「《
滅多打ちという言葉が相応しかった。
過去にマシンガンのフルオート射撃を
いくつもの残像と石の床を削る硬質な音が見せるのは、まさに無数の刃が流れ落ちる滝壺だった。
仁狼の姿など完全にその嵐の喉に呑まれている。
(ひどいな。あれは相手にしたくない……)
あまりと言えばあまりな理不尽に一輝の顔が引きつる。
同じ剣なのに絶対に手の届かない場所から一方的に攻撃を喰らい続けるという間合いの絶対的不利。
さらにそれは途中から使い手の制御を離れる遠距離攻撃とは違い、一つ一つに剣士の確たる技量が込められている。
一輝のような純粋な剣士からすれば厄介極まりない。
さらに接近できても彼を切り崩すのは至難の技であることを身をもって知っている一輝にとって、この光景の難易度の高さには唸るしかない。
そしてそれに相対している、去原仁狼の技量にも。
(……手応えが一つもねえ)
様々な角度から幾度攻撃を叩き込んでも、刃が弾かれる感触すらない。
ゆらりゆらりとまるで蜃気楼に斬りつけているような感覚。
その足運びの
しかし彼はそこから動かない。
反撃できない?いや、違う。
まだ戦いは始まったばかり。仁狼からはやはり何の空気も感じ取れないが、体力や表情から見てもそんな窮状には立たされていないだろう。
ならば何だ。決まっている。
ビキ、と蔵人の顔に青筋が入った。
「イイ度胸じゃねえか……それでオレを
ゾン!!と蔵人が腕を開く動きに合わせて両の剣が左右から仁狼を噛み裂こうと迫る。
仁狼がそれを身を屈めて回避した時には、蔵人は鞭のように伸びた双剣を振りかぶり──軌道の異なる複数の斬撃を、
異なる動きが同時に発生し、手元で大きなうねりを与えられた両の剣が滅茶苦茶にのたうつ。
空を埋めるように激しく踊る骨の剣は振り下ろされる動きに従い、眼下の獲物を目掛け刃の胴体全てで襲いかかってくる。
───連撃が当たらないのなら、
それは刀にあるまじき、
「《
激突。耳を聾する硬い戟音。
大蛇丸が叩き付けられた石の床には、無数の蛇が住まう巣穴のような
蔵人が大蛇丸を振り上げた瞬間の、ぱん、と手を叩くような乾いた音は、戟音に紛れて聞こえなかった。
振り上げた時には仁狼はもうすぐ目の前にいて。
振り下ろした時にはもう、仁狼の双刀は蔵人にひたと添えられていた。
「───《
呟かれた技の名前が、いやにはっきりと聞こえた。
左の脇差による刺突と右の刀による左薙ぎを組み合わせた二点同時攻撃。
脇差は長さが短く、力の作用点が手元に近い故に高いパワーを持ち、リーチの短さを埋める為に最短距離で
その弾丸のような突きを凌いでも、より長いリーチと広い攻撃範囲を持つ刀による左薙ぎが絶妙な時間差で待ち構えている。
ただ二撃のみで構成された、絡まる波のように周到な攻撃の型。
攻撃の最中に割り込ませた距離を覆すカウンターは『安全圏』という意識の死角に滑り込み、普通の相手ならば攻撃されていることも認識できないまま斬り捨てられるだろう。
しかし───倉敷蔵人相手にはそうはいかない。
「っっっつぉお!?!?」
最初の刺突は身体を『く』の字に曲げて後ろに
同時にもう片方の
あの絨毯爆撃の中の針も通らない間隙を突き通した仁狼と、意識の空隙を突かれてなお完璧な回避と反撃まで行った蔵人。
技と感覚の冴えは共に尋常ではない。
一輝が注目したのは、三十メートルは離れていた距離を
「……《二歩一撃》?」
「イッキ、ニホイチゲキって?」
「日本の古武術にある歩法だよ。後ろの足で踏み込んで、その足が地面につく前に前の足で踏み込むんだ。
これをほぼ同時に行うことで、一つのリズムで移動距離が二倍になる、というものなんだけど……」
「ご名答です。さすがは武芸百般」
ステラの疑問に対しどこか歯切れの悪い答えを返した一輝を、どこか自慢気な琉奈が補足する。
「言い淀むのはわかります。やっている事は同じでも……ジンロウの二歩一撃は《
───合気の開祖である植芝盛平について弟子が記した書には、嘘か真か
『数十メートルの距離を一瞬で移動した』
『兵士に
その記述が真実であるとするなら、それはひょっとしてああいうものだったのではないだろうか。
虚を突かれたとは言え、第三者の視点から見ることに集中していた