「……好きだよ……エルミアナ……」
アレスがそう言うとルミアは振り返りながら泣いていた。だが、アレスにルミアを見る余裕はない。アレスが相手をするのは魔術を消す刀と掠っただけで動けなくなる刀を持ち身体能力がリィエル以上という最強最悪の相手である。
魔人の持つ刀は魔術によってその能力を受けている訳ではなく、その剣に付いている特性なので
アレスと魔人は身体能力も剣技もそれほど差がある訳ではない、だがアレスには魔人にあるような戦闘経験が圧倒的に足りないのである。だからこそ、アレスは戦うだけでなく何かを使ってでも時間を稼がなければならなかった。
「待っていてくれてありがとう」
『構わぬ……汝を殺した後に、あの者達も殺すのだから』
時間稼ぎをされていると分かっていて応じる魔人、だがアレスの予想外の一言に魔人雰の囲気が一変する
「流石は『魔煌刃将アール=カーン』……器がお広いようで」
『魔煌刃将アール=カーン』とは、魔導考古学者であると同時に童話作家であるロラン=エルトリアの代表作『メルガリウスの魔法使い』という絵本に出てくる主人公の敵だ。
特徴として『魔煌刃将アール=カーン』は、邪神が課した十三の試練を乗り越えることで手に入れた十三の命と二振りの魔刀である。だが、冒険の中で七個の命を失っているので残りは六つ。そして先ほどアレスが首を落としたので残りは五つだ。
『ほう?我が名を知っているとはな……』
名前を看破したアレスに魔人は感嘆の声を漏らす
「あんたの事は大体知ってるよ。その二振りの魔刀……それは『夜天の乙女』から授かった物で、右手に
アレスは『カーン・サイクル』と呼ばれる叙事詩を思い出しながら魔人に問う
『我が魔刀を知っているとは驚いた……しかし……』
魔人が続けようとしたタイミングでアレスは再度問う
「それだけじゃない、あんたの命……残り五つだろ?それなら僕だけでも何とかできそうだしね」
少し笑みを浮かべるアレスに魔人は濃密な死の気配を出しながらアレスを睨む
『良いだろう。我が真なる主すら知らぬ秘中を、汝がいかに知ったかは与り知らぬが……精々足掻け、愚者の民よ。汝の力の全てを以て、我を、見事五度殺してみせよ』
「……フッ」
『何がおかしい?』
アレスが突然笑い出したことに疑問を抱く魔人
「いや、なに『魔将星』の御方にそんなことを言われるとは思ってなくてね……」
アレスは皮肉気にそう言って魔人の元へ走り出したのであった。
「止まってッ!止まってよシスティッ!」
何度かも分からないルミアの叫びにシスティーナは心を痛めながら走り続ける。
そして数分走るとグレンは走るのを止めセリカを降ろす。よく見るとセリカは目を少しだけ開けていた。
「私はエーテル体を著しく喰われてしまった……みたいだ……」
セリカは自嘲気味に続ける
「グレン……あの魔人はどうした?」
セリカの一言で場が凍る。するとセリカは周りを見回し
「1人足りない……か……」
これだけで理解したセリカにルミアが泣き出す
「アレス……君……どうして……いつも一人で決めて……うぅ……」
大粒の涙を零しながら、アレスの名を呼ぶルミアを慰められる者はこの中にはいない。
『いつまでも泣いてどうするの?』
そう言って現れたのは
「「「な!?」」」
その
『彼はあなた達に生きて欲しいから逃がしたのよ……その意思を無駄にする気?』
淡々と真実を告げる
「貴女にアレス君の何が分かるっていうんですかッ!」
『少なくとも貴女よりは知ってるわよ……直接聞いたもの』
「え……?」
それは、アレスがルミアに隠していたものであり、ルミアがアレスの意思を尊重し聞かなかったものでもある。
何故
「
アレスは何もない壁に向かって話しかける。
「もし、僕とルミアが離れたらルミアを安全な場所へ連れて行ってあげて欲しい」
返事は無く、アレスはそのまま壁に向かって話し続ける
「ルミアの精神性が気に入らないのは分かっているつもりだ……でも、頼む……」
アレスは壁に向かって頭を下げる
「セリカを助けるついででも構わない。ルミアを案内してあげてくれ」
すると、壁から少女が現れたのだ。
『対価は?』
「セリカを守ることだ」
「僕はルミアとセリカを守る、その代わりに君はルミアとセリカを助けてあげて欲しい」
『私もあなたもお人よし過ぎるわね……でも、1つ聞かせてあなたにとってルミアって何なの?」
「ルミアにはいつも助けられてばかりなんだよ……でも、僕は助けられてばかりじゃ嫌なんだ。僕はルミアを助けたい、その為に身に着けた力なんだから……」
アレスは悲しげな表情なのだが、覚悟を決めた目をしていた。
『そう……』
アレスは魔人と戦っていた。
アレスは自身の剣とセリカの
