二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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双刀の幽霊

 

「……お互いに、な」

 

楽しみで仕方ないと歯を剥き出す蔵人に、口の端を歪めて仁狼が応じる。

二人を抑制の杭に繋ぎ止めている理性の紐は、今にも引き千切れそうなほどに張り詰めていた。

戦闘準備の可否は問うまでもないだろう。

そう判断した刀華は小さく頷き、息を吸い込んだ。

 

「……詠塚さん。見た感じだと、彼は学内の選考に落ちた、という訳ではなさそうだね」

 

「もちろん。あなたと同じように、色んなものを食べて大きくなってきた人間です。そこいらの木っ端と一緒にはされたくありませんね」

 

「じゃあ、ヨミツカさん。あなたは……イヌハラ、だったかしら?彼が《七星剣武祭》に出場できてたとして、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ステラの言葉の意味を読み取った琉奈のこめかみが微かに震える。

しかし声を荒立てるような事はしない。

取るに足らない問いとばかりに視線は動かさないまま、静かに、はっきりと彼女は言い切った。

 

 

「─────優勝する、と断言します」

 

 

「では参りましょう。────試合開始(LET's GO AHEAD)!!」

 

 

掲げた手と共に放たれた開幕の宣言。

離された手綱を振り乱すように、まずは1匹が地面を蹴った。

 

「ハッハーーー!!」

 

まず先手を取る。主導権を掴む。

敵が行動する前に終わらせる、速攻は鉄板の戦術だ。こと攻撃と防御において異類のアドバンテージを持っている倉敷蔵人にとっては尚更。

一直線の踏み込みは速度の反面カウンターを貰いやすいが、彼にとってそれは懸念事項にはなり得ない。

両手に握った大蛇丸(おろちまる)を後ろに引き絞り、まずは挨拶代わりに対応してみろと仁狼の間合いに踏み込もうとして────

 

「っっっ!?」

 

───その最後の一歩を踏み出す前に、蔵人は全力で後ろに飛び退いた。

正確無比なカウンターが飛んできたから?

仁狼の放つ圧力(プレッシャー)を危険だと判断したから?

どれも違う。

むしろ、()()()()()()()()()()()()()

 

「こ、これは……」

 

「あら、見た目に反して意外と冷静なんですね。中途半端に強いと、調子づいて突っ込んだ直後に首を落とされるまでが一つのコントなんですが」

 

蔵人と同じものを感じた一輝とステラが困惑する。その顔を面白がるように琉奈が問うた。

 

「黒鉄一輝さん───現《七星剣王》さん。

あなたならどうしますか?

今の彼を相手に、あなたならどう攻めますか?」

 

「…………、」

 

一輝は答えることができない。

答えが多すぎるからだ───どうにでも攻められるからだ。

 

数秒前の戦意の塊のような様はどこへ失せたか。

だらりと垂らすように立っている仁狼からは、およそ戦いに臨む武人から放たれる一切を感じ取れなかった。

 

完全な脱力。

弛緩しきった筋肉は一輝をしてどう立っているかの分析を迷わせ、凶悪な双眸からも険しさが抜け落ちている。

それは肉体に限った話ではない。強者の気配も何もかも、それこそ背景の一部と思ってしまうほどに───斬りかかる蔵人を前にして仁狼は、己を武人として認めさせる全てを()()()、と消し去ってしまったのだ。

 

「……敵をわざわざ警戒させて……自分がつけ入るべき油断と隙を、自分から潰す………。馬鹿な事だと思わないか……?」

 

(何て野郎だ……自分(テメェ)の気配と()を、こうも完璧に殺しやがるか……!)

 

小さく笑う仁狼相手に、蔵人は動けない。

一輝が言った通り、隙だらけの今の仁狼を倒す手段などいくらでもある────()()()()()()()()()のが何よりも恐ろしいのだ。

並々ならぬ剣客とわかっている相手に対して、『ただの雑魚じゃないか』と心が楽な方向に振れそうになる異常。

その薄ら寒さすら感じる不気味さに彼は後ろに退いたのだ。

しかも。

 

()()()()()()()()()()()()……?)

 

一流の剣客ともなれば触れずとも、身体能力や間合いなど、見ただけで敵のおおよその情報を手に入れる。

しかし仁狼相手にはそれができない。

まだ能力も不明な上に放つ情報が無さすぎる。

読み取れるものが極端に少ないのだ。

不用意に踏み込んだら、何を貰うかわからない。

手数にモノを言わせ進撃する蔵人が攻めあぐねる様は非常に珍しいものだった。

 

「自分から動く気配がない。今の所は典型的な後の先(カウンター)型の剣士に見えるね」

 

「まるで擬態よね……あんな誘い方は初めて見るわ」

 

流石に易々と乗ってきてはくれないらしいが、仁狼とて後の先(カウンター)しか出来ないような小さな引き出しは持っていない。

油断まではしてもらえずとも、ああして攻めあぐねる相手の調理法もまた心得ている。

 

「来ないのか……?なら、こっちから───」

 

 

「じゃあ踏み込まなきゃイイ話だろうがよぉぉおおおっ!!」

 

 

ズバンッ!!と空気の割れる音。

瞬きも出来ない一瞬の内に、蔵人から仁狼に向けて石の床に斬痕が一直線に伸びていた。

身体を横にずらして回避した仁狼の肌に一筋の汗が伝う。

……やはり映像で見るのとは全然違う。

 

ぞろりと伸びた刀身が、間合いの概念を完全に無視して襲いかかってくる。

 

彼が《剣士殺し(ソードイーター)》と呼ばれる所以。

伸縮自在の刀身によって、剣術における間合いの概念を完全に崩壊させてしまうのだ。

 

「どうにかしてみろよ。それが出来なきゃあ、幽霊みてぇな気配の奴から───マジの幽霊になるだけだぞ」

 

無数の蛇が鎌首を打ち振るが如く、空を裂くように伸びた白骨の双剣が空間を乱舞した。

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