二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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類が友を呼ぶ

何でやねんと言いたげな顔を向ける仁狼だが、琉奈は素知らぬ顔でツンとそっぽを向くばかり。

長髪を後頭部で適当に括った狼の尾のような髪の房が、仁狼が肩を落とす動きに合わせて揺れた。

飼い主を自称するならもう少しきつくリードを握っていてもらいたいと刀華は思う。踏ん張りも(むな)しくズルズルと引きずられているのではないか?

 

「彼がやらかしてから駆け付けるまでの速度、素晴らしいものでした。日々の鍛練の賜物でしょうか」

 

「事前に情報の提供がありまして。生徒手帳を見せて頂いてもよろしいですか?あと、この学園に来た目的も」

 

「……海外旅行に来た気分だ……」

 

「厳重なのは申し訳ありません。()()()()今、うちは突然の来客に神経質になっているので」

 

いらんことを言った仁狼に琉奈が肘鉄を入れ、二人は大人しく生徒手帳を差し出した。

禄存の校章が描かれたそれにきちんと二人の情報が記されているのを確認して返却し、改めてこの学園に来た目的を問う。

 

「……強いヤツと戦いに来た。……それだけだ」

 

「まあ。ス○リートファ○ターでいらっしゃるのですね。殺意の波動を感じます」

 

「一番知ってなさそうな人が知ってるんですね……」

 

口元に手を当てくすりと笑った白ドレスの麗人。

しかし笑みを形作ったのは口元だけだ。その目は、纏う空気は一切の遊びを含んでいない。

この室内にいる全員が臨戦態勢だった。

眼前の男の皮膚の下、薄皮一枚の理性で包まれたような獰猛な圧が──今にも枷を食い破らんと暴れているのを前にして。

 

「……あんたら()強いのか?」

 

食指が目の前の刀華から他のメンバーにも移ったらしい。

これ以上刺激するようなことは言いたくないが、実力相応の自負はある……己を必要以上に小さく語りたくはない。

どう答えるべきか適当とプライドを天秤にかけ少しだけ考える一同だが、その答えを発したのは生徒会の誰でもなかった。

 

「昨年の七星剣武祭ベスト4《雷切(らいきり)》東堂刀華。

校内序列2位《紅の淑女(シャルラッハフラウ)貴徳原(とうとくばら)カナタ。

序列3位《速度中毒(ランナーズハイ)兎丸(とまる)恋々(れんれん)

序列4位《城砕き(デストロイヤー)砕城(さいじょう)(いかづち)

戦いには出ませんが、《観測不能(フィフティ/フィフティ)(みそぎ)泡沫(うたかた)

最新の情報ではありませんが───ほぼ破軍学園最高戦力ですね」

 

詠塚琉奈の口からすらすらと並べられる情報に、刀華たちの顔が若干引きつった。

彼女はここに来る前に下調べを済ませていたようだ。

そこで得た情報を使って今、躊躇いもなく火に油を注いだ。

何が『飼い主です』だ───完全に()()()()じゃないか!

 

「そうか……。雰囲気で並みではないとわかってはいたが……最高戦力ときたか……」

 

仁狼がくつくつと肩を揺らす。

写るもの全てを噛み裂くような双眸が、煮えたぎるマグマを噴き出した。

 

 

「斬りがいがある……

……()()見取(みど)りじゃないか……!!」

 

 

───いよいよ限界だ。

刀華は己の能力の枷となる眼鏡を外す。

どちらかが武器を抜く。決定的な(せき)が切られるその時は今の直後に来るだろう。

仁狼と刀華。二人の手が今から()び出す()()を掴み取ろうと開かれ───

 

「流石にそれはアウトです」

 

「痛っっったぁ!?」

 

琉奈が仁狼の耳を掴んで引っ張るのと、刀華の生徒手帳が非常用の強制通話モードのアラームを鳴らすのは同時だった。

 

緊急事態の知らせだ、放置は出来ない。

ポケットから手帳を取り出して耳にあてる。

聞こえてきた声は、情報を貰う際に番号を交換した日下部加々美のものだった。

 

 

『会長、あの、また殴り込みです!

貪狼の《剣士殺し(ソードイーター)》が!

学園破りを出せって!今は先輩が抑えてるけど、ていうか下手したら先輩に食ってかかりそうです!』

 

───暁学園の襲撃といい南郷先生が連れてきた『あの人』といい、なぜこの学園には平和な来客がないんだろう……?

 

刀華は一瞬、菩薩のような穏やかな笑みを浮かべて──眼鏡を外した顔を、そっと両手で覆った。

 

 

 

きっかけは加々美の調査だった。

加々美は『学園破り』を素性の知れない厄介者として《貪狼学園》とも情報を共有していた。

しかし運の悪いことに、ある生徒の友人(とりまき)がその話を聞きかじってしまったのだ。

それを聞いたその生徒は《貪狼学園》新聞部の小宮山から情報を聞き出し、そしてここまで殴り込んできたのだ。

 

「退けクロガネぇ……テメェから先に刻んでもいいんだぞオレぁよぉ……!!」

 

「ま、待って!本当に待ってくれ!!今その人はここにいないんだって!!」

 

「いんだろうが学園(ここ)に……っ!」

 

怒りの余り全身に青筋を浮かべる様は、胸元の髑髏の刺青すらも憤怒を現しているかのように見える。

貪狼学園のエース、倉敷(くらしき)蔵人(くらうど)

今にも無差別に暴れだしそうな彼を、黒鉄一輝は必死に抑えていた。

 

「どうして『学園破り』を知ってるのかはともかく、今は本当に駄目!というか何だってそんなにキレてるの!?」

 

「あぁ?なンでキレてるかだぁ……?

……『学園破り』はあちこちで(つえ)えヤツと()り合おうとしてんだろ。だったらここに来たのはテメェが目当てに決まってんだろうが」

 

「だ、だとしてもそれがどう関係……」

 

「奴は『破軍と貪狼は来たこと無え』って話だろ……?そんで奴は次にここを選んだってワケだ……」

 

サングラスの下で蔵人の瞳孔が開く。

 

「………オレを後回したぁイイ度胸だよなぁオイ……!!」

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