では、どうぞ
アルスの魔術競技祭
今セリカは怒っている・・・相当怒っている。今その原因となった人物と会ったら【イクスティンクション・レイ】を撃つくらいには怒っている。そしてこの場には、ルミアとシスティーナそしてグレンに学院長とセリカがいるのだが、学院長は冷や汗をかきまくりでグレンとシスティーナは震えルミアは申し訳なさそうにしている。
「おいグレン!その無銘とやらをここに連れてこい!」
「い、いやいやあいつの居場所とか俺知らないし。」
「じゃあ探して来い!」
「てか、なんで俺がこんなとばっちり受けないといけないんだよ・・・」
セリカが怒っている理由としては、相当な技術と金がかかる転送方陣が無銘のせいで痕跡すら残さず壊されているせいである。確かに、生徒を守ってくれたことには感謝しているがそれとこれとは別である・・・
「そいつ今度会ったら【イクスティンクション・レイ】の刑にしてやる!」
セリカが覚悟を決めた瞬間である。
アルザーノ帝国魔術学院に魔術競技祭の季節がやってきた。
魔術競技祭とは、その名の通り魔術を使い競い合う祭りである。公の場で魔術が禁じられている帝国において、魔術の競い合いが認められる競技祭観戦は人気のある娯楽である。そして魔術競技際とは教師陣を始め生徒達もやる気を出してはいるのだが、最近では成績上位者だけで固められており、いつしかお祭りとは名ばかりのものになってしまっていた。フィーベルさんは、おじいさまから聞いていたような楽しい祭りでないことに不満を持っており皆に全員で出ようと言うが・・・言われた側の表情は芳しくない。その理由は実に単純であり、成績上位者に負けるだけだからである。それだけでなく今年はアルザーノ帝国女王アリシア七世王女殿下も来賓としていらっしゃることもあるだろう。
「萎縮しちゃうのも分かるけど、みんな思い切ってでてみようよ。」
ティンジェルさんが説得しようとするが、みんなは目を逸らす。
「アレス君も出てみない?」
「えっと・・・今回は遠慮しておこうかな・・・」
ティンジェルさんにそう聞かれるが丁寧に断る。護衛というのもあるのだが学生用魔術も平凡な僕が行ったところで勝ちは拾えないからである。
「そんな遠慮しないでさ、思い切ってやってみるもありだと思うんだよね。」
断ろうとしたタイミングで入ってきたのはなぜかテンションの高いグレン先生だった。昨日はお前らで好きにしていいと言っていたグレン先生だがいきなり掌を返し優勝を狙うと宣言し、しかも生徒を使い回さず最低でも1人1競技に参加させている。各々の得意な魔術を理解しそれにあった競技を当てていく・・・だが、そうなると必然的に僕も入る訳で・・・
「ん?『乱闘戦』?じゃあこいつはアレスだな。」
「は?」
思わぬ采配に思わず声を出してしまった。『乱闘戦』とはその名の通り乱闘であり、『決闘戦』との違いは1対1ではなく各クラスから1人ずつ計10名でのバトルロワイヤルであることだ。この種目は得点は高いが故に成績上位者の中でもトップが出てくる競技でもある・・・そんな過酷な競技に平凡な自分が選ばれるとは思ってもみなかった。
「なんだ?不満なのか?っつてもこの競技は魔術をどう防ぐかよりどういなすかが重要になってくる。このクラスで一番身体能力のある奴・・・つまりお前だ。」
そう言われると断れない。この空気で断ったら確実に浮いてしまうから・・・
場所は変わって中庭である。魔術競技際の授業は3時間でありその後は練習となるのだが、アレスはため息をは吐き寝ようとしていた・・・寝不足というのもあるのだが自分が過酷な競技に参加すると決まったことが更にふて寝を促進させていた。
「あ!やっぱりサボってる!」
「え・・・」
「サボるのは感心しないなあ。」
「いや、これはサボってるんじゃなくて少し休憩していただけで・・・」
そうとっさに嘘をつくが・・・
「嘘だよね、さっきからずっとそこに座ってたの見たもん。」
バレていた・・・だが、アルスにも言い分はある・・・この『乱闘戦』他クラスの出場者は競技に出ない人と練習すればいいのだが2組は全員参加の為練習相手がいないのである。それを理解してくれたのかティンジェルさんは
「わたしが練習相手になろうか?」
