

「……じゃ、俺も行くか。お前は残るんだろ?」

 

「ええ。しっかりと『視て』おきますのでご安心を」

 

おう、と短く返して仁狼もまた店を出ようとした。

その時だった。

 

「あ、あの………っ!」

 

躊躇いがちに呼び止める声。

振り返って見てみればそれはさっき仁狼が助け、そして仁狼に怯えたウェイトレスだった。

仁狼は一瞬目を隠そうか逡巡したが、しかしウェイトレスが目を逸らす気配は無かった。

 

「《伐刀者(ブレイザー)》の方、だったんですね……。お話、聞こえてました」

 

「……それが?」

 

意を決したような表情

本当は助けられたのだとわかっていたのだろう。

彼女は腰を直角に曲げ、深々と頭を下げた。

 

「その………先程は申し訳ありませんでした!!

頑張って下さい!……どうか、ご無事で!!」

 

彼女の言葉に、仁狼ははっきりと面食らった。

彼はこんな風に、見知らぬ他者にエールを貰った経験に乏しい。

ウェイトレスのつむじをしばし見つめていた仁狼は、少し嬉しそうに口角を曲げた。

 

「────おう。行ってくる」

 

心なし声が弾んでいたのは気のせいではあるまい。

いつもより少しだけ軽い足取りで歩き出そうとした仁狼だが、琉奈にちょいちょいと服の背中を引っ張って止められた。

少しだけ出鼻を挫かれた気がする。

 

「ジンロウ、屈んで下さい。あなたにも魔力をくっつけておきますので」

 

「うん?」

 

なぜ屈む必要があるんだと思ったが、この状況で彼女がそう言うのだ。よくわからないが、きっと必要な行程なのだろう。

何となくある予感を感じつつ、仁狼は言われるがままに腰を落として───

 

 

ちゅう、と唇を塞がれた。

 

 

「…………、お前さ。()()()()、キスでくっつける必要は?」

 

「無いです。気分的なものです」

 

予感が的中した。

まさか公衆の面前ではやらないだろうと思っていたのに───完全な不意討ちでキスをかました琉奈は未だ余韻の残る自分の唇に指先で触れ、クスクスとはにかむ。

 

「いってらっしゃい。早く終わらせて遊びましょう?」

 

「……言われなくても」

 

灰青色のつむじに軽いチョップを落とし、仁狼も店から出た。

手刀を落とされた所を押さえ、彼女は不服そうにその背中を見送る。

────さて。

ここからはいよいよ《伐刀者(ブレイザー)》の時間だ。

突然のラブシーン(?)に当惑している店員に、琉奈は数秒前とは打って変わったように真剣な顔と声を向けた。

 

「恐れ入りますが、一番静かな部屋を使わせて頂いてよろしいですか?バックルームでも何ならトイレでも、どこでも構いませんので……一番集中できそうな所を」

 

 

 

 

さて、仁狼もまた足がない。

走っていくべき距離ではないし、能力もそういう移動に使える代物ではない。

やはり誰かに車両を借りるのが一番か───

そう判断した仁狼は目ぼしいものを求めて周囲を見回す。

すると、道路の向こうからリッターバイクが走ってくるのが見えた。

カットしたマフラーから五月蝿い排気音を撒き散らし、乗っているのは一目で()()()()とわかる人種の男。

───色々カスタムされて速度が出そうだし、あれでいいか。

適当にそう判断した仁狼は、バイクが走る車線側に移動。

粋がったサウンドを鳴らすそれが横を通り過ぎる瞬間、仁狼は動いた。

 

すれ違い様に男の腕を掴み。

 

その身体を車体から引きずり下ろし。

 

体捌きで慣性の力を殺し、男を安全に路上に放り投げると同時。

 

「いいモン乗ってんな。貸せ」

 

席が空いたバイクに飛び乗り、アクセルを開いてそのまま走り去った。

 

走行中に乗り手が交代した───何が起きたのか相手は理解できてもいない。

気付けば路上に座り込んでいた男は、自分以外の誰かを乗せた自分のバイクが猛スピードで走り去っていくのをただ呆然と眺める外なかった。

 

後に警察経由でバイクを返還された男は、『ポル◯レフは多分あんな気持ちだった』と述懐したという。

 

 

三者三様、舞台は整った。

そして戦いが始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。