廃棄王女と天才従者   作:藹華

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 学校から帰って、この小説を書こうと思ったらお気に入りが533もいてくださりお茶を吹きそうになりました。誠にありがとうございます。


アレスの疲労と踊り

アレスはルミアとダンス・コンペに参加することが決まり結構な被害に遭っていた

 

「ルミアさんが、お前みたいな奴にダンス・コンペの誘いなんてするものか!」

 

 アレスは、朝から男子生徒に同じようなことを言われ続けていた。

 

「……えぇ……」

 

 この反応も無理はない。アレスが朝から言われ続けていることに気付き、ルミアが皆に説得したりもしたのだが、一向に減らなかった。

 

 正直に言おう、アレスは疲れているのだ。

 

「成績も中の下、容姿も普通……そんなお前がルミアさんとダンス・コンペだと?僕の方が適任だ!」

 

 この男子生徒は三年次生で、有力貴族の長男坊だ。

 

「いや、あの僕に言われても……」

 

 アレスは、この手の生徒が来ると毎回こう返している。アレスに悪口や自慢を言うより、ルミアに少しでもアプローチした方が良いと思っているからだ。

 

「僕はジャルジェ家の次期当主として、君にルミアさんを渡す訳にはいかない!」

 

「あれ?……関係なくね?……あっ……」

 

 アレスは、思ったことを口にしてしまった。疲れによって気が緩んでいたのかもしれない。

 

「……僕は君に決闘を申し込むッ!」

 

 男子生徒──────カストル=シャルジェは、左手の手袋をアレスの顔に投げつけた。決闘の申し込みである。

 

 アルザーノ帝国魔術学院の生徒、教師は余程の事が無い限り決闘などしない。グレンが来てから、決闘の数は増えてしまっているが……それでも、決闘をやる人物はほとんどいない。

 

「………」

 

 アレスが自身に当たり、落ちた手袋を無言で見つめていると

 

「僕が勝てば、ダンス・コンペで僕が君の代わりにルミアさんと出場する」

 

 そして、決闘に気付いた生徒や教師はそれを見ている。

 

 男子生徒達はカストルに共感しているが、同時に哀れな目で見ている。

 

 カストルは三年次生で、アレスは二年次生だが、アレスは魔術競技祭の『乱闘戦』を制している程の魔術師だ。そんな人に決闘を申し込むのは学年が上であっても憚られるのだ。

 

 逆に女子生徒達は、アレスに可哀想な子を見る目で見ている。

 

 カストルは、三年次生の中でも特に優秀なのだ。いくら『乱闘戦』を制したアレスといえど勝てる筈がない。そう思っているのだ。

 

「……分かりました。その決闘受けます」

 

 アレスが決闘を承諾した。

 

「アレス、君は『乱闘戦』を制したそうではないか……そんな君が僕に本気を出すのかい?」

 

 カストルは、悪顔になりながらアレスを不利な条件へと追い込んでいく。

 

 だが……

 

「当り前じゃないですか……好きな人とダンス・コンペに出る機会を逃すほど、僕は馬鹿じゃないです」

 

 アレスはその条件を受け入れなかった。

 

 アレスはプライドなど持っていない。アレスは、自身の尊厳やプライドなどは不要だと切り捨てたからだ。

 

「なっ……」

 

 カストルは、アレスが不利な条件を受け入れると踏んでこの決闘を申し込んだが、受け入れられなかった。

 

「僕が勝てば……そうですね、家名を捨ててもらいます」

 

「「「なっ!?」」」

 

 その場にいた全ての人物が驚きの声を上げる。ルミアと家名、対価が全く釣り合っていない。だが、アレスからすれば、対価を家名だけにしてあげたという手加減の意思表示だ。

 

「い、家を捨てろと言うのか!?たかが、ダンス・コンペのパートナーだぞッ!?」

 

 カストルは額に汗をかき、アレスは逆に冷静だった。

 

「ティンジェルさんと踊りたいってことは妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)の言い伝え目的でしょう?」

 

 ルミアを狙う男子生徒全員、これが目的だ。言い伝えでいけば、ルミアに妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)を着せることが出来れば、将来の伴侶には困らないからだ。

