『なるほどねぇ。「脱力で脳のリミッターを弛めて自分の最大以上の力を瞬発的に出力」すんのがイヌッち流みてーだけど、その理合いを魔力の使い方にも転用してるってぇ訳だ。
……だとしてもこの威力、元々の能力も相当に攻撃的っぽいねぇ』
仁狼が破壊したスタジアムには、砕けた瓦礫の一つも落ちていない。
彼が放った《
「……ヨミツカさん、何なのよアイツの力? アタシが見た時とかなり様子が違うわよ」
「ああ、概念干渉系の《切断》です。ジンロウは『斬る』という概念を操るんですよ」
「せっ、切断!? あれで!?」
「《
密度も威力も、範囲を絞った分グンと上昇しているようですが」
流石の一輝も顔を
全身を滅多斬りにしてもどこにも刃が通らない。
こうなれば自分の攻撃を通すには切り札を切る他無いが、《
そして向こうには一撃貰えば再起不能になりかねない火力がある。
……だがそれは、攻撃手段を刀に限ればの話だ。
一輝は自ら仁狼に吶喊。繰り出される貫手の弾幕、一発目を
そこに一輝は組み付いた。
軟体生物を思わせる滑らかな動きで一輝は仁狼の腕を肘関節で挟み、そのまま捻るように巻き込んで地面に組伏せる。
『なんと、剣士と剣士の対決でまさかの
『どんだけ身体が硬くても関節の可動域が変わる訳じゃねえってか! イイとこに目ぇ付けんじゃんよ黒坊!』
攻撃が通じないならアプローチを変える。
それを見ていた者たちは、決まった、と確信していた。
あれは、抜け出す
何故なら一輝は自分で仁狼を抑え込むだけでなく、彼の身体に対して
まずは腕を一本破壊するべく一輝は力をかけ、
「《
大きく弾き飛ばされた。
斬撃を
仁狼がこの技を出す前にへし折れるかと思ったのだが、やはり全身が準
『ああっ、弾き飛ばされてしまいました! 去原選手が抑え込まれていた床がズタズタに切り裂かれている!! 黒鉄選手の負傷も大変なものか!?』
『や、予め知ってたって動きだねぇ。ギリ飛び退いてるし、体内に留めてた《
有効ではあるっぽいけど、こうなるとまた関節を狙うのは難しい。リスキー過ぎるし、何より警戒されるからねぇ』
地に伏せる仁狼が、そのまま地を這うように一輝へと身体を蹴り出す。
三度襲い来る貫手、掌底、肘、拳。
素手の武においてもその
それを捌く一輝の様子はさっきまでと大きく違っていた。
さっきまでの薄皮を掠らせるような寸前の回避ではない。
身体を振って必要以上に大きく回避している。
『!? 黒鉄選手、急に反撃に移れなくなってしまった!』
『イヌッちが《
難敵も難敵だ、と一輝は思う。
向こうの攻撃が一発当たれば終わりなのは
だがそれを理不尽などとは思わない。
それが当然なのだから。
幼い頃から身を引き裂くような試練に身を落とし、血道の果てに手に入れた
そして徒手空拳の間合いの外で、仁狼は何も持っていない手を、まるで刀を持っているかのように振るう。
咄嗟にガードした
まるで仁狼が、透明な刀を振るっているかのように。
「《
それが仁狼の新たな二刀。
魔力で形作られた二振りの刀を手に、仁狼が一気に攻め立てる。
『見えざる刃が黒鉄選手に襲いかかる!! やはり《
「なんでアイツの
魔力には色がある。
一輝なら蒼、ステラなら赤といった具合に、それぞれ能力だの性格だのが反映されているのかは知らないが魔力には『その人物らしい』色彩があり───中には星空とでも表現するべき変わり種の魔力もあるが───その色は
だが、一方の仁狼。
《
まるで透明。
地面が抉れた、一輝が受け止めたという二次的な事象を見て初めて技が発動されたとわかる。
(もしかしてボクの《
それに近い事ができる絢瀬が自分なりの考察を進めていたが、一輝は一足先にその真相に辿り着いていた。
(そうか。見えないようにしてるんじゃない───彼の魔力には、
透明色の魔力による
しかも魔力で出来た刃だ。『変形する可能性』がある以上、どこまでが間合いかわからない。距離を取ろうと離れても、刃を伸ばして追いかけてくる可能性すらある。
そう考えた側から仁狼は仕掛けてきた。
《
「──────《
呟かれた技の名前。
布を思い切り叩くような音を上げて、一輝の全身から赤色が噴き出した。
「ぐぅ………っ!!?」
『あ、あああ!? これは大ダメージ───』
『いや、
「!あの技、トラックのコンテナだけをバラバラにした……!」
「斬撃を相手の体表に走らせる
「……それよりもあの男、魔力の制御能力が凄まじいですね」
眉間に皺を寄せて珠雫が呟く。
「
口にすれば容易いですが、それは自分の魂を分解してしまうのに等しい
そんな極限の集中力をあのレベルの戦いの中で維持し続け、更に複数の
……あの男、脳が何個ついているんですか?」
珠雫をして唸らせた仁狼の魔力制御。
それの由来をステラと一輝は彼の口から既に聞いていた。
───並列思考。
剣を扱う為に身に付け鍛えてきたそれが魔術においても活かされるのもまた、達した一理が万法に通じた一例と言えるだろう。
「……斬れないのか。だが、有効みたいだな」
《
もはや受け止める事すら出来なくなった攻撃を全力で動き回って回避する一輝だが、その表情はどこまでも怜悧。
ただ勝つ為に全てを尽くす。
仁狼という難攻不落の要塞に、思考のメスを入れていく。
……《
ステラの《
物質に対して極めて強力に干渉する《切断》という能力の特性で考えれば、防御力とそれが転じた攻撃力はその二つよりも強力かもしれない。
だが仁狼の能力は、炎や風など、元々が不定形で流動的な現象とは根本的に違う。
《切断》とは強力な物理的接触をもって現れる現象。
素直に全身に纏っていては、関節を曲げる度に纏っている斬撃と斬撃が激突してお互いに弾かれ、まともに動くことすら出来なくなってしまう。
であれば。
実際の鎧のように、身体の構造上カバーできない部分が存在するはず。
つまり狙うべきは─────
「っ!!?」
一輝は
その途端、一輝の攻撃は通らないはずの仁狼が両腕を振り回しながら後ろに退いた。
『何と!? 去原選手、ここで退いてしまった!! 終始優勢に見えていましたが、バランスを崩したのか大きく腕を振り回す!』
『力を逃がしたんさ。ああして腕を振り回さなかったら腕の関節がオシャカになってただろうねぇ。……しっかし黒坊もまぁ、よくそんな針穴みてーな突破口を思い付くもんだよ』
「……お前、
「その通り。期待通り、
仁狼の剣は凄まじい。
最適化された反射運動による出の早さに、白筋のみで構成された身体による速度と力。
それらが脱力による脳のリミッターの解除でブーストされ、極限まで無駄を削ぎ落としたモーションによる動きの読みにくさまで兼ね備えている。
加えて、《
だが、優れた結果を出すものは、相応に制御が困難なのが道理。
例えるなら超高速で空を引き裂く戦闘機、そのパイロットが一度でも思い切り操縦を誤ってしまえばどうなるか。
当然、墜落。悪ければ空中分解すら引き起こすだろう。
その剣は、相手の攻撃が強ければ強いほど威力を増す。
相手の攻撃に対してその攻撃の
「番外秘剣───《
勝ち筋がないなら、勝てる手段を一から作る。
《