今は優勝したルミアが『
「やったぜ!俺はずっと、ルミアの『
「ちくしょう!俺はシスティーナのが見たかったのにぃ!」
「リィエルちゃん派の僕が通りますよ~」
「むぅ……ら、来年こそは……この高貴な青い血たる私が……ッ!」
みんながそれぞれ違うことを言っていると
「アレス!アレス!来たぜ!?うわぁ、マジかよ、予想以上だなぁ……ッ!!」
疲れていたのか誰とも話さずただ飲み物を飲んでいたアレスにカッシュが服の袖を引っ張るので、人混みの中心まで行ってみると
すっかり『
「……アレス君……お待たせ……」
ルミアの『
広がるスカートの裾はまるで天使の羽衣のようで。
翻る腕のフロートはまるで妖精の羽のようで。
ドレスを飾る保積の装飾は夜天に輝く満天の星。
ドレスを彩るその刺繍は煌びやかな銀細工。
その一身にシャンデリアの眩い光を煌々と浴び、神秘的に輝いていて。
ルミアという原石が持つ美を、極限まで研磨しきり、昇華させるその衣装。
そのあまりの幻想的な美しさはこの会場にいるほぼ全ての人を魅了した。
「……そ、その……アレス君……どうかな……?似合ってるかな……?」
ルミアは頬を染めながらアレスに上目遣いで聞いてくる
「……うん、すごく似合ってる……本当の天使みたいだよ」
お世辞でもなんでもない。自分の思ったことをそのまま伝えるアレス
「それじゃ……アレス君……今夜、最後のエスコート……お願いしてもいいかな?」
ルミアはアレスの言葉に満足して、本当に嬉しそうに……幸せそうに……笑いながらアレスに手を差し出した。
「…………」
アレスはルミアが差し出した手を少し時間を空けて取った。
この時のアレスの心情を知る人物はいない。アレスはルミアの幸せそうな顔とは裏腹に強烈な殺意を持っていたのだから……
アレスとルミアは中央の舞台へと向かう。
社交舞踏会伝統の演目──────『
「《光あれ》」
アレスのいきなりの【フラッシュ・ライト】に全ての人が驚くと同時に目が潰される
「《我・秘めたる力を・解放せん》」
その呪文によって起動された【フィジカル・ブースト】でアレスは元々高かった身体能力が爆発的に上がる。
アレスは強化された身体能力を使ってルミアをお姫様抱っこしながら
「ごめんね、ティンジェルさん……フィナーレ・ダンス……したかったよね……」
そんなことを言って出口へ向かうアレス
そこにはシスティーナとグレン、イヴ以外の特務分室のメンバーがいた。
「ルミア!?どうしてここにッ!?」
システィーナの疑問を露わにする
「…………」
ルミアは答えず、ただアレスを見つめている
その視線に気づいたアルベルトとグレン
アルベルトは即座に左手を構え、グレンは左手をポケットの中へ入れる。
アルベルトとグレンはアレスという人物を警戒したのだ。元々、アレスは怪しかった。並外れた身体能力に判断力、ルミアが巻き込まれる事件に一度も居合わせなかったことも含めて。
「おい!アレス!この際だから聞くぞ……お前何者だ?」
警戒心をむき出しにしながらグレンはアレスに問う
「…………」
アレスはグレンを無視しながらグレンとアルベルトを見据える
「前々から怪しいとは思ってたんだよ……お前も、天の智慧研究会の仲間なのか……?」
グレンは無視するアレスに恐る恐る聞く
「違いますよ……あれを見てください」
そう言って、アレスは会場を見ると──────会場にいる全員がルミアという今回の社交舞踏会のメインが抜けたにも拘らず、ダンスを続けているのだ。
「……白猫の推測通りってわけか……」
「ああ、そのようだな……」
グレンとアルベルトの言ったことに今度はアレスが疑問を口にする
「フィーベルさんの推測……?」
「──────ということだ」
アルベルトはシスティーナが推測したものをありのまま伝えた。
・今年の社交舞踏会の楽曲である『シルフィード』が魔曲であること。
・その魔曲は人の深層意識を支配するものであること。
・その魔曲は深層意識を支配するため魔術制御ができないこと。
・そして、その魔曲は
「……ぐすっ……ひっく……うぅ……」
システィーナの推測を聞いたルミアは声を押し殺しながら泣いている。
「な、泣くなよ……」
「ルミア……」
珍しいルミアの姿にグレンもシスティーナもおろおろするしかない
「私、本当は分かっていたんです……先生が強引に私を誘ったとき、何か隠し事をしてるって……社交舞踏会の裏で……私達のために……何かを為そうとしているんだって……」
ルミアの告解に皆が硬直していた
