二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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手繰る糸

『なるほどねぇ。「脱力で脳のリミッターを弛めて自分の最大以上の力を瞬発的に出力」すんのがイヌッち流みてーだけど、その理合いを魔力の使い方にも転用してるってぇ訳だ。

……だとしてもこの威力、元々の能力も相当に攻撃的っぽいねぇ』

 

仁狼が破壊したスタジアムには、砕けた瓦礫の一つも落ちていない。

彼が放った《月劫剣(げっこうけん)》が、射線上にあった全てを粉塵になるまでバラバラにしてしまったからだ。

 

「……ヨミツカさん、何なのよアイツの力? アタシが見た時とかなり様子が違うわよ」

 

「ああ、概念干渉系の《切断》です。ジンロウは『斬る』という概念を操るんですよ」

 

「せっ、切断!? あれで!?」

 

「《月劫剣(あれ)》は()()()()()()()()()()()を全力で撃ち放つ、言ってみればステラさんの《暴竜の咆哮(バハムートハウル)》に指向性を与えたような技なんです。

密度も威力も、範囲を絞った分グンと上昇しているようですが」

 

流石の一輝も顔を(しか)めた。

全身を滅多斬りにしてもどこにも刃が通らない。

こうなれば自分の攻撃を通すには切り札を切る他無いが、《一刀(いっとう)修羅(しゅら)》を使ってしまった現状それを使うことはもう出来ない。

そして向こうには一撃貰えば再起不能になりかねない火力がある。

……だがそれは、攻撃手段を刀に限ればの話だ。

一輝は自ら仁狼に吶喊。繰り出される貫手の弾幕、一発目を(かわ)し二発目を(くぐ)り、三発目の貫手を柄尻で弾いて仁狼の身体に隙を()じ開ける。

そこに一輝は組み付いた。

軟体生物を思わせる滑らかな動きで一輝は仁狼の腕を肘関節で挟み、そのまま捻るように巻き込んで地面に組伏せる。

 

『なんと、剣士と剣士の対決でまさかの寝技(グラウンド)です! 黒鉄選手、持ち前の引き出しの多さを見せつけてきました!!』

 

『どんだけ身体が硬くても関節の可動域が変わる訳じゃねえってか! イイとこに目ぇ付けんじゃんよ黒坊!』

 

攻撃が通じないならアプローチを変える。

それを見ていた者たちは、決まった、と確信していた。

あれは、抜け出す(すべ)がない。

何故なら一輝は自分で仁狼を抑え込むだけでなく、彼の身体に対して陰鉄(いんてつ)(かんぬき)のように使うことで仁狼の動きをさらに縛っているからだ。

まずは腕を一本破壊するべく一輝は力をかけ、

 

「《断鎧(だんがい)》」

 

大きく弾き飛ばされた。

斬撃を(よろ)伐刀絶技(ノウブルアーツ)、《断鎧(だんがい)》。大型トラックをジグソーパズルにした技である。

仁狼がこの技を出す前にへし折れるかと思ったのだが、やはり全身が準霊装(デバイス)化しているだけある。関節そのものも超硬化されており、そのせいで折るのが間に合わなかったのだ。

 

『ああっ、弾き飛ばされてしまいました! 去原選手が抑え込まれていた床がズタズタに切り裂かれている!! 黒鉄選手の負傷も大変なものか!?』

 

『や、予め知ってたって動きだねぇ。ギリ飛び退いてるし、体内に留めてた《一刀(いっとう)修羅(しゅら)》の魔力を瞬間的に外に放出して魔力で防御してっから傷は浅い。

有効ではあるっぽいけど、こうなるとまた関節を狙うのは難しい。リスキー過ぎるし、何より警戒されるからねぇ』

 

地に伏せる仁狼が、そのまま地を這うように一輝へと身体を蹴り出す。

三度襲い来る貫手、掌底、肘、拳。

素手の武においてもその業前(わざまえ)は超一級。

それを捌く一輝の様子はさっきまでと大きく違っていた。

さっきまでの薄皮を掠らせるような寸前の回避ではない。

身体を振って必要以上に大きく回避している。

 