 

 それに、ルミアのルックスを持ってすれば、ダンスを少し上手くなるだけで優勝間違いなしだろう。事実上の結婚だ。

 

「……別に、貴方が勝てばいいだけの話ですし」

 

 確かに、カストルがアレスに勝てばルミアを手に入れるだけでなく、家名も捨てなくていい……だが、リスクが高すぎる。

 

 カストルが何かを言おうとしたタイミングで割り込んでくる人物がいた。

 

「おーい、アレスちょっと話がある。ついて来い」

 

 グレンは、そう言いながらアレスの服を引っ張り引きずっていく。

 

 こうして、決闘は有耶無耶となった。

 

 そして、こんな騒ぎを起こせばアレスとルミアが付き合っている疑惑が出るのも当然であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレンに引っ張られて、屋上まで連行された。

 

「それで、話って何ですか?」

 

 アレスは、屋上の柵に背中を預けながらグレンの目的を聞いた。

 

「……『社交舞踏会』についてだ……」

 

「……先生もティンジェルさんを譲れと?」

 

 アレスは少しめんどくさそうに聞く。

 

「……ああ……」

 

 グレンは申し訳なさそうに、答える。

 

「……先生の事だ。また天の智慧研究会あたりでしょう?」

 

 アレスは、グレンを見透かして言うが

 

「……すまん、答えられねえ……だが、ルミアは必ず守る」

 

 グレンは真剣な表情だ

 

「先生……僕は、ティンジェルさんの意思を尊重してあげたいんです」

 

 グレンと同じように真剣に答えるアレス

 

「はあ……お前ならそう言うと思ったよ……」

 

 グレンは、呆れた表情で続ける。

 

「これは、国家最高機密(トップシークレット)だから他言無用な……」

 

 グレンは、本来部外者であるアレスに話してはいけないことを話始めた。『天の智慧研究会がルミアを殺そうとしていること』『帝国政府が社交舞踏会を釣り堀にルミアを撒き餌にしていること』

 

「……という訳だ」

 

 正直に言おう、アレスは拳を握り締め過ぎて血が出るくらいには怒ってる。

 

「……お、おい?」

 

 アレスから怒気が漏れ出ていることに気付いたグレン

 

「……ふぅ、情報ありがとうございます」

 

 アレスは、一息で先程の怒りを鎮めていた。

 

 一瞬で怒りを鎮めてみせたアレスに驚愕を隠せないグレン

 

「僕はティンジェルさんとダンスの練習しにいかないといけないので、これで」

 

「俺も行くわ」

 

 アレスは屋上から去ろうとしたが、グレンも同行する。

 

「先生もコンペ・ダンス出るんですか?」

 

「おう!優勝したら金一封だぞ!?出るしかないだろ!」

 

 笑顔で訴えるグレンにアレスは苦笑いしながら

 

「相手は誰を選ぶんですか?」

 

「迷いどころだな~テレサか白猫辺りだろうな」

 

「フィーベルさんは、まだパートナーを見つけられなさそうなんで良いんじゃないですか?」

 

 そんな感じの他愛のない会話をしながら練習場所である中庭へ着いたアレスとグレンだが、ちょうど、システィーナとルミアがいた。

 

「やっと来たわね、アレスあんた今回の『社交舞踏会』のダンスはシルフ・ワルツの一番からよ」

 

 シルフ・ワルツという言葉に眉をあげるアレス

 

「どうかしたの?」

 

 ルミアは心配そうな顔でアレスを覗いている

 

「……いや、なんでもないよ……」

 

 そう言いながらも、アレスの目はどこか遠くを見ていた。

 

「アレスはシルフ・ワルツ初めてだから……」

 

 システィーナはアレスがシルフ・ワルツを知らないと思っている。アレスは偽名で、貴族のような名前でもない。

 

シルフ・ワルツとは『大いなる風霊の舞(バイレ・デル・ヴィエント)』と呼ばれる民族の踊りを貴族用に改変された踊りだ。つまり、元王宮の人間であるアレスは知っている。

 

 だが、ここで『知ってる』と言っても怪しまれるだけなので言わないが

 

「お?シルフ・ワルツか。懐かしいな」

 