『よく耐える』
アレスと魔人が戦い始めて数分が経っているが、アレスは未だに一回も殺していない。アレスは防御に専念しており、一切攻撃をしていないからだ。
『攻撃しなくては勝てぬぞ?』
魔人の言葉にアレスは耳を貸さない。そしてアレスは目を閉じた。
魔人は話す意思が無くなったのか
魔人はアレスの身体能力を警戒して
アレスは、魔人の攻撃を躱しカウンターを叩きこもうとするが魔人は左の魔刀で受け止めようとする。すると、剣が寸前で消えたのだ。次の瞬間魔人の胸と腹がアレスの剣によって貫かれていた。
「あと……四つ……」
アレスはそう言って剣を構えなおす
『愚者の民にここまで驚かされるとは思っていなかった……』
魔人はそう言いながらアレスを見据え
『汝は我が見た中で最強の愚者の民なりッ!』
歓喜の声をあげる魔人とは逆にアレスは
「ハァ……ハァ……ハァ……」
険しい表情のまま息を切らしていた。先程行ったカウンター技は敵の攻撃のみに意識を集中させる技の為に疲労が他の技より出てしまうのだ。
『ここまでか……我は汝の剣に敬意を表し、一撃で仕留めよう……』
アレスは動かずぶつぶつと呟いていた。
「《────────────》」
魔人は右の魔刀をアレスの心臓まで持ってくると…
『なにッ!?』
魔人は心臓を
アレスが使った魔術は【
『爆裂と浮遊系の魔術の類か……汝ほどの剣士が愚者の牙を頼るとはな……」
魔人は少し失望したような雰囲気でアレスに言うが、アレスは自身の剣を鞘に納め
「《
その呪文と共にアレスの左手にはリボルバー、右手に
「生憎と僕は剣士じゃない……僕は1つを極めるより、多くを修める道を選んだ半端者だからね」
アレスは銃と剣を構えながら魔人に答える
「それに……僕はまだ死ねないッ!」
そう言ってアレスは魔人に撃ったが、当然魔術で作った弾なので左の
『やはり児戯』
だが、アレスはこれも視えていた。制服の下に携帯していた弾を込め、そして撃つ
『なにッ!?」
魔人の二度目の驚愕である。最初に撃った弾は魔術で作った弾丸だが、次の弾丸は魔術によって作られていない本物の銃弾だ。銃弾が刀に当たれば斬れることもあるだろうが大抵は弾道がズレる。そうしてズレたことにより、魔人の頭に一発入ったのだ。
再び復活した魔人が
『名も知らぬ愚者の民よ……汝は何のために剣を振るう?』
いきなりそう聞いてきたのである。魔人はアレスの剣を計りかねていた。アレスは確かに強いが戦闘経験の差によって勝つのは魔人の筈なのだ、なのに有利なのはアレス。だからこそ、魔人は問う
「……大切な人を守る為に……そして無くさない為に」
魔人はアレスを自分の最大の敵だと認め、ゼーロスが比にならないくらいの速度でアレスの前に来た
「ッ!?」
アレスが反応できたのは、未来を視ていたのと本能だった。魔人の初速はアレスの未来視を以てしても驚愕を隠せないものだったのだ。
『ほう?今の止めるか』
魔人は素直に称賛する。あんなの反応できる奴なんて世界広しといえど片手の指があれば足りるものなので、当たり前だろう。だが、アレスに返事をするだけの余力はない。
アレスと魔人の差は歴然だった。今まで互角に戦えていたのは魔人の手加減があったからだ。
「あの状態で手加減してたのかよッ!?」
アレスがそう言うのも無理はない。アレスはずっと全力で戦っていたのだ。体力も集中力も限界に来つつある。
すると
「《紅蓮の獅子よ・憤怒のままに・吼え狂え》」
黒魔【ブレイズ・バースト】がアレスの後方から放たれた。
『児戯』
魔人はそう言って【ブレイズ・バースト】を消し去る
「待たせたな!アレス!」
グレンがサムズアップしながらにやけている。
「ッ!?なんで戻ってきたんですか!」
アレスはグレン達を目視すると怒鳴るように言う
「生徒を置いていく教師がいる訳ねえだろ」
「ん、あとは私たちに任せて」
アレスの言葉にグレンとリィエルが言葉を返す。
「アレス!その魔人は不死身じゃないわ!そいつの命はあと5つよ!」
システィーナがグレンの援護に入るがアレスはそんなの知っている。アレスがグレン達を逃した理由は、グレン達を巻き込みたくなかったのだ。
「二つだ……」
「「は?(へ?)」」
アレスが突然口にした言葉に困惑するグレンとシスティーナ
「魔人のストックは残り二つだ……」
そう言いつつ安堵したせいで、緊張が緩まり倒れるアレスをグレンが抱える
「前からすげえ奴だとは思ってたけど、まさかここまでとはな……」
そう言って、アレスをルミアの元へ連れていき
「アレスの事頼んだぞ、ルミア」
グレンに言われたルミアは少し泣きながら
「はい!」
と言ったのであった。
こういう王道僕大好き