『!? 黒鉄選手、急に反撃に移れなくなってしまった!』

 

『イヌッちが《断鎧(だんがい)》を纏ったままなんさ。反撃の為に寸前で回避なんてしたら、フードプロセッサーみたくそのまま巻き込まれてズタボロさね』

 

難敵も難敵だ、と一輝は思う。

向こうの攻撃が一発当たれば終わりなのは()()()()()()()()、こちらの攻撃は何一つ通らないのが何よりも厄介。防御を貫く為の技すら通用しないのだ。

だがそれを理不尽などとは思わない。

それが当然なのだから。

幼い頃から身を引き裂くような試練に身を落とし、血道の果てに手に入れた(わざ)に、付け入る隙などあろう筈がない。

そして徒手空拳の間合いの外で、仁狼は何も持っていない手を、まるで刀を持っているかのように振るう。

咄嗟にガードした陰鉄(いんてつ)に、刃のぶつかる感触を感じた。

 

まるで仁狼が、透明な刀を振るっているかのように。

 

「《()(くう)(きょう)(げつ)》」

 

それが仁狼の新たな二刀。

魔力で形作られた二振りの刀を手に、仁狼が一気に攻め立てる。

 

『見えざる刃が黒鉄選手に襲いかかる!! やはり《断鎧(だんがい)》は纏ったまま! 黒鉄選手、苦しい展開になってきました!』

 

「なんでアイツの伐刀絶技(ノウブルアーツ)は見えないの? まさか魔力を伐刀絶技(ノウブルアーツ)としてじゃなく、効率がガタ落ちする無色のエネルギー状態のまま扱ってるとでも……!?」

 

魔力には色がある。

一輝なら蒼、ステラなら赤といった具合に、それぞれ能力だの性格だのが反映されているのかは知らないが魔力には『その人物らしい』色彩があり───中には星空とでも表現するべき変わり種の魔力もあるが───その色は伐刀絶技(ノウブルアーツ)にも現れる。

だが、一方の仁狼。

月劫剣(げっこうけん)》や《断鎧(だんがい)》、《()(くう)(きょう)(げつ)》など、それらの技が全く視認ができない。

まるで透明。

地面が抉れた、一輝が受け止めたという二次的な事象を見て初めて技が発動されたとわかる。

 

(もしかしてボクの《(かぜ)爪痕(つめあと)》みたいに、あれは切断という能力の副産物だったりするのかな……?)

 

それに近い事ができる絢瀬が自分なりの考察を進めていたが、一輝は一足先にその真相に辿り着いていた。

 

(そうか。見えないようにしてるんじゃない───彼の魔力には、()()()()()()()()()()!!)

 

透明色の魔力による伐刀絶技(ノウブルアーツ)。故に不可視。

しかも魔力で出来た刃だ。『変形する可能性』がある以上、どこまでが間合いかわからない。距離を取ろうと離れても、刃を伸ばして追いかけてくる可能性すらある。

そう考えた側から仁狼は仕掛けてきた。

()(くう)(きょう)(げつ)》の刃が陰鉄(いんてつ)に触れた、その直後。

 

「──────《殻斬衝波(かくざんしょうは)》」

 

呟かれた技の名前。

布を思い切り叩くような音を上げて、一輝の全身から赤色が噴き出した。

 

「ぐぅ………っ!!?」

 

『あ、あああ!? これは大ダメージ───』

 

『いや、(あせ)ぇ! 今の黒坊の《一刀修羅(いっとうしゅら)》が発揮する魔力防御は並じゃねぇ。見た目は派手だが皮一枚でギリ抑えてる!』

 

「!あの技、トラックのコンテナだけをバラバラにした……!」

 

「斬撃を相手の体表に走らせる伐刀絶技(ノウブルアーツ)です。触れればそれでいいので、ガードしても刀を伝ってあの通り」

 

「……それよりもあの男、魔力の制御能力が凄まじいですね」

 

眉間に皺を寄せて珠雫が呟く。

 

霊装(デバイス)を純粋な魔力になるまで()()()