「でも……私、先生達に甘えてしまったんです……気付かないふりをしていたんです……先生達なら、きっといつものようになんとかしてくれるだろうって……先生が私に何も打ち明けないなら、きっと大丈夫、私が口を挟む問題じゃない、それで良いんだって……」
ルミアは濡れた瞳でグレンを見上げる
「ずっと……ずっと、楽しみだったんです……ッ!アレス君を誘えて……一緒に踊れる、今日という日が楽しみだったんです……ッ!子供の頃からの憧れた夢が……どうしても諦められなかった……ッ!何かあるのかもしれないけど先生達ならきっとなんとかしてくれるって……そう思いたかった……ッ!」
ルミアは嗚咽しながら告解を続ける
「私は……廃嫡された王女です……いつ、この国から切り捨てられてもおかしくありません……いつ、敵の組織に殺されてもおかしくありません……だから……いつかやってくるその時、後悔しないように……ああ、短かったけど素敵な人生だったなって、笑えるように……ただ思い出が欲しかった……アレス君と、先生と、システィと、リィエルと……クラスの皆と……心の中で輝く宝物のような思い出が欲しかった……」
ルミアの悲痛な独白に、この場の誰もが言葉を失うしかなかった。
「でも……私はそれすら望んではいけなかったんです……やっぱり私は……生まれてくるべきではなかったんです……ッ!」
独白を続けようとしたルミアを止めたのはアレスだった。
「……ティンジェルさんが一人で悩んでいたのは分かった……でも、自分は生まれない方がよかったなんて言わないでよ……」
「………ッ!?」
「……ティンジェルさんの境遇は聞いたし、その辛さは僕なんかに推し量れるものじゃない……でも、お願いだから……どんなに辛いことがあっても自分を貶めないでよ……」
アレスはルミアに懇願する。
「……ティンジェルさんは普段から無理して背負い過ぎなんだよ……それにさ、ティンジェルさん僕に言ったよね、背負い過ぎるのは辛いって……なら、ティンジェルさんの背負ってるものを半分でも少しでもいいからさ一緒に背負わせてよ……」
ルミアが温泉でアレスに言った言葉を今度はアレスがルミアに返した。
「あ、アレス……君……う、うぅ……うわぁああああああああああん……」
ルミアはアレスに抱きつき、幼子のように泣いた。
アレスはそんなルミアの頭を優しく撫でているのであった……
一方、特務分室の人たちは……
「つか、美少女にあんなふうに泣きつかれるとか、マジ羨まし過ぎるんじゃけど?撃っていいかの?なぁ?あやつ撃っていいかの?」
バーナードがルミアに抱きつかれているアレスに向かって銃を向けながら言う
「バーナードさん……空気読みましょうよ……」
そんなバーナードを、苦笑いで宥めるクリストフであった。
「アレス君ありがとう……もう大丈夫だよ」
ルミアは泣き止んで、すっきりしたように微笑む。
ルミアの微笑みを見て満足そうに笑うアレス
「……先生、手伝ってくれませんか?……僕だけじゃティンジェルさんを護れないから……」
アレスはグレンに頭を下げる。
「先生、私からもお願いします……」
ルミアも一緒に頭を下げる
「……これが終わったら、お前の正体聞かせてもらうからな……さぁてお前ら。いっちょ、やってやろうぜ!我らが姫君はハッピーエンドがお望みだとよ?支配された連中を1人も傷つけることなく、ザイードを討つ」
グレンは発破をかける
「かぁ~~!可愛い子女の子の前だとすぐこれじゃ!現金なやつ!」
「ははは、簡単に言ってくれますね、先輩。わかってるんですか?僕らはすでに敵の術中ですよ?一体、どうやって?」
だが、バーナードとクリストフも、答えは分かっていると言わんばかりの顔だ。
「決まってるだろ?おあつらえ向きに、敵はどっかの誰かさんと似たような戦法なんだ……なら、やることなんて決まってるさ」
そう言ってグレンはアルベルトを見る。
「おい、やるぞ?アルベルト」
「是非もない」
不思議なやり取りを始めるグレンとアルベルト
聞いていると、この会話の内容が作戦であることが分かった。
・フェジテ南東のグレンデル時計塔の上からアルベルトがシスティーナを連れて何かしらすること。
・グレンやアレス達は北の迷いの森にあるアウストラス山の南側の斜面まで《魔の右手》のザイードをおびき寄せること。
グレンはシスティーナに何か助言をしようとしたが、そのタイミングで傀儡達に位置がバレてしまったので不完全な助言となってしまった。
フェジテでは、アレス達+特務分室vs《魔の右手》ザイード+傀儡達による戦闘が始まろうとしていた……
ひぐらしのなく頃にの『you』という曲おすすめです。個人的には喜多村英梨さんが歌う『you』が一番好きです。