二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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破軍学園壁新聞
キャラクタートピックス 文責・日下部加々美

JIRO INUHARA
去原仁狼

■PROFILE
所属:禄存学園一年四組

伐刀者ランク:B

伐刀絶技:秘奥(ひおう)(つい)・《神薙(かんなぎ)

二つ名:(たばか)る狂剣 ← NEW!!

人物概要:《二天一流詠塚派》後継者


運 :D

攻 撃 力:A+

防 御 力:A

魔 力 量:B

魔力制御:A+

身体能力:A


かがみんチェック!:
本当に彼の動きは気配が小さくて読めなーい!!
《二天一流詠塚派》と《切断》にまつわる色んな魔術を修めた、《特例召集》でも常連の超実戦タイプ。
『力が強くて』『目に見えないほど速くて』『気配も動きも読めなくて』『能力は超攻撃的』。
こうして書いてみると本当につけ入る隙がまーったく存在しない恐ろしい騎士だね。
頭のリミッターを緩めた状態で少量の魔力を爆発させるみたいに戦うから、魔力的な持久力も実際の値よりかなり高いんだって。

いつも一緒にいて世話を焼いてくれる詠塚さんに頭が上がらないみたいだけど、ここでは不用意に触れちゃ駄目な過去が二人にはあるみたい。
でも先輩との戦いの中で、そのわだかまりはいい方向に向かったみたいだね。
何年もの間、苦しみながらも二人はずっと相手の事を想っていたんだ。
彼の能力で切れないものがあるとするなら、それはきっと二人の間にある絆そのものなんじゃないかな。(気恥ずかしくなって検閲済み)


寄り添う旅路
感想戦


 

 

戦いは終わった。

 

形だけは辛うじて人体の体裁を保っていた去原仁狼(アジの開き)黒鉄一輝(ぶつ切りの肉)は即座にIPS再生槽(カプセル)に叩き込まれて集中的な治療を受け、無事に身体や臓器の機能を完治させるに至った。

とはいえ失った体力まで戻る訳ではない。

気絶したそのままたっぷり丸一日ぶんは眠り続けて、先に目を覚ましたのは一輝の方。

眠りすぎてぼやける彼の頭を目覚めさせたのは、その知らせを受けすぐに駆けつけてきたステラたちだった。

 

「お兄様っ!」

 

ベッドの上で上体を起こす一輝にいの一番に駆け寄ったのは珠雫。

しかし一輝は不安そうな子犬みたいな顔をしている珠雫に対して、「静かに」、と人差し指を自分の唇に当てた。

口を閉じた彼女に指で示す先にあるものは、カーテンで区切られた部屋の一角。

 

「隣で去原君が寝てるんだ。ずっと側で見守ってた詠塚さんと一緒に」

 

同じように死闘を繰り広げたこちらの豪傑は、まだ眠りから覚めていないらしい。

まだ休息を必要とする者がいる病室であることを慮り、ステラはやや声をひそめて一輝を労う。

 

「お疲れ様。凄かったわね。正直予想だにしてなかった結末だったわ。とんでもない奴がいたものね……あんな戦い、そうそう見ないわよ」

 

「ああ、僕もそう思う。公式戦に出てこなかったとはいえ、よくも今まで無名でいれたものだ」

 

「それよりもまたあんなにボロボロになって……。この短期間で何度死にそうになっているんですか。まったく、本当に治しがいの無い人です」

 

「はは、ごめん……。返す言葉もないよ。……あとさ。一応聞くけど、勝ったのはどっちなのかな。気を失ってたから聞こえてなかったんだ」

 

一応、と前置きしたという事は、彼自身もう結末を半ば確信していたのだろう。

激突の瞬間で記憶が途切れているということはつまりそういう事だ。

嬉しくない結果を伝えるのは勇気がいるもので、少しの沈黙の後に答えたのはやはりステラだった。

 

 

「………、イヌハラの勝ちだ、とネネ先生が判定したわ」

 

 

「………そうか。………負けた、か」

 

ありのままだがどこか含みを持ったステラの答えを、一輝は何の疑問もなく受け入れる。

敗北という結末を差し引いても、彼にしては珍しく力の入っていない声。

珠雫の小言にも気が抜けていたというか、どこか心ここに在らずな様子の一輝をステラが訝しむ。

 

