廃棄王女と天才従者   作:藹華

36 / 89
 イヴさんをヒロイン候補にした途端お気に入り登録者が増えて結構驚きました。


アルスの忠告とダンス・コンペの勝者

「《解呪(キャンセル)》……行くか」

 

アルスは、ルミアをグレンに預けたあと一度トイレで【セルフ・イリュージョン】を解除し気配を完全に消しながらイヴの元へと向かって行った。

 

「初めまして、帝国宮廷魔導師団特務分室執行官ナンバー1《魔術師》のイヴ=イグナイトさん」

 

「ッ!?誰ッ!?」

 

 イヴは突然話しかけられたので、警戒しながら少年に問う。

 

「アルベルトさん達から聞きませんでした?《無銘》ですよ」

 

 自分を《無銘》と名乗る少年を見る

 

「……それで?自称《無銘》さんが私に何の用かしら?」

 

 イヴはアルスを《無銘》だと信じていない

 

「……忠告ですよ」

 

「忠告?」

 

 アルスの言葉にイヴは疑問を露わにする。

 

「私に忠告なんて必要ないわ、これ以上用が無いのならさっさとどこかへ行ってもらえる?」

 

「……任務を失敗するのは構わない……でも、敵に利用はされないでくれよ?」

 

 そう言ってアルスは去って行った。

 

「私が……敵に利用される?……私はイヴ=イグナイトよ……私を利用するなんて出来る筈がないわ……」

 

 そう呟き、ルミアの監視に戻るイヴ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり止めれなかったか……」

 

 アルスはトイレで呟いていた。アルスはイヴの境遇を知っていると同時にイヴがどんなに戦果を上げた所でそれが報われないことも知っている。

 

 アゼル=ル=イグナイト──────帝国王家の分家筋にあたる三大公爵家の1つであるイグナイト家の現当主であり、前《紅焰公(ロード・スカーレット)》。アルスとアゼルは面識があり、皮肉なことだがアルスが固有魔術を作るきっかけとなった人物でもある。それだけでなく、アゼルはイヴを恐怖によって支配しており今のイヴ=イグナイトを作っているのはアゼルの影響を多大に受けたからだろう。

 

 アルスはそんなイヴに同情していたのかもしれない。だから、救おうとしても器用ではないアルスではイヴを救えなかった。この一件でイヴはアゼルにまた一つトラウマを植え付けられるだろう。

 

「《刮目せよ・我が幻想の戯曲・演者は我なり》」

 

 【セルフ・イリュージョン】の呪文を唱え、アレスとなりルミアの元へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 アルスとルミアは合計三回のダンス・コンペ予選が終わり、グレン達と合流した。

 

「ふふん!どう?ルミア、私たちも中々やるでしょ?」

 

 システィーナがルミアに対抗心を燃やす

 

「ふふっ、お互い頑張ろうね」

 

 ルミアは微笑みながらもエールを送る。

 

 ルミアとシスティーナは対抗心は合ってもいい雰囲気だ。

 

 だが、グレンとアレスはいい雰囲気とは言えない

 

「あっれぇーアレス~ひょっとしてビビってるぅ?これは今年の『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』は俺達のものかなぁ~」

 

 いつにも増して煽るグレンだが、その理由は採点にある。アレスとルミアは精一杯踊っているが、グレンとシスティーナの方が得点が高いのだ。

 

「(大人げねえ……)……まあ、これから本気出すんで……」

 

 そう言ってアレスは本選に出場しながら、他のカップルの踊りをずっと見ていた。

 

 

 そうして、準決勝が終わり残ったのは

 

 アレスとルミアのカップルとグレンとシスティーナのカップルだった。

 

「やったね!アレス君」

 

「うん……分かってたけど、相手はグレン先生とフィーベルさん……キツイなあ」

 

 そんな会話をしていると、グレンとシスティーナが来た

 

「どうやら、ルミア達とは決勝戦で雌雄を決することになりそうね!」

 

「あれれぇ~?アレス~?本気出すんじゃなかったのぉ?」

 

 闘志を燃やすシスティーナとアレスを滅茶苦茶煽るグレン

 

「ルミアも『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を目指して、一生懸命頑張ってきたんでしょうけど……でも、ここまで来たからには手加減はしないわよ?私、全力で優勝を狙うんだから!」

 

「うん。分かってるよ、システィ。私だって負けないよ?『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着て素敵な殿方と踊るのが、私の子供の頃からの夢だったんだもの!」