そう言ってきたのだが『乱闘戦』とはバトルロワイヤルなので1対1でやっても余り効果があるとは言えない。
「申し出はありがたいんですけど・・・」
と断ろうとしたタイミングでカッシュと他クラスの生徒が言い合いになっていたので、ティンジェルさんはちょっと行ってくるねとだけ言って行ってしまった。ここで1人孤立するのも目立つので後に続いたのだが着く頃にはグレン先生とハ、ハー・・・別の先生と言い合っていた。
「そもそもだ、全員で勝ちを取ると言いながらそこの生徒は堂々とサボっていただろう! 成績も大して良くない、やる気の欠ける生徒に我が一組の生徒が負けるはずがない!」
と僕に指を指してきたのだが、練習相手がいないんだよ仕方ないだろと思いつつ周りをみるとティンジェルさんが悔し顔をしながら拳を握りしめていた。正直そんな顔をされれば挽回しない訳にはいかず・・・
「ハー・・・先生、1組で『乱闘戦』に出る人は誰です?」
「なんだ?まあいいクライス!」
「はい!」
クライスと呼ばれた生徒はアルスの前に出てくるのだが・・・僕は決めた。
「んー『乱闘戦』では一番最初に脱落させるから気を付けてね・・・クライス君。」
そう言って、クライス君にデコピンをかます。当のクライス君は痛そうにしながら
「ふん・・・返り討ちにしてやる。」
とだけ言って1組と共に去っていった。一通り終わりティンジェルさんを見て微笑むとニコニコと微笑み返してくれた。
私がみんなの練習している姿を見ていると、1人木陰でサボっているアレス君を見つけた。そしてみんなが一致団結してる中1人サボっているというのはどうしても目立っていた・・・なので声をかけてみることにした。
「あ!やっぱりサボってる!」
そう言った瞬間アレス君は飛び起き
「え・・・」
と素っ頓狂な声をだしたので少し笑いそうになったのを堪えて
「サボるのは感心しないなあ。」
と言うとアレス君は目を泳がせながら・・・
「いや、これはサボってるんじゃなくて少し休憩していただけで・・・」
と言ってきた。嘘をつくのが下手すぎると思いながら追い打ちをかける。
「嘘だよね、さっきからずっとそこに座ってたの見たもん。」
というと困惑顔になった。なぜそこで困惑顔になるんだろうと思い少し考えていると練習相手がいないことに気づいたので
「わたしが練習相手になろうか?」
そういうと、アレス君は驚いた表情になったがすぐに
「申し出はありがたいんだけど・・・」
恐らく断ろうとしたのだろう。でも私の目はカッシュ君と1組の生徒が言い合いをしてるところを映したのでアレス君に
「ちょっと行ってくるね。」
とそう言ってカッシュ君たちのところに行ったのだが、カッシュ君と1組の生徒の言い合いだったはずがいつの間にかグレン先生とハーレイ先生の言い合いに変わっていた。そうするとハーレイ先生がアレス君を指さしながら
「そもそもだ、全員で勝ちを取ると言いながらそこの生徒は堂々とサボっていただろう! 成績も大して良くない、やる気の欠ける生徒に我が一組の生徒が負けるはずがない!」
そう言ったのを聞いて少し悔しかった。アレス君はみんなを気遣って練習相手を探さず1人でいたのにそれを知らずに言ったハーレイ先生の言葉がどうしても悔しかった・・・そしたらアレス君は1組の『乱闘戦』に出場する生徒を見て
「んー『乱闘戦』では一番最初に脱落させるから気を付けてね・・・クライス君。」
と、そう言ってデコピンしていた。1組の生徒が去ったのを見てアレス君はこっちを向いて微笑んでくれたのでつられて私も微笑み返した。
僕はさっき言ったことを猛烈に反省している。あんなに格好つけて言う必要はなかったじゃないか・・・まあやってしまったことだしもういいや・・・
そして時は過ぎ魔術競技祭当日となり、今は飛行競争があってる最中である。そして意外なことにカイ君とロッド君ペアは3位である。これはグレン先生も予想外だったようで
「うそーん」
と呟いた直後、フィーベルさんが近寄り
「先生!なにか秘策でもあったんですか?」
と期待に胸を膨らませながら聞いており、グレン先生は冷や汗をかきながら
「ま、まあな。今回の飛行競争はスピードよりペース配分が重要になってくる・・・それを俺がかるーく計算してやっただけよ」
そう言うと2組の生徒たちは全員はしゃぎまくりで