「……イッキ、どうしたの?」

 

「ああ、うん……。いまだにショックというか、余韻が抜けなくてね。去原くんの一撃も恐ろしい完成度だったものの、まさかああも派手に打ち負けるなんて流石に思っていなかったからさ……。

ましてそれは僕の切り札だったんだ、正直思うところは大量にあるよ」

 

「……とはいえ、『お兄様の負け』というあの判定には納得がいきません」

 

打ち負けた、という言葉に反応した珠雫が不満げに唇を尖らせる。

 

あんなにも静かな結末を見たのは全員が初めてだった。

西京寧音の越権じみたジャッジにより終結した一輝と仁狼の勝負に、喝采らしい喝采は上がらなかった。

皆がその判定に疑問を抱いていたからだ。

あの状態で黒鉄一輝の勝利を主張する声は流石に無かったものの、いくらなんでもアレを仁狼の勝ちとするには無理があるだろう、という声が多かったのは確かな事実。

世界ランキングの上位に名を連ねる彼女の言葉とはいえ、それに納得している者はほとんどいないと言ってもいい位だ。

 

「破れるはずのない切り札を破ったから相手の勝ち、というのは勝負の本質ではないでしょう。

そもそもお兄様の剣も去原を沈めていた事に変わりはないのですから、どちらかに軍配を上げるというのは的外れではないですか?」

 

「あたしも同感ね。その内情がどうあれきちんとしたルールに則った勝負で、両者が戦闘不能に陥ったのなら、それは引き分けとなるべきだと思うわ」

 

「その気持ちはよーくわかる。けども、このうちが大真面目に考えて判断した結果だぜぇ?」

 

珠雫の主張にアリスも頷いた瞬間、狙いすましたようなタイミングで西京寧音が現れた。

一本下駄を高らかに鳴らし、艶やかに着物を着崩した少女と見紛う小さな身体が、ひょこりと一輝のベッドの傍らに立つ。

 

「黒坊。うちの判定は不服かね?」

 

「いえ、異存はありません。むしろ引き分けと言われた方がわだかまりがありましたよ。

最初から最後まで好き放題にされっぱなし。経過はどうあれ、終わってみれば彼の(スタイル)に食い下がるので精一杯。

純粋な剣技はともかく、自分の能力も絡めた戦略や戦法、応用力……伐刀者(ブレイザー)としての完成度は、去原君の方が間違いなく上でしたね」

 

こうして話しながら思い返すだにゾッとする。

とにかく相手の土俵に付き合わない彼のやり方は、徹底して自分の剣を封殺しにかかってきていた。

だが()()()()()()()真正面からの打ち合いに持ち込んでも、彼の実力は何ら苦にしていなかったようにも思える。

なんなら《天牢(てんろう)()刑陣(けいじん)》を放つまでの応酬(プロセス)も全て計算の内でした、なんて言われても信じるかもしれない。

何故って、最初から順番に詳細に思い出してみても、自分がどこから型に嵌められたのかが全くわからないのだから。

 

「……で、でも、どうして最後にお兄様は打ち負けたのですか? あの技は本来、()()()()()()()()()()()()()()()はずですが」

 

「単純な話さね。あの《追影(おいかげ)》は不完全だったんさ」

 

当人に敗北を認められては流石にこれ以上食い下がるのは野暮というもの。

しかし納得できるかどうかはまた別、珠雫の()()()()()()()()()()()にも寧音は即答した。

 

「ありゃ一撃必殺だけあって条件がキッツい。

周囲の状況や敵の行動まで手前(てめー)でコントロールして、万全の状況を作ってからようやっと真価を発揮する剣なんだろ?