 いつの間にか、ドリンクを取りに行っていたグレンが戻って来て早々に言う。

 

 そして、グレンはアレスを見てニヤリと笑い

 

「ったく、しょうがねえなあ。シルフ・ワルツを知らないアレス君にこのグレン=レーダス大先生様が特別にご教授してやるよ」

 

 煽ってくるグレンだが、アレスは苦笑いしながらも

 

「お願いします」

 

 と言った。

 

 すると

 

「分かってるの?シルフ・ワルツよ?あのノーブル・ワルツやファスト・ステップより難しい……」

 

 システィーナがグレンに注意をするが

 

「くっくっく……今回ばかりは、小生意気なお前の鼻を明かせてやれそうだなってな」

 

 システィーナの注意を遮って、自信満々に言うグレン

 

「じゃあ、その実力のほど見せて貰おうかしら?」

 

「いいぜ?」

 

 グレンは笑いながらシスティーナと中庭の中央へ行く。

 

 アレスとルミアは中庭の一角から蓄音機を操作し『交響曲シルフィード第一番』を流す。

 

 そこからはまさに圧巻だった。グレンの踊りは荒々しく、貴族のような美しさを持っていなかった。だが、それでも惹きつけられる魅力があった。

 

 戻ってきたグレンと肩で息をしているシスティーナ

 

「んじゃ、さっき俺がやったみたいにやってみろ」

 

 グレンはニヤケながら、アレスとルミアに言う

 

 アレスはルミアの手を取り、中央まで移動する。

 

「……じゃあ、いくよ?」

 

 ルミアにそう言って、システィーナにサインを出す。

 

 すると、『交響曲シルフィード第一番』が流れてくる。

 

「「なっ!?」」

 

 グレンとシスティーナは驚く

 

 グレンはやってみろと言ったが、悪ふざけのつもりだったのだ。それがどうだろう。ルミアは息を切らしながらも必死についていき、アレスはグレンの踊りを思い出しながらほぼ完璧に再現していた。

 

 アレスは良かったのだが、ルミアは運動が苦手と自称するだけあって辛そうである。

 

「ちょ……アレス君……待っ……」

 

 ルミアのその言葉で我に返ったアレスは、踊りをやめ

 

「あ、ごめん。グレン先生の踊りを思い返すだけで頭いっぱいだった……」

 

 申し訳なさそうに言うアレスに

 

「ハア……ハア……ハア……ううん、こっちこそごめんね?全然ついていけなくて……」

 

 息を整えるルミアだが、額は汗が滲み出ている。

 

 アレスはルミアの肩を支えながらベンチへ案内する

 

「飲み物取ってくるから、ここに座ってて」

 

 そう言って、学院の中へ走って行くアレス

 

「アレスの野郎、絶対シルフ・ワルツ知ってただろ……」

 

 ルミアへ近寄りながら呟くグレン

 

「ダンスが上手いのは知ってたけど……こんなに上手いなんて……」

 

 システィーナもルミアの横に座りながら呟く

 

 アレスはシルフ・ワルツを知ってるが、踊った事なんてなかった。正真正銘、グレンの見よう見まねであった。

 

「アレス君、多分ですけど見よう見まねですよ?」

 

 ルミアはようやく息が整ったのか、グレンとシスティーナに言う

 

「「は?」」

 

 そのルミアの言葉に驚くグレンとシスティーナ

 

 シルフ・ワルツは、結構難しいのだ。そんなものを見よう見まねで再現するなど普通はありえない。

 

「だって、踊ってる最中にグレン先生の動きを呟いてましたし」

 

 アレスは、ルミアと踊っている最中に

 

「型破りなカウントにシャッセ……緩急差の激しいクイックステップ……私が聞き取れたのはこれだけですけど、他にも結構言ってましたよ」

 

 本当にグレンの踊りを言葉にしながら実践していたのだ。

 

「マジで見よう見まねでやっちまうとは……俺の苦労って一体……」

 

 アレスが飲み物を持って戻ってくるまで、その会話は続いたのだった。




 因みにアレス君は、王宮にいた頃は全くダンスを踊りませんでした。護衛が任務なので踊る時間は無い感じです。

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