口にすれば容易いですが、それは自分の魂を分解してしまうのに等しい荒業(あらわざ)。僅かでも魔力の制御を誤れば元の形に戻った霊装(デバイス)に体内から貫かれてしまいかねない。これだけでも他の全てを意識から除外せねばならない程の魔力制御を要求されるはず。

そんな極限の集中力をあのレベルの戦いの中で維持し続け、更に複数の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を並列に発動するなんて最早人に至れる深奥ではありません。

……あの男、脳が何個ついているんですか?」

 

珠雫をして唸らせた仁狼の魔力制御。

それの由来をステラと一輝は彼の口から既に聞いていた。

───並列思考。

剣を扱う為に身に付け鍛えてきたそれが魔術においても活かされるのもまた、達した一理が万法に通じた一例と言えるだろう。

 

「……斬れないのか。だが、有効みたいだな」

 

殻斬衝波(かくざんしょうは)》を宿した魔力の双刀が更に勢いを増して空を踊る。

もはや受け止める事すら出来なくなった攻撃を全力で動き回って回避する一輝だが、その表情はどこまでも怜悧。

ただ勝つ為に全てを尽くす。

仁狼という難攻不落の要塞に、思考のメスを入れていく。

 

……《断鎧(だんがい)》。

ステラの《妃竜の羽衣(エンプレスドレス)》や一輝の兄・黒鉄王馬の《天竜具足(てんりゅうぐそく)》などのように自分の能力を身に纏って防具にする、系統としてはポピュラーな伐刀絶技(ノウブルアーツ)だ。

物質に対して極めて強力に干渉する《切断》という能力の特性で考えれば、防御力とそれが転じた攻撃力はその二つよりも強力かもしれない。

だが仁狼の能力は、炎や風など、元々が不定形で流動的な現象とは根本的に違う。

《切断》とは強力な物理的接触をもって現れる現象。

素直に全身に纏っていては、関節を曲げる度に纏っている斬撃と斬撃が激突してお互いに弾かれ、まともに動くことすら出来なくなってしまう。

 

であれば。

実際の鎧のように、身体の構造上カバーできない部分が存在するはず。

つまり狙うべきは─────

 

「っ!!?」

 

一輝は陰鉄(いんてつ)を振るい、魔力の刃ではなく仁狼の腕を叩く。

その途端、一輝の攻撃は通らないはずの仁狼が両腕を振り回しながら後ろに退いた。

 

『何と!? 去原選手、ここで退いてしまった!! 終始優勢に見えていましたが、バランスを崩したのか大きく腕を振り回す!』

 

『力を逃がしたんさ。ああして腕を振り回さなかったら腕の関節がオシャカになってただろうねぇ。……しっかし黒坊もまぁ、よくそんな針穴みてーな突破口を思い付くもんだよ』

 

「……お前、()()()()()()

 

「その通り。期待通り、()()()()()()()

 

仁狼の剣は凄まじい。

最適化された反射運動による出の早さに、白筋のみで構成された身体による速度と力。

それらが脱力による脳のリミッターの解除でブーストされ、極限まで無駄を削ぎ落としたモーションによる動きの読みにくさまで兼ね備えている。

加えて、《()(りん)()(そう)》による身体の超強化まで施されているのだから。

 

だが、優れた結果を出すものは、相応に制御が困難なのが道理。

例えるなら超高速で空を引き裂く戦闘機、そのパイロットが一度でも思い切り操縦を誤ってしまえばどうなるか。

当然、墜落。悪ければ空中分解すら引き起こすだろう。

 

その剣は、相手の攻撃が強ければ強いほど威力を増す。

相手の攻撃に対してその攻撃の(かた)を崩すように加撃することで、力の流れを相手の体内で暴発させる技。

 

「番外秘剣───《(ねじ)(みず)》」

 

勝ち筋がないなら、勝てる手段を一から作る。

断鎧(だんがい)》に覆われていない関節部を適切な角度で叩き、仁狼の身体を自壊させんと烏の濡れ羽色が逆襲を開始した。

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