「グレン先生がいれば本当に勝てるかもしれねえ。」
などとカッシュ君はほざいている・・・
そしてその後はセシル君が4位以内を確定させたり、ウィンディさんが1位を取ったりしてなんやかんや午前中最後の競技『精神防御』の種目であるのだが流石のティンジェルさんも緊張しているの所々震えている。そんな姿を見たのがいけなかったのだろう・・・そんな姿を見てしまえば励ます以外の選択肢が消え去ってしまう。
「ティンジェルさんも緊張してる?」
「うん・・・ちょっとね・・・私以外の選手は男の子ばかりだし、去年も凄かったから・・・」
『精神防御』とは競技の中で2番目に過酷だと言われている・・・因みに1位は『乱闘戦』である。
「まあ、そんなに気負わなくてもいいんじゃないかな?グレン先生もお祭りって言ってたし」
「うん、そうなんだけど・・・」
多分アリシアさんの影響もあるんだろうなぁ・・・と思いつつ
「まあ、気負う必要はないよ?みんなずっと頑張ってきたんだし、ティンジェルさんもそうでしょ?仮に負けても僕が『乱闘戦』で取り返すから安心してよ。」
「うん、大分楽になったかな。ありがとね」
「ただ、無理はしないでね。」
「うん、じゃあ行ってくるね。」
そう言ってティンジェルさんは小走りで競技場へと向かった。
その後、ティンジェルさんは昨年の覇者であるジャイル君を抑えて1位を手にしたのであった。競技場から戻ってきたティンジェルさんはクラスのみんなに囲まれながら陽だまりのように笑っていた。
午前の競技がすべて終わり生徒は昼食に入るのだが金欠講師であるグレン先生は当然昼飯の余裕などなく、ルミアがとある女の子の代わりに届けたものでお腹を満たしていた。
「それはルミアの弁当か?」
食べ終わったグレンはルミアが持っているバスケットを見ながら聞いてきた。
「これは、ある人に作ってきたんですけど・・・多分その人は受け取ってくれないと思うんです。」
少し残念そうにいうルミアを見てグレンが
「男か?」
と聞きルミアは顔を赤くしながら、
「ち、違いますからね!?」
ここまで赤くなりながら言うと最早肯定しているのと同じである。
「まあいいや、そろそろ戻るか」
「そうですね」
と言ったときとある女性がグレンたちに声をかけていた。グレンは最初ぶっきらぼうに答えたのだが、相手がアリシア七世だと知った途端態度を一変してひれ伏していた・・・そこから一言二言会話をしたあと、アリシア七世はルミアへと向き母親のように話しかけたのだがルミアはそれを拒絶して足早に去っていった。その姿を見たアリシア七世は
「やっぱり、認めてくれませんよね・・・今更母親だなんて・・・」
と言って来賓席に帰ろうとしていたのを止めたのは無銘だった。
「そう卑下しないでください。王女殿下」
「無銘さん・・・ですか・・・3年ぶりですね。」
こうして顔を合わせるのは実に3年ぶりである。
「それより、このまま諦めるんですか?エル・・・ルミアさんのこと」
「どうなのでしょう・・・不思議ですね、自分の事なのに・・・」
「ふぅ・・・僕からってのもなんですけど諦めないでください。」
こんなことを言われるとは予想外だったのだろう驚いた顔をしているアリシアさんに対し無銘は続ける
「この1年間ルミアさんの護衛をして分かったことがあります。別にルミアさんはあなたが嫌いなわけじゃない・・・ただ恐れているだけなのでしょう、またあなたに拒絶されることをね・・・この競技祭が終わった後にでもお互いに腹を割って話し合ったらどうです?」
「そう・・・ですね。考えておきます・・・」
そう言ってアリシアさんと別れたのだが・・・無銘の・・・いやアルスの魔眼はアリシアさんのネックレスが呪殺具であること、そしてメイドであるエレノアシャーレットが天の智慧研究会であることを看破していたのだが何もすることができないのである。アリシアさんとルミアを救う為にはグレンの協力が不可欠なのである。
「はぁ、なんで次から次へと厄介ごとばかり起こるんですかねえ・・・」
そう言って無銘は誰もいない並木道から消え、ルミアを守るために動き出すのであった。
驚異の5163文字である・・・素直に驚いた2時間足らずでここまで書けてしまった・・・1話でここまで書いたら2、3話で書き終わりそう・・・(小並感)