二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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二本の牙

戦いの前ならしゃんとしろと苛立ちを込めた目で仁狼を見る蔵人に、ステラがふと声をかけた。

 

「それにしても、意外に大人しく従ってるわね。アンタの事だから、真っ先にイッキに食い付くと思ってたけど」

 

「…………、」

 

彼は一瞬だけ鬱陶しそうな顔をした。

倉敷蔵人はかつて、学生騎士の頂点を決める《七星剣武祭》で黒鉄一輝ともう一度戦おうと約束したが───無念にも彼は敗退し、結局その約束は果たすことが出来なかった。

そして蔵人は3年生、もう学生の内に《七星剣武祭》という最高の舞台で一輝と戦う道は断たれているのだ。

そんなやりきれない過去を追想しているのだろう。あれからそう遠くない、思い浮かぶ感情もまだ鮮明なはずだ。

荒々しい形相に、少しだけ(うれ)いの陰が見える。

 

「……あん時、俺ァ全てを出し切って戦った。その結果切符を掴めなかった。それまでだ……未練がましく押しかけるような真似なんざしねえよ」

 

だがな、と。

続く言葉には、もう獰猛さが戻ってきていた。

 

「テッペン目指して戦ってりゃあ、いずれはどっかで鉢合わせるだろ。そん(とき)ゃあ、骨まで噛み砕いてやるよ……!」

 

「!……ああ。僕も楽しみにしてるよ」

 

自分を倒すために力を研き、いつか倒すと信念の切っ先を突き付けてくる。

仁狼の台詞ではないが、ここまで戦士冥利に尽きるものもないだろう。果たされるのがいつになるかわからないその約束が、今から堪らなく待ち遠しい。

込み上げてくる純粋な喜びに自然と頬が綻んだ。

 

「モテモテね。イッキ」

 

「そ、そういうつもりはないけどな」

 

くすりと笑ったステラに気恥ずかしそうに反論しつつ、一輝は逃げるように前を歩く仁狼と琉奈の背中に目を向ける。

……一輝やステラのレベルとまではいかずとも、ある程度の実力者ならば一目で相手の力量を(はか)ることが出来る。

故に二人が仁狼を見た時、彼が只者ではないことは既に見抜いていた……でなければ一輝はともかく、傲慢なステラが警戒して席から立ち上がるなんてことはするまい。

しかし前を歩く仁狼を見た一輝が今感じたのは……

 

(随分と()()()()()()()()だな……?)

 

「しかし急な決定でしたが、闘技場の使用許可は下りているんですか?難癖つける人はいないとは思うのですが……」

 

「理事長がその場で許可を下ろしてくれましたが、もう少し歩きます。少し前にその、一番近いところにある闘技場が()()()()()()()()()()()()ので……」

 

「「「……………!?」」」

 

「なんで全員アタシを見るのよっっ!!」

 

超弩級の風評被害がマッハの速度で飛んで来たステラが顔を赤らめて叫ぶ。

とはいえ一輝とステラを除き、事情を知らないものからすれば真っ先に候補に上がるのは仕方ないだろう。じゃあ誰だよ、という疑問には誰も答えないまま、一行は闘技場に到着した。

 

 

 

告知も何も無いため観客はいないに等しい。

いるとすれば観客席にいる一輝とステラ、スクープと情報目当てに着いてきた日下部加々美に審判を務める東堂刀華。

そしてもう一人の足音が、通路の階段からコツコツと響いてくる。

 

「お隣よろしいですか?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

灰青の髪の少女が、優雅な仕草で一輝の隣に腰を下ろした。

そこはかとなく眉が動いたステラを見てくすりと笑い、彼女は穏やかに口を開く。

 

「ずいぶんと挨拶が遅れてしまいました。私、詠塚琉奈と申します。……先の七星剣武祭では、お二方とも気高い戦いぶりでした。それこそ賛辞を言葉にするだけ無粋なほどに……うちのジンロウも、録画した映像を擦り切れるかという位に見ていましたよ」

 

ステラ・ヴァーミリオン───伐刀者(ブレイザー)ランクA。

黒鉄一輝───伐刀者(ブレイザー)ランクF。

最高の才能と最低の才能、相反すれど強者の群れを斬り登る力に偽り無し。

片や己の力の最大を出し尽くし、片や己の限界を突き破った者の決勝戦は、それを目撃した者全員の心に刻み込まれている。

どうやらそれはあの男も例外ではないようで、よほど夢中だったのだろう。

緩く首を振りながら琉奈はやれやれと溜め息をついた。

 

「ジンロウも、出場できていればとても大きな糧となったはずなのに……後先を考えないから肝心な機会を逃すんです。励ますのに本当に苦労しました」

 

「『できていれば』?何があったのよ……」

 

 

「……始まるようです」

 

 

実況も何もなく、ゲートから仁狼と蔵人が静かに入場してきた。

そう見ないレベルの強者との戦いを目前に、二人の血が沸き立っているのがわかる。

仁狼もさっきまで琉奈の尻に敷かれていた姿はどこにもない。

二人の闘気が高鳴る鼓動に合わさるように膨らんでいく。

観客席までヒリヒリした空気が伝わってきた。

 

「両者、固有霊装(デバイス)を幻想形態で展開して下さい」

 

かくて審判は号砲を構えた。

己を縛る(くつわ)を外された獣が、歓喜の叫びを上げて己の魂を顕現させる。

 

「出て来やがれ───《大蛇丸(おろちまる)》!!」

 

両側にノコギリ刃の付いた、大蛇の骨を継ぎ合わせて作ったような、形を持った『狂暴』そのものの白骨の剣が両手に二振り。

途端に膨れ上がる圧力(プレッシャー)に狂熱を滾らせながら、仁狼も静かに自分の権能の名前を()ぶ。

 

「───鎮まれ、《鏡月(きょうげつ)》」

 

 

「「…………!」」

 

主の喚び声に応え(あらわ)れた()()に、全員が思わず息を呑んだ。

 

仁狼の霊装は日本刀だった。

右手に刀、左手に脇差(わきざし)

剣士なら言われずとも察する組み合わせだろう。

左の腰には手に持った数と同じ数の鞘が提がっていた。

 

 

「面白え………テメェ、二刀流かぁ!!」

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