 

「素敵な殿方ねえ……?」

 

「システィこそ、遠慮しないで本気で来てね?じゃないと……『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』は私が貰っちゃうよ?」

 

「いいわ!そこまで言うなら、正々堂々戦いましょう!どっちが勝っても恨みっこなしよ!?」

 

「うん!もちろん!」

 

 熱い火花を散らし合うルミアとシスティーナであった

 

「グレン先生、フィーベルさん……悪いけど勝つのは僕たちだよ」

 

 グレンの煽りを完全無視していたアレスが笑みを浮かべながら宣言し、ルミアと一緒に会場へ向かって行った。

 

 

 

 ルミアとアレスは会場の中央に立つ

 

 すると

 

「アレス君……ありがとね」

 

 ルミアは突然感謝の言葉を述べてきた。

 

「アレス君のおかげで……今夜はとても楽しい社交舞踏会になったから……」

 

「………」

 

 アレスは、ルミアの透き通った穏やかな表情を見ながら無言を貫く。

 

「これで、勝っても負けても……私、後悔しないよ。今夜のことは……きっと、私の一生の宝物だから……」

 

 ルミアはどこまで嬉しそうに続ける

 

「私……今夜だけは、精一杯、本気で、頑張るから……」

 

 どこまでも嬉しそうに……まるで、悲しいことなど1つもないように……

 

「アレス君……お願い。この一時だけ、私と一緒に、私たちの出せる全てを……観客の皆さんに……審査員の方々に……全てを余すことなくみせてあげよう?」

 

 この表情が、アレスはあまり好きでは無かった。希う(こいねがう)ような表情の裏に悲しそうな切なげな表情を隠す。こういう時ルミアは碌なことを考えていないのだ。

 

「……なんで、これが最後みたいに言うのさ……」

 

「え?」

 

 アレスの呟きにルミアは首をかしげる。ルミアはそんなつもりで言ったわけではないのかもしれない、けれど、アレスからしてみれば諦めの言葉も同然だった。

 

「……僕はティンジェルさんにいなくなってほしくない……もし、いなくなるなら、僕も付いていくからね……」

 

「……それは……」

 

 アレスの宣言は、ルミアにとって予想のつかない言葉だった。ルミアは自分と一緒に居れば傷つくと分かっているから今夜限りでアレスに対する気持ちを諦めるつもりだったのだ。でも、アレスはルミアと一緒に居れば傷つくと分かった上で付いていくと言っている。

 

「……それに、今回のダンス・コンペ……ティンジェルさんに『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着せるから……」

 

 ルミアが何か言葉を返そうとしたタイミングで、指揮者が指揮棒を振り上げ、ダンス・コンペ最後の演奏が始まった。

 

 交響曲シルフィード第六番。それに合わせて始まるダンスはシルフ・ワルツの六番

 

 アレスとルミアは一礼し。

 

 グレンとシスティーナも一礼する。

 

 お互いがお互いの手を優しく握り……静かに踊り始める。

 

 グレンとアレスは踊り方が似ている──────これは、両者の踊りを見た人物全員が思ったことだ。

 

「「「ッ!?」」」 

 

 しかし、この決勝である一つの変化が起きた。それはアレスの踊り方が急変したのだ。

 

 ステップの踏み方やシャッセの刻み方が今までとは別物なのだ。今までは熱っぽく激しくて視線を惹きつけるような踊りはずなのに、今はそれを忘れさせるくらいに静かに穏やかに見た者すべてを魅了するかのように踊っている。

 

 アレスのこの踊り方は、セシルとテレサがやっていたものだ。この踊り方は見れば魅了されるが、人数が多かった予選の時点では見られない……だが、この決勝においては嫌でも目立つのでこの踊り方はグレンとシスティーナのカップルに対抗できる踊りなのだ。

 

 

 こうして、決勝は終わり

 

「はぁ……はぁ……はぁ」

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 ルミアとシスティーナは最後の踊りに全部を出し尽くしたので、息が荒い。

 

 審査員たちは難しい顔をしながらも決めていき──────結果は、僅差でアレスルミアのカップルが勝利を収めていたのであった。

 

 

 

 だが、アレスと《魔の右手》のザイード以外は知らない──────『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』こそが、ルミアの死に装束であることを……




 恐らく近日中に番外編でアルス君の固有魔術についてやります。まあ少しだけ書いておこうかなあと思って、アゼル爺が絡んでいることを書きました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。