でもあの瞬間、()()()()()はどうしようもなく『イヌッちの勝利』に天秤を傾けてた。

もはや直接手を下す必要もない位に確定してたそれを直接対決という流れにねじ曲げるために、黒坊は《魔人(デスペラード)》としての器量の大半を使っちまったんさね。

身体もズタボロ、技に込められた運命の強制力は中途半端。

それでも『過程と結果を逆転させる』トンデモ技だ、(デバイス)を折られても(たた)っ斬りはしたが………イヌッちの真骨頂を止める事までは叶えられなかったって訳さ」

 

魔人(デスペラード)》としての器量───つまり運命に対する主体性。

それが仁狼をさんざん想定外の窮地に立たせてきたモノの正体、人間との間にある埋め難い格差とそう呼ばれるものだ。

物語の登場人物が、作者の望んだエピソード(運命)に抗える訳がない。口の悪い言い方をすれば、この戦いは仁狼の敗北が決定した演劇に過ぎないはずだったのだ。

その上でこの結果………一輝の敗北という判定に対してステラが何も言わないのは、同じ《魔人(デスペラード)》としてそれを理解しているからだ。

 

「黒坊は剣の腕は神憑(かみがか)ってっけど、《魔人(デスペラード)》としてはまだまだヒヨッ子って事さね。

けどいい相手が見つかったんでないかい?

剣技の性質もどことなく共通してるし、学び合うことも多いんじゃないかねぇ」

 

「はい、とても勉強になりました。……ただ、彼の剣は盗んだところで僕にはどうしようもないですけどね。

脱力に代表される彼の剣技の性質は、完全に《白色総身(ホワイトカラー)》を前提に成り立っている……二天一流の《詠塚派》というよりは、もはや《去原派》とでも呼ぶべき代物でしたよ」

 

「ストップ&ゴーのギャップがイッキよりも極端だったものね。

本当に体力が少ないのかしら……? あそこまで動き回らせてなお戦い抜ける位にカバーされてたら、もう弱点として機能してないわよ。

攻撃力も防御力も機動力も、どこを取っても強みしかないじゃないの」

 

「……魔力制御能力は私も認めざるを得ませんね。

去原自身は剣術に重きを置いていたようですが、あの男……あるいはあの男の師は魔術の有用性を理解していたのでしょう。

しかし誰かに師事していたにしても、あのレベルまで引っ張り上げられる人物とは一体……?」

 

「でもお互いに一歩も意地を引っ込めない、気持ちの入った凄い勝負だったわよね。

冷静沈着な(ひと)が好きな()の涙に熱くなる……ふふ、素敵じゃない。

やっぱり大切なものの為でこそ、人って強くなれるものなのね」

 

 

「オイこっ()ずかしいからソコ触れんな」

 

 

シャッ!と隣のベッドのカーテンが勢いよく開いた。

驚いて隣を見ると、そこには去原仁狼が目を覚ましていた。

その傍らには寝落ちしたであろう詠塚琉奈がベッドに突っ伏して寝息を立てている。

 

「……お、起きてたの」

 

「……皇女様らが見舞いに来たさっきから、ずっと起きてたよ……。

ルナも寝てるし、褒められて気分がいいから、黙ってたけど……いらん事口走りやがったから、止めたんだ。

ルナが起きて聞いてたらどうすんだよ……」

 

「「「 いいんじゃない? 別に 」」」

 

「良くねえ!」

 

珠雫と寧音以外の声が見事にシンクロした。

持ち前の瞬発力を存分に活かして言い返した仁狼の声に反応してか、琉奈がもぞもぞと身体を動かす。

寧音だけはそこに意識のある人間がいる気配に自分が気付けなかった事に静かに衝撃を受けていたが、陽口(ひなたぐち)を聞かれたむず痒さは一先ず払拭された。

しかし、続く仁狼の一言で病室の空気は再び変質した。

そう、今までの会話全てを聞いていたということは……

 

 

「……で、『デスペラード』ってのは何なんだ?

何かの例え、という訳ではないよな」

 

 

当然、そこに疑問を抱くに決まっていた。

やや厳しくなった寧音の表情を見て、仁狼はこの言葉が何かとても重大な意味を持っていることを確信する。

 

「……去原君」

 

「聞いたところ、黒鉄の()()に直接繋がっている『何か』のようだが……。 悪いが、これは何としても話してもらいたい。

意味不明ながらあれほどの効力を発揮する何かを、『わからない』と放置するなんて………有り得ない話なんだからな」

 

先生、と一輝が寧音を見る。

このテーマについてこの場では最高の決定権を持つ寧音は、今さら誤魔化しようがないか、とため息を吐く。

ここで秘密にしておいても、聞いてしまった以上彼はそれについて独自に探りを入れるだろう。

しかしこれは()()()()()()()()()()、その過程で何か厄介事に巻き込まれる可能性だってある……その事を考えれば、ここで詳しく説明して余計な事をしないように釘を刺しておくほうがずっといい。

 

「……しゃーねーな。こうなりゃキッチリ説明してやんよ。……ただし覚えときな。ここでうちから聞いた話、ぜってー他人に広めたりすんじゃねーぞ」

 

「肝に命じよう」

 

即答する仁狼。

その瞳に偽りは感じない。

その誠実さを担保にして、寧音は静かに語り始めた。

 

「《魔人(デスペラード)》ってのは────」

 

 

 

 

 

「……………、…………」

 

唖然という言葉を表現するのに、これ以上の表情は無いだろう。

予想以上の話のスケールに言葉を失っている仁狼が、まだ受け止め切れない様子で繰り返す。

 

「……因果の外側に至った………?

自分の意思で、世界の運命を塗り潰す………?

魔力の総量も増加……?

まさか、そんな無茶苦茶な話が……」

 

「あるんだよねぇ、これが。

イヌッちだって味わったろ? 勝つための方程式がよくわかんねー力でねじ曲げられるのをさ。

それは黒坊がその展開を否定したからなんさ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

イヌッちが戦ったのはそういう相手さね」

 

「…………そうか……俺はとんでもない奴と……」

 

「あ。黒坊の他に、うちとステラちゃんも《覚醒(ブルートソウル)》済みだかんね」

 

「割とありふれてるのか……!?」

 

「ネネ先生、これ以上情報を増やさないであげて。ありふれてる訳ないでしょうが」

 

だんだんと冷静のキャパシティを越えつつある仁狼にステラが助け船を出した。

確かに言われてみれば同じ学園に《魔人》が密集しているこの現状は異常ではあるが、《覚醒》を漢字検定3級みたいな扱いにされても困る。

 

「そうか、流石にそれはないか……しかしそれによれば、『誰でも到達できる』という話は……どうやら本当らしいな」

 

「『最悪死ぬレベルで鍛え続ける覚悟があれば』、が頭に付くがね。

自身を極め尽くすそれだけでも人生一度で足りるかどうかわかんねーのに、さらにその上を渇望するなんざ……ま、正気の沙汰の欲じゃねーって事さねぇ」

 

「そうか……」

 

何かを考えるように仁狼は口元に手を当てる。

混乱から落ち着いたにしてもいやに静かな表情。

誰に聞かせるでもない声量で、彼はぽつりと呟いた。

 

 

「……誰でも、か────」

 

「その一線超えるなら腹ぁ括れよ」

 

一瞬、仁狼の目に灯った危うい光を寧音は見逃さなかった。

見た目に反し低く凄んだ声に込められた威圧感に、仁狼は反射的にベッドから立ち上がる。

 

「《魔人》は運命に縛られねえ。

けどそいつぁつまり、魂が人間の枠から外れちまう事と同義なんさ。

人外のそれに至った魂に引っ張られ、その器の肉体も人外のそれに変貌するなんて事が場合によっちゃ普通に起こる。

ケダモノの心(ブルートソウル)》って呼ばれる所以さね。

戦いの愉悦に《覚醒》したロクデナシもいりゃあ、互いに相応しくあるために《覚醒》した奴らもいる。

けど人間で在り続けることも、誰に恥じる事のない立派な選択さ。

………そうやって咄嗟に守ろうと思える人がいるのなら、特にね」

 

言われて初めて気付いたように仁狼は自分の後ろを見る。そこには琉奈が相変わらずベッドの縁に突っ伏していた。

無意識の内に琉奈の盾になるように動いていたのだ。

自分ではなく、愛する家族を選んだ親友───かつて他の何も見えない位に募らせた想いが一方通行で終わってしまった寧音にとって、その光景はどう映ったのだろうか。

そして彼らはどうやら騒ぎ過ぎたらしい。

すやすやと眠りに落ちていた一人の意識が急速に水面に向けて浮上を始めた。

しばし身動ぎした後、彼女は寝ぼけ眼で頭を起こす。

 

「んむゅ……じんろう……?」

 

琉奈が目を覚